やあ諸君。助けてくれ。
私は今すぐにでも叫びたい気分なんだ。
──どうしてこうなった、と。
「逃すな!追え!」
「相手は掃除屋だ!油断するなよ!」
一発一発が致命傷になり得る銃弾の嵐が私の背後から前方へと抜けていく。軋むフレームに少し掠ったのか映像の乱れるサイドカメラ。防弾コートの中に仕舞い込んだ成人男性が息を呑む音が聞こえた。
「コモリ!また来るよ!」
『大丈夫、わかってる。』
私たちはただ試験を受けたかった。
ただそれだけなのに。
どうしてこうなった。
ああ、そうだ。始まりは実に単純なきっかけだった。
桐藤ナギサの策略によりゲヘナ自治区で試験を受けることになった補習授業部の面々は、私と先生を連れて目的の試験会場に行くためにトリニティ領を抜け、ゲヘナの管理する地域へと足を踏み入れた。
そんな私たちを出迎えたのは威勢だけはいい不良たち。ゲヘナとは犬猿の仲であり、さらにお嬢様学校の生徒ということもあって捕えれば身代金をふんだくれると踏んだ彼女たちは私たちに襲いかかった。
そんなまともな連携も取れずどう私に勝つつもりだったのか、などは置いておいても、身代金を取った後どうしてトリニティに目をつけられる危険性がわからないのか、トリニティの武装集団、正義実現委員会の実力を舐めているのかなどと色々問いただしたいことはあるが、結論だけ言えば難なく制圧することができた。先生の指揮と私の戦闘力が合わされば向かう所敵なしというわけだ。
さてさて、そんな私たちはその後も順調に敵を蹴散らし続け、やっとこさゲヘナ自治区の都心部とも言える地域の入り口へと到達した。
さあここまで来たらあとは安心だ。ゲヘナといえど、こんな都心部で大体的にことを起こすような馬鹿はいないはず。
しかし、そんな虚しい願いは思わぬ出会いによって打ち消されることとなった。
『止まれ!』
ゲヘナの風紀委員。いわゆる治安維持組織であり、私ができれば二度と戦いたくない人物ランキングのトップに位置する人間をリーダーに置いた組織。
その下っ端と思われる生徒たちが私たちの歩みを止めたのだ。
彼女たちの行動は、実は正しい。エデン条約というゲヘナトリニティ間の平和条約が存在するとはいえそれはまだ実現されていないもの。実現されるまではゲヘナとトリニティは相変わらす犬猿の仲のままであるし、むしろその条約締結を阻止しようとする愚か者がいると想像するのが容易いほどに2校の溝は深い。故にエデン条約締結前という重要局面において、ナギサ同様に、不穏分子の排除は彼女たちの役目でもあるのだ。
だが私たちはそんな怪しい人間ではないし、その事実はトリニティ上層部に連絡を取れば証明できる。流石のナギサでもここで知らんぷりはしないだろう。そう高を括り安心していたその時であった。
『っ!そこのお前!正義実現委員会じゃないか!?』
『えぇ!?』
『ほ、本当だ!襲撃!正義実現委員会が襲撃しにきたぞ!』
『上層部に報告!正義実現委員会がついに来た!』
そう言って風紀委員の子たちが指を差すのはコハルの制服。みなさんご存知の通り、正義実現委員会のゲヘナ嫌いは有名な話だ。私の知る限りこれまで何度か小競り合いがあったようで、そんな制服を着た人物がこんな真夜中にやってきたら…まああとはご察しの通りだ。
『っ!あ、あれは!』
『あの黒コート…間違いない!掃除屋もいるぞ!』
『奴ら掃除屋を雇っている!』
『副委員長に連絡を!』
『え?』
そしてなぜか私の身バレもした。
いやー、確かにこの黒コートは掃除屋の象徴的なものだったけれど、中の機体は別物だし、こんな黒コートそこらへんに売ってると思うんだがなぁ………何?なぜ風紀委員にそこまで警戒されているのか?だと?いやぁ、それは、昔とある依頼でな。普段の風紀委員長の姿を盗撮しろとかいうふざけた物があって、金払いが良かったから受けたら、うん。まあ、当然ばれて、この有様だ。
ここまで警戒されるようなことをした覚えはないのだがなぁ…
ああ、そうそう。過去回想はここで終わりじゃない。むしろここから酷くなる。
『のあぁぁ!?』
『こ、こいつら、やはり…』
『アズサちゃーーーん!?』
『…いや、まだ手は出していない。私以外の誰かだ。』
誤解も解けず、どうしようもない状況にアズサが銃を構えたその瞬間。前方を封鎖していた風紀委員たちが爆発に巻き込まれ吹き飛んだ。
その下手人はアズサではなく、どこからともなく現れたゲヘナの問題児『美食研究会』のメンバー……と何やら縛られているどこかの誰かさん。どうやら彼女達と先生達は、私が引きこもっている間にこっそり学校を抜け出しちょっとした冒険をしている時に何やらあったらしく、あの時のお返しだのどうのこうの言って私たちを試験会場まで送ってくれることに。
ゲヘナの美食研究会。実力はゲヘナ最強の便利屋68に敵わないまでも、悪名だけでいったらトップレベル。どうやらそこに寝そべっている風紀委員達がわざわざこんなところまで警備に来ていた理由でもあるらしい温泉を求めてそこら中でテロ行為を起こす温泉開発部と同レベルの危険集団だ。
そんな危険人物が護送してくれると言うのはなかなか頼もしいものだが当然それに付随する問題もあるわけで………ん?自分のことを棚に上げるな?いいんだよ私は。廃業したんだから。
まあとにかく、そんな危険人物達と行動してたら私たちも同じテロ集団の一部と思われたらしく、風紀委員、そしてなぜか温泉開発部にさえも追われることとなった。
『う、うわああああ!?』
次々と襲いかかってくる銃弾の雨嵐に、まるでハリウッド映画かのように爆発する道路。縦横無尽に逃げ回る私たちだったが、どうやら運が悪かったらしく、感知した熱反応は足元で、気づいた時にはもう遅いほどにセンサーは危険信号を発していて。
『っ!先生!捕まって!』
『ちょっ!?』
私と先生は乗っていたバイクごと吹き飛ばされた。
どかーん、とね。
咄嗟に空中に投げ出された先生を抱き抱え、ワイヤーを使ってなんとか着地。現場を把握することができた時には走っていた道路からは落とされ、既にみんなは遥か遠くに走り去っており、そして背後には彼女達ではなく、なぜか私を優先したのか、追ってきた風紀委員の生徒達。
そんなこんなで、今の現状になったわけ。わかる?
「おお!すごい。空を飛ぶなんて初めてだ!」
『先生、危ないから!すこし!落ち着いて!』
「逃げるぞ!」
「先生を解放しろ!」
カタンッ!
荒っぽく操作用のキーボードを叩きつけ、空いている片手でエナドリを一気に飲み干した。
正直言って、かなりまずい状況だ。みりゃわかる?そりゃそうだろうよ。
先生という護衛対象を抱えた上で、大勢の生徒相手に正面から大立ち回り。
明らかに私の、不意打ち暗殺速戦即決な闘い方とはかけ離れた戦況。
安価で買い替えの効くこちらの安物の銃と、あちらの武器の性能差。
そして何より、普段使っている“掃除屋”ではなく別の機体で、しかも装甲は最低限、フレームは一部整備不足、そもそもの機体調整が私本来の闘い方にあったものではないなど……なんというか私が予想した最悪の事態を悉く引き当てたような状況だ。
『先生!顔を隠して。』
「わかった!」
どこかの誰かの会社であろうビルの窓をぶち破り、中に転がり込んだ。そして素早く身を隠し、息を潜めながら移動する。
後ろから続く足音に、そして話し声。どうやら風紀委員たちもそのまま追ってきたようだ。
……いやぁ、うん。分が悪い。ここにくるまで何人か撃ち落としてきたが、それでもまだ多い。屋外よりは有利に立ち回れると踏んで飛び込んだこのビルも、私が内部構造を熟知しているわけでもなく、うまく使えそうにない。どちらかというと風紀委員の子たちの方が構造は知ってそうだ。
「……コモリ、ここはやっぱり私が直接説得した方が…」
『いや、それだと時間がかかる可能性がある。試験まであと少ししかない。強行突破が一番だ。』
「絶対に逃すなよ!今日こそは絶対に捕まえてやる!」
「イオリだ……ねえ、コモリ何かしたの?すごい敵対視されてるみたいだけど。」
『した…と、いうか、先に悪意を向けてきたのは奴らの方だ。』
これは便利屋68にも、先生にも会う前の出来事になるのだが、昔ゲヘナ風紀委員所属の天雨アコという、なんかこう、横乳のすごい人から依頼を受けたことがあった。
内容自体は単純なのだが、その他の契約から私をなんとか風紀委員の子飼いにしたいという考えが見え透いててな。
ん?断ったのか?いや受けたさ。報酬は良かったからな。契約の一部は変更したがちゃんと受けて、ちゃんと達成した。
……そして、まあご覧の通りに。
「その間に何があったの!?」
まあ待て。先生の言いたいこともわかる。私を取り込みたい風紀委員と、普通に依頼をこなしただけの自分。何をどうしたらここまで関係が悪化するのか……
そのすべての原因は横乳にあった。
「アコちゃんね。」
『だってすごいもんあの格好。』
「わかるけどさ…」
策略に富んでいることで有名な横…天雨アコは、私が依頼をこなしている間にも様々な妨害を仕掛けてきた。おそらく失敗したことを脅しの材料として取り込もうとしたんだろうね。その頃の私は達成率100%なんて看板にこだわってたから。確かにそれは有効な手段だったんだ。彼女以外にも、カイザーPMCやらそういう私を私兵として使いたい奴らがやってきたことのある手段でもあったのだから。
だが、彼女は一つミスをした…そう、とても重大な。
『彼女は仕事に私欲を混ぜてしまったのだ。』
「へぇ?」
まず、私が受けた依頼は二つあった。
一つ。万魔殿への襲撃こと嫌がらせ。これは別に良かった。ゲヘナの生徒会に等しい組織であるそこに襲撃を掛けたとなれば相応の罪を背負うことになる……はずだ。流石のゲヘナでも生徒会への襲撃は罪重いよな…?まあ依頼はバレることなく完璧に、万魔殿に特性催涙ガス弾を打ち込むことで達成したし、弱みになりそうな契約書などはうまいこと処分した。
まあ、いい。そして問題の二つ目。
それは──────
『【風紀委員長、空崎ヒナの激カワ盗撮写真を撮ってこい。】』
「…………………なんて?」
もう一度言おう。
『空崎ヒナの激カワ盗撮写真を撮ってこい。』
それが天雨アコから出されたもう一つの依頼であった。
ふざけている?ああ、私もそう思ったさ。だがああも真面目な顔で頼まれたらやらないわけにはいくまいて。
『まあ、そんなわけで私は風紀委員長の激カワ写真……基準がよくわからなかったので個人的にいいと思った瞬間を激写することに成功。だが私としたことがシャッター音でバレてしまってな。おそらくスパイ容疑とかそこら辺の容疑で追われているというわけだ。』
「わーお……」
『あと天雨アコには【掃除屋より天雨アコ様へ】ってデカデカと書いた封筒に例の写真を入れて“風紀委員宛に”送りつけたり、あの銀髪ツインテは逃げるたびに何度もボコボコにしたからな。その私怨もあるんだろうな。』
「うわぁ…」
引かないで欲しい先生。これに関しては私のせいというより、そんなバカなことで私を罠にかけようとした天雨アコが悪いだろう。
『…あ』
「あ!は、発見しました!!!きゃ!?」
そんなことを喋りながら走っていたら、風紀委員の生徒Aちゃんと遭遇。即座に銃底で気絶させるが彼女の報告は即座に他の生徒たちにも伝わってしまったようで、幾つもの足音が近づいてくる。あーめんどくさい。
だが、うん。だいたいわかった。
『先生…少し、無茶をさせていただく。』
「え?」
さ、速戦即決で行こう。
「っ!掃除屋!いい加減逃げるのはやめて投降しろ!」
『おいおいおい。何度言ったらわかるんだ?俺ァ掃除屋じゃねぇ…散し屋だってのによぉ…あぁ?』
暗く電気の落ちた廊下の扉が勢いよく開け放たれ、風紀委員たちは扉の先に銃口を突きつける。それに相対するは、暗闇に一つの赤い光を浮かべ、先ほどまで彼の身を包んでいた黒コートで縛り上げた
「ふざけるな。お前の中身が掃除屋だってことはもうわかってるんだ。」
『……なんだ。早く言ってくれればいいのに。こいつの口調に合わせるのもめんどくさいんだ。どうしてわかった?』
「1週間前のヴァルキューレ襲撃及び散し屋の強奪事件。その手口、そして実行犯の姿形がお前に酷似していた。」
『あー…あの時の…見られていたのか…だが、まあいいか。別にそこまで困ることでもない。』
「っ!動くな!!」
そう言いながら散し屋こと“掃除屋”は足元の黒い塊に手をかける。それに対してイオリは制止をかけるが、彼はそのままソレを拾い上げ…
『動くな…それはこちらのセリフだ。これが、なんだかわかるだろう?』
黒い掃除屋のコートに包まれた塊。ちょうど大人の大きさ程のそれはダランと彼の腕に持ち上げられてぴくりとも動かない。
「先生!貴様!先生を離せ!」
『いいだろう。』
「え?」
掃除屋の腕が素早く動き、その黒い塊が宙を舞った。
『そんなにほしいならくれてやる。』
「わっ、とと!?」
それを風紀委員の一人が受け止め、そして─────小さな一定間隔の電子音が聞こえ、ズレたコートの隙間からは点滅する赤い光が覗いていた。
「先s─────不味い!離れろ!」
瞬間、光と熱風が辺りを覆った。
く、くはははは!!!!
そうさ、時限爆弾だ!先生に偽造した布の塊にただ爆薬をくくりつけただけの単純な構造。だがうまいこと引っかかってくれて助かった!あいつらが単純なバカで助かった!
先生は結構な人たらしだ。私の前世の記憶───そんな設定あったな、だと?…まあ仕方ないな。うん。あんま役に立ってないからな。───では先生はこの世界の主人公。モテるのは必然。そして恋は盲目だ。どんな怪しい状況でもそれは一瞬の隙を生み出してしまう。
そう!つまり計画通りというわけ────
『っ!?』
一発の銃弾が、煙幕を貫き頭部の装甲をえぐった。
「ゲヘナ風紀委員会のスナイパーを、舐めるな!」
『冗談きついぞ…!』
なんつー化け物だ!なんで効いてねえんだよ!
銀髪ツインテール、銀鏡イオリはまるで爆発が効いていない様子で煙幕をかき分けこちらに走ってきた。
ふざけんな!まーじで同じ人間か?その神秘を私にも分けてくれ!ほら見ろ周りを!お前の部下は全員今ので倒れてるぞ!?威力は作成可能な、死なない程度にまで高めに高めた最大値。
な・の・に!なんで!気絶しないんだよ!!!
『くそっ!』
「逃げても無駄だ!」
そのまま私は走り、窓を破って宙に身を投げ出した。もちろん、化け物神秘を持つ彼女が高所からの落下を怖がるはずもなく、確実に私を捕らえるために追ってくる。
場所は空中。下には街を流れる河川。
そう───“ここまでが”計画通りだ。
「流石の貴様でも空中では避けれないだろ!」
『それは───』
放たれた銃弾はそのまま真っ直ぐと私の頭部目指して飛来し、そしてソレは前方に突き出した私の左腕を貫きながらも弾道を逸らして後方に突き抜けていった。つまり──彼女は千載一遇の大チャンスを逃したというわけだ。
『空中では避けられないのは───
そして彼女は見たはずだ。私の右手に持ったマークスマンライフルを。そして察するはずだ。
『君もだろう?』
チェックメイトだということに。
「お疲れ───大丈夫!?」
『…パシフィック・むり…あかん、立ち上がれへん。膝ガクガクや。』
その後水浸しの状態で先生に合流。銀鏡イオリはあの後見事額に命中させられた銃弾で混乱した彼女は体勢を立て直せないまま着水。いくら化け物キヴォトス人だろうが構造は私の知る“人間”と同じ。不安定な体勢で、不意に水に落ちた場合人間は意識を失う。
だが私の機体は所詮機械。そのようなデメリットがあるはずも無く、こうして安全に気を失ったイオリを縄でぐるぐる巻きにする事ができたというわけだ。
しかしこちらも無傷というわけにはいかなかった。むしろ限界だ。フレームの歪みも酷いし、左腕なんか吹き飛んでどこかに行ってしまった。あああ…どうしよう…報酬もなく安請け合いした依頼でこんな損害を……経費で…いや、うちに経費なんてものそもそもなかったな。しばらくの間私の食事の一部がもやしに変わりそうだ。
その後は歩くのもままならず、先生の肩をかりながらなんとか試験会場に辿り着いた。運良く特にこれといった障害に出会うこともなくたどり着く事ができた。
「あ!先生とコモリ…何があったの!?」
他のメンバー達も無事だったようだ。一部ガスマスクだったり水着姿だったりするが、無事の範疇には入るだろう。多分。
その後、私たちはアズサが見つけたナギサからの伝言を聞き、試験を受けるために中へ入る。
「は、はい!みなさん入りましょう!いよいよ第二次特別学力試験です!」
さあ、後は野となれ山となれ。私のできることは終わった。あとは彼女達を信じるのみ。
「ふーぅ……さーて、あとは、彼女達を信じて、私は…今回の被害総額を……うぅ……頭が────
『開発だぁーーーー!!!』
ひぅ!?」
突如スピーカーから流れた掛け声と轟音。そして光。
第二次特別学力試験は、どこからともなく現れた温泉開発部の爆破によって回答用紙が紛失。不合格となった。
そして、散し屋もまた、鉄屑と化した。
キャラ崩壊?投稿しただけでも褒めてください。
マジで(作者のテストまであと一週間以内)
Q.コモリちゃんは先生が弱弱だったら襲う?
A.推し(アル)の恋路を邪魔しろと?
ちなみにアルと先生に光堕ちさせられなかった場合は先生を狙う(色んな意味で)人たちからの依頼で襲撃しにくる。
投稿時間について
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9:00
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0:00
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その他(コメント欄にお願いします)