助けてコモリちゃん!!!!理系なのに国語ができて数学ができないよ!!!
窓からは明るい光が差し込み、元気な学生たちは友達と話しながら通学路を歩く。今日もまた、キヴォトスのありふれた日常の、青春の一幕が始まろうとしていた。
「ああ…!この…!モンスター、が…ハメ技…使うな…!ん!『愛無』さん閃光弾、ナイス…!よし…!今度はこっちがハメ……ああ!?『焔』さんが乙った…!この、人でなし…!」
…そんな明るい世界とは対照的に、私は今日も薄暗い部屋の中でゲーム機のボタンとスティックを手でこねくり回していた。
やあみんな!私だ!
私は今日も今日とて自分なりの青春を謳歌するのだ!なにが恋愛だ!何が学業だ!そんなもの!私の青春辞典には一言も載ってないね!あるのはただ一言ゲームのみ!!!!
私は今日も今日とて先生から提供されたこの超無敵要塞ヒキ=コモリinシャーレにて籠城作戦を実行するのだ。
「コモリさんはいますか?」
「ピャ」
私の儚き理想は、瞬時に砕け散ったのだった。
「だ、だだだだ誰でドゥワァァ!?!?!?」
「騒がしいですね…」
先生のものでは無い、聞き覚えのない声に吃りながら振り返った私だが、目に入ったその姿に驚き、盛大に座っていたゲーミングチェアから転げ落ちてしまう。
騒がしいとか言っていらっしゃるが、私の反応も無理はないのではないだろうか。
ピンとたったケモ耳に、多分綺麗であろうその顔を隠す不気味な狐面。そして特徴的な和服に、その手に持った物騒な銃剣のつけられた小銃。
私のデータベースによれば完璧に一致する人物が一人いる。
『狐坂ワカモ』
キヴォトスを騒がせる“七囚人”が一人。
災厄の狐の名で呼ばれる危険人物その人なのだから。
「いつまで寝ているつもりですか?さっさと立ってください。」
「ひぇ……私、食べても、美味しくない…」
「食べませんよ…」
と言うかなんでそんな危険人物がここにいるんだ!?シャーレだぞ?先生が住む、連邦生徒会が所有する建物。彼女のような犯罪者が跋扈する裏路地じゃないんだぞ!?しかもこの部屋は先生の部屋の真横な影響か、警備も厳重なんだ。さらにはこの部屋に来るには必ず先生の前を通ることになるわけで、気安く来れるところでは…
……ああ、くそ。嫌な予感がよぎった。
「っ……」
エナドリの空き缶の山の中に隠してあった拳銃を手に取る。
…くそ、本当に、クソが。震えるな私の足。涙を止めろ。今はビビっている場合じゃないだろう?大体、七囚人がなんだって言うんだ?私は掃除屋だぞ?奴らと違って、連邦生徒会や様々な組織から目をつけられながらも捕まることなく、先生たちに出会うまでその地位を保ち続けた最強の傭兵だ。ヴァルキューレだかSRTだか知らないが、捕まって矯正局送りにされたヤツなんて、私にとって雑魚に等しい。
「ぁ…ああああああ!」
「なんの…」
─────私は、掃除屋だ!!!
「コモリちゃん大丈夫?ほら、ワカモも驚かせちゃダメでしょ?」
「あ、先生。」
「────…へ?」
振り絞った私の勇気は、呑気に扉の横からひょこっと顔を出した先生によって融解した。
「せ…せんせ……?無事、なの…?」
「?そりゃ、無事だけど…どうしたの?」
「………ブワッ」
「コモリちゃん!?」
「うゎ、ゴキブリみたいですね…」
安心感からか涙がさながらナイアガラの滝のように噴き出したが、安心するにはまだ早い。私は手に持った拳銃すら投げ出し、空き缶やらなんやらが散らかった床を自前の器用さと素早さで高速移動し、見つけ出した安全地帯へと駆け出した。
「ヒシッ」
「こ、コモリちゃん…?」
それすなわち、先生の後ろである。
より詳しく言えば先生のおっきな背中である。
「先生…!これは…!一体どう言うことか…強く、説明願う…!」
「逆に私が聞きたいんだけど。」
くっ…!先生はこの危機的状況がまだわからないのか!?
「ん!」
「…?ワカモを指差してどうしたの?」
「私の、
「誰がモンスターですか。」
「ワカモはいい子だよ?」
「はい先生!」
嘘だ!!!
…と、言いたいところだが、私はそこいらの馬鹿どもとは違って状況把握能力が高いんだ。故に現実を精査し情報から素早く真実を突き止めることができる。
そう。これまでの情報から、目の前の危険人物。狐坂ワカモは……
……先生ガチ恋勢の一人であると判明した!!!
「…なんですかその目は。」
いやぁ、さすが先生だ。悪名高き七囚人の一人をすでにその手中に納めていたとは。まったく末恐ろしいな。断片的に残っている前世の記憶がブルーアーカイブは青春モノのゲームだ、透き通った世界なんだとかほざいているが、実際はハーレムイチャイチャものなんじゃないか?ほら、先生×生徒な禁断の愛系のゲームなんじゃないか?
…いやないな。そんな世界感ならこんな殺伐としてるわけないだろいい加減にしろ。
閑話休題
ひとまず、私の中での狐坂ワカモへの危険度は一気に下がった。主人公という概念を保有する彼の味方であるならば、必然的に私の敵対者ではないのだから。……ああ、いや、相手がヴァルキューレとかだったらちょっと不味いかもだけども。
「…ひとまず、貴方が、悪い人ではないのは、わかった…」
「はぁ…?そうですか。」
「…その上で、聞きたい。私に、何の用?」
「ああ、そうでしたね。」
ここで私はようやく本題を切り出した。
そうなのだ。彼女は最初、確かに『コモリさんはいますか?』と私に対して用があるような声の掛け方をしてきていた。つまり私に何か頼み事などがあると言うことだが……一体なんだろう。
私に頼み事だなんて。一緒に先生の仕事の手伝いをしていて、私の優秀さを知っているユウカや先生ならわかるが、今日初対面な彼女が、一見ダメ人間な私に手伝いを要求するとは思えない。
となると他は“掃除屋”としての私への頼み事だが、それこそないだろう。まずそんなこと先生が許さない。
そうなると、いったい…
「…最近先生の周りを飛び回っている羽虫が居ると聞いたのですが…貴方が、ソレで間違いなさそうですわね。」
終わったわ。
「ままま、待って、欲しい…!貴方は…何か勘違いをしている…!」
「勘違い?“その状況”で何が勘違いなのですか?」
「?………は!先生、くっつく、な!変態!」
「理不尽!!」
まずい、不味いまずいまずい。先生ガチ恋勢に対して、確かに私の行動はあまりにも悪手すぎた。普段の癖でついついやってしまったが、よくよく考えてみたら私の今の状況は先生ガチ恋勢憤死ものだ。
先生に助けてもらって?先生の部屋の真横に住ませてもらって?衣食住を同じ屋根の下でして?なんか知らないけど人気な先生の当番とか言う物とほぼ同じことを毎日している。
…うん。確かにこれは嫉妬物だな。同棲みたいなもんじゃんね。これ。
終わったわこれ…
「……」
───じゃねーんだわ!そうだね!諦めちゃだめだ!まだ時間はある!今はちょうど目の前のワカモさんの堪忍袋の尾が切れかけて銃のリロードをして引き金に指をかけただけだから。まだ構えてないから。あと数秒くらいはある。
考えろ。考えるんだ私。どうにか彼女の怒りの矛先から逃れ────
───…まてよ?
そもそもの話、なぜ彼女は怒っているのだろうか。
それは私と先生との距離が近くて、所謂“イチャイチャ”状態に見えたからだろう。そのため、彼女は私に嫉妬し、殺意を抱いた。
だが、これだけではないだろう。嫉妬だけで殺しが発生するなら私はとうの昔に他のガチ恋勢に殺されている。ユウカとか。
では、他の要因はと、言うと……そうだな。危機感、と言ったところだろう。
先生を取られてしまう。大切な先生が赤の他人のものになってしまう。ソレはダメだ。そんなことになる前に障害は排除しなくては。
……実に単純な思考回路だな。
となれば、話は早い。
「狐坂ワカモ…貴方は……ど直球に言うと、私が貴方の恋敵になることを危険視している……違う?」
「なぁっ!?」
はいビンゴ。私の口角が自然と上がった。
「…なら、もーまんたい。私は、貴方の恋路の障害にはならない。」
「……はぁ?」
「見て…これを…!」
私は先ほど何者かによる打撃によって脇腹を抑えて悶絶する先生の肩に乗っかる。したから『う゛っ』と言う声が聞こえたが大丈夫。
「それがなにか?」
「わからない…?先生に、肩車してもらう私……先生に、養ってもらう私……先生の、お手伝いをする私……これが…何を意味するのか…!」
「……?」
そう、まさに────
「私は、彼女枠じゃない…子供枠、だ……っ!」
それも学校にすらいかず引きこもり続ける17歳女子と言う肩書もついてくるぞ。
「…確かに、それもそうですわね。」
「でしょ…!」
ちょっろ。
………少し、悪戯心が芽生えた。
「私、先生の子供…そして、貴方たちは、先生の彼女に…更に言えば妻になりたい…と、いうことは…どういうことか、わかる?」
「つ、つつ妻!?いや、その………どういうことですか?」
「つ、ま、り……子供である、私が認めた相手こそ、先生の隣に立つ資格があるということ────!!」
「そんな、馬鹿なことが……いや、一理ありますわね…」
え、自分で言っておいてなんだけどあるんだ、一理。
「……では、どうすれば貴方に認めてもらえるんでしょう…」
「ふむ…確かに、それは、言語化するには難しい……だから、例えを上げようと、思う。今、私の中で先生の彼女枠に最も近いと感じる生徒たちの」
「……それは、誰なのですか?」
……そうだなぁ。先生大しゅき勢が溢れるこの広きキヴォトスと言えども、そのような地位にふさわしい人間は数えるほどしかいないだろう。
「…そう、だね。まずは……“空崎ヒナ”。ゲヘナの風紀委員長。あの無法地帯の治安を形作る彼女は、戦闘センスは言わずもがな……書類仕事も、先生並み……だが、隣に立つ、というには少し彼女本人に問題があるように感じる……彼女は、先生に、癒しを求めているから……今のままだと、生徒と先生という関係以上になることは、難しい、かも…」
「なるほど…」
「…次に、“砂狼シロコ”……アビドスの子だね……この子は、会ってみて、ママ味はそこまで感じなかった……でも、危険視するべきはその積極性……あれは獣。飢えた獣だ。油断していたら、いつの間にか食われてました、なんてことになりかねない……」
「…っ!」
「他にも“伊落マリー”……シスターフッドの、ロリ体型のくせにバブ味溢れるシスター……一言で言って仕舞えば、“優しさの塊”だ。うん……聖女というのは、ああいうものを、さすのだろう……だが、少々、眩しすぎる……あの優しさが、引き篭もりの私には大ダメージ……だから…うん…申し訳ないけど、違う……」
「それは貴方の問題では…?」
「ん゛ん゛!……最後は、“早瀬ユウカ”。私の記憶する中で、先生と最も接する時間が長く、しっかりとした性格から、どこか抜けている先生へのフォローもバッチリ……この私でさえ、ママと言い間違えたほど……」
「それは……強敵ですね」
「でも………そう、だね……うん。今までで挙げた4人以外にも、候補は、いる……でも、どこか、コレジャナイ感がする…あの早瀬ユウカでさえも……」
「それは一体…?」
メモ帳片手に首を傾ける彼女の問いに、『なんか私が悶絶してる間に変なこと話してる…』と呟いている先生を放置し、私もまた思考を巡らせる。確かに先生はアル様に並ぶ尊敬すべき御人で“最推し”だ。推しのCPは納得いくものが出るまではなかなか型にハマらず違和感を感じるものであるが、それにしたって変だ。さっきも言ったが、早瀬ユウカはまごうことなき私のママになってくれる存在だ。だが、どうも違和感を感じる。コレジャナイ感が拭えないのだ。
私の心がこのCPを反対している……?まさか、これ以上のCPがあるとでもいうのかMy Mind…!
「先生!」
その時だった。私の部屋の向こう……先生の執務室のドアが勢いよく開かれた。そして、その向こうに立っていたのはピンク色の髪にアウトローな制服の着こなしにアウトローなコートを羽織った……私が見間違えるはずもない御人の姿。
「たまたま仕事がなかったからコモリへの挨拶も兼ねて手伝いに来たわよ!!」
陸八魔アル様の御姿であった。
そして───欠けていたピースがピッタリとはまった。
「…アル様は、私のママに、先生の妻に相応しいお方だ……!」
「久しぶりーコモr……!?!?コモリ!?いきなり何を言ってるの!?」
顔を真っ赤にしながら否定するアル様。しかし私の言葉を皮切りに妄想が溢れ出したのか、次第に思考の海に沈んでいき、『ダメよ!』となぜかさらに顔を赤くして正気にお戻りになられる。
やっぱそうだ!そうに違いない!アル様こそママに相応し──
「……許しませんわ。」
「ひぇ!?」
「わっ」
前方から感じ取った殺気に、瞬時に先生の背後にしがみついて防御体制へと移行する。
「よくも…よくもこの私をコケにしてくださいましたね…!」
「あわ、あわわわわ…」
「わぁ…すごい怒ってる…コモリ、これは先生も庇えな───めっちゃ震えてる!?」
「…な、なんか大変なことになってるわね。」
しくじったか…!?くそ、調子に乗りすぎた。どうしよう。助けて先生!!
「絶対に許しませんわよ……」
「陸八魔アル!」
……
「………へ?」
外から鳴り響く銃声に破壊音。それに混じって響く悲鳴と、謎のメロディー。
……うん。
今日もキヴォトスは平和です!!!
正直最後がやりたかっただけです。先生が止めたのでアル様は無事です。あとコモリはしばらくちゃんと椅子に座れなくなりました。その日は先生の部屋から気持ちのいいスパーンという音が響いたとか。
後、ネタが浮かんできたのでそろそろこんな小話集ではなく1章みたいにちゃんと真面目に書くかもです。
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