ああ、チケットは配信パワーかツクヨが出ました。いいですね。おっきな子、好きです。
で?正月カヨコは?
やあ諸君。私だ。
私が今どこにいるのか?…私だって約束を破るような人間ではない。すでに焼肉弁当は胃の中に入れてしまったからな。仕方なくトリニティ総合学園へときているというわけだ。決してお仕置きが怖いわけではない。
一応は記憶に保管してあった景色をなぞりながら廊下を歩く。どうやら2年前に通ったこの景色は、私がすぐにでも忘れ去ろうと記憶の彼方へ追いやったあの頃とそう、たいして変わっていないらしい。
「え…な、なにあれ?」
「清掃の人?それにしては…」
「今日すごい人が来るって噂だったけどその関係者?」
「おっきなボストンバッグ…一応副委員長に連絡したほうがいいかな…?」
休み時間なのか廊下に出て友人と世間話をしている、私とは全くと言っていいほど縁のない人種たちが、私が近づくと共に道を開けてゆく。その光景はまるでモーセの海割りのようだと言えるだろう。
通り過ぎた後から何やら小さなこそこそ話が聞こえてくる。おそらく私に関する話だろう。だが関係ない。
今までの私ならば、その一言一言が夜も眠れなくなるほど気になり、『もしかしたら私の悪口を言っているのでは?』とネガティブな思考に陥り、居心地の悪さを感じて走って逃げ出していただろうが、そんなことはしない。
私だって進化するのだよ諸君。
「はい、どうぞ。」
人がある程度いなくなったころ、私は一つの大きな、そして豪華な扉の前に立ち、四度ノックを繰り返す。
そして、内側から入室の許可を確認してドアを開けた。
「っ!…新戸、コモリさんですよね?」
「そうだ。そういう貴様は私をここに呼び出した者……桐藤ナギサであっているな?」
大扉をくぐった先にあったのは、開けたベランダから光の差し込む陽光の美しい部屋だった。そしてその中央には大きな机にティーセットを広げ、優雅に紅茶を嗜む天使の羽を持った女性が座っていた。
事前情報からしてこいつ──んん、この人が先生の言っていた私とお話がしたいというクソ野ろ──んん、お方なのだろう。
ああ、いいさ。お望み通りしてやろうじゃないかお話を。もちろん肉体言語でなぁ!……とはならない。私はそこまで感情的じゃないからな。まだ耐えられる。
「急に呼び出してしまって申し訳ありません。ただ、貴方と一度お話してみたかったのです。かつて静寂の令嬢と呼ばれ、ティーパーティーの候補として挙げられていながら孤高を貫いていたゆえに誰も話しかけられず、そして高校の入学式の後突如姿を消した貴方に───」
「長ったらしい前振りはいい。本題に入れ。」
…何を言っているのかわからなかったから急かしたが───本当に何を言っているんだこの人は?静寂?喋れなかっただけだが?孤高を貫く?好きで貫いてたわけじゃないが?突如姿を消した?引きこもったんだよ!
煽ってんのかこのクソ女。わざわざ私をこのような地獄へ呼び出しておいて最初に話すことがこれか?もう帰っていいか?
「そうですね本題に……その前にお姿を見せていただいても?」
「ん?見せているではないか。」
「そ、そうではなくてですね………」
「そうではなくてなんだ?」
「コモリさんはそんなメカメカしい方じゃなかったですよね!?」
そう言って彼女は私を───画面越しに指差した。
『…不登校中に事故にあってな。この体に…ほら、ヘイローだって…』
「そのボストンバッグにロールケーキをぶち込んで差し上げましょうか?」
『ひぇ…』
…え、えぇ…何だこのお嬢様。
まあ、仕方ない。私の
「……はぁ……憂、鬱…」
コントローラーを操作して私──いつもの黒コートの下にトリニティの制服を着せた掃除屋にボストンバッグのファスナーを開けさせ、そして中に手を突っ込み、本体の方の私を取り上げさせた。
体勢的にはちょうどお姫様抱っこである。もしくは体格差的に赤ちゃんの抱え方である横抱きにちょっと似て……この話はやめよう。
「…久しぶりですね、コモリさん。」
『すまないが、私の記憶にはない。どこかで会ったか?』
「中学校一緒でしたよね!?というか直接喋らないんですか…?」
『実は不登校中に喉をやられてな…』
「さっき喋ってましたよね?」
『……チャットで打った方が楽で早いからだ。』
「そんな人だったんですか貴方…」
本当は音声入力の方が早いのだが、まあ私に人前で普通に喋れだなんて先生の持つオーパーツ、シッテムの箱を量産しろと命じることと同等な行為な訳で。
「……まあいいでしょう。本題に入りましょうか。コモリさんもその方が良いでしょう?」
『助かる。』
「…では、コモリさんはエデン条約という言葉を知っていますか?」
『ああ、耳にしたことはある。確か簡単に言えば、トリニティとゲヘナ間における不可侵条約…だったか?』
「その認識で概ね合ってます。ゲヘナとトリニティの中心メンバーが出席する中立的な組織、『エデン条約機構』、『ETO』を作り紛争の防止───」
『いい。そこまで話さなくて結構だ。』
「そうですか?」
『そうだ。貴様は私に何をして欲しいのかだけ話せば良い。』
「…そうですね。では、単刀直入に言いましょう。貴方には私の護衛。そしてエデン条約を阻止しようとする不穏分子、裏切り者、または第三者の排除をお願いしたいのです。」
『なるほど…』
不穏分子の処分か。…しかし、第三者はともかく裏切り者、ねぇ?
『…不穏分子、というのであれば私に頼むのは間違いではないか?』
「間違い、ですか?」
『ああ、貴様も私が“何者か”なんてことには気づいているだろう?金さえ払えば何でもする掃除屋…信用とは程遠い存在だ。』
「確かにそうですね。……ですが、ゲヘナとトリニティの仲を取り持つエデン条約は貴方にとっても有益なものであるはずですよね?便利屋68のエンジニアさん?」
『…そこまで知っていたか。』
情報操作は行ったはずだが…まあ、掃除屋が便利屋68に敗北したタイミングで丁度そこに新しい社員、それもロボットの姿が加わったとなればわかりきった答えか。
…まあ、依頼を受けるのは別にいいだろう。トリニティとゲヘナの確執が少なくなるに越したことはない。私と便利屋68の件もあるし、それにあの先輩のようなことも少なくなるだろうからな。
『はぁ……いいだろう。何もかも貴様の手の上で転がされているようで不快だが…受け入れよう。』
「ありがとうございます。」
『…なら、貴様は対価に何を払う?掃除屋の依頼料は高いぞ。』
「それは貴方の留年を免除したことで帳消しでは?」
『…チッ、いいだろう。』
…くそ、最悪だ。これだから陽キャは嫌いなんだ。コミュ力強者に私が勝てるわけないだろいい加減にしろ。
「…はぁ…裏切り者には、予想、ついてる、の…?」
「あ、喋るんですか?」
「…慣れた……というか、慣れなきゃ…どうせ、護衛として、話すことになる…それで?予想、は…?」
「はい。4人ほどにまで。」
「うわ…優秀……本当、苦手なタイプ…」
「私は嫌いじゃありませんよ?小動物みたいで。」
「うわ……」
人を小動物呼ばわりするなよ…ったく、しかし数千人ものトリニティ生の中から数人にまで絞るのは本当に人外染みているな。
…逆に言えばその4人が特別怪しいのか、何らかの情報操作を受けているのか、はたまた…
いや、そもそもトリニティには不穏分子という言葉が似合う者が多すぎる。
パテル、フィリウス、サンクトゥスの3派閥に分かれているのはもちろんのこと、彼女の所属するティーパーティ以外にも正義実現委員会や救護騎士団、シスターフッドなど、組織的にも多く存在する。それら全てがエデン条約、ゲヘナとトリニティの和平を望んでいるとは思えない。
それほどまでにゲヘナとトリニティの亀裂は大きい。
「…とにかく、絞れてるなら、なぜ、処分しない…?」
「それはあくまで最終手段です。それに今は彼女たちを補習授業部という名でまとめ、シャーレの先生に任せていますから。」
「……そう、流石に、無罪の人まで、まとめて処分なんて…人の心がないことは、しない…か……ん?先生……?」
「はい。…どうしました?顔が赤いですけど…」
「い、いや…何でも、ない……」
…先生がいるということは、あまり過激な手段は取れないか。
『確認だが、私がずっと学園にいなければならないというわけではないのだろう?』
「あ、戻るんですね。はいそうです。ただエデン条約前の1週間は護衛としてそばにいて欲しいですけど。」
『それは、私が変な動きをしないか監視するためか?』
「……」
『…まあいい。なら一度帰らせてもらう。社長にも報告しなければならないからな。それと、エデン条約1週間前までの護衛はこの機体のみにさせてもらう。私がいても戦力にはなれないからな。』
「わかりました。」
『ああ、それと…その補習授業部とやらの4人に会わせて貰ってもいいか?裏切り者候補を直接確認しておきたい。』
「…構いませんよ。」
『では、失礼する。』
私はそう言って、もう一度ボストンバックに引き篭もり、掃除屋に運ばせドアを開ける。もう用は済んだからな。こんなところいられるか。さっさと家に帰らせてもらう。
その時だった。
「きゃ!?」
何かがぶつかったような衝撃が機体を通じて伝わってきた。
「あれ?コモリちゃん?」
画面越し…ではなく、少し閉め忘れたファスナーの隙間から目のあった光の無い黄色い瞳に、なぜか背筋が凍ったような感覚を味わうことになったのだった。
「ひぇ…」
少し涙が出た。
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