引き篭もりアーカイブ   作:有機栽培茶

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少し前の話ででた『あっちのコモリの棺桶』に物語の都合上でゴミやガラクタが入れられることになりました。ほぼアドリブで描いてるから仕方ないですね。許して。
死人の棺桶にゴミ入れるくらいいいでしょ?()


記憶が告げる凶報

 

 ゴウンゴウンと鳴り響く駆動音に、自らの長い前髪を揺らす細かな振動。そしてこの身に感じる確かな浮遊感。

 

 船は今空を飛んでいた。

 

 

「つーん…」

 

 

 冷たい鉄製の、この地に連れてこられたときのような牢屋に…しかし連れてこられた時とは違って一人で閉じ込められていた。先生もカンナさんもいない。一人ぼっちである。

 拘束具は特にない。しかしその鉄門は固く閉じられ開く気配はない。だから私は三角座りで顔を足に埋め、その隙間から鉄格子の外を睨みつけていた。

 

 

「あ、あのー…コモリさん…?」

「つーん」

 

 

 ふと、元理事の目的を考えてみる。奴は何をしようとしているのか。

 まず思い浮かんだのがこの船を使って帰ること。だがそれだけなら私たちに銃を向ける必要もないし、黒服や便利屋68の皆さんを置いていく必要もない。先生から話を聞いた、アビドスでの出来事の復讐?だとしてもリスクとリターンが釣り合わなすぎる。あの男はそこまで愚かな人間じゃないはず。

 ならば、私やカンナさんと先生を船の外に追い出さず拘束した点から考えてみよう。まず私は初めの目的である掃除屋のメモリから不正データを取り出すために必要だから。先生はアビドスでの出来事から反省し不確定要素を残さないため?カンナさんは……わからないな。公安局長だから?でもあそこカイザーとズブズブだった気がするが…

 

 とはいえ、だ。どんな理由があろうとこの二つ目の視点も元理事本人の発言から否定される。

 何せ奴はこう言っていたのだ。

 

 『もうそんなちっぽけなものはいらん。』

 

 つまり奴にとって『カイザーの不正の証拠』というのはもはや眼中になく…その後の言葉を信じるのなら、奴の目的はこの“船”ということになる。

 

 

「あのー…」

「つーん」

 

 

 “向こう側の私”が作り上げた飛行戦艦。

 未だ記憶ははっきりとせず、あっちの私がどんな目的を持って作ったのかは知らないが、確かにこの船の武装ならサンクトゥムタワーを含む都心部の制圧…いや、殲滅すらも可能だろう。というか、中規模程度の学園ならば余裕を持って壊滅させることが可能だと言える。さすが私。

 

 だが、トリニティやゲヘナといったマンモス校となれば話は別だ。奴らなら対空戦力も豊富にあるだろうし、あのゴリ…ん゛ん゛!ミカ様や風紀委員長の前ではこの強固な装甲も紙と化すだろう。『えい⭐︎』やら『無理無理〜⭐︎』的な軽い掛け声ひとつで粉砕されるイメージがある。なぜだ。

 

 詰まるところ、奴が話していたキヴォトスの支配、などというものは夢物語でありこの船一隻では到底不可能な話なのだ。

 また、ひとつハードルを下げてカイザーコーポレーションの支配も可能ではあるだろうがあの元理事に支配した後の経営が務まるとは思えない。どこかでずっこけて自然崩壊しそうである。

 

 

 故に、今現状の問題はアル様たちが置いていかれたことであり、奴のやろうとしているこの凶行は別に放っておいても問題ないのだ。

 ない…のだが、魚の小骨が引っかかるように、小さな不安感が拭えない。

 

 

「無視しないでくださいよ!」

「…おかしい、どこからか、声が聞こえる…」

「私が悪かったですから!謝罪くらいさせてください!」

 

 

 はぁ…とため息をつきながら顔を上げる。

 そこには目を合わせた途端にパァっと表情を明るくした裏切り者──アイムが鉄格子に張り付いていた。

 

 

「こ、コモリさん!!」

「ん、謝罪。言い訳。はりーあっぷ。」

「ハイっ!」

 

 

 目尻に涙を浮かべながら敬礼をする彼女を私はジト目で睨みながら謝罪と言い訳を促す。

 

 

「…えっと…その、今回は、その、貴方からの信頼を裏切って元理事の貴方たちを拘束しろという命令に従った事を深く謝罪したいと思います。」

「…そうだね。その前日に、友達って言ってくれたのにね…」

「それは!その、本当に申し訳なく思ってます。…た、ただ友達と思っているのは本当なんです!」

 

 

 ふーん?

 

 

「んじゃ…次。言い訳、どうぞー…」

「い、言い訳、というか理由なんですけど……雇い主の命令、だからです。こ、コモリさんもわかってくれますよね!?」

「…まあ、ね。確かに、雇い主の命令を聞くことは、大事…信用問題に、関わる……でも、友達を裏切るほど…?」

「あぅ!!……で、でも!コモリさんもやってたじゃないですか!長年の戦友を依頼で騙して裏切ったり!身分を偽って仲良くなったところでターゲットを始末したり!裏社会では情と仕事は切り離すべき!そうでしょう!?」

 

 

 何気に最低なことを言っているアイムくん。しかしその意見を否定しきれないのもまた事実。と、言うよりも私はその意見に賛同できてしまう。

 うん。ふと、過去を振り返ってみよう。私は掃除屋。プロの傭兵だ。その意見には同意できても、そんな卑怯な手は使ったことがないはず。

 

 

「……」

 

 

「…ソ、ソンナコトナイヨ?」

 

「嘘ついてるじゃないですか!?」

 

 

 私は目を逸らした。

 

 

「…な、なら仮に、コモリさんがこの意見に賛同できないとしても……コモリさんは恩人に銃口を向けることができますか?」

「恩人…?」

「はい。例えば…貴方の場合なら陸八魔さんや、先生に。」

 

 

 想像してみる。私が先生と…アル様…に……

 

 

「お゛ぇ゛」

「吐いた!?」

 

 

 無理だ。

 

 

「むりむり…かたつむり…」

「そうでしょう?私に取っての元理事は、貴方に取っての先生や陸八魔さんのような恩人なんです。」

「…あの傲慢でいじっぱりで卑怯者なデカブツが…?」

「ま、まあ、否定はしきれませんが、そうですね…」

 

 

 “正確には私達の、ですが”と付け加え彼女は話す。

 

 

「私が元SRT生だと言うことは前に話しましたよね?それも裏切り者だってことは。」

「うん…まあ、覚えてる。」

「そんな人間は当たり前のように指名手配されます。何せ連邦生徒会直属の組織を裏切ってるんですから。知られちゃまずい情報だっていっぱい持ってましたし、SRTという戦闘のプロが裏社会に身を落としたなんてなれば厄介ごとになるのは目に見えてますからね。」

「…確かに、そういえば、昔ニュースで見たかも…」

 

「ええ。そうです。ニュースにまでなるほど大々的に指名手配されたんです。賞金もつけられ、追っ手から逃げる毎日。そんな人間が傭兵を始めたとして、果たしてまともな依頼がつくでしょうか?」

「……足元見られるだろうね。」

「それか罠かの二択ですね。」

 

 

 実際に何度か引っ掛けられましたしねと笑う。

 

 

「そんな私に目をつけ、まともな金額で雇ってくれたのが当時まだ理事だった彼でした。使えそうだとかそういう理由だったのでしょうが、彼のおかげで私は裏社会でここまで上り詰めることができたと言ってもいい。」

「へぇー…」

「それに、コモリさんは私の相棒、ホムラの足を生で見たことがありますか?」

「…そういえば、ないかも…いつもズボンだった…」

 

 

 思い返すのは赤い髪の元トリニティ生であったであろう少女。ソシャゲが元になっただけあって露出の多いこの世界の住人にしては足を出してないと思ったんだ。

 

 

「彼女の足、義足なんです。」

「……!」

「…あー…私が言ったこと、彼女には黙っていて欲しいんですけど……昔、トリニティでの人身事故がニュースになったの、知ってますか?」

「……確かに、そんなこと、あったかも?」

 

 

 トリニティでの人身事故。少し考えてみると、思い出した。当時1年の、私と同じ年齢の少女が列車に足を巻き込まれ失ったというなかなかにショッキングな事件だ。神秘に守られたキヴォトスの生徒にしては珍しい事故だったと記憶に残っている。

 

 

「…本来なら、私達生徒はヘイローに守られていて、列車に轢かれたくらいで両足が使い物にならなくなるようなことは滅多にありません。」

「私はなりそうだけどね。」

「……特に、彼女のヘイローは丈夫で、スナイパーの一撃でもびくともしませんでした。ではなぜこんなことになったのか。」

 

 

 あ、こいつ無視したな。

 

 

「…虐められていたんです。虐められて、限界まで痛めつけられて、足を線路に固定されて、置いて行かれた。当時交流があって、相談を受けていたはずなのに、私は彼女を助け出すには一歩遅れてしまった。あんなことになるなんて思っていなかった。」

「……」

「…後でいじめっ子の方々と“お話”をしに行った際に知ったのですが、いじめっ子たちにも、そこまでする気はなかったようです。足を折る程度で済ませようとしたそうです。…それでも、相当なものだと思いますが…」

「………」

 

 

 …なんかめっちゃ重い話出てきたんだけど。

 

 

「そんな彼女に、新しい足をあげてくれたのもあの男なんです。彼女が私と共に傭兵をやることを条件に、あの男は義足をくれました。」

「……」

「……わかってくれましたか?ホムラは自分の恩を返すために…私も自分の恩を返すため………そして助けてあげられなかったホムラへの償いのためにも、彼を裏切るわけにはいかないのです。」

「……そ、っか…」

 

 

 そうか…それは、私を裏切っても仕方がない…

 

 

「まあでも許さないけどね?」

 

 

 ってなるわけないんだよなぁ。

 

 

「ええ!?」

「それは、それ…コレは、コレ……割り切りは、裏社会じゃ、必須技能…!」

「そ、それはそうですけど!?」

「あーどうしようー…このままじゃー…アイムのことが嫌いになっちゃううなー……」

「え、え!?待ってください!き、きらいにならないで!」

「そうだなー…GODEVAのチョコ一年分、今すぐくれないとー…嫌いになっちゃうかも、なー…」

「GODEVA!?そ、そんな高級品ありませんよ!?」

「じゃあ、帰ったらでいいー…」

「ええ!?」

「……友達を裏切ったゲス野郎ー…」

「ひぐっ!?…うぅ……わかりました!わかりましたよ!!」

「やったー…許すー…」

 

 

 言質はとった。アル様欲しがってたしあげよ。

 

 

「……はぁ……話は変わりますが、コモリさん。」

「ん…?なに…?」

 

 

 コレが終わったら失われることになるであろう財布の中身を確認してため息を吐いていたアイムの顔が一変、真面目な顔になるとそう話しかけてきた。

 

 

「コレは提案ですが…単刀直入に言います。こちら側につきませんか?」

「……どういう、こと?」

「…元理事側の味方をしてくれませんか、ということです。」

「つまり…先生やアル様を裏切れってこと?」

 

 

 それに対して私も睨み返す。

 

 

「……そう、ですね。」

「…言い切るんだ。」

「はい。もう友達を裏切るような真似はしたくありませんからね。」

 

「……」

 

「もし貴方がこちらにつくと一言言ってくれるのなら、私は元理事を説得して貴方の自由と先生の安全を保証します。」

「…アル様と、カンナさんは?」

「そちらも、即座に身柄を拾いに戻って身の安全は保証することを約束します。流石に自由にさせることはできないでしょうが、凍死という最悪の状況は免れるでしょう。」

「……あれ?カンナさんも?」

「あ……は、はい。その…元理事が不安要素は船に残したくないし貴方や先生と違って利用価値もないから、と…出発時に簀巻きにされて外に捨てられたはずです。」

「えぇ…?」

 

 

 んな殺生な…でもカンナさんは丈夫だし簀巻きにされて放り投げられたくらいじゃ死ななそう。ならいっか。

 

 

「…確かに、私が、彼に協力するだけで、助かるなら…いいかもしれない…」

「……」

 

 

「…でもさ、私も友達を…恩人を裏切ることはできないよ。」

 

「………そう、ですよね…」

 

 

 そういうとアイムは顔を伏せ、そして立ち上がった。

 

 

「今頃先生はシッテムの箱と呼ばれる端末とカードを没収された状態でコモリさんとは別の牢屋に入れられています、が。元理事の気分次第でその命が危険に晒されることもあるでしょう。そして貴方の掃除屋は元理事が情報を引き出すのをやめた以上、いずれカイザーPMCの整備士によって分解され研究されることになるでしょう。それがいつになるのかはわかりませんが………もし、貴方の気が変わったらここに置いておく無線で知らせてください。」

 

 

 そして一つの無線を置いて彼女は立ち去っていった。

 薄暗く冷たい牢屋に残されたのは私と鉄格子越しでも手の届く位置のある無線機だけ。

 

 

「…」

 

 

 私を裏切ったアイム。だが彼女が言った言葉は本心だった。こんな絶望的な状況下なのに、それを知れてよかったと思えた。状況的に触れ合うことの多かった補習授業部の皆を除いて、初めてできた私の友達だからだろうか。…補習授業部のみんなは友達に数えていいよね?あれで『あはは…コモリちゃんと私が友達?面白いこと言いますね。』とか言われたら泣くぞ?

 

 

「…さて、と。」

 

 

 だから私も彼女のことを裏切るようなことはしたくない。

 

 

 

 

「脱獄しますか!!!」

 

 

 

 だからあの提案を断る必要があったんですね!

 だって普通あんな好条件の提案断んないでしょ。こっちの要件を全部通してから裏切って盤上をひっくり返すのが定石よ。それでもしなかったのは友情故に。やっぱ私は優しいな!

 

 

「お゛ぇ゛!」

 

 

 手を口元に当て、吐く。さっきのような冗談めかしたようなものではなく、腹部に手で圧をかけて、中身を吐き出す。

 幸い朝ごはんは食べていないから出てきた中身は胃酸と……隠しておいた一つの小さなジップロック。その中身は───

 

 

「ど〜こ〜で〜も〜脱獄セットぉ〜!」

 

 

 針金である。性格にいえば、“あっちの世界の私”の墓を暴いた時にゴミと死体の中に一緒に入っていたおもちゃについていた鉄製の部品。強度はそこそこ。しかしキヴォトス民の握力にかかれば曲げれないこともない、つまりは鍵開けに適した物。

 

 黙って閉じ込められてるか弱いお姫様じゃあないんだ私は。掃除屋コモリ。私は行動派なんだよ。

 

 さあ!いざ脱獄へ!

 

 

 ───そう意気揚々と一歩踏み出したその時だった。

 

 

「─っ!?あ、が!?」

 

 

 突然襲いくる頭痛。頭が割れそうになり、視界が歪み、そして点滅する。一体何が起こっているのか。その疑問はすぐに解けることとなる。

 

 

「なん、だ、これ…!!」

 

 

 頭の中に流れ込んでくる存在しないはずの記憶───彼方の世界の私、またはその神秘を持つ掃除屋が見た記憶。

 夢ではない。寝ていないにも流れ込んでくるコレ。

 

 

「っ!まさか…あいつらが、掃除屋に、何か弄り出した…!?」

 

 

 この記憶の波のトリガーがわかったとしても、それが止まることはない。自分の意思とは無関係に流れ込んでくる膨大な情報…それこそ前世今世合わせて約18年ともう18年分を生きた人間の記憶が一部とはいえ押し込まれる激痛に苛まれる中─────

 

 

「───は?」

 

 

 ─────私は見てしまった。

 

 

「…はぁ、はぁ…」

 

 

 ───テセウスの方舟計画───

 

 

「…ふざけたサプライズだ。」

 

 

 どうやらあっち側の私はとんでもない物を遺してくれていたらしい。




アイムちゃんはいい子なんだよ…?ただちょっと裏社会に染まってるだけで…
ちなみに私は因果応報という言葉が好きです。

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