引き篭もりアーカイブ   作:有機栽培茶

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やっぱ今上げる。
2話連続投稿


終わり

 

 

「……はい…しゅー…りょー…」

 

 

 これで終わり。

 何もかも終わりです。

 後悔は、ある。ないわけがない。まだこの世界で自分の意識が覚醒してから2年とちょっとしか経ってないんだぞ。勘弁してほしいよほんと。

 でもまあその原因のほとんどが自分のせいだったりするんだけど。

 

 ブラックマーケットなんていう魔境に身を潜めることにしたのも、まあ先輩から逃げてきたからってのもあるけど自分の意思だし、こんな仕事をやってるのも自分の意思。なんなら初めから便利屋68に手を出さず、あの時手を引いていればこんなことにはならなかったかもしれないし。

 

 

「はぁ…」

 

 

 エナドリを一気に飲み込んだ。

 

 

 ガタン、扉の外でそんな音がして、電子音が響いてドローンとそれにつかまれたガラクタ寸前の掃除屋が運ばれてきた。さすが私のドローン。仕事が早い。

 

 

「…君も、頑張ったよ。」

 

 

 そう言いながら黒焦げた装甲板を撫でる。

 頑張った。頑張ったんだ。全て出し切ったんだ。ならこれでいい。これで満足といこうじゃないか。

 

 

「……最後に、柴関ラーメン食べたかったな……」

 

 

 ぽつり、と。呟いてみる。

 

 

 その時だった。

 

 

 

 再びドアの外で物音がしたのは。

 

 

「…だれ?」

 

 

 まさか先生?いやありえない。あの場所からここまで何分かかると思っているんだ。そもそも彼らは私の家を知っているはずがない。

 

 なら、誰だ?

 

 

「邪魔するぜ。」

 

 

 破壊音と共に扉が吹き飛び、外の光が部屋に差し込んできた。

 

 そして、光の向こうにいたのは、黒い学生服をきて、顔をマスクで隠した─────

 

 

 

「………せん、ぱい…?」

「ああ?は!たまげたなぁ?あの掃除屋の中身がテメェみたいなチビだったなんてなぁ!コモリぃ!」

「ひっ!?」

 

 

 なんで、なんでなんでなんで!?

 なんでこの人がここにいる。なんでこいつらがここにいる。

 

 あの風景が蘇る。入学式の帰り、トリニティ生という理由で、金を持ってそうという理由で路地裏に連れて行かれ、ヘイローの破壊寸前まで殴られ、蹴られ、銃で撃たれ、痛みつけられた記憶が。

 

 

「は…はっ……な、なんで……」

「なんで?そりゃ、私たちはずっとお前を追っていたんだよ。」

「え…え?」

「あの時テメェ、掃除屋にボコられてなぁ。いつかやり返してやろうとずっと探してたんだが、こーんな偶然があるなんてなぁ!」

 

 

 最悪、最悪だ。こんなことがあってたまるか。こんな最悪な最期があってたまるか。こんな、こんな───

 

 

 

「さぁて、可愛がってやるかぁ!」

「ひっ!」

 

 

 

 彼女の手に持ったショットガンが向けられ、真っ黒な銃口がこちらを正面から捉える。私はなにもできない。逃げることも、腰が抜けて動けない。せめてもの抵抗は目を瞑り、迫り来る恐怖を見ないようにすることのみ。

 

 発砲音が鼓膜を刺激する。

 

 

 ─────が、痛みがこない。

 

 

 

 恐る恐る目を開けるとそこにはゆっくりと倒れる、私の相棒の姿があった。

 

 

「……え?」

「ちっ!おいおい!ガラクタはちゃんと整理しておけ!倒れてきたじゃねぇか!邪魔だ!」

 

 

 そしてそのまま鉄屑は蹴飛ばされ、私の横に倒れ伏した。

 動かない。当然だろう。バッテリーも切れて機体も大破。そもそもコントローラーを握っていない。

 

 だが、私には彼が私を守ってくれたように見えた。

 

 生きろと、言ってくれたように見えた。

 

 

「さあ仕切り直しだ……あ?なんだそのおもちゃは。」

「はぁ…はぁ…!」

 

 

 倒れた掃除屋の手に握られたままだった拳銃を手に取る。そして照準を合わせ、目の前の不良の頭部を狙う。

 

 

「弱虫コモリが。ほら!撃てるものなら撃ってみろ!」

「っ──────!」

 

 

 やってやる。やってやるさ!

 わざわざ相手さんが待ってくれているんだ。

 

 撃て、撃て、撃つんだ。

 

 倫理観なんて関係ない。殺せ。殺して生き残れ。それを、相棒だって望んでくれた。

 

 

「う、うわあああああああ!!!!」

 

 

 拳銃の引き金にかけた指に力を込め、そして───

 

 引く前に、外の異変に気づいた。

 騒がしい。

 

 

 

「あ?なんだ?おいテメェら何をして────

 

 

 

 そして目の前の不良が私の横を通って後ろに吹き飛んでいった。ガシャンと何かにぶつかる音が聞こえた。

 

 

 

「はぁ、はぁ…間に合った、みたいだね。」

「なん…で…」

「なんでって、それは私が先生だからだよ。」

 

 

 

 光の向こうから、希望がやってきた。

 

 

「でも…私は……」

「掃除屋、なんでしょ?」

「……え?」

「なんとなくだったけど、モモトークと君の機体のデータの発信源が同じだったから。」

「……そ、そっか…じゃあ、なに?私を、捕まえにきたの?」

「違うよ。助けに来た。」

 

「……なん、で…いっぱい嘘もついたし、酷いことも、した……悪いこと、いっぱいしたのに…」

 

「なんでって、さっきも言ったけど君が私の生徒だから。」

 

 

 ああ、やっぱり、先生は、かっこいいなぁ。

 

 

「…この、クソがぁぁぁ!」

 

 

 その時だった。先ほど爆破されて後ろに倒れていた先輩が立ち上がって殴りかかってきたのは。

 そして────

 

 

「私の先生と友達に手を出さないで!」

 

 

 扉の向こうからその声と一発の弾丸が飛んできたのは。

 

 

「がっ!?」

 

 

 それに被弾した先輩は爆発し、地面に倒れ伏す。今度こそ気絶したようだ。

 

 

「ふぅ…大丈夫!?先生!コモリ!」

「アル…さん…?」

「よかった!無事で!」

「なん───」

「友達じゃない!当たり前よ!」

「ま、まだ…なにも言ってない……」

 

 

 ぎゅっと抱きしめる力が強くなった。

 

 

「あなたが掃除屋だってのも初めから知ってたわ。でもそれでもいい。貴方は私の友達じゃない。」

「アルちゃんはさっき聞いたばっかなのにね。」

 

 

 生徒だから…友達だから…

 

 は、はははは。

 

 なんだよ、それ。

 

 

 

「う、うわああああああああああああああん!!」

 

 

 悩んでばっかだった自分が馬鹿らしいじゃないか。

 

 

 

「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!友達だと思ってくれたのに!私、みんなに酷いことした!みんなのことを、殺そうと、ごめんなさい!」

 

「殺っ!?だ、大丈夫よ。私は便利屋68の社長。掃除屋以上のアウトローよ!その程度で嫌ったりしないわ!」

「そ、そうです!コ、コモリちゃんは私の友達ですから!……わ、私なんかが友達でいいんですよね?」

「うん、大丈夫。このくらいで嫌ってたらゲヘナじゃやってけないよ。」

「あは!私も楽しかったからいいよ!また遊ぼうね〜!」

「う、うう…」

 

 

「君がどんなことをしようと私の生徒には変わらないからね。どんな時も私は君の味方だよ。」

 

 

 

 

 その日、私はこの世界に生を受け、初めて人の胸の中で声をあげて泣き喚いた。みっともなく、子供のように。後々から考えれば恥ずかしいほどに。

 

 

 

 

「それはそうと公共機関を破壊したりした罰は受けてもらうことになるけどね。」

「え」

 

 

 え

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