引き篭もりアーカイブ   作:有機栽培茶

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連続テスト地獄が終わったのでアホモリちゃんモードから掃除屋コモリちゃんモード突入です。



ゲマトリア

 

「…それで?話って、なに…?」

 

 

 日も落ち切って、光り輝くのは都会ではお目にかかれないような満点の星空と天井に上ったお月様のみ。ちょうど反対側にいるであろう見張り番のPMC兵一人を除いた皆が眠りにつき、辺りが静寂に包まれた頃、私はこのいかにも悪役な風体の男に呼び出されていた。

 

 遭難して命の危機にある中暗闇で二人きり。何も起こらないはずがなく……というのは冗談で。この黒服に限ってそのような邪な目的ではないだろう。だとしたら───

 

 

「以前、私が貴方と取引した際にいただいた“装置”のことを覚えていますか?」

 

 

 ───…やっぱり。

 

 “装置”。十中八九、私がまだ掃除屋をやっていた頃、彼の“神秘破壊爆弾”との交換材料として渡した擬似神秘再現装置……『ベネディクトゥスの光輪』のことだろう。

 

 そして、彼が言わんとしていることもわかる。

 

 

「……システムが正常に機能しない……もしくは、出来たものが、予想とは別物だった………違う?」

「…やはり知っていましたか。」

 

 

 そうだ。私が彼にあの時渡した『ベネディクトゥスの光輪』。アレでは掃除屋のように“ヘイロー”を生み出すことはできない。あくまで“擬似”である。生み出されるのは機械的な歯車の形状をした”ヘイロー擬き“。そのことを私は知っていた。

 

 

「私がソレを起動した際に生み出されたものは、本物のヘイローに比べて対物性能に関しても遥かに劣った代物……そして何より。ソレが内包するものは神秘とは似て非なるものでした。」

「…ふーん?」

「神秘に似た何か……知っていましたね?貴方はこうなることを。」

「……」

 

 

 そう言ってこちらを除いてくる黒服の感情の読み取れない顔を覗き返す。

 

 

「…それで?そう、だとしたら…?」

「別に責める気はありませんよ。」

「……へぇ?」

「私が求めたのは掃除屋に搭載された『ベネディクトゥスの光輪』の複製。そして貴方は正しく()()()()()()()した。違いますか?」

「……」

 

 

 …まさしくその通り。

 

 私はこの兵器を、『ベネディクトゥスの光輪』という“オーパーツ(時代錯誤遺物)”を再現した。完璧に。一ミリの間違いもなく。

 

 

 これは以前観測者諸君にも話した通り、私の異能ともチートとも取れる能力のおかげだ。

 

 限度はあるものの、材料と施設さえあれば自らの望むものを作成することが可能。ただしその作成方法は自分でも理解することができないため複製は不可能……と、いうよりも何かしらの制限がかかっているのだろう。

 

 以前私は前世で見たことのある電動マッサジャー…いわゆる電マを作ったことがある……もちろん本来の目的として使うためだぞ?

 まあ結果普通に出来上がったわけだ。だが…案の定2個目を作ることはできなかった。私が作った電マがそのチート能力を使わずともクラフトできるような簡単な代物であったとしてもだ。

 

 修理することはできても1からもう一つ作ることはできない。私の専門外だから詳しくはわからないが、神秘とやらに関係することなんだろう。もしくは神様とやらが私に課した枷なのか。確かにこの能力で核弾頭の量産なんてできてしまったら不味いからな。

 

 

「…そ。私は、一寸の違いもなく、掃除屋に搭載されているものと同じものを……」

「だとしたら、一つの仮説が立つのです。」

「…仮説…?」

 

 

 黒服は指を一本立て仮説を提示した。

 

 

「『ベネディクトゥスの光輪』は、神秘を文字通り()()するための装置なのではないか。」

「……ふーん…さすが、悪い大人。勘がいい…」

「ここまでのヒントをもらっていたら誰にでもわかることですよ。」

 

 

 黒服は語る。

 『ベネディクトゥスの光輪』という装置は神秘を1から生み出すための装置ではなく、既存の神秘を何らかの形で再現するためのものではないかと。

 

 

「そうなると、私が貴方から譲り受けたコレが正常に作動しないのも納得いきます。再現するためのサンプルがないのですから。」

「…せい、かーい…」

 

 

「…だとしたら、さらに疑問が浮かび上がってくるのです。」

 

 

 

 

 黒服は私の頭上……目には見えないもののちょうどヘイローが浮かんでいるであろう位置を指差して、こう言った。

 

 

 

 

 

 ──彼のヘイローは一体誰のものなのでしょうか?

 

 

 

 

 

 ……

 

 

 

「さあ?私も知らないよ。」

「……」

 

 

「知るわけないじゃん。確かに形状的には私のものに似ているけど、“私”のヘイローはしっかり着いたまま。“私”のものじゃない。」

「…そうですか。教えてはくれませんか。」

「だから、知らないんだよ。」

 

 

 

 しばらくの沈黙が場を支配する。

 

 

 

「…仕方ありませんね。ここは諦めましょう。」

「…あっそ。」

「無理強いをする気はありませんから。」

 

 

 黒服は自分に背を向けて船の残骸に帰ってゆく。

 

 

「…寝る、の?」

「ええ。もう遅いですからね。貴方も早く寝た方がいい。成長期に夜更かしは禁物です。」

「…悪い大人を、自称するような人が、それをいうんだ…」

「ええ。それに貴方が生徒だったことは予想外でしたが、今までの関係は変わりませんからね。何かあったら頼ってください。できる限り協力しますよ。」

「…関係?」

 

 

 

 

「はい。貴方は()()()から

 

 

 

 

 我々ゲマトリアの大切な同志なのですから。」

 

 

 

 

 

 

 

 ──────は?

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 ………は?

 

 

「コモリちゃんおはよ。」

「あ…おはよ。先生…」

 

 

 ………は?

 え、は?

 

 

「おはようございます新戸さん。隈がひどいですね?大丈夫ですか?」

 

 

 そりゃー眠れませんでしたからね。貴方のおかげでねぇ!

 

 本当に眠れなかった。マジで眠れなかった。どういうこと?まじで。どういうこと?

 

 観測者諸君。待ってくれ。勘違いしないで欲しい。確かに私は貴方たちに隠していることはあるにはある。だがそれは私が一人の人間である以上仕方のないことだろう?だからこれだけは信じて欲しい。

 

 私はゲマトリアなんかじゃない!!あんなろくでなしどもと一緒にしないで欲しい!

 

 確かに私は掃除屋越しにだが人を殺めたことがある。拷問だってしたし、自分に不都合だからなんて理由で手を出したこともある。自分より小さい子にもお金のために…………あれ?わ、私結構なろくでなしじゃ…

 

 

「あわ…あわわわ…」

「だ、大丈夫ですかコモリさん。」

「ひぐぅ!?こ、こ公安…逮捕しないでぇ!?」

「だからしませんって!」

 

 

 …すぅぅぅ……ふぅぅぅぅ……

 

 ああ、落ち着いた。大丈夫。落ち着いた。

 一旦整理しよう。数刻前、黒服はなんて言った?私に。

 『ゲマトリア』。思い返してみても確かに彼はそう言っていたはずだ。

 

 ゲマトリア。その言葉が示す意味は数値変換法の一つ。カバラなどの秘儀を知るための方法であり、22のヘブライ文字で書かれた旧約聖書の言葉を数値転換する技法………そして、同時のこの世界に存在するいわゆる悪の組織と呼ばれるような存在。崇高の追求者。先生大好きクラブ。…ん?なんか変な情報が入った気がする。

 

 まあとにかく悪い集団なのだ。そんなところに孤高な一匹狼であったはずの私が所属させられているのは大変不服であり、そして不可解だ。

 

 

「……」

 

 

 訝しげに目を向けた先の黒服が手を振ってきた。

 

 …彼はあの時こうも言っていた。『4年前』、と。

 4年前。詰まるところ私が中学3年生の頃であり、まだ“私”という自我が定着していなかった……そして何よりまだ最低限外に出ていて引きこもっていなかった頃の私である。

 

 その時の私がゲマトリアに入っていた?ありえない。前世の記憶が定着していなかった頃の私が所属していた、というのも無しだ。前世今世含めて私は集団行動が苦手であったし、記憶が定着するまではただの陰キャ女子であった私がそんな組織と連絡が取れるとも思えない。そんな記憶も遡ってみたところ見当たらない。

 

 

 それに、そもそもの話その頃の私はまだ─────

 

 

 

 

 ……いや、そうか?そういう。

 

 

 …いや、だが、しかし……

 

 

 

 

 

「コモリちゃん!ご飯だよー!」

「っ!ん、先生…今、いく。」

 

 

 …今考えても仕方のないことか。ひとまずはご飯を優先しよう。お腹の虫がさっさと食べ物をよこせと騒いでいる。

 

 私は頭に残る疑念を振り解いて食事の匂いのする方向へと向かった。

 

 

 

 

 …なあ、お前は一体何をしようとしていたんだ?

 

 

 

 

 

 

 

「ぶえっっくしょん!!!!」

 

 

 真っ白な雪が降り注ぐ雪原の中、あたりに響き渡るような大きな音が鳴り響く。その音の主は少し恥ずかしそうにあたりを見回したが、そこには彼女たち4人以外誰もいない。辺り一面が雪に包まれた銀世界がただ広がるだけであった。

 

 

「ほ、本当にこっちであってるのよね!?」

「…多分?コモリの残した情報はこの方角を指していたよ。」

「大丈夫〜?このまま私たちも迷って氷漬けになっちゃったりして〜」

「こここ、怖いこと言わないでよ!?」

 

 

 ザクリザクリとその背景とは対照的にカラフルな衣装に身を包んだ四人は歩みを進める。

 

 その時、彼女たちの耳に届く重低音な雄叫び。

 

 

「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!」

「ひぃぃ!?熊ぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 真っ白な毛並みのそれはいつの間にそこまで近づかれていたのか、彼女たちの前に身を乗り出すと体を大きく見せるように立ち上がり、大きく手を広げ威嚇する。

 

 だが、そんな雄叫びも次の瞬間には一発の銃声によってかき消されることになった。

 

 

「…あ、あああ、アル様の邪魔をする人は誰であろうと許しません!!」

 

 

 狂気じみた声と共に再三放たれる銃声。

 

 

「そうですよね!アル様!」

 

 

 すでに原型すらとどめていない哀れな被害者と、こちらを見上げて眩しいほどの笑顔を浮かべる彼女に対してリーダー格らしき少女は目を向け、少し青ざめて目をすぐに逸らした。

 だがしかし、彼女のその言葉に頷くと、覚悟をきめたようにこう言った。

 

 

「そうよ!私たちの邪魔をするものは誰であろうと容赦しない!奴らが一体どこの社員に手を出したのか目に物見せてあげましょう!!」

 

 

 4人の少女たちは道すらない白き大地を歩み続ける。全ては大切な社員を取り戻すため。便利屋68に手を出すことの恐ろしさを思い知らせるため。

 

 

 

 

 

 …彼女たちが金銭面での問題で、雪原を移動するためのソリやトラックが使えず徒歩になったという事実は、社長の名誉のために黙っておくとしよう。




コモリちゃんの隠し事でした。
一章で回収しきれなかった設定をこの章で回収するつもりです。本当は一章で終わってここまで書く予定なかったから以前書いたとある回で設定の欠片は出してたりする。ただ話としてまとめられるかどうか不安なのでさらにゆっくり投稿になるかもです。気長に見ていってくださいな。
あとこの小説は便利屋68を主体に書く予定だったんだから便利屋68が出ないわけないだろいい加減にしろ!…エデン条約編?小話編?……ちょっと何言ってるかわからないです。

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