引き篭もりアーカイブ   作:有機栽培茶

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これでも受験生なので更新は遅くなると言っておきます(保険)


炭鉱都市

 

 『夢』

 

 それは人が睡眠中にあたかも現実の経験であるかのように感じる一連の観念や心像。大抵の場合はレム睡眠と呼ばれる眠りの浅い状態で体験することが多いと言われている。

 

 だからだろうか。

 

 

「なにしてるんだ?早く行こう。」

 

 

 こちらに手を差し伸べてくるパーカーを羽織った顔の傷が目立つ、しかし何故か顔の見えない少女。

 

 かつて私は何度も同じ夢を見たことがある。

 

 あれは私がこの世界で前世を認識してほどない頃だったか。余りにも繰り返し見せられていたので普通ならば短時間で忘れてしまう夢の内容を今でもはっきりと思い出せる。

 

 夢の内容は起承転結にまとめられるような物語であり、そしてその終わりは決まって悲劇であった。

 

 

「どうだ?お前に似合うと思ったんだが。」

 

 

 何故かわかる。慣れない笑顔で“私”にプレゼントを押し付けてくる少女。“私”がこの少女に対して何を思っていたのかはわからないし、少女が“私”に対してどう思っていたかはわからない。だが少なくとも友人以上。しかし恋人のようなものではなく、相棒のようで、家族のようなものでもあったように感じた。

 

 朝食を食べ、仕事をし、家に帰って寝床につく。ごく一般的な生活の繰り返し。

 

 そんな繰り返しの日常は、しかし。前述した通り崩されることになる。

 

 

 何が起こったのか。何が問題なのか。詳しいことはぼかされ何もわからない物語としては失格な内容。しかし私は夢の中の“私”になり切ったかのように考え思考を巡らせる。

 

 何をしているかはわからない。所詮は夢である。現実にはありえない妄想で、眠りこけている脳が記憶整理の片手間に作り出した幻想だ。細かいことは気にしなかった。だがその“私”と少女は迫り来る運命に対して必死に抵抗するように足掻いていた。

 

 

 足掻き、足掻き、足掻き、そして最後には決まって。

 

 

「…どうか、君の未来にめいいっぱいの━━━━━」

 

 

 “私”の腕の中で、()()()()()()光輪を浮かべた少女は冷たくなっていた。

 

 日常からの一変。非日常に対する抵抗と、そして悲劇的な終幕。起承転結。物語としての形ができているものの何故そうなったのかもわからない欠作。

 

 いつしか見ることのなくなったその悪夢に対して私は記憶の中に詰まった何かしらの漫画や創作物のかけらがこのような出来損ないを産んでいるのだと結論づけ、一蹴した。

 

 

「……」

 

 

 果たして本当にそれで良かったのか。私には、わからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここ…が…?」

 

 

 一面に広がる銀世界のみの殺風景な景色の中にポツンと佇む異物。小高い山をぐるりと囲むように建てられたいくつものかつては人の営みが感じられたであろう家家。探索によって見つけられたという二つのスポットのうちのもう一つ。炭鉱都市は雪につつまれながらもしっかりとその形を保っていた。

 

 

「炭鉱都市跡地、ですねぇ。黒服からの情報が正しければ多発する吹雪によって廃校に追い込まれた学園の跡地とも取れます。」

「ほぇ〜…」

 

 

 歩きながら解説を交えるアイムの声を聞きながら私たち4人──私、先生、カンナさん、アイムの四人──は街を進む。何故このような奇妙な編成になったのか。それは漁村で体験した吹雪がもしまた起こった場合今の墜落した廃船では凌ぐことができないと判断され、スポットの調査部隊と仮拠点の作成部隊に分かれる必要があったからだ。

 

 …そして、何より忘れてはいけないがあくまで私とカンナさんを含む『先生側』と情報屋を含む『PMC側』は誘拐するされるの敵対関係にある。黒服はイマイチ立ち位置が微妙なため置いておくが、私たち『先生側』の人間だけで行動した場合PMCの奴らからすれば何をされるかたまったものではないのだろう。もしかしたら私が何か新しい兵器でもこっそり作るかもしれないからな。

 

 だから念の為とは言えこうして情報屋の片割れを私たちの監視役としてつけ、緊急時の連絡用の信号弾も彼女が所持している。

 

 

「くちゅん」

「おっと。大丈夫ですか?」

 

 

 とは言え、今はそこまで気にすることではない。こんな命の危険が迫った状況で争うほど私たちは愚かではない。先生だってそれがわかっているのか敵であるはずの黒服や元理事と渋々ながらも手を組んだのだから。

 

 それに───共に相撲した仲間を裏切るはずがないだろう!?

 …アイムは別にしてないけど。

 

 

「…ふむ。建物も倒壊せず、吹雪に耐えられそうなものも多そうだ。確かにここを拠点として動くのもありかもしれないな。」

 

 

 後ろを歩くカンナ局長がつぶやく。彼女の言った通り周囲の建物はそのほとんどが倒壊せず当時のまま残っているようだ。確かにこれならあんな墜落船よりかはマシな寝床になりそうだ、と考える。

 

 私たちがこの探索でなすべき目標は二つある。一つは無線機、もしくはその修理素材となるものの捜索。そしてもう一つはここが拠点として機能するかどうかの調査。

 

 現在墜落船組が急ピッチで寝床の作成を急いでいるがそれで出来上がるものもたかが知れている。それなら元々この地にあったという学園都市で拠点にできそうな場所を並行して探した方が良いという結末になった。以前行った漁村跡も候補として名は上がったが吹雪に耐えるという面では少し不安が残った。

 

 対してこの廃都市はどうだ?さすが元学園と言ったところで、今でも食料や燃料さえあれば問題なく暮らせそうに見える。

 

 

「はぁ…はぁ…ま、まって。」

「…先生。」

 

 

 考えながら進んでいると、後ろから息切れした今にも死にそうな声が聞こえてきた。先生だ。

 

 

「し、死ぬ…」

「……先生、体力無さすぎじゃありませんか?本当にこれがキヴォトスで有名な“先生”なのですか…?」

 

 

 アイムが呆れた目でカンナさんの肩を借りる先生を見つめているが、それは正しい。先生はキヴォトスに蔓延る様々な難題を解決してきた主人公であるにもかかわらず、余りにも貧弱すぎるのだ。よわよわ♡ざぁこざぁこ♡なのである。

 

 

「そ、そういうコモリちゃんこそ…!!」

「…私…?私は息切れ、してない…」

 

 

「おんぶされてるんだから当然だよね!?!?」

 

 

 そう言って先生は私を指差した。

 

 黒晶アイムの背にひっつき虫の如く捕まる私を。

 

 

「……私は、いいの。引き篭もりだから。」

「引き篭もりなら尚更運動しないと。」

「……先生は男の人なんだから、がんばって…!」

「今はジェンダーレスの時代だよ。」

「ぐぬぬ…!」

 

 

 ああ言えばこう言う!私はいいの!大体引き篭もりの私が生存圏から遠く離れたこんな極寒の地で生きてるだけでもすごいのにこれ以上────へ?

 

 視線が急に低くなり、そして脇腹を掴まれる感触。「よいしょ」という声と共に私はアイムの背中から剥がされた。

 

 

「確かにコモリちゃんは運動不足。あまり甘やかすのはダメですね。」

 

 

 立ち上がるアイムを呆然と見上げる私に降りかかる残酷なる言葉。私は絶望に伏した。

 

 

「……か、カンナさん…」

「ぐ…!そ、そんな顔してもダメです!歩いてください!」

「そんなぁ…」

 

 

 ごっといずととーと……神は死んだ。

 

 もういいもん。そんなにいうなら自分の足でちゃんと歩いてやる。お前らが貧弱貧弱と煽った私がちゃんと歩けるってことを!引きこもりでも私は動けるタイプの引きこもりだということを教えて────

 

 

「…んぴゃ!?」

「コモリちゃん!?」

 

 

 地面を踏みしめていたはずの足元に生じる違和感。そしてついで感じる浮遊感と、視界に映った綺麗な透き通った空。

 私が状況を把握できないままその一連の情報の波が私の止まった思考に押し寄せてきて───そして止めとばかりに頭部に叩きつけられる痛み。

 

 私はやっと理解した。私は、足を踏み外して転んだのだ。否。転げ落ちたのだ。

 

 

「こ、コモリちゃんが消えた!?」

「段差に引っかかって転んだだけのようです。大丈夫ですか?」

「ぷっ、あはははは!ひー!だ、大丈夫ですかぁ?骨とか折れちゃってたりしないです?」

 

 

 …くぅぅぅ!ふぐぅぅぅ!!やめて!無駄に優しくしないで。みんなの優しさが私の羞恥心を加速させる。惨めになってきてしまう。あとアイム。お前は殴るから私が登るまでちょっと待ってろ。

 

 そう思って私は立ち上がり、登ろうとして気づく。

 

 

「…なに、これ…?」

 

 

 私が転げ落ちた段差の異常さに。

 

 約一メートルにもなる地面と底の高低差。そして何よりその形状。

 それは例えるのなら、そうだな。巨大なボールが通過した後のような窪みが、この小高い山の側面を削るようにしてまっすぐ伸びていたのだ。もっと簡単に言えばこの窪み状にまっすぐ街を含めて山の一部が削り取られていた。

 多分それでもわからない人はジ◯ジョの奇◯な冒険のバニラでアイスな人のス◯ンドを想像、もしくは検索してもらえればわかるだろう。

 

 

「上がれますか?手を貸します。」

「あ、ありがとう、ございます…」

 

 

 差し出してくれたカンナさんの手を借りて段差から脱出する。

 

 

「うーん…なんでしょうねぇ。これ。先生はどう思います?」

「……ヴァニ◯アイスのスタンド?」

「はい?」

「いや、何でもないよ。」

 

「……真面目に考えるのなら、何か大きなものが移動した跡じゃないか?見方によっては銃弾のような何かが高速で通過し、削り取られた跡のようにも見える。」

「なるほど…」

 

「ば、バ◯ファルク、とか…?」

「なんて?」

「…な、なんでもない。」

 

 

 一通り話し合った結果、何かが移動した跡だという結論に至った。こんなもの明らかに自然現象ではないだろうし、この跡が続く向こうには何かがあるかもしれない。そういうことで探索することも決定した。

 

 

「……先生、これがもし、巨大生物のものだったらどうする…?」

「それは………ワクワクするね!」

「…!そう、だよね…!未知!雪山に巨大生物…なんて、新聞に、載るかも…!」

 

「呑気ですねぇ……カンナさん。私たちもしりとりでも…」

「しない。」

「…そ、そうですか…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 歩くこと数刻。私たちはその溝の最奥に辿り着いた。

 

 

「…お…おお…………」

 

 

 そこにあったのは巨大生物でも隕石でも、ましてや巨大ヴァニ◯アイスでもなかった。

 

 重厚な輝きを放ち、その巨大な体は地面に半分埋没しながらも包容するロマンを包み隠さない。各所に配備された二連の筒を持つ砲台に、おそらく鉄さえも融解するような高温で巨大な炎を放つであろう巨大なアフターバーナー。

 

 

 これぞまさしく─────

 

 

 

 

「「飛行戦艦だ!!」」

 

 

 

 

 大人と子供。二人分の叫び声が雪原に響いた。

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