幼馴染君がぼっちちゃんを甘やかし過ぎた結果……   作:Miurand

18 / 24
 うーん。原作の時系列が全然進まないのテラワロス。本編開始前から始まったわけでもないのに、ここまで原作の話が進まないぼざろ二次は他にないと思う…。でもね、私は可愛いぼっちちゃんを書きたいのだ。許してくださいな。
 ちなみに今話でぼっちちゃんがヤンデレに目覚めた理由もどきのエピソードが出てきます。個人的には大分シリアスに書いてるつもりです。



ペアレンツ同盟に囲われる幼馴染君

「…………何やってんだ俺ェ…」

 

犯した過ちを自覚し、気がついたら下北沢に辿り着いていた。なんでここまで来てしまったんだろう。別に定期があるお陰で交通費がかからないからいいんだけれども。

 

「どうすればいいんだよ。これじゃ本格的に顔を合わせられないじゃねえか………」

 

未だにあの時の記憶が、鮮明に細かく残っている。あのタワワに実ったメロンやスイカを……。いや、思い出すだけで恥ずかしくなるし、あまりにもあっさり敗北している自分が情けなくなる。これをきっかけにひとりが大人しくなったりしないかなぁ。そんなことを考えつつ、多分遠い目をしながらテキトーに街を歩いていた。

 

周りの人に『あの人なんか目死んでない?』って言われたような気がするけど、そんなの知らん。

 

「あっ、優太だ」

 

虚無になりたいと考えていた時に、俺に声をかけてきたのは、結束バンドのベース担当、山田リョウさん。このタイミングでこの人か。悪いが今日は相手する心の力を既に使い果たしている。用があるならまた別の日にお願いする。

 

「待って。私を前にして無視するとはいい度胸。お詫びとしてそこのファミレスで何か奢ってもらう」

 

 

 

 

数分後…

 

「まさかあんなにあっさりと奢ってくれるとは思わなかった。丁度金欠だったから助かる」

 

「さいですか」

 

目の前のベーシストはあっさりとか吐かしているが、承諾するまで俺にしつこく付き纏ってたんやろがい。と、言葉にしてツッコむ気力すらもない。そういう意味では確かにあっさりだったかもしれない。

 

「今日はバイトじゃないでしょ?どうしてこの辺歩いていたの?」

 

「気分ですよ、気分」

 

「そう?私には何か悩みを抱えているように見えたんだけど」

 

確かに悩みっぽいものはある。だけど話しても意味はない。というか、話したら翌日にはスターリースタッフ全員に俺とひとりの段階を知られていそうで嫌だ。

 

でも、ひとりが歌詞制作でリョウさんに相談した時は案外真剣に対応してくれたんだよね。喜多さんは恋愛脳だし、虹夏さんも喜多さんほどではないけどJKらしく恋愛事には敏感だ。そういった意味ではリョウさんが相談人としてはベスト……なのかも?いや、店長さんの方が……。

 

『優太。それは仕方がなかったってやつだよ。お前は悪くない。ぼっちちゃんが可愛いのがいけないんだ』

 

なんだ今のイメージ映像は。確かに店長はひとりに甘い気がするけど、流石にこんなこと言わないだろ。俺の脳は順調に溶け始めているようだな。

 

「…………じゃあ、奢った見返りとして聞いてもらえます?」

 

「私、こう見えてももらった恩は忘れない」

 

「自分でこう見えてもって言うのは流石に草」

 

「今は草を食べたい気分じゃない」

 

「えっ?草って食べるもんなの?」

 

くだらないボケとツッコミはスキップしてぶちまけた後にまで時は進む。流石に全て赤裸々に話すようなことはしない。俺がひとりにやったことを全て話すとかどんな羞恥プレイだ。

 

「……………」

 

「ということなんですけど……。って、リョウさん?」

 

「飯がまずくなった。やってくれたなリア充め」

 

滅相もございません。確かに、側から見たらリア充以外の何者でもない。非リアが女の子のあんなところやこんなところを触るか?しかも同意の上で?何も反論できない。

 

でも、リョウさんの性格が終わってるのは取り敢えず理解した。他人の不幸で飯美味くなるタイプかよこの人。

 

「………何も言い返さないってことは、マジなの?」

 

「だからそう言ってるじゃないですか。それで猿みたいな自分に嫌気がさしてるんですよ。あっ、いやそれだと猿に失礼か……。じゃあ俺はなんだ?カビか?ゴミか?いや、それも失礼だな………

 

「ぶふっ。ぼっちより根暗になってるの面白い」

 

あんたいい性格してるよほんとに。言葉に出す気力がないけど。

 

「………でも、それでもいいんじゃないの?」

 

「はっ………?」

 

「両想いなんだし、何も問題ないと思うんだけど」

 

「でも怖いんですよ。まるで知らない自分が突然出てきたみたいで。知らないうちにひとりを傷つけてしまいそうで………」

 

「それなら心配いらないでしょ。ぼっちは既に何回か死にかけてるんだし」

 

妙に説得力のあるフォローはやめろ。一瞬納得しかけたじゃないか。

 

「あっ、でもぼっちが妊娠するような事態は避けてほしいかな。一応私達も真剣にバンド活動に取り組んでいるし。まあぼっちがどうしてもって言うなら私は止めないけど」

 

「急に真面目になるのやめろ」

 

だけどまたプッツンしたらそういう未来が訪れても全くおかしくない。今の俺にとっては笑えない冗談……というか、冗談では済まされない可能性すらある。

 

「でも、優太って今まで過激なアプローチを何度もされてきたんじゃないの?むしろ今までよく耐えてきた方じゃない?」

 

「ついさっきその記録の更新が途絶えたんですけどね。というかどこからそれを聞いたんですか?」

 

「風の噂で聞いた」

 

「いやいやそんなわけ……」

 

この人が秀華高校の先輩ならまだ理解できたが、あんた下北沢高校だろ。違う高校まで噂が広まってたまるか。そこまで有名人じゃねえだろ。

 

「私が聞いた話だと、抱きつかれたり一緒に寝たりしているとか……」

 

「………」

 

「あれ、優太?どうしてスマホ取り出したの?」

 

「いや〜、これはちょっと警察案件かな〜って思いまして。最近は盗撮の被害者が男でも対応してくれるみたいですよ?」

 

「いや、盗撮してないし。というか、その反応が答えだよね」

 

「まさかカマを……?」

 

「いや、聞いたのは本当」

 

この人の交流関係は狭いはずだ。一体誰から聞いたんだ?まさかひとりから聞いたのか?でもひとりがそんな言いふらすようなことをするだろうか?虹夏さんか喜多さんがひとりに詰め寄って聞いた可能性はなくはないが…。

 

「優太はもう少し自分に素直になってもいいと思うよ。それこそぼっちみたいに」

 

「素直って………」

 

この瞬間、ロインの着信音が連続で鳴り響いた。一旦は無視しようと思ったものの、流石に気が散るので確認することにした。

 

「……………ひぇ…!!」

 

「どうしたの?………わぁ…」

 

 

 

『あれ?優太君どこ行ったの?』

『さっきまで一緒にいてくれたのに、どこ行ったの?』

『どうして教えてくれないの?』

『私、何かしちゃった?優太君に嫌われるようなことしちゃった?』

『もしそうなら謝るから戻ってきて。お願いだから私を1人にしないで…!!』

『お願い!私はもう優太君なしだと生きることできないの!お願いだから戻ってきて!』

『もしかして何か用事?それなら私もそっちに行くから場所教えて?』

『ねえ?なんで既読つかないの?もしかして、()()事故に遭ったりしてないよね?』

『無事なら返事してよ!お願い!!』

 

 

 

「…………」

 

無言でスマホから視界を外した。

 

「いや、流石に返信してあげた方が良くない?」

 

「すみません。つい……」

 

確かにこのまま無視するのはよくない。取り敢えず返信して、下北沢のファミレスでリョウさんと飯を共にしていることを伝えた。その瞬間、ひとりの怒涛の通知ラッシュは終わりを告げた。

 

メッセージを送って気がついた。『リョウさんと一緒にいる』と送ってしまったことに。それも2人きりで。別にやましいことは何もないが、ひとりからしてみればそれも分からない。

 

だが………。

 

『よかった……。無事だったんだね…』

 

それだけ返ってきた。リョウさんと2人でいることには特にお咎めなし。一体急にどうしたんだ?

 

「急に止んだね」

 

「え、ええ……。意外とあっさりと…」

 

「ところで、()()って何?」

 

「……………えっ?」

 

何故リョウさんがそのことを知っている?家族や後藤家以外に知っているとしても、中学時代の友人か西村くらいだ。無闇にそんな過去を話すことはない。だが、メッセージを見返して気がついた。

 

ひとりから送られてきた、『また事故に遭ったりしてないよね?』というメッセージ。多分リョウさんはこれが目に入ったんだろう。

 

「まあ、昔…。事故に遭ったんですよ。登校途中に……」

 

「………もしかして、優太が?」

 

「……………はい」

 

あの事故の影響で、俺は一時昏睡状態に陥ったし、数ヶ月も入院した。下手したら命を落としてもおかしくなかったらしい。目を覚ました時は混乱した。だってさっきまで学校に行くために歩いていたと思ったら、急に知らない天井が見えたのだから。そして周りを見ると、涙を浮かべる家族に、後藤一家にひとり……。

 

幸い、後遺症はなかったものの、多くの人に心配をかけてしまった。できれば思い出したくない過去だった。

 

 

 

 

 

私は、幼稚園の頃から友達が一人もできたことがない。小学生の時も、中学生の時も、そして高校生である今でも友達はできたことがなかった。

 

でも、私のそばにはいつも優太君がいた。私達の関係は生まれる前から既にできているようなものだったらしい。親同士が近所付き合いで仲良くなり、同年代の子供がいるということもあり、家族ぐるみの付き合いはよくあったし、今も偶にある。

 

優太君は初めて会った時から優しかった。いつも優しくしてくれた。幼少期からそれが当たり前だった。隣に住んでいるから、当然小学校も同じ。流石に毎年クラスが同じなんてことはなかったけど、大きくなってもよく一緒に遊んでいた。だから別に無理して友達を作らなくてもいいかなって思っていた。

 

中学に進学してもそれは変わらず、よく一緒に遊んだ。優太君は私と違って友達はそこそこいたらしいけど、他の友達は主に部活で忙しいから遊べないってよく言ってたっけ。もしかしたら、男の子の友達と遊べたらそっちを優先していたのかもしれないけど、私達は互いに家が近いから、いつでも遊ぶことができたし、簡単にお泊りすることもできた。

 

お父さんがいて、お母さんがいて、妹のふたりがいて、ペットのジミヘンがいて………。

 

私の隣には、いつも優太君がいた。幼少期からその日常が当たり前になっていた。私は大人になってもこの生活が変わらないんだろうなって疑いもしなかった。私が何もしなくても優太君はいつも私の側にいてくれるって、離れることはないって思っていた。

 

 

 

 

 

そんなある日のことだった。

 

「おーい、ひとり〜!!早くしないと遅刻するぞ〜!!」

 

「ま、待ってよ優太くん……!!」

 

中学生になって少し経った頃、私が青春コンプレックスを拗らせて駄々をこねて遅刻しかけたことがあった。でも、そんな側から見たら面倒くさい私に、優太君は『一緒に学校に行こう』って言ってくれた。でも遅刻ギリギリだったから2人で走っていた。私と違って優太君は運動もできるから、本気で走れば絶対に間に合うのに、私のペースに合わせてくれた。だから遅刻ギリギリになっていたのだ。

 

「ひとり!もうひと踏ん張りだぞ!」

 

「はぁ………はぁ…………。あっ、校門が見えてきた………!!」

 

人というのは、焦っている時はよくミスをする。例えば、大事な物を失くしかけて焦って探すと、今度は別のものをなくしたり、慌てて家を出て忘れ物をしたり………。

 

あの時の私は、私にとっての全力疾走をしていた。だから疲れていた。そのため、判断能力も鈍っていたんだと思う。

 

プーーーーーーーーッッッ‼︎

 

「…………………えっ?」

 

頭が真っ白になった。クラクションが聞こえた方を向くと、目の前には車。

 

咄嗟に走れば避けることができたんだと思う。でも、私は動けなかった。蛇に睨まれた蛙ってこんな感じなのかななんて、どうでもいいことを考えていたような気がする。

 

「…………えっ?」

 

後ろから強い衝撃を感じた。でもそのお陰で、私に向かってくる鉄の塊から回避することはできた。

 

ドンッッ…!!!

 

「………!!!!!」

 

鈍い音がしたと思って振り返ったら、優太君が吹き飛ばされていた。私は何が起こったのか一瞬理解できなかった。私はそこが車道だったことも忘れて、優太君のそばに駆け寄った。

 

「ゆ、優太君…?」

 

多分、本当は分かっていたんだと思う。私の目の前で何が起こったのか。でも理解したくなかったんだと思う。それを理解してしまった時、その後に起こりうる未来を想像したくなかったから。

 

「優太君……?ねえ起きてよ。いつもみたいに一緒に学校に行こうよ……?」

 

「ま、まずい…!事故だ!!救急車を呼ばないと……!!!」

 

「まずいよ、この子心臓止まってるぞ!」

 

「ちょっと君、離れてて!」

 

「優太君……!!優太君!!!」

 

 

 

 

救急車に乗った。優太君が心配だった私は無理を承知でお願いをして、なんとか乗せてもらうことができた。でも私は何もできなかった。

 

救急隊員の人達が必死に応急処置を施していて、それだけで優太君が危ない状態だったのは理解できた。でも、大丈夫。優太君はどんな時も私のそばにいてくれた。私と一緒にいてくれる。だから、きっと戻ってきてくれる。

 

 

『ただ今、お子様は大変危険な状態にあります。ですが、心配なさらないでください。全力を尽くして、お子様を救ってみせます』

 

だ、大丈夫。きっと。優太君はいつも私と一緒に………。

 

『手術、長いね…………』

 

『だ、大丈夫だよ!優太君は戻ってきてくれるよ、必ず…!』

 

そう。大丈夫。きっと…。

 

 

 

 

 

 

 

…………あれ?私、何してるんだろう?これは葬式?優太君のお父さんとお母さんに、一人暮らししているはずのお兄さん。そして私の両親も黒い服を着ている。私も制服を着て参列している。気が付かなかった。いつの間に?でも一体誰の葬式だろう?お父さんもお母さんも、優太君のご家族も悲しそう。ふたりは何が起きているのかよく分かっていない様子だった。私も同じ。

 

でも、私が出るくらいだから、きっと私も交流がある人だよね…?でも、私に友達なんていないけど……。自分で言っててなんか悲しくなってきた……。

 

「………………えっ?」

 

あの写真は、優太君……?お線香に焚かれているのは、優太君………?なんで?そんなはずはないよ。だって、優太は私と一緒に……。ずっと一緒に……。

 

「そ、そんな………。嘘だ。嘘だよね?お母さん?お父さん?」

 

私はそう問いかける。でも2人とも俯いたまま反応しない。

 

タチの悪い嘘だ。ドッキリだとしたら今すぐネタバラシをしてほしい。私は気がついたら周りの目を無視して棺に手を出し、開けた。

 

その中に入っていたのは優太君。体がすっかり白くなっていて、生気を感じない。目も開いてない。試しに触ってみる。

 

………冷たい。まるで、冷蔵庫に入れた肉のように…。

 

「嘘…だ……。そんなの、あり得ないよ………。ねえ?優太君がしかけたドッキリなんでしょ?そうだって言ってよ?」

 

私は優太君に訴えかける。

 

『………ひとり』

 

優太君の声が聞こえた。でも目の前からではなく、後ろから……。振り返ってみると、半透明の優太君がいた。触れようと手を伸ばすけど、透けて触れることは叶わない。

 

『……ごめんな』

 

「なんで謝るの?また一緒に学校に行こうよ?また一緒に遊ぼうよ?また、私の演奏を聞いてよ…!!」

 

『………ごめん』

 

 

 

 

 

やだぁッ!!!!!

 

……ああ。またあの夢だ。あの時以来、何度も見る夢だ。全く同じ内容ってわけじゃない。でも、優太君が事故に遭って、最後は死ぬ。これだけは変わらない。その夢を見ては優太君を探す。そして隣に彼がいることで初めて安心することができるのだ。あれは夢だったのだと。

 

でも、今回は優太君がいない。もしかしたらトイレに行ってるのかもしれない。寝ている私に気遣ってリビングに降りているのかもしれない。でも、家中探しても優太君の姿は見えない。靴もなかった。私の家に戻っても優太君の靴はない。

 

嫌な予感がした。まさか夢と似たような出来事が起きているのではないか?また優太君は事故に遭ったのではないか?一度そう考えると不安で仕方ない。そうだ!もし無事ならロインで返事をしてくれるはず。となれば早速メッセージを送信しよう。

 

だけど、返信が来ない。いつもすぐに返信してくれるわけじゃないけど、今日はヤケに遅く感じた。もしかして本当に?不安が募る。早く返信してほしい。気付いてないだけなら気づかせてあげるから、一刻も早く、一言だけでいいから返信してほしい。

 

気がつくと、10件を超えるメッセージを送信していた。するとようやく優太君から返信がきた。どうやらリョウさんとファミレスで食事しているらしい。

 

………良かった。夢のように死んでいるわけじゃなくて……。また事故に遭ったわけじゃなくて………。

 

でも、あの出来事があったから、私は私の気持ちに気付くことができた。もしもあの出来事がなければ、きっと私の気持ちが恋と呼ばれるものだと気づくことはなかっただろう。そう思うと非常に複雑な気分だ。

 

一時は安心したけど、やっぱり不安になってしまったものは不安。急に私の前から優太君がいなくなってしまうのではないか、不安で仕方ない。どうにかしてこの不安を取り除きたい。

 

1秒でも、1分でも多く優太君と一緒にいたい。早く帰ってきてよ……

 

 

 

 

 

 

「………そっか。そんなことがあったんだね」

 

「まあ、あの時は色々大変でしたよ。ひとりのヤンデレと呼ばれる状態が始まったのもその時からでしたし」

 

リョウさんに知られてしまったので、仕方なく掻い摘んで過去の話をした。流石のリョウさんも申し訳なさそうな顔をしている。だからこの話をしたくなかったのだ。俺はこういう空気が嫌いなのだ。別に過去の話だから気遣う必要はない。退院した時点で過去の話だというのに。

 

「なら、尚更ぼっちに向き合うべき。ぼっちがそうなったのは、きっと優太がいなくなるのが怖いからだと思う。ぼっちを安心させてあげるべき」

 

「それは俺も分かっていますよ。でもひとりはただ俺に依存しているだけ。そこに異性に向ける感情は存在しない……はずだ」

 

「……そうかな?ただ依存しているだけなら、キスなんてしてこないと思う。強いて言うならほっぺにするくらい」

 

………冷静に考えたらそうだ。家族にはほっぺたにキスされることはあった。それも幼少期の話だが…。でもひとりがしたのは、恋人がするような唇同士を触れ合わせるもの。………今までのアプローチとは明らかに違う。

 

「………優太。ぼっちのことを考えるのもいいけど、自分のことも考えてみたら?好きな相手に好意を抱かれるなんて、そんな好都合なこと滅多にないよ」

 

意味深なことを言ったリョウさんは、『奢ってくれてありがとう』とだけ言って店を後にする。好きな相手に好意を抱かれることは滅多にない………か。

 

滅多にないかどうかは知らないが、確かに都合がいいのは事実だ。ひとりが本当に、勘違いとかではなく俺に好意を寄せているのだとしたら……。

 

「………そうだったらいいなぁ」

 

そんな自分に都合の良いことなんてあるのだろうか?そう考えながら会計を済ませた。

 

 

 

 

 

 

 

家に戻るとひとりはいなかった。どうやら既に帰宅したようだ。あんなことをしてしまった後だったため、顔を合わせづらかったから丁度いい。

 

「てか、もうただの幼馴染の関係とは言えないのでは?」

 

前から既に怪しかったが、最近は深めのキスやら15歳未満には絶対に見せられないことをしてしまっている。ギリギリ?一線を超えていないとはいえ、これで『ただの幼馴染です』は流石に無理がある。セ○レと言った方が納得されそうで怖い。

 

…………まあ、細かいことを考える前に汗を流したい。最近は外が暑いから少し外に出るだけで大汗だ。しかし一度シャワーを浴びると、その後の冷房が効いた室内では天国に………。

 

「ひゃ〜!!!!つめてぇ!!!?」

 

 

 

 

 

はい。まさかの湯沸器故障。家のお湯が使えなくなりましたとさ。えー、なんと言いますか、冬じゃなくて夏で良かったというのが一番最初に出てきた言葉ですね。真冬に水で手を洗おうとすると………ね。

 

だけど、このままでは冷水のままシャワーを浴びることになってしまう。それは風邪を引きそうだから避けたいところだ。ならば後藤家にお世話に……。待て待て待て。あんなことした後で自分から行くとか正気か?

 

でも、このまま放っておいたところで今日はお湯が使えない。つまり風呂に入れないということになる。この辺は銭湯あったっけ……?全然使わないからその辺全然分からねぇ……。

 

「おや、優太お帰り」

 

「おっ?お父さん、今日は早いなぁ」

 

「たまたま仕事が早く片付いたからね」

 

まだ日が暮れないうちに父さんが帰ってくるのは珍しい。余程スムーズに仕事が進んだのか、少なかったのかのどちらかだろう。とはいえ、今日は日曜日なのだが、父は稀に仕事のある曜日が不規則になる時があるらしい。決して休日返上のブラック企業勤めではないから安心してほしい。

 

「最近は外暑いな〜。早くシャワーを浴びたいよ」

 

「そのことだけど、湯沸器壊れたからお湯出ないぞ」

 

「…………えっ?」

 

うん。この反応は仕方ない。シャワーで汗を流そうと考えながら帰宅して、いざ帰ったからこれだもんな。俺もついさっき全く同じ反応をした。

 

「じゃあ、申し訳ないけど、後藤さんのところのシャワーを借りちゃうか」

 

「えぇ………。いやいや、それは流石に………」

 

普通なら、こんなことを提案するのは大の大人として礼儀知らずと言っても過言ではないだろう。しかし、うちの両親とひとりの両親は無茶苦茶仲が良い。そもそも俺とひとりが幼馴染として今日まで一緒に過ごしたのも、この4人の関係のお陰とも言える。予定さえ合えば、2家族で旅行に行くなんてことも珍しくない。

 

「どうした?優太だってよくお世話になっているだろう?」

 

「それはそうだけど………」

 

「最近妙に遠慮気味だな…?もしかして、ひとりちゃんと何かあったのかい?」

 

「うん?いや、何もないよ。そうだな、借りるとするか」

 

頑なに借りることを拒めば、何か勝手に悟られる可能性がある。ならばいつも通りを装うしかないというわけだ。はぁ………。何もないといいけど……。

 

 

 

 

 

そういうわけで、優太の父である私、近藤和義は後藤さんの家のお風呂を使わせていただくことにした。せっかくだし夕ご飯も一緒にどうだとお誘いも頂いたことだし、ここはお供させてもらおう。久しぶりに直樹さんと共に晩酌を楽しみたいしね。

 

「和義さんも災難ね〜。暑い中お湯が壊れちゃうなんて」

 

「いや〜、冬じゃなくて本当に良かったですよ。まだ夏だからマシだというものです」

 

美智代さんは、一見おっとりしていてお淑やかな女性に見えるが、私は知っている。以前、親同士の話し合いの場で、優太とひとりちゃんをくっつけようという話題が持ち上がったのだが、その時は妻と私、美智代さんは賛成した。しかし、娘を持つ父親、直樹さんは思うところがあったのか、いい反応ではなかった。私も娘を持てば、私もその感情を理解できたのかもしれない。

 

だが、美智代さんの笑顔からは想像もできないような威圧感によって、直樹さんは渋々承諾……と言ったところだ。この人、やる時はやる人なのだ。

 

だが、後から聞いた話では、直樹さんは別に優太に任せること自体は問題ないらしい。しかし、娘が嫁ぐと考えるとどうしても思うところがあるようだ。なるほど、分からん。余程娘を溺愛しているのだろう。いや、ここまで来ると過保護かもしれない。

 

「ところで、タダでお風呂を貸すのは、社会人としての礼儀が足りないのでは?」

 

「…………ほう?」

 

美智代さんがこういう物言いをする時は、決まっている。私はそれが分かっている。だからこう聞き返す。

 

「何がお望みで?」

 

「今から少しだけ騒がしくなるかもしれないのだけれど、和義さんには目を瞑ってもらいたいの♪」

 

上機嫌な表情で美智代さんがそう言う。具体的な話を聞いてみれば…。なるほど。その作戦を知ったら直樹さんが血涙を流しそうだが、あのヘタレ優太を突き動かすにはそれくらいした方がいいかもしれない。少々…いや、かなり強引だが、いい機会かもしれない。

 

「……分かりました。私も()()()として楽しませてもらいます」

 

「話が分かる方で助かるわ〜♪」

 

さて、優太から良い報告が聞けることを、私と美智代さんは楽しみにしているよ。

 




新しい人物プロフィール

近藤和義:優太の父親にして、美智代、直樹とは親友のような立ち位置だが、家族以外には基本的に丁寧な口調で話す。一見真面目で堅実にも見えるが、箱を開けてみれば、実は結構ヤバい人。具体的には、次回判明する美智代が考えた作戦に即座に賛同するほど。とはいえ、良識はあるし、基本的に子供を拘束することはない。放任とまではいかないが、自由主義な父親。
 これは余談だが、彼が若い時は、王道ラブコメ主人公のようにモテていたらしい。告白された回数は数え切れないほどだとか。そんな中ヒロインレースに勝利したのが優太の母というわけである。しかし、優太の母の勝ち方はラブコメ少年漫画には記載できないものとなっている。詳細は後に語るかもしれないし、語らないかもしれない……。

・・・最近、ぼっちちゃん以外の結束バンドメンバーの出番が少なすぎじゃありませんかね…?まあ次々回くらいには、流石に虹夏ちゃんや喜多ちゃんの出番もあるはず……?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。