引き篭もりアーカイブ   作:有機栽培茶

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SRTでの裏切り+便利屋68での裏切り+今回の裏切り
「SRTは友達と思ってませんでしたし依頼の時もまだ友達じゃなかったのでノーカンです!!!」
と、被告人は述べています。
どのツラフレンズその通り過ぎて笑った。

いい子なんですよ…?
まあそれはそれとして今回はみなさん(?)ご期待のアイムちゃんが痛い目に合う回です。


選択

 

「…主人公は、失敗した。」

 

 

 赤い、紅い、真っ赤に染まった青い空。

 そしてキヴォトス各地に杭のように打たれた六つの赤き塔。

 

 世界に満ち溢れていた神秘は反転し恐怖となり、名もなき神は地に堕ちた。物語はその形を保つことができず、崩壊する。外なる存在の干渉に耐えられなかった箱庭は崩れ落ちる。

 

 そして、今は無き物語を正しい方向へと導く者はもう居ない。

 

 

 ああなんと素晴らしきバッドエンドか。いっそ清々しいほどだな。

 

 

 美しき絵が描かれるはずだったキャンパスは、赤の他人によって作品としての形を保てなくなるほどめちゃくちゃに、ぐちゃぐちゃに塗りつぶされた。

 そして、それ本来の形に直そうとする者はもういない。

 

 

「ならば私たちが白紙へと戻し、1から書き換えてしまっても問題あるまい。」

 

 

 ぐちゃぐちゃに塗りつぶされたキャンパスノートは破り捨て、私たちの手で1から描き直そう。

 神秘も恐怖も何もかも。

 全てを捨て去り作り直す。

 

 青き記録を再現するのだ。

 

 …しかし本物を崩し、その材料を変え再現したところでそれは所詮贋作でしかない。方舟は一部でも部品を取り替えて仕舞えばそれはもう本物ではなくなってしまう。主人公ではない私には。主人公の前に立ち塞がる小さな障害、くだらない悪役である私には。完璧なハッピーエンドは目指せない。

 

 

 ──だからせめてものトゥルーエンドを。

 

 

 

「さあ、まずは汚れ切ったキャンパスのお掃除から開始しよう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『テセウスの船』

 

 それは簡単に説明するとパラドックスの一つであり、テセウスのパラドックスとも呼ばれるもの。ある物体において、それを構成するパーツが全て置き換えられたとき、過去のそれと現在のそれは同一の物であると言えるのか否か、という哲学的な問題だ。

 

 そんな言葉を含んだ前世の私の計画は───キヴォトスを使ってその問題を実行しようという試みだった。

 ダメになった部分を分解し、別のもので再現する。彼方の世界の場合、何が起こっていたのかは知らないがキヴォトスの全てが文字通り“ダメ”になっていたらしく全てを作り直そうとしていたらしい。

 

 とんでもない計画だ。神様にでもなったつもりか。

 

 だが、一部とはいえ記憶が流れ込み、理解した私だからこそ断言できる。『可能』であると。

 あっちの世界ではなんらかの妨害を受け失敗したようだが、理論上は可能だったのだ。世界を全て書き換えることが。

 

 

 …さて、本題はここからだ。

 実際、コレだけの事実だったら『わーしゅごーい』で終わっていた。しかし現実は悲しいことかな。それだけでは終わらない。

 

 ───我々が今乗っているこの飛行戦艦──記憶によれば『マステマ』と呼ぶらしい──は『テセウスの方舟計画』を実行するために作り出された“方舟”であり、その計画実行に必要な鍵は我々が今現在向かっているであろう連邦生徒会本部の『サンクトゥムタワー』である。

 

 …これだけで賢い観測者諸君はわかっただろうか。

 

 前世の私という天才が作り上げたこの船が、そしてそこに搭載された生体認証システムによってマスターか否かを判断できるAIが元理事やPMC兵どもの凶行を許し、こうして飛行している理由が。

 

 

「やつら…計画、を…実行する気…だ…!」

 

 

 最悪中の最悪の置き土産であるよあっちの私。

 あなたがどんな最期を迎えたのかは知らないが、せめてこの戦艦のAIに命令の破棄くらいさせておいて欲しかった。

 

 

「ああ…もう…っ!さい、あく…!!」

 

 

 このままでは今の所何も問題はない、バッドエンドを、いや、そもそも物語の途中であろうこのキヴォトスを全くの別物へとリセットされることとなってしまう。私が今まで出会ってきた人々も、先生も、便利屋68のみんなも。

 

 ───絶対に阻止しないといけない。

 

 

「…ん?お前が何故───

「じゃ、まっ!!!」

 

 

 故に向かうは元理事たちがいるであろう艦橋。

 そこにいるであろう彼らを私は説得なりなんなりしてこの船を止めさせなければならない。

 

 …さあ、今の私の装備を確認してみようか。まず牢屋の鍵開け用に使った針金が一つに対神秘用のミサンガ。そして今巡回していたPMC兵を殴り倒して曲がってしまった、そこら辺で拾った鉄パイプと、そしてたった今拾ったPMC兵の持っていたアサルトライフルに軍用ナイフ。

 

 あまりにも心許なすぎる。まずアサルトライフルは反動が強すぎて殴りかかる以外の使い道がないし、ナイフも果物を切るくらいしか使い方を知らない。そもそも私が生身で戦はなければならないというのが無謀すぎるのだ。私はアイムのように自称ではなく、正真正銘の非戦闘員なのだから。

 

 

「せめて、一緒に捕まってたらしい、先生を、連れて来ればよかった…!」

 

 

 後悔してももう遅い。いまさら先生を解放しに戻っている余裕はないのだ。どうせ私の脱走はバレているだろうし戻ったところで私が捕まるだけ。

 

 

 そう考えて、通路を曲がり、ちょっとした広間に出たその時だった。

 

 

「動くな!!!」

 

 

 目に入ったのは、私がちょうど思い出していた先生の、縄に縛られ拘束された姿と、こちらに向けて銃を構える赤髪の少女のその姿。

 

 

 それを見た瞬間、私は手に持っていたアサルトライフルを、撃てもしないくせに一か八かで構え─────地面に落とした。

 

 

 銃声と少女の構えた筒から昇る硝煙。肩に生じる鋭い痛みに、チカチカと白く点滅する視界。

 

 口を猿轡で縛られた先生が何かを叫ぼうとしている。

 

 そこでやっと気づいた。撃たれたのだと。

 

 

「う、あ゛ぁ…!!」

 

 

 痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!

 

 あまりの痛みに立っていられず、地面にうずくまる。今まで何度か、数えられるほどではあるが銃弾をその身に受けたことがあったが、その中でも上位に入るほどの痛み。拳銃なんて比ではない。幸い私の脆弱な神秘が頑張って耐えたのか血は出ていないものの、気絶しなかったのが奇跡のようで、逆に、いっそ気絶してしまえれば楽だったであろうと思ってしまうほどの痛み。

 

 涙を浮かべながらも、なんとか立ちあがろうと力を込めるが、なかなか立てず無様にもがくこととなった。

 おそらく、私が立ち上がることに成功し、再度抵抗を試みようとしたら…彼女は容赦無く次弾を叩き込んでくる。そうなったら私の神秘は今度こそ耐えきれず、弾丸は私の身体を貫くことになるだろう。

 

 怖い。恐ろしくて仕方がない。瞬間的な痛みに体が慣れ始め、徐々に思考ができるようになる程、今度は痛みへの恐怖が身体を支配してゆき、震えがとまらなくなる。

 

 

「…やっぱり、貴方はそうしますよね。」

 

 

 頭上でカチャリと銃を構える音がした。

 

 

「あい、む…!」

「…痛いですよね。怖いですよね。でも、コレはあなたが外に出たから。貴方があのまま牢屋の中にいてくれれば、提案を飲んでくれなくても私が友達として…貴方だけは守ってあげられたのに。」

 

 

 拳銃の真っ黒な銃口が私の額を捉えている。

 

 

「っ…ぁ…」

「……もう一度、提案します。私たち側についてください。そうすれば便利屋68の皆さんと、先生の安全を、そして貴方の自由と安全を保証します。」

「ふぅ…ふぅ……」

「……コモリさん。貴方が、この提案を呑んでくれさえすれば。私は貴方を全力を以て守ることができるんです。貴方が望むなら部屋の外に出なくても過ごしていけるような快適な空間を提供します。お金だって食事だって全て私が負担し作ってあげます。」

「……」

「…外は、怖い。そうでしょう?貴方が一言、『わかった』とさえ言ってくれたら私は貴方のためになんでもしてあげられるんです。」

 

 

 ───だからどうか。

 

 私は、彼女の頼みを聞いて思ってしまった。

 「ああ…いいな。」と。

 

 引き篭もって悠々自適な自堕落ライフ。お金とか生きるのに必要な苦行は全てアイムがやってくれる。完全なヒモ生活。学校に行かなくてもいい。掃除屋を使っての薄暗い仕事をしなくてもいい。

 コレこそ私が望んでいたことじゃないか。頑張ってお金を貯めて、いつか裏社会から抜け出したらこうなりたいとかつて夢見ていた生活そのものだ。

 

 

 ならもう、全部捨て去ってしまっても────

 

 

 

『私の先生と()()に手を出さないで!』

 

 

「───っ、ぁ…」

 

 

『なんでって、それは私が先生だからだよ。』

 

 

 ───…ダメだ。

 

 

「…コモリ、さん?」

「っ!アイム!そいつから離れろ!!」

 

 

 全てを捨てる。それはつまり、私を助けてくれたあの人たちを、先生と便利屋68の皆んなを裏切るってことに他ならない。

 そんなこと、いいはずがない。あっていいはずがない。

 

 ──私は、誰だ?

 

 

 ただの引きこもりのコモリか?

 

 虐められていた弱虫コモリか?

 

 

「…違う、でしょ?」

 

 

 裏社会の死神。ゴミクズどもの掃除人。キヴォトス最強の何でも屋。

 

 受けた仇は百倍にして。そして受けた恩は一万倍にして返す。

 

 私は────

 

 

 

 

「掃除屋だ。」

 

 

 

 

「あ、ぇ…?」

 

 

 

 とすっ

 

 手に握りしめたナイフは驚くほど滑らかに筋繊維を切り裂き深く深く突き刺さった。

 

 

「アイム!!」

 

 

 横目に見えるは赤髪の少女ホムラ。銃は構えている。しかし撃たない。撃てない。優秀な傭兵である彼女だからこそ、ヘイローがいかに重要な役割を果たすかを理解している。そして理由は分からずともヘイローの消えたアイムに被弾することがどのような結末を引き起こすのかも理解している。故に誤射を恐れて引き金を引けない。

 

 

「貴様!」

 

 

 アイムの後ろにいたPMC兵がようやく状況を把握しライフルを構える。その間約1.5秒。懐に潜り込むには十分だ。

 構えられた銃口を手のひらで押し除け、空へ一発。リロードに3秒。十分な隙だ。折れ曲がってもう打撃武器としては使えそうにない鉄パイプの尖った方の先を向け、喉元をキヴォトス人の腕力を持って思いっきり貫く。うまく貫通した。

 

 

「ぐ…ぁ…コモ、リ、さん…」

 

 

 後ろへ一歩後ずさるPMC兵に、ナイフの刺さった肩を抑えながらも此方に向け銃をまっすぐと構えるアイム。

 ───その“引き金の部分”を見てから、私は先ほど強奪したPMC兵のアサルトライフルで横薙ぎに二人を思いっきり力を込めて殴り倒した。

 

 

「っ!」

 

 

 瞬間、銃声が一発。

 ようやくホムラがこちらに向けて発砲した。

 

 ならば盾が必要だ。機能を停止したPMC兵の首を掴み、前に掲げる。途端に襲いくる衝撃。胸の装甲板に命中。

 

 そのまま前進。相手の銃を視認。銃種はMTs255。リボルバー式の散弾銃。弾丸はスラグ弾。装弾数は五発。発砲三発。残り予想残弾二発。

 

 

「…っ!」

 

 

 再度衝撃。胸部装甲に被弾。破損。貫通を考慮し向きを調整。残り4メートル。

 

 

「このっ!」

 

 

 衝撃。頭部に被弾。破損。残り3メートル。

 

 ホムラが引き金を引く。しかし発砲はされず、カチリと撃鉄の音が虚しく鳴るばかり。

 

 

「っ!弾切れ!」

 

 

 チャンスだ。

 もはやただの荷物と化した盾から手を離す。その陰から飛び出し、残りの3メートルを一気に詰める。かかる時間は2秒に満たない。ならば相手が一発でも弾を込める前にこちら側の攻撃範囲内に接近可能。人質として取られる可能性のある先生は、すぐには手の届かないところに避難済み。

 

 私はこのチャンスを逃すわけには行かず、そのまま接近し、リロードの隙を狙って手に持ったアサルトライフルを思いっきり振り上げ───彼女の腰あたりから覗く、黒光りする銃口に気付く。

 

 

 ───拳銃

 

 

「しま─────っ、あ!」

 

 

 銃声。同時に額への衝撃、耐えきれないほどの痛み。

 意識が遠くなる。コレまでの経験上、私は銃種にはよるが、一発の銃撃に耐えられても頭部への衝撃には耐えられない。このまま私は気を失いうことになるだろう。

 

 故に、ゲームオーバー…

 

 

「…で!終わって、たまるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「なっ!?」

 

 

 額に垂れる血を無視しながら、のけぞり返った身体を戻す反動そのままに、ホムラへとアサルトライフルの銃底を叩きつける。

 

 

「っぐあ!?」

 

 

 一発。しかし意識は残り、戦意は消えない。

 

 ならば無くなるまで叩くのみ。

 

 

「っああ!!この!この!この!!!」

 

 

 二発、三発、四発、五発───

 

 

「こ、のっ!!!」

「コモリちゃん!!!」

 

 

 何発目か、私がもう一度振り下ろそうとしたところで後ろから聞き覚えのある声が耳を貫いた。

 

 

「それ以上は、ダメだ。」

 

 

 ふと見下ろした。赤く染まった銃底に、足元まで飛び散った真っ赤なインク。床にできた赤い水たまり。そして─────

 

 

「ぅ…ぐ、ぁ…」

「っ、あ…」

 

 

 私は一歩後ずさった。

 

 

「コモリちゃん…」

「あ、あぁ……」

 

 

 そうて私は視線を彷徨わせ…何か逃げ道がないか探すかのように彷徨った先で、目に入った先生の手を掴み、走り出した。

 

 走って、走って、走って。

 

 

「ま、待ってコモリちゃん!」

「あ」

 

 

 息切れする先生の声に足を止めた。

 

 

「う、あ、ご、ごめんなさ───」

 

 

 膝に手を当てて荒い呼吸を繰り返す先生に心配して、声をかけようと手を伸ばして────気づく。

 

 自分の手が真っ赤に染まり切っていたことに。

 

 

「コモリちゃん…ごめんね?先生、ちょっと、体力ないから───」

「っ!触らないで!!」

 

 

 私は、私の手を取ろうとした先生の手を、払いのけた。





なんかアイムちゃんよりホムラが痛い目にあってる気がするけど誤差よ誤差。あの子達一心同体だから。(生きてます)

情報屋sをぶち込んだ理由がこの回だったりします。

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