幼馴染君がぼっちちゃんを甘やかし過ぎた結果…… 作:Miurand
やった〜!長期休みに入った〜!つーわけで、執筆すんぞ!と意気込んだはいいものの、38℃超えの熱を出して長い間寝込んでいました。熱出してる間は執筆する元気などなく、できることは精々アニメの一気見くらい。これを機に推しの子見たけど、無茶苦茶面白いね。でもそっちの二次創作を書こうとは思っていない。少なくとも今は。
なんでいざ書ける時間ができるとこう邪魔が入るんだろうなぁ。やっぱり呪われている…?美智代さんに霊媒師を紹介してもらいたいね!
翌朝になったようだ。珍しく優太君に起こされることなく起きた。お母さんには自分から起きたことを驚かれたような気がするけど、今は気にしない。支度をして、外に出て、いつもの通学路を進む。優太君がいない通学は本当に退屈だし、心にポッカリ穴が空いてしまったような喪失感に襲われる。
こんなに学校に早く着いてほしいと思ったことはない気がする。
……見つけた。本当にちゃんと学校には来たみたいだ。だけど…………。
「……………な、なんで……?」
なんで喜多さんと一緒に登校しているの………?
時は昨日の夜にまで遡る。俺は泊まるアテがあったので、下北沢駅まで来たのだ。しかし、荷物が重い上に、この時期だと日が沈んでも蒸し暑い。もう汗びっしょりだ。
「はぁ〜……………つっかれた……」
にしても、まさか一日に二度も下北沢に来ることになるとは思わなかった。だが、こちらまで来ないと泊まるアテもないのだから仕方ない。
「おっ、優太久しぶり〜。大荷物だなこりゃ」
駅で待ち合わせしていたのは、他でもない、両親を除いて俺の唯一の身内にして兄。名は近藤優一という。
兄は下北沢にそれなりにいい部屋を借りて一人暮らししている。働いてはいるものの、基本的にテレワークが中心だから羨ましい。俺も将来働くならテレワークできるようなところがいいかもしれない。
「急にごめんな、兄ちゃん」
「いーよいーよ。どうせあの両親が原因だろ?お前も大変だなぁ」
そして、兄は無茶苦茶察しがいい。何故察しがいいのかと言うと、それを説明すると無茶苦茶長くなるので割愛する。
「ささ、荷物重いだろ?俺が持ってやるよ」
「ありがと」
そして、兄は人を選ばずに紳士的な行動を無意識にやってのける。そして人当たりも良い。性格は虹夏さんの男verだと思ってくれればイメージしやすいだろう。
「でも何があったのかは聞かせてほしいかな。俺からもなんか言ってやるから」
「…………それは、取り敢えず部屋に入ってからでもいい?」
「まあいいけど(余程人に話しづらいことなのか?)」
ということで兄の住む部屋まで移動した。一人暮らしのくせに部屋はしっかり整理整頓されている。料理もちゃんとしているとは聞いたが、冷蔵庫がファミリー用のそれじゃないか。一人暮らしだとはとても思えん。
「夜ご飯食べたか?もしまだなら冷蔵庫に麻婆豆腐とご飯あるから、それレンジで温めて食べな」
「ありがと…。にしても用意良くない?まるで俺が来るのが分かってたみたいだな」
「………お母さんからロインが届いた」
慣れた手つきでパソコンを操作した兄は、俺に画面を見せてくれる。
『優一聞いて!ついに優太に彼女ができましたよ〜!もう結婚前提のお付き合いよ!』
「ほれ。こんなメッセージが届いたもんだから、きっと優太の身に何か起きたんだろうなって思ってな」
すげぇな。普通なら
「で、だ。いきなり家出するくらいだから何かあったんだろ?取り敢えず何が起きたか話してみ」
「……むっちゃ生々しい話しになるけどいい?」
「大丈夫。俺の方がもっとやばい経験してると思うから」
………はい。兄の察しが異常にいいのはそういうことです。
気を取り直して…。兄につい最近起きた出来事を説明する。一応、俺が中2の頃までは実家にいたので、その部分を省いた話をする。
「へぇ、ひとりちゃんついにバンド組めたんだね〜。おめっとさん」
時々コメントを残しつつも、真剣に俺の話を聞いてくれる。家族の中では最も頼りになる人物なだけあって、安心感が凄まじい。
「…………ん?」
ところが、祭りの出来事の部分に話が進んでから、兄の様子が変わった。が、気にすることなく俺は続け、今日起きたことまで話した。
「…………なるほどな。でもそれは仕方なくないか?いくらなんでも。2人で風呂に閉じ込められて、用意された飲み物には盛る薬付きの厄介なセット。その状況の中でよくポタらなかったな」
ポタらなかった……?ポタラの動詞型か?その表現いいな。今度から俺も使わせてもらおう。
「すっごく危なかったよ。でももう引き返せないところまで来ちゃったかもしれん………」
「でもお前の場合は両想いなんだから最後まで突っ走っても良かったじゃん。好きでもないやつに髪の毛入りのチョコや、血の匂いがする弁当とか差し出されてみ。吐き気を催すから」
「経験者の言葉は重みが違うな」
何を隠そう、兄は学生時代はそれはそれはモテた。そりゃそうだ。性格を虹夏さんを男にしたような人なんだから、モテるに決まっている。
しかし、兄は何故か、ヤンデレやメンヘラと呼ばれる属性の女性ばかりにモテたそうだ。そのせいで普通の女子は声をかけづらい状況になったとか。しかも、兄は何度も襲われそうになったことがあるらしく、ストーカー被害にも遭ったらしい。だから恋愛は懲り懲りなんだとか。テレワークに拘るのもこれが原因だろう。その影響か、今では少々捻くれてしまったし。
初めてヤンデレ化したひとりのことについて相談した時の言葉は今でも忘れない。
『ヤンデレ?それで?ふざけてんの?ただ内気な子がちょっとアプローチの角度間違えてる程度でヤンデレとか吐かすんじゃない』
幾度も女難に遭っていた当時の兄は、それはそれは荒れていた。俺にとってはひとりも十分ヤンデレと呼ばれる部類に当てはまるのだが、兄曰く『本物ではない』らしい………。
「………まあ、優太の言い分は分かったよ。とにかく母さん達が余計なことをしてくるんだろ?そのせいで万が一間違いを起こすのが怖いと………」
「その通り……」
「学生、それも高校在学中に子供なんて持っちまったら洒落にならないからなぁ。お前はよく頑張ったな。しばらくここで暮らしな。あと、ひとりちゃんをここに呼ぶこともないように」
「それは分かってる」
こうして、兄から許しを得て、下北沢で生活することにした。ここからなら高校も近いし、明日はそんなに早く起きる必要もないだろう。
というわけで、兄宅での暮らしが始まった。一人暮らしでテレワークということもあり、最近は料理も楽しんでいるらしく、一人暮らしとは思えない豪華な食事が出来上がっていた。
ありがたくそれを頂いた後に学校に向かうことにした。ここからだと1時間もかからないから本当に近く感じる。通学時間って思ったよりも重要なんだな。今度何かあったら兄の家に泊めてもらうとしよう。そもそも帰るかどうかまだ未定だが。
「あれ?おはよう近藤君、今日は1人なの?」
「……おや?喜多さんか、おはよう」
秀華高校付近まで来ると、なんと喜多さんが1人で登校していた。あれ?いつも誰かと一緒に登校していなかったっけ?
「流石に1人で登校する時もあるわよ?私を何だと思ってるの?」
「いや、喜多さんが1人でいるところなんて見たことなかったからつい……」
実際、喜多さんが教室に入ってくる時は大抵誰かと一緒に入ってるイメージだ。というか、本当に1人でいるところを想像できない。常にキラキラした友達いそうだよね。
「でも意外だわ。近藤君が後藤さんと一緒じゃないって」
「喜多さんこそ俺を何だと思ってるのさ」
「いや、近藤君が後藤さんと一緒じゃないところがあまり想像できなくて…」
「いつもクラスでの俺を見た上でそれを言ってんのか…………」
どうやら、喜多さんの中では俺とひとりは完全に恋人、もしくはそれに限りなく近い関係だと思っているらしい。真っ向から否定したいところだが、哀しきかな。否定できないだけの行為をしてしまっているのも事実。状況が悪さしたとはいえ、だ。
「今日はどうして1人なの?確か後藤さんが心配でここに進学したのよね?」
「それどこ情報?」
「リョウ先輩から聞いたのよ!」
でしょうね。ひとりがバンド入りたての時に口を滑らせちゃったもん。その辺だろうと思ったよ。
「まさか、喧嘩でもしたの?」
「俺はともかく、ひとりがそんなことする性格だと思う?」
「…………近藤君絡みなら?」
真剣に考え込む仕草をした後に、喜多さんはそう答えた。………確かに、廣井さんの件があるから、あながち否定ができないな。
「じゃあなんで後藤さんと登校してないの?もしかして、後藤さん風邪かしら?」
「多分そんなこともないと思うぞ。ただ、俺は家出したから分からないけど」
「へぇ〜、家出ね……。家出!!!?」
喜多さんがワンアクションを置いた上で無茶苦茶驚いている。こんなに狼狽える喜多さんを見るのは新鮮かもしれない。
「ああ。色々あってね」
「………色々、ね。私の直感が言ってるわ。詳細の中に美味しい情報が埋まってるって」
「教えないよ?」
「いいじゃない!私達、友達でしょう?」
「残念ながら好感度が足りないので出直してきてください」
「なんでよ!?私は友達だと思ってたのに!?」
「だって話したら間違いなく学校中の噂になるもん」
「私、そんな口が軽いように見える?」
「うん」
「即答しないで!!?」
別に喜多さんを信用していないわけじゃないんだ。でも、君が少しでも口を滑らすと、その幅広い人脈を経て最悪学外にまで噂が流布しかねないから怖いんだよ。あと、女子に対してあんな生々しい話をしたくない。後者が主な要因な気がする。ただでさえ同性相手に話すのも気が引ける内容だというのに。
「………ヒッ‼︎」
「どうしたの……、あら、後藤さんじゃない!おはよう!」
「……おはようございます、喜多さん」
…………まずいですねぇ。これは非常にまずい。どもってないから逆にヤバいんだよ。黒い気配を感じると思って振り返ってみれば、桃色の長髪にピンクジャージ。そしてスカートだけ着用するという謎衣装の後藤ひとりがいた。
これ、見方によっては最悪なのではないだろうか?今頃、『家出した理由はまさか他に好きな人ができたから?』とか思われかねん。そんなことは断じてないというのに。
気がつくと、一瞬にして俺の隣にまで移動してきた。と思いきや、いきなり俺の腕をガッシリ掴んできて、胸に実る大きな果実を遠慮なくぶつけてくる。
相変わらず柔らかいなぁ…。じゃなくて!ここ校門前だぞ!!?
「……優太君」
「なん………んむっ…!!?」
「んちゅ…」
「えっ?きゃあ…!」
すぐそこに喜多さんがいることもお構いなしで、俺の口を物理的に塞いできた。
「………な、何してんだお前!!?」
「だって……。あんなことしたのに家出するなんて酷いよ…。私は続きをしたいって思ったのに………」
「やめろ。誤解を生みそうな発言はすんじゃない」
いや、正確には誤解でもなんでもないのだが…。そこを素直に肯定してしまうと、色々とまずい気がする。ので、上手くはぐらかしたいところなのだが……。
「こ、近藤君…!やっぱり付き合ってるんじゃない!」
「付き合ってない付き合ってない!!ひとりが一方的に………」
「昨日の洗いっこ、楽しかったね♡」
「あ、洗い……っ!!?」
「やめてくれ。本当にいい加減黙ってくれない?」
マジでどうするんだよこの状況。校門前でやるもんだから注目が集まっちまってるし………。あっ、そうだ!!
「喜多さんヘルプ!」
「えっ?な、何かしら?」
「今から何でもいいから陽キャらしいことして!!」
「陽キャらしいこと?いいわよ!じゃあ早速写真撮りましょ!」
判断が早い喜多さんは、スマホのカメラをインカメに設定し、俺とひとりを含めて撮影とする。いやメンタル凄いな。さっきのあの光景を見た上でそれすんのか。
「あっ、せ、せっかくなら綺麗にお願いします…!」
「……なんでそんなに張り切ってるの?自撮りだよ?イソスタだよ?陽キャ御用達のJidoriだよ?」
「自撮りを外国の文化か何かと勘違いしていない?」
喜多さんのツッコミは一旦スルーするとして……、ひとりは何故蒸発しない?ザ・陽キャな遊びをすれば、蒸発して暴走どころじゃないかと思ったんだが……。
「あっ、でもウェディングドレスが用意できていない……。いや、後で写真を編集すればいくらでも…………」
「や、やっぱり2人ってそういう関係…!」
「喜多さんのせいで余計にややこしくなる」
「私のせいなの!?」
仕方ない。ここでひとりには一旦眠ってもらうとしようか。
「……ひとり。そういえば面白い動画を見つけたんだけど………」
「えっ?どれ?」
ぱぱっとオーチューブを立ち上げて、後で見る欄から例の動画を持ってくるとしましょう。さあ、闇属性なあなたには効果抜群な、光属性の動画をお届けしよう。
『お前ら!盛り上がってるかぁ!!!盛り上がってないやつ、いないよなぁ!!!?』
「ごふぁ…!!?」
「ご、後藤さん!!?」
何故か画面からコエカタ○リンの如く文字が実体化して、ひとりを殴りつけているように見える。多分ひとりが創り出した幻覚だろう。陽キャが全力でやる文化祭バンドの動画は効果抜群だったようだ。
「わ、私が秀華高校のツチノコデス……」
「ご、後藤さんがおかしくなっちゃったわ!?」
「いつものことだよ」
むしろ奇行の方が安心感がある。なんでだろうね。
と……まあ、力技ではあるものの、なんとかひとりの暴走を止めることに成功した。しかし、目を覚ます気配もないので、仕方なく一旦2組に寄る。クラスの人にひとりの席を聞いて、ゆっくりその椅子に座らせた。
「……オーバーキルだったかなぁ」
「……ねえねえ、君が『ゆうた君』って人?」
「………えっ?そ、そうだけど?」
突然ファーストネームで呼ばれたものだから驚く。
「どうして俺の名前を?」
「後藤さんがいつも独り言で呟いているから………」
あのさぁ…。独り言なんて呟いていたら、そりゃ不気味がって誰も近寄れないって。それに何故俺の名前が出てくるんだか。
「ねえねえ、後藤さんとはどんな関係なの?」
「私もちょっと気になるんだよね〜」
出たよ。まただよ。少しでも恋愛の気配を感じるとすーぐこうなる。何故みんなして他人の恋愛ごとにそんな興味を持てるんだろう?友人ならまだ分かるけどさ。
「俺とひとりはただの幼馴染だよ。じゃあホームルームだから戻らないと」
返答は受け付けずにさっさと退散。こういうのは長く滞在するほど面倒になるからな。
「おっは〜、近藤。ごとーと進展があったらしいじゃん」
教室に入って自席に着くなり、いきなり話しかけてきたのは、喜多曰く腐れ縁の、佐々木さん。中学の時からずっと同じクラスなんだそう。…って、それすげぇな。ひとりが聞いたら羨ましがりそうだ。
つーか、なんでその話が佐々木さんに出回っているわけ?チラッと喜多さんの方を見てみると……。
両手を前に出し、手を合わせてお辞儀をする。要は『ごめんなさい』と言いたいのだろう。なんで?どうして喋るん?やっぱり喜多さんも両親達と手を組んでる?
「……進展ってなんのこと?」
「なんかごとーと結婚するらしいじゃん」
ザワッ
その一言が教室に響いた途端、一気に騒がしくなる。
「えっ?とうとう手を出しちゃった…?」
「デキ婚かぁ。まさか同じクラスから出てくるとは………」
「まあ、ご…なんとかさんの近藤に対するアプローチは過激だって専らの噂だしな」
「むしろ今までよく我慢できたね」
「佐々木さんや。あなたもひょっとしてグルかい?」
「……?なんの?」
別に同盟を組んでるわけじゃなさそうだけど、無自覚とはいえど手を貸している時点で同類です。
「結婚なんかしないし、そもそも付き合っていない。誰が言い出したんだ?」
「喜多」
おい喜多さン?なにやってくれてンですかァ?
「あれ?後藤さんがウェディングドレスとか言ってたから、てっきりそういうことなのかと………」
「喜多さん。幼稚園児でも結婚できる年齢は知ってると思うよ?」
「流石に私も知ってるわよ!?馬鹿にされてる気がするわ!!?」
じゃあなんでそんな勘違いするんですかねぇ。やっぱりあなたもわざとでしょ?天然を装った紛い者じゃな?
「つーか、近藤。ごとーのことが好きなら、とっとと押し倒せばよくね?」
「……はっ?べ、別に好きってわけじゃ……」
「典型的なツンデレの反応でウケる」
「そうだよ佐々木さん。こいつ、ひとりちゃんのこと好きなくせにいつまで経っても自分から行動を起こさねえんだよ」
ここでわしの悪友、中川勇人も参戦。俺に味方はいないのか……?
「そーなん?幼馴染だかなんだか知らんけど、モタモタしてたら寝取られるぞ」
「……………えっ??」
ひとりが?そんな馬鹿な。今のひとりがそんなことになるわけが…。
「近藤、もしかして知らんの?最近、うちの学年ではごとーの人気が高まりつつあるんだぞ?」
「あー、それ俺も聞いたわ。『よくよく見たらひとりちゃん可愛いよな!』って言ってるやつ、最近増えた」
「いいの?自分のことが好きだって余裕ぶっこいていたら、いつの間にかチャラいダメ男に引っ掛けられるかもしれんよ?」
「い、いやいや、そんなわけ……」
「いや、分からないわよ、近藤君」
「き、喜多さん?」
「すぐに調子に乗っちゃう後藤さんのことよ!もしも後藤さんの身体目当てに褒めまくる男でも現れたら……」
デジャヴかな、喜多さんも後藤ひとりシュミレーターを起動し、俺らにその映像を見せてくる。
『ひとりちゃん、ギターむっちゃうまいね?俺もギター弾いてみたいんだけど、教えてくれない!?』
『あっ、へへ。いいですよ』
「こんな感じでいい感じに言いくるめられて………」
『あっ、あの…?ギターの練習をするんじゃ……?』
『無理だよ。だって君可愛すぎるんだもん。君のせいで集中できないよ』
『えっ?か、可愛い……?私が……?』
『あれ?もしかして自覚ない?なら、俺が教えてあげるよ』
「こんな感じで流されて………」
『えっ?幼馴染君なんていたの?へえ、その男のことが好きなんだぁ……。そんな男やめなよ。君がいくらアプローチしても振り向く気配もないんだろ?』
『いや、でも………』
『ひとり、愛してるよ……』
『はぅ……!!!』
「って感じで…!!!油断してたらパックリされちゃうわよ!!!!」
喜多さん生々しいな。というか、若干少女漫画っぽい展開だったような気がするんだが………。いや、気のせいか。そもそも俺、少女漫画読んだことないし。
「喜多さんに物申す」
「えっ?何かしら?」
「多分ひとりなら、そもそも俺以外の男と話したら爆発四散する」
「いやいや、ごとーって風船か何かなん?そんなのできるわけないっしょ」
「いや、ひとりならできるぞ」
「いやいや、それは流石に………」
「………確かに、バグったり変形したりする後藤さんならあり得るかも……」
「嘘でしょウケる」
そうだよ。そもそもひとりはコミュ障なんだよ。俺と話せているのは、幼馴染という大前提があるからに他ならない。普通の男と話せるわけがないんだよ、あいつは。余程のスパダリなら話は別かもしれないが、現実には早々いないだろうさ。
「………ん?じゃあ、俺とはなんで話せたんだ?」
「……………えっ?」
中川が、そうつぶやいた。
「いやほら、確か近藤が喜多さんと下校した日があったろ?」
「ああ…。確か、私がSTARRYに案内したわね………」
「その時、俺が近藤が浮気したんじゃないかと思い込んで、ひとりちゃんにチクったんだけど、その時は普通に会話できたぞ?」
「………だってさ、近藤」
…………何?つまり、ひとりはコミュ障ではあるものの、異性と話せないわけではないということか……?も、もしそれが本当だとしたら………。
「…………」
「うわ、すげぇ不機嫌そうな顔」
「そんなに好きならとっとと押し倒せばいいのに」
「だよな佐々木さん。俺も前からそう言ってんだけどさぁ」
「マジで一回寝取られないと分からないんじゃね?」
「わからせ……、やってみっか?」
「おい、そろそろ黙らないとしばくぞ」
ガラッ!!
くだらない話をしていると、扉が突然強く開かれる。担任はこんなに勢いよく開けるようなことはしない。なら一体誰だ??
「優太君……。見つけたぁ…」
「えっ?なんだよ、ひとりかよ。どうしたんだ?」
「へーっ、あの子がごとーか」
佐々木さんは何気にひとりのことを初めて見たらしい。後で聞いた話だと、噂に聞いていただけだとのこと。にしても、ひとりの様子がなんだか変だな。
「優太君………。私もう限界………」
「えっ?何が……?」
もしかして体調不良なのか?そう思って俺はひとりに近付いて様子を伺うことにする。
「具合でも悪いのか?それなら保健室に………」
ドンッ
「いてっ?」
えっ?俺、なんで寝っ転がってるの?なんで天井が見える。そして何故ひとりが跨っている?
「………優太君成分補給ぅ〜…」
……あ〜。状況把握。これは早急に対応する必要があるね。
「おーい。周りを見てみろ」
「…………へっ?」
周りの目など気にせず、自分の世界に浸りつつも、俺の胸元でクンカクンカしていたひとりだが、俺に指摘され、初めて周囲を見渡す。
そこには、黄色い声をあげる者。面白そうに見守るもの。少し顔を赤くして恥ずかしがる者など、十人十色とはよく言ったものか、反応は様々だ。
「す、すすす、すみませ〜ん!!!!」
F1で出るようなエンジン音を吹かしながら、ひとりは足早に5組を去った。ひとりのヤンデレと呼ばれる属性は、大勢の人の前だと一気に攻撃防御共に弱体化するので助かる。逆に2人きりだとほぼ無敵に近いが…。
「………くんかくんかする子ってマジでいるんだな」
「ごとーに無茶苦茶愛されてるな」
「いいからお前ら結婚しろ」
「近藤君。責任取らなきゃダメじゃない?」
「……………」
もうやだ!おうちにかえる!!
と言うのは冗談で、ちゃんと放課後まで学校にいました。これからバイトに向かうところなんだが、俺とひとり、そして喜多さんもいる。いや、三人とも同じ職場だから、別におかしくないのよ。なんだけどね……。
「むふっ…♪」
「後藤さんご機嫌ね?」
「あっ、はい。ここ落ち着くんです」
最早俺の腕が棲家だと言わんばかりに当たり前のように密着してくる。喜多さんもその光景に慣れたのか、謎に暖かい目で俺らを見守っているご様子だ。
「真面目な話、急にどうしたの?前はそんな人前でもくっつくようなことしなかったじゃない?」
「あっ、へへ。まあ、色々あったんですよ、色々………」
「また色々?何があったか教えてほしいわ!近藤君はケチだから教えてくれなかったけど!」
「おい誰がケチだって?これでも俺はリョウさんに2回は飯奢ってるぞ」
「……なんですって?まさか、後藤さんだけに飽き足らず、リョウ先輩も手に入れようと…!!?」
なわけないやろがい。友人として接するなら無茶苦茶面白い人だけど、一緒に暮らしたくはない。まあ、恋人になってデレデレなリョウさんも見てみたくもないが、それは恐らく俺の役目ではないだろう。多分、リョウさんと恋人になる人は、余程のスパダリではないだろうか?もしくはほぼ同種の人。
「負けてられないわ!私もリョウ先輩に貢がないと…!!」
「破産だけはしないようにね」
貢ぐのは勝手だが、喜多さんのようなキラキラJKが極貧生活を送ってほしくないものだ。
さっきから視線が集中している。それもそうだろう。ただでさえバカップルに見られているだろうに、喜多さんがいる影響で余計に視線が集まる。取り敢えずひとりを引き剥がしたいのだが………。
「後藤さんが可哀想じゃない!」
喜多さんがそう言うからなかなか引き剥がすことができない始末。別に普段ならこの状態のままでも問題なかった。
しかし、先日あのようなことをしたばかりの状態で、柔らかい果実を腕に感じてみろ。その日の熱い出来事を嫌でも思い出してしまう。
「……どうしたの?顔が赤いわよ?」
「えっ?いや、それは暑いからじゃないかな〜って………」
いかんいかん。できるだけ思い出さないようにしないと。
「……昨日のこと、思い出してたの?」
耳元でひとりが呟いた。その行動に俺は思わずドキッとしてしまう。
「……優太君が望むなら、また……いいよ?それとも……、もっと先まで昇ってみる?」
「NOOOOOOOO!!!!!」
「きゃ!!!?急にどうしたのよ!?」
……しばらくはひとりと会うことも自重した方がいいかもしれない。そういう意味では家出して正解だったかも…。でも家出しただけだと防げない気がしてきた。あの両親……、正確には、お母さんと美智代さんの手によって、ひとりに何かしらの覚醒イベントを引き起こしてしまったのだろう。
2人きりになったら、何するか分からない。だから、喜多さんがこの場にいてくれることで心労がいくらかマシになった。
人物プロフィール:
近藤優一:
優太の兄。下北沢のアパートで一人暮らしをしている。父同様、病的なモテ体質だが、何故か訳アリな女子にばかりモテる。そのため、人間関係に疲れてテレワークを選択。恋愛する気も当分ないし、ある種の女性恐怖症的なものに罹っていてもおかしくない。
極度にモテず、健全な学校生活を送れている優太に若干の嫉妬はあるものの、できればこのまま平和に生活してほしいとも思っている。ひとりちゃんは若干の病みを感じはするが、今まで自分が見てきた女性の中では十二分にマトモな方に入るので、個人的にはくっついてほしいと思っているが、無理強いはしない。
なんやこれ。主人公より主人公の家族の方がキャラというか設定が濃くないか?どうしてこうなったんや?訳が分からないよ。ここまで来ると、ぼっちちゃんがヤンデレになったのも、近藤家特有のフェロモン的なもののせいなんじゃないかって気がしてくるね。ちなみに優太の名前は「優二」もしくは「優次」にしようとも考えていましたが、結局優太になりました。