幼馴染君がぼっちちゃんを甘やかし過ぎた結果……   作:Miurand

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 とんでもない大遅刻…!物凄く多忙になってしまったために中々執筆ができなかった上に、展開に詰まって更新が遅れました。失踪したわけではないっす。

 今回はタイトルはギャグっぽいけどシリアス度数濃いめ。ただしシリアスが終われば反動でギャグの波が押し寄せる……かもしれない。



男がヒロインしてなにがわるい!

なんとかSTARRYに辿り着き、いつも通りバイトを始めることにする。しかしすぐに店長に呼び出された。俺何かやらかしたか?仕事は真面目にやったはずだし、大きなミスもないはずだが……。

 

「なあ、今日のぼっちちゃん、やけに機嫌良くないか?一体どうしたんだ?」

 

「…………多分、今日の夜ご飯が大好物なんでしょうね…、はい」

 

口が裂けても一線を超える一歩手前まで行ったからですとか言えない。それを店長に言ったら鉄拳制裁される気がしてならない。

 

「そんな感じじゃない気がするが…。まあいいか。幼馴染のお前なら分かるかと思ったんだが………」

 

「幼馴染だからといって全て分かるわけじゃないですよ。店長だって、姉だからといって虹夏さんのことが全て分かるわけでもないでしょう?」

 

「……そう言われると納得できるな」

 

そういや、長らく語っていなかった気がするが、俺がいる状態のひとりの働きっぷりは、常人に比べるとやはり劣るものがあるらしい。が、俺がいると色々とスペックが上がるらしい。前に匂いがどうのこうのって言って自分を抱き枕にするよう要求したことがあったけど、あれって本当に効果あるんかな……。

 

「つーか、いい加減ぼっちちゃんと付き合わないの?」

 

「………えっ?」

 

「えっ?じゃないだろ。ぼっちちゃんが可哀想だろ。それともお前はぼっちちゃんのことをなんとも思ってないのか?」

 

「いや、なんとも思ってないなんてことは……」

 

そして、最近は店長がやたらとひとりを推してくる。虹夏さんに唆されたのか、はたまた本当に可哀想だと思ったのかどうかは知らないが、結構な頻度で言ってくる。

 

「……なんで俺に言うんですか」

 

「だって、お前といる時のぼっちちゃんは幸せそうだし」

 

それを言われると弱い。それは自分もよく分かっているし、先日、ひとりがどれだけ本気なのか分からせられた。まあ、あそこまでやって未だに感情が変わってないのなら、きっとその恋愛感情も本物なのだろう。本物ならば、俺と付き合っても問題ないんじゃないか。

 

けど、今付き合い始めると、ひとりはもれなく暴走してしまう気がする。今のひとりは、親達の補助がなくても暴走する可能性を秘めている。

 

……あの親達があんな大胆なことをした理由も察しはつく。俺が中途半端な行動ばかり取っていたからだろう。寧ろもっと早くあのような手を打たれなかったのは、俺が一家では珍しくモテ体質ではなかったことと、他の女子に現を抜かすようなことをしなかったからだと思う。

 

「お前が何を迷ってるのか知らないけど、付き合うだけなら気軽にできるもんだよ」

 

「えっ……?」

 

店長は、俺の内心を知ってか知らずか、急に語り始めた。

 

「まあ、付き合って勢いのままデキて大変なことになってる奴らもいたけどな。でもそれは付き合っていようがなかろうが関係ない。ヤらかすかヤらかさないかだからな」

 

「急にどうしたんですか店長。セクハラですよ?」

 

「人のアドバイスをセクハラ扱いとはいい度胸だな?」

 

いやいや、マジな話セクハラでしょうよ。何急に生々しい話してくれちゃってんの。一応ボカそうとしているのは分かるけど。

 

「まあ、今までの様子を見て、確かにぼっちちゃんは暴走しちゃうこともあるけど、それをしっかり受け止めることができるのはお前くらいだと思うんだよ」

 

「………でも、俺は…」

 

「それに、お前もぼっちちゃんといる時は、凄い幸せそうだぞ。自覚ないかもしれないけど」

 

「なっ、そ、それはどういう…」

 

「さあ、話は以上だ。さっさと仕事に戻りな」

 

……内心に留めているつもりだったけど、そんなに分かりやすかったのかな、俺……。

 

 

 

一方で、優太君と店長さんが何か話をしている時、私の方はというと……。

 

「……えっ?優太君が家出した…!?」

 

「そうなんですよ。でも後藤さんと喧嘩したわけじゃないそうで……」

 

「一体どうしてそんなことに…?ぼっちちゃんは何か知ってる?」

 

「あっ、いえ。私も特には……」

 

言えるわけがない…!大人の階段を昇るようなことをさせるように親に仕向けられて、その反動で家出したなんて…。勿論、その背景には優太君の配慮があるんだけど、それを説明しても最初の部分で食いつかれる…!!

 

わ、私としては別にその部分は話してもいいし、寧ろ話して逃げ道を塞ぎたいけど……。色々私のことを考えてくれた上で家出したと考えると、それをするのも気が引けてしまうというか……。

 

「近藤君に詳細を聞こうとしたんですけど、誤魔化されちゃって……」

 

「余程他の人には話したくないことなんだろうね〜……。でもぼっちちゃんにも家出先を教えないのは変だよね?」

 

「確かに……。あの近藤君が後藤さんにも家出先を教えないのは不自然ですね」

 

それは教えてしまうと、私からお母さん達に情報が伝搬し、そこに突撃されることを恐れているんだと思います。少しでもリスクを減らそうとしているんだと思います…。

 

「うーん…。親と喧嘩しちゃったとか?」

 

「親子喧嘩ですか?私もたまにする時ありますけど………」

 

「でもそれならぼっちちゃんには家出先を教えてもいいと思うんだよね。ぼっちちゃんはどう思う?」

 

「あっ、えっ?」

 

中途半端に知っているだけに答えづらい……。

 

「………も、もしかして…!!」

 

喜多さんの様子が突然おかしくなった。何があったのかそれとなく聞いてみると……。

 

「他に好きな女子ができたんじゃ……!!!?」

 

「いやいや、あの優太君に限ってそんなことあるわけないって」

 

「いえ、分かりませんよ?もしかすると、家出したのは一人暮らしをしている女の子の部屋に転がり込むためかも…!!」

 

「優太君はそんなプレイボーイじゃないと思うんだけど……。ぼっちちゃんはどう思う?」

 

「優太君に限ってそれはないです」

 

断言!?

 

それはそうだよ。優太君が他の女の子に目移りするような性格なら、私みたいな面倒な女はとっくに見捨てられているはずだ。冷静になったからそれがよく分かる。優太君は私が大好きだ。今回だって、大好きすぎるあまり家出したんだから。ふへへ…。

 

「喜多ちゃん。優太君をよく見なくてもそれはあり得ないって。だってあのぼっちちゃんLOVEの優太君だよ?心配だからってわざわざ同じ高校にするくらいだよ?わざわざぼっちちゃんのためにバンド探して、挙句にバイト始めちゃうような子だよ?そんな子が他の女の子に目移りするなんてあり得ないよ」

 

そうです!優太君は私のことが大好きなので他の女の子に目移りするようなことはありません!虹夏ちゃんは優太君のことをよく分かっています!でも一番優太君のことを分かっているのは私です。そこは譲れません、ごめんなさい…!

 

「いえ、甘いですよ伊地知先輩!」

 

虹夏ちゃんがこれでもかというほどに根拠を並べたけど、喜多さんが否定する。なんでだろう…?もしかして、少女漫画か何かに影響されているのかな?

 

「私、昔から友達が多いので、あらゆる交友関係を見て来たんですけど、今回の例に当てはまるパターンがあったんですよ」

 

「え〜?例えば?」

 

「中学生の時の友達に、ずっと好きな男の子がいたけど、めっちゃタイプの男の子が現れた瞬間に切り替えた子がいたんですよ!幸い、ずっと好意を抱かれていた相手の男の子は、私の友達のことをなんとも思っていなかったから良かったですけど」

 

「へぇ〜、そんなパターンもあるのかぁ…。でも優太君に限ってねぇ…?」

 

「そ、そうですよ。優太君は私のことが大っ好きなので。あり得ません」

 

「あなた本当に後藤さんなの?」

 

「あっ、はい。正真正銘後藤ひとりです」

 

何を言っているんだろうか喜多さんは。上下共に芋ジャージで陰キャオーラをこれでもかというほどに出しているJKなんて、世界中のどこを探しても私しかいないというのに。

 

「後藤さん。そんなに浮かれていたら、もっていかれるわよ?」

 

「……えっ?」

 

「後藤さんに家出先を教えないのが妙に引っかかるのよね。だって後藤さんと喧嘩したわけじゃないんでしょ?なのになんでかしらね?後藤さんに知られたくないことでもあるんじゃないかしら?」

 

「喜多ちゃん。そんなにぼっちちゃんの不安を煽るようなこと言う必要ないでしょ〜」

 

で、でも。それは私を媒介にお母さん達に知られないようにするためであって…。あれ?でも私は優太君の家出理由を知っているんだから、基本的に私は優太君に協力すると考えるのが普通だよね…?ならなんで私は教えてもらってないんだろう?

 

き、きっと私がハメを外すと思っているからだよね……!他意はないよね…?でも、喜多さんが不穏なことばかり言うものだから、ちょっと不安になってきちゃった…。

 

お、お母さん達には家出先を内緒にするので、どうか尾行することをお許し下さい…!!!

 

「そんなに不安なら尾行すればいい」

 

「リョウ!やっと来たと思ったらしれっと犯罪を推奨するな!!」

 

「大丈夫。お互い好き合ってるならストーカーも合法」

 

「親しき仲にも礼儀ありって言葉を知らないの?」

 

「で、でも、バイトが終わったら夜も遅いですよ…?」

 

「それなら大丈夫よ!家が近い私達も同行するから安心して!」

 

「いやいや、集団でストーカーすんなよ」

 

「でもぼっちはやる気満々だよ?」

 

「えっ?嘘だよねぼっちちゃん?」

 

「すみませんすみません…。将来の伴侶のことを信用しきれないダメな女ですみません…………」

 

「めっちゃやる気満々だ……」

 

「真夜中の街にぼっちを1人で放り込むの?」

 

「あーもう!!私は止めたからな!?」

 

こうして、バンドメンバーのみんなで優太君を尾行することになりました。いやなんで?私はともかく、皆さんがやったら犯罪になるのでは?

 

 

 

ということで、バイトが終わり、優太君を先に帰らせてから私達も後を追うことになった。できるだけ彼に勘付かれないように、そっと、慎重に、静かに……。

 

「………き、喜多さん。なんでそんなに楽しそうなんですか?」

 

「あら?分かる?私ね、一度でもいいから探偵みたいなことしてみたかったの!」

 

「……浮気調査?」

 

「だから優太君が他の女の子に目移りするとは思えないって…。もうやめようよこんなこと」

 

と言いつつも、虹夏ちゃんもしっかり付いてきてくれます。なんだかんだでノリがいいよね、虹夏ちゃん。

 

「にしても優太。駅とは反対方向に歩いている。ということは、潜伏先はこの近辺ということになる」

 

「ですね…。なら案外すぐに突き止められるかも?」

 

「あまり喋ってるとバレるよ〜?」

 

皆さん、本当に尾行する気あるんですかね?で、でも、こうして和気藹々としていた方が一周回ってバレづらいのでは……?いや、流石にそんなことないよね…。

 

「あっ、いかにも怪しい黒のワンボックスカーだ。気をつけろぼっち。あれに近づくと誘拐されるぞ」

 

「されないされない……」

 

「でも、このご時世何があるか分かりませんよ?一応気をつけた方がいいかと!」

 

「わ、私なんかを誘拐しても価値がないのでは…?いやでも、私を人質にして親に身代金を請求……。き、気をつけなきゃ…!!」

 

「やけにリアルな妄想してるね〜」

 

「分からないわよ後藤さん!女子校生を狙う犯人はお金目的だけじゃない可能性もあるわよ!もしかしたら身体も…」

 

「い、いえ。少なくとも私はないと思います。わ、私の身体に興味があるのは優太君くらいかと………」

 

「自信があるのかないのか分かりづらいぞ、ぼっち」

 

私の身体に興味があるのは確認済ですので。ぐへへへ。おっといけない。あの日のことを思い出したら今にも優太君に襲いかかってしまいそうだ。堪えろ後藤ひとり…!今理性を崩壊させてはダメだ!せっかくの優太君の配慮が全て無駄になってしまうではないか……!夫の心情を理解できないのは妻失格…!だと私は思っているので!

 

「ん〜。でもいかにも怪しい車だね。なんかナンバー隠されてるし」

 

「やっぱり危ない車なのでは…!?」

 

「だ、だだだ大丈夫ですよ…!こ、こっちには3人もいるんですから…!」

 

「ぼっちがある意味一番有効打与えられそうなんだけど、なんで自分をカウントしてないの?」

 

無茶苦茶警戒していましたが、結局車の横を通り過ぎても何も起きませんでした。でも車のナンバーって隠しちゃダメって聞いたことがある気がするんだけど……。

 

 

 

 

 

「………なんか付けられてるな。ひとりのやつ、さては居場所を特定する気だな?」

 

離れたところから尾行すればバレないと思っているのだろうが、夜の街では会話が思ったよりも響くものだ。バレバレな尾行だな。

 

「あの〜、すみません」

 

「あっ、はーい!」

 

なんだ急に?パッと見、俺より少し年上程度の女性だ。女子大生か、社会人になってそんなに年数が経ってないように見受けられる。俺の兄と同年代と言ったところか?こんな夜道で一体何を聞こうと言うのだろうか?単に道を尋ねたいのか?でもそういう類の質問をしてくる人って大抵昼に出くわすものなんだけどな。

 

「あの〜、このマルマルアパートってところに行きたいんですけど、道が分からなくて………」

 

「あ〜、そのアパートでしたら、俺が住んでいるところと同じなので、良かったら案内しましょうか?」

 

「本当に?ありがとうございます!」

 

引っ越しか何かかな?それともそこに彼氏さんでもいるのだろうか?どちらにせよ、知っている場所だし帰宅先でもあるのだから、道案内してもバチは当たらないだろう。

 

「あの〜、もう一つお伺いしてもいいですか?」

 

「えっ?なんですか?」

 

 

 

 

「君、近藤優一君の弟、優太君だよね?」

 

 

 

 

「…………はい?」

 

何故そのことを知っているんだ?俺の兄の知り合いか?でも兄の交友関係って学生時代の女難をきっかけに極端に狭くなっていたはずだ。俺の知る限りでは、少なくとも女性の友人はいなかったはず………。

 

バチッッ…!!!!

 

「……!!!?」

 

「ごめんね〜。ちょっとだけ付き合ってもらうね♪」

 

電気が流れる音がしたかと思ったら、俺は何故か地面に倒れ込みそうになる。しかしそれはなかった。何故なら目の前の女性に抱き止められたから。

 

ああ、油断した。この女性が兄の名を語った時点で警戒するべきだった。俺はひとりで狂った女性を知った気になっていた。でも、それは違かった。昔の兄の言う通りだった。ひとりは『本物』ではなかったんだ。俺は『本物』とは一度も接したことがなかったんだ。なら気付けなくてもおかしくない。

 

俺の後を付けてきた4人は無事だろうか…?俺はいいから、せめて彼女達だけでも無事でいてくれ………。

 

その思考を最後に、俺の記憶は次に目覚めるまで途切れることになった。

 

 

 

 

 

 

優太君が女性に話しかけられたので、立ち止まった。私達は少し離れた裏路地から少しだけ顔を出して様子を伺うことにした。理由は単純。このまま歩き続けたら、優太君にバレるのは最早必然だし、道のど真ん中で立ち止まるのも不自然だからだ。

 

「もしかして、あの人が優太の…?」

 

「もしかして、近藤君って歳上好きなのかしら…?」

 

「確か前に聞いたタイプでは、面倒見がよくて料理が上手な人って言ってたもんね〜。ちょっとあり得るかも…」

 

に、虹夏ちゃんまで…!?そ、そんなことはないはずだ…!きっとあれは道案内をしているに違いない…!優太君ってば優しいから、外国人に外国語で話しかけられても、わざわざ英語で対応するくらいだもん…!

 

だけど、少しすると異変が起こった。

 

優太君のいる方が一瞬光ったと思ったら、優太君が倒れた。けど、女性に受け止められて無事。

 

べぁ…!!?

 

ゆ、優太君が、私以外の女の人に抱きつきに行ってる……!!?そんな馬鹿な…!!!で、でも、あの倒れ方は不自然だ。まるで力が抜けるように倒れたように見える。それも、光った直後に。

 

そして、少しして無灯火の黒いワンボックスカーが走ってきた。そして道を塞ぐようにして斜めに止まり、少しするとライトを点けて発進した。そこには、優太君の姿も女性姿もなかった。

 

黒いワンボックスカーは不自然な程のスピードで走り抜けていく。途中で曲がって完全に私の視界から消えた。

 

「…………えっ?」

 

「い、今のって、まさかとは思うけど………」

 

「………まさか、優太が誘拐された?」

 

「ええ!?リョウ先輩、誘拐って…!?」

 

「優太が急に倒れたし、それが分かっていたかのように女の人は受け止めた。その直後に道を塞ぐようにして車が止まって、少ししたら2人とも姿を消した……。こ、これはまずいかも……」

 

「そ、そそそ、そんな……!?まさか優太君が…!?け、警察…!!!110番しないと!!」

 

ゆ、誘拐……?優太君が……?なんで?どうして?あの女の人が……?一体何をするつもりなの?優太君を誘拐して、一体何がしたいの……?

 

えっ?嘘、優太君…?ど、どうしよう…!やだやだやだ…!!

 

「ぼ、ぼっちちゃん…!一旦落ち着いて!」

 

あの女の人と優太君は知り合いなの?なんで誘拐?身代金目的?それとも優太君が目的?ま、まさか内臓…!?聞いたことがある。若い人を攫って臓器を取ってそれを高額で売る人がいるって。ま、まさか……!!

 

やだ。やだやだやだ。どうして優太君がそんな目に遭わなきゃいけないの?私はともかく、優太君は何一つ悪いことをしていない。取り返さなきゃ。取り返さなきゃ…!でも、どうやって?居場所が分からないのに?車のナンバーも知らないのに?相手が誰なのかも分からないのに?行き先も予想できないのに?

 

でも、だからってモタモタしていたら会えなくなっちゃうかもしれない。事故ならまだ納得できたかもしれない。でも、こんなのはあんまりだよ。早くあの女から優太君を取り返さないと。

 

「も、もしもし?警察ですか?あの、今目の前で誘拐事件が起こって…!!」

 

私がモタモタしている間に喜多さんが110番してくれたみたい。リョウさんはこの状況で犯人の目的や居場所を特定しようと考え事をしている。そして、虹夏ちゃんは私を宥めてくれている。

 

…なんで私は何もしてないの?優太君が大事だとか言っておきながら、私は何もできていない。

 

「…………あっ」

 

そうだ。この中で唯一、私は優太君のことをよく理解している。ホクロの位置や好物。匂いや趣味嗜好に至るまで把握している。

 

そう、匂い。車で運ばれたから怪しいけど、もしかしたら匂いを辿れば行けるかもしれない。でも、相手は車だし、もし遠くに行かれたら、追うに追えない。

 

「あれ?そのジャージ、ひょっとしてひとりちゃんかな?」

 

「えっ?」

 

「あ、あの…?どちら様で?」

 

……私のことを知っている人は少ない。それも異性となると極端に限られてくる。私のことを"ひとりちゃん"呼びする男の人は、私が知る限りでは中川君と、あともう1人。お義兄さんだ。

 

「もしかして、君達がひとりちゃんのバンド仲間かな?僕は近藤優一。ひとりちゃんの幼馴染の兄だよ」

 

「えっ?じゃあ優太君のお兄さんってことですか?」

 

「そうだね。てか優太のこと知ってるんだ。ああ、そういやバイト先が同じとか言ってたっけ」

 

「って、今はそんな呑気に自己紹介している場合じゃないですよ!近藤君が誘拐されて大変なんですから!」

 

喜多さんは大慌てだ。それも無理もない。私も態度に出ていないだけで、内心は今の喜多さんなんか目じゃないくらいに大慌てだ。それはもう、まともに思考できないくらいには。軽くパニックに陥っている。

 

「……優太が、誘拐された?」

 

お義兄さんはどこか冷静だった。驚きはなく、どこか納得したような、確信したような感じだった。

 

「………取り敢えず、君達は警察に事情を説明してほしい。僕は用事ができたから、ちょっと失礼するよ」

 

「ちょっと待って下さい!弟さんが誘拐されたのに用事を優先するんですか!?」

 

()()()だよ。それに、現場を見た君達が事情を説明した方がいいだろう?だからこの場は君達に任せる」

 

「えっ?ちょっと!!?」

 

お義兄さんは、喜多さんの制止を振り切って足早にどこかに向かっているようだった。喜多さんは何か言いたげなものの、優太君が誘拐されたことで文句を言う余裕もないと言う感じだ。

 

…でも、私は知っている。あの人だって優太君に負けないくらいに優しいということを。特に、家族に対してはそれが顕著に現れる。きっと優太君を見捨てるようなことはしない。

 

 

 

 

 

 

 

「………んぁ…?」

 

あれ?俺はさっきまで兄の家に帰る為に歩いていたはずだ。いつの間に寝たのか?ベッドに寝っ転がっている状態にされているところを見ると、そう考えるのが妥当っぽい。でもそんなに疲れていた記憶はないんだけどな……。

 

だが、歯を磨いてないし、風呂にも入ってないからとっととそれらを済ませよう。それからじゃないと本格的に睡眠に入りたくない。そう思って体を起こそうとした時、初めて異変に気付いたのだ。

 

「………はっ?」

 

なんだこれ?手が自由に動かない。足も自由に動かない。その事実を認識してから、ほぼ寝ていた脳が一気に覚醒する。手と足がロープか何かで縛られ、自由に身動きできる状態ではなくなっている。てかよくよく見たら知らない部屋だし。えっ?もしかして俺が誘拐されたの?喜多さんや虹夏さんみたいな可愛い人なら分かるよ?でも何で俺?俺の親は特別金持ちでもなければ権力も持ってないぞ?俺を誘拐するメリットが一体どこに………。

 

「あっ、優太君起きたんだね?ごめんね、こんなことしちゃって」

 

声をかけてきたのは、先程道案内をしようとしていた人だ。そうだ。この人が兄のことを聞いてきてから記憶がなくなっているんだ。多分この人に気絶させられたに違いない。

 

この状況で断言できる材料はいくらでもあるが、特にやばいのは、目。ひとりでも見たことがないような、暗く濁った目をしている。本当に何をしでかすか分からない目だ。そんな気がする。

 

「……俺を誘拐した目的は?」

 

「その顔だと、君も大体分かってるんじゃない?」

 

そう言いながらも、その人はしっかり説明する。簡潔にまとめれば、俺は兄を誘き寄せるための餌だ。この人は過去に兄に振られた人らしい。そこから病んでしまったのだろうか?だがそこまで詳細は知らない。

 

「……兄に居場所は伝えているんですか?」

 

「もちろん!ちゃんと優一君にだけ伝えているよ?」

 

「……あなたがやったことは犯罪ですよ。今解放してくれたら、何もなかったことにしますから、今後はこういったことは………」

 

「ごめん、それは無理かな」

 

「えっ?でもそんなことしたら…」

 

「警察に捕まるって?分かってるよ、そんなこと。だから手は打ってあるよ?」

 

そういうと、彼女は下書きしたのか、何度も書き直したのか、紙屑の山から一つ取り出し、それを広げて俺に見せてきた。

 

文面をそのまま読むと、『警察に言わずにここに来てね。優太君はこっちで預かってるよ』だ。

 

確かに、兄ならこれだけで自分に選択肢がない状況だということを理解するだろう。

 

「ね?だからもう少しこのまま待ってくれるかな?優一君さえ来てくれればあとは君に用はないからさ」

 

「……一つ聞いても?」

 

「うん。なーに?」

 

一応俺は人質の身だ。俺の命はこの人が握っているものと見た方がいい。だからできるだけ下手に出る必要がある。

 

「……兄と会って、どうするつもりなんです?」

 

「それは勿論、優一君と結婚するためだよ?」

 

交際をすっ飛ばしての婚姻。これはたまげたなぁ。リョウさんあたりが聞けばロックな人だと言うのだろうか?

 

「私と優一君が君の歳ぐらいの時にね、何度かお弁当を作ってあげたことがあったんだ。でもね、2回目以降はそれとなく断られちゃったんだ。なんでだろうね?私の料理ってそんなに美味しくないのかな?」

 

あ〜……。この人が弁当に血を入れた人かな…?きっとそういうことなのだろう。兄に連絡しても絶対に会ってくれないだろうな。それを無意識に感じ取ったから、こんな手段を取ったのだろう。

 

「だからさ、君にも味見してほしいの!優一君の弟君だから、きっと好みも似てると思うんだ!いい?」

 

一応確認を取っているが、こちらの選択肢は実質ない。逆らえば何されるか分からない。しかし、変な物が入っていた時のことを考えると……。そうだ!

 

「い、いや。兄の為に作ったのに俺が食べても勿体なくないですか?」

 

「君も私の料理を拒否するんだ?」

 

「………い、いただきます…」

 

「うんうん!優一君もこれくらい素直だったら良かったのに!」

 

……目が、やばかった。視線だけで俺を殺せそうな、そんな錯覚すら未だに残っている。

 

「ちょっとちょっと、優太君の中に()()()を入れてどうすんのさ。肝心の優一君に食べさせなきゃどうすんのさ」

 

「あ〜……。そこまで考えてなかったや!」

 

「全くコイツは……」

 

今度はもう一人の女性が室内に入ってきた。先程まで会話していた女性は、見た目だけならお淑やかでいかにも女性らしい容姿だが、今度はボーイッシュな人だ。見た感じヤンキーっぽい。まさかの複数犯かよ…!相手が一人ならまだしも、二人となると流石に分が悪いぞ…。

 

「にしてもこの子、優一君に似てるな。結構好みかも…」

 

「えっ?ちょっと優太君に手を出す気?あんたも優一君目当てじゃなかったの?」

 

「いんや?アタシは歳下が好みなんだよ。今回はいただくためにお前に協力したんだよ」

 

「あれ?そうなの?なーんだ。なら寧ろ好都合だね!良かったね優太君!相手してもらえるって!」

 

「………‥えっ?」

 

俺を、いただく?相手をする?何を言っているんだ?普段ならこの意味も瞬時に理解できたはずだ。だが、誘拐されたことで自分が思っていた以上に動揺していたのか、思考がなかなかまとまらない。しばらく頭が真っ白になっていると、そのボーイッシュな女性が俺の上に跨るように移動する。

 

「じゃあ、私は別室にいるからね〜。お楽しみに〜♪」

 

そう言って最初の女性は部屋から姿を消した。

 

「つーわけで、優一君が来るまでお楽しみタイムといこうじゃないか?君は初めて?ならムッチャ興奮すんだけど?」

 

良かった。正直変なものを食わされるよりはよっぽどマシな状況になった。もし俺が女子で、相手が男性だった場合は、妊娠のリスクが伴う可能性があったが、俺が男で相手が女。俺に対するダメージは比較的少ない。この程度で済むなら…………。

 

………いやだ

 

「はっ?」

 

だけど、言葉に出てきたのは、自分が発しようとした言葉とは全く異なるもの。ここで了承して、できる限り時間を稼ぐつもりだった。誘拐紛いのことをしてまで俺とヤろうとするくらいだから、拒否したら何されるか分かったものじゃないから。

 

だけど、俺ははっきり拒否した。何故意思に反して口が動く?いや、動くだけならいいんだ。何故反対の意味を述べる?ほら、言うんだ。分かりましたって。たったそれだけで俺が助かる可能性が上がるんだ。

 

「やだ。やだやだ…!!絶対にいやだ!!!!」

 

次から次へと言葉が出てくる。ただがむしゃらに拒否する。そこに語彙などない。

 

「……ふーん?嫌なんだ?でも、そっちの方が燃えるけどね?」

 

そう言うと、目の前の女はどこからかハサミを取り出して俺の服を切り始めた。わざわざ切る理由は、縛ったまま俺の服を普通に脱がすことはできないから。こうして俺は上半身は裸と化した。

 

「体型は普通か……。いいじゃん。変に筋肉質になってるよりもそそるわ」

 

「や、やめろ…!やめてくれ!!」

 

抵抗しようにも手と足が動かない。抵抗できないことが分かっているから、了承してやり過ごそうとしたのに。口から余計な言葉が出てくる出てくる。何故だ?童貞なんて捨てちまっても問題ないだろ?むしろ童貞なんて捨てられたら役得じゃないのか?何でこんなに拒否するんだ?

 

「まあ、今はそう思っても、あと10分もすればきっと君から続けてほしいって言うでしょ。だから少しの辛抱だぞ、ユータクン」

 

そうだよ。少し辛抱するだけで時間稼ぎができるんだ。時間稼ぎすればするほど助かる可能性は上がる。だから首を縦に振れ。相手のご機嫌取りをしろ。

 

………た、たすけて……

 

掠れた声が出た。誰に言ったのか自分でも分からない。でも、こんなこと言ったってヒーローなんて現れるわけがない。ヒーローが実在するなら、人は殺されないし、レイプされる人だって存在しないはずだ。でもそれらがあるということは、ヒーローなんていないということだ。

 

とうとうズボンにもハサミをかけようとする。もう逃れることはできない。素直に身を任せるしかないのだ。

 

『優太君、一緒に帰ろ?』

 

『優太君、一緒にご飯食べよ?』

 

『優太君、一緒に寝よ?』

 

こんなタイミングでひとりのことを思い返すなんて……。ああ、そうか。俺が意地でも拒否したかった理由。それは………。

 

 

 

 

バァンッ!!!!!

 

「なっ!?」

 

拒否していた意味を理解したと同時に、俺は失意のどん底に落ちて、何もする気も起きなくなった。真っ暗闇に突き落とされたような気分だった。まるで長いトンネルに入ったかのような。出口のないトンネルに迷い込んでしまったような、そんな感じ。

 

だけど、突然光が見えてきた。出口が急に現れた。

 

 

"ヒーローは遅れてやってくる"

 

 

元ネタは分からないけど、色々なところで聞くこのフレーズは、まさにその通りだった。そして、ヒーローは実在するとも思い知らされた。

 

ただ、万人が想像するようなヒーローではない。特別強いわけでもないし、特別正義感に溢れているわけでもないし、常にかっこいいわけでもない。

 

普段は人と話せないし、目を合わせることもできないし、俺がいないと外においては日常生活が壊滅的だ。すぐに『あっ』って言うし、勉強もろくにできない。

 

だけど、家族想いで、俺が今まで出会ってきた中で誰よりも優しくて、俺の支えになってくれている。いつも俺の側にいてくれる。俺が弱った時は寄り添ってくれる。

 

「私の優太君に…、何をした…?」

 

少し、いや、かなり歪んでいるけど、目の前には確かにヒーローがいた。

 

「はっ?誰あんた?」

 

「私の優太君に何をした?」

 

「うっせえな。お前のモノじゃねえだろ。人の家に勝手に侵入してんじゃねえぞ」

 

「誘拐しておいて、よくそんなことが言えますね?」

 

あっ、やばい。どっちも目が真っ黒なんすけど。なんなら目に黒い星が見えるような気さえする。アレ?これ、ひょっとしてよくない展開に向かってる?そもそも、ひとりはどうやってここを特定したんだ……?

 




・軽くキャラ紹介

・長髪の女性
 優太の兄、優一君への愛が凄まじいが、激しい歪みがある。優一は過去に血の混じった弁当を渡されたことがあったが、その犯人はこの人。どうしても優一と結ばれたいが、優一から避けられていることを察して元々やばかったけど更に歪みに磨きがかかった。どうやって弟の優太の存在を知ったのかは不明。怖い。

・ヤンキーなボーイッシュガール
 多分だけどヤンキーの子。どうやら上記の女性と同じく優一の同級生らしいが、優一には興味ない。ただし、歳下が好みで、少しでも気に入れば即座に食う(意味深)。優太もそのうちの一人になりかけたが、ヒーローの到着によって助かった…??ちなみにヤンデレとかメンヘラと呼ばれる属性ではない。
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