引き篭もりアーカイブ   作:有機栽培茶

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彼シャツハナコではなく水着を着たおじさんがきました。ノーマルおじさんも来てないのに。
そんなに水着を見せたかったのか。私に。好きになるぞ?(熱くて溶けた理性)


罪悪と友達

 

「っ!触らないで!」

 

 

 ぱしんという音と、叩かれて赤くなった手。

 物静かで気弱な少女は、先生の手を振り払った。

 

 

「こ、コモリちゃん?どうしたの?…先生、何かしちゃったかな?」

「っぁ…ち、違うの…せ、先生は…悪くない…悪くない…先生は、いい人、だから…だから…」

 

 

 ──だから私に触れてはダメ。

 

 手を伸ばした先生から怯えるように後ずさった少女は、自分の手を震えながら抑え、そう言った。

 

 

「それは、どういう…」

「…先生は、さ……銃を、撃ったことある?」

 

 

 ───銃。それは金属でできた、火薬を用いて鉄の弾丸を射出することのできるカラクリであり、キヴォトスにおいては喧嘩や遊びに使われる程度の道具。

 

 

「銃?んー…前一回射撃場で持たせてもらったかな?」

「じゃ、じゃあさ……それを、人に向けたことは?」

「っ…」

「…人に、向けて引き金を引いた事は…?」

「ない、ね…」

 

 

 …だが、彼女の指す“銃”はそれではなかった。

 ヘイローを持たない『人』を殺すための血に濡れた道具。殺人を効率的に行うためを目的に生み出された凶器。それが少女の指す『銃』であった。

 

 

「…じゃあ、さ。人を思いっきり殴った事は…?水の中に、動きが止まるまで相手の顔を沈めた事は?糸で、相手の首を絞めたことは?相手の手を押さえつけて、折った事は?相手が抵抗できなくなるまで銃底で殴りつけた事は?」

「…ないよ。」

「…………人を、ナイフで刺した事は?」

「……」

「そっか。そう、だよね。」

 

 

 よかった。そう笑いながら少女は手に持ったアサルトライフルを撫でる。カイザーPMC製のそれは黒の塗装の上に、さらに真っ赤な絵の具で装飾されている。通常の使い方では生徒に対して怯ませる程度の威力しか出すことのできないそれが、本来とは違った使い方をされた証である。

 

 

「先生は、さ…人を刺した時の感触を知ってる?…し、知るわけないよね?」

 

 

 ヘラヘラと普段見せないような歪な笑顔で笑う少女を先生は黙って見ている。

 

 

「わ、私は、知ってるよ…?…柔らかかった…市販のお肉に、高い包丁を通すみたいに…すうって、気持ちのいいほど、滑らかに滑っていったの…それでね?ナイフから伝わる感触は、柔らかくて、熱が、暖かくて……それで、それでね…?思っちゃった。思っちゃったの……」

 

 

 ───あ、人を傷つけるのってこんなに簡単なんだ、って。

 

 

「へ、へへ…おかしな、話だよね…?私は…今まで散々、人を傷つけて…しかも、そ、その…命、も、奪ってきたのに、自覚してなかったなんて……しかも、自覚して、初めて思ったのが、そんな感想、だなんて…おかしいよね…?」

「…おかしくな──

「おかしいんだよ!!」

 

 

 ヘラヘラと笑っていた少女は一変、口を開いた先生に向け思いっきり怒鳴りつけた。しかし、長い髪の隙間から見える表情は窺いづらいものの、怒りではなく、後悔や罪悪感、“なにか”に対しての嫌悪感。そして怯え、恐怖が窺い知れた。

 

 

「だって…先生、おかしいじゃん…!私は、今までボタンひとつ、指にちょっと、ほんのちょっと力を入れるだけで、たくさんの人の平穏を、生活を、日常を、命を奪ってきたの…!なのに、それなのに!その事実にすら気づけないで、ゲーム感覚で奪っておいて!やっと気づけたら、“これ”だよ!?初めて抱いた感想が、『今までの後悔』でも『罪への懺悔』でも、『今まで奪ってきた人たちへの謝罪の言葉』でもなくて、『こんなに簡単だったんだ。』なんて乾いたものだった!…私は、クズだった!許されちゃいけない、最低最悪のクズ野郎だった!」

 

 

 

 …わかっていた。わかっていたはずなのに。『人殺しはいけない事』『人を傷つけるのはいけない事』。理解はしていた。口では自分は悪人だとのたまえた。でもそれは、真の意味でわかっていなかった。否、目を逸らし、居心地の良い“今”に居座ろうと理解を拒んでいた。

 

 

「…私は、ね?先生。悪人なの。悪役、みんなを傷つけて、それで、正義の味方にやっつけられる、悪役。」

 

 

 ──本当は、あそこで『掃除屋』として物語から退場しなければならなかった。悪役は悪役として正義の味方に倒された時点でその役目は終わっていたんだ。

 

 

「だから、ね?先生…私は、貴方みたいな、主人公のそばにいちゃダメなんだよ?」

 

 

 そう言うと同時に、少女は先生に向けて拳銃を構える。

 

 

「ホムラから、奪った拳銃…痛いかもだけど、我慢して、ね?きっと、主人公の先生は、悪役の邪魔になる。だから、ここで───っ!?」

 

 

 

 

 

 言い終わる、その前に先生は少女を───私を抱きしめた。

 

 

 

「せせせ、先生!?!?」

「そんな事ない!!」

「…せ、先生、話聞いて…」

「コモリちゃんはそんな悪い子じゃない!」

「ぅへ!?」

「コモリちゃんは引きこもりでちょっと臭くて不登校で勝手に私が口にしたエナドリを飲むような子だけど!」

「ふぇ!?臭…ってば、バレて…!?」

「それでも友達思いで他人を思いやれて、いざという時は人を助けるために体を張れる良い子なんだよ。」

「ぁ、あぅ…」

 

 

 こ、この、こいつ…耳元で言うなぁ!

 

 

「それに、悪いことを悪いって思って反省できるなら、コモリちゃんは良い子なんだよ。」

「…でも…私は、友達を、刺した……あの時、アイムは拳銃の引き金に手をかけてなかった。かけてないって…撃たないってわかって…『チャンス』だと思って…私はどうしようもない悪人で、友達失格なんだ…」

 

「なら、謝ろう!」

 

「…あ、謝る…?」

「そう。ごめんなさいって謝ろう。」

「で、でもそんなことで…」

「うん。許されないかもしれない。でも、友達ならそうやって諦めて逃げるんじゃなくて、悪るいことをした、それでもまだ友達でいてほしいって想いを伝えることが大切なんじゃないかな。ほら、“喧嘩”をしたならまず謝らなきゃ。」

「あ……」

 

 

 …そっか。

 

 

「…そう、だね。次あったら…そうするよ。私は…まだ友達でいたいから。」

「きっとあの子も許してくれるよ。」

「……ありがとう。先生。色々と。」

「いいよ。これが私の役目だから。」

「じゃあ、少し先生は待ってて。私はやることが──

「ダメだよ?」

「え?」

 

 

 抱きついた状態から離れ、先生を置いてやるべきことをやりに行こうとしたら先生に手を掴まれて何故か笑顔で凄まれた。

 

 

「はぁ、少しは大人を頼ってくれても良いんじゃないかな?先生そんなに頼りない?」

「い、いや…頼ってる、今だって…」

「なら今からも頼って欲しいな。何をしようとしてるのかは知らないけど私は生徒が危険な目に遭うって知って放って置けないから。」

「う…」

 

 

 …先生は、今シッテムの箱がない、いわばスッポンポンな状態。貧弱とはいえ弾丸の一、二発まではギリ耐えることのできる貧弱ヘイロー持ちの私以上にか弱い存在なんだ。だから比較的安全なここで待っていて欲しいんだけど…

 

 

「ん?」

「…うぅ」

 

 

 これは無理そうだ。

 

 

「…わかった。でも、私の後ろにいて、ね?流石に、私に先生を庇って戦闘する技術はない…そもそも、戦って勝てる保証もない。」

「わかったよ。それで何をする気なの?」

「…移動しながら、話そう。時間がない。」

 

 

 正直こんな突拍子もない話信じられるとは思えないけれど…まあ、先生なら信じてくれなくても手伝ってはくれるだろう。…それに、ワンチャン信じてもらえる私と先生の共通点があるかもしれない。

 

 ──なあ?諸君。

 

 

「…先生は、並行世界って信じる?」

「へ、並行世界?小説とかでなら聞いたことはあるけど。まあ、意味はわかるよ?」

「じゃあ、簡潔に話すと、この船は並行世界の私が作った船で、その建造目的は世界の白紙化。そしてこの船の主制御AIはおそらく今なおその役目を果たそうと動いてる。」

「待って待って待って????え、ちょ、どう言うこと?並行世界のコモリちゃん?」

 

 

 …まあ普通はそんな反応を示すだろうね。先生が『普通』だった場合の話だけど。

 

 

「……『ドクター?まだ休んじゃダメですよ?』」

「ひぇ!?!?…って、え?」

「んー…他は、なんだろう…指揮官?提督?マスター?ナナシビト?」

「待って待って待って!?なんでコモリちゃんがそれを知ってるの!?」

 

「…私は、キヴォトスの外を検知する技術をもってる…私たちの今の会話を、記録を覗き見している人がいることも知ってるし、先生が別世界でいろんなハーレム作ってることも……でも、別に先生が何者かを問う事はしない、し…別になんでも良い。先生は先生……だから隠さなくて良い。」

 

「な、なんか誤解があるようだから言っておくけどハーレムなんて作ってないからね!?」

「ふーん…?」

「…でも、まあ、なんとなくわかった。別の世界のコモリちゃんが作った戦艦がどうやってかこの世界にやってきて、元の世界でやろうとしてたことをこの世界でやろうとしてるってことで良い?」

「ん…流石。飲み込みが早い。」

 

 

 さーすがドクター。なんてね。先生が諸君と同じような“プレイヤー”なのか、ただ単に外のことを知るだけの私のような存在なのか、はたまた別の存在なのかは知らないけど、まあ話が通じてよかった。

 

 

「しかし…白紙化って…なんて事しようとしてたの…」

「なんか世界が滅んでたらしいよ。」

「何がおこったの!?」

「それは知らな───…まって。巡回の、PMC兵。」

 

 

 先生の口を押さえ、押さえ…自分の手が小さい!とりあえずなんとか押さえながら角から少し顔を出して呑気にタバコを吹かしている巡回のPMC兵を観察する。武器は手持ちの物と同種のアサルトライフル。彼らの機械のスッポンポンの体一つという装備の問題でホムラのような隠し武装もないことがわかる。

 …だが、地形や数が厄介だ。盾になるようなものも無い簡素な廊下。そこに3人のPMC兵。やはり艦橋が近くなってきたからか警備が固い。

 

 

「…どうする…?一人をやって、盾に…いや、でも挟み撃ちにされたら、詰み……先生に援護射撃…?無理…先生が狙われたらダメ…」

 

 

 考えれば考えるほど頭を抱えたくなる。ならば迂回は、と思ったがそれも無理だ。事前に頭に叩き込んでいた艦内図を思い返すがここ以外に艦橋へとつながる通路は大きく遠回りした先にある1つしかない。おそらくそこも警備があるだろうし、まず時間のロスが多すぎる。

 

 

「…となると、被弾覚悟のバンザイ突撃…」

「コモリちゃんコモリちゃん、」

「ん…なに?」

「これってさ、使えないかな。」

 

 

 そう言って先生が指差した先にあるのは…

 

 

「…!」

 

 

 横たわったロボットの残骸だ。

 残骸、ガラクタ。だがアイムとこの船に初めて入った時に見つけたものと同種のもので…

 

 

「やっぱり、そうだ!損傷はあるけど、休眠状態なだけ…まだ生きている!」

 

 

 おそらく船の主制御AIが墜落時に停止命令を出したんだろう。休眠状態に入っているがアイムの時と同じように何かしらの衝撃を加えればすぐにでも目覚めて侵入者を排除しに動き出す。

 つまりそれは活動が可能なほどシステムが生きていると言うわけで…しかもその製作者は別世界の私なわけで…

 

 

「工作の、時間だ…!」

「おー!」

 

 

 希望が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだこいつ!くそ!早───ぐわっ!?」

 

 

 拳をPMC兵の顔面にめり込ませ一発KO。流石あっちの私。性能は十分過ぎるほど。搭載されていた戦闘AIは近接戦でアイムに負けるほどだったけど、それも私の手にかかれば…この通り!!

 

 

「…あっという間だったね。流石。」

「ふふん…掃除屋にかかれば、こんなもの…!」

 

 

 私たちが行ったのは簡単な修理と、オートマタのラジコン化。即席の掃除屋の完成というわけだ。だが、有り合わせのもので作った影響かその操作性と耐久はベネディクトゥスシステム抜きの掃除屋や散し屋どころか、列車戦でアル様達にぶつけた傀儡兵以下。

 

 でもー?そこに私の操作が加わればあっという間に豹変。PMCの一般兵なんて何人集まろうが敵じゃ無い。私は掃除屋ぞ?

 

 

「ふっふっふ…私たちを、倒したかったら…ゴリアテくらい、もってこいって、こと…!」

「あ、コモリちゃん、そんなこと言うと…」

 

 

「うわあああああああ!!!」

 

 

「っ!?…もう、増援…でも何人集まっても……え?」

 

 

 廊下の向こうからかけてくる5人ほどのPMC兵。先ほどの約二倍程度の戦力。だが人形を手に入れた今の私には関係がない…そう思って戦闘体制をとったに関わらず、彼らは私たちが見えていないかのように、真横を通り抜けていった。

 

 

「…なんだった、の?」

「何かから逃げてるように見えたけど…」

 

 

 ────ミシリ。

 

 

 私たちが呆気に取られ、去っていくPMC兵たちのケツに視線を取られていたちょうどその時。なにかが壊れそうな、嫌な音がして────

 

 

「───へぁ?」

 

 

 

 廊下の壁が吹き飛んだ。

 

 

 

 ………私の新生掃除屋ごとである。

 

 

「掃除屋まーくつー!?!?!?!?」

「って、ちょ!?コモリちゃん!あれ!!」

 

 

 廊下に広がる土煙。その中から、しかも随分と上の位置で光る真っ赤な星。そして巨大な影…

 

 

『シシシシs、侵入、者、確kkkkkにnnnnn。めめめ、命令に、従い、抹殺開始ししししsシィィィィィィィィィィ!!!!!』

 

「ゴ、ゴリアテ!?!?!?」

 

 

 禍は口より出て病は口より入る。

 いつだって、最悪の事態は、人の言葉(フラグ)によって引き起こされるのである。

 

 

「無理無理無理かたつむり!!!あんなの、無理!掃除屋も、ないのに!勝てる相手じゃ、無い!!」

「に、逃げよう今すぐに!」

「そうしよ───伏せて!!」

 

 

 先生の頭を押さえそのまま一緒に床につっぷす。

 瞬間頭上で鳴る風切り音に、先ほどまで私たちがいたところを通り抜けていくミサイル。そして…

 

 

「あ…逃げ道…」

 

 

 …それが当たって崩れ落ちる廊下の入り口。

 

 

「ふざっけんな!自分たちの船を自分で壊してんじゃねぇよ!テメェの作成者も草葉の陰で泣いてんぞ!!!」

「口悪!?」

『シシシシs、侵入者、ハイジョオオオオ!!!!!』

 

 

 どうするどうするどうする!?逃げ道は潰された!抵抗する手段も相手の登場演出でついでみたいに潰された!囮にできそうなやつは全部逃げた!ここにいるのは私たちだけ!相手の隙を狙って残った逃げ道である『前』に逃げるか!?無理!私も先生もそんな運動神経ない!ゴリアテに潰されて終わり!なら、なら…な、ら………

 

 

「無理!!!」

「コモリちゃん!?」

 

 

 詰みだ詰み!先生と一緒に仲良く潰されて死ぬんだ!そしてキヴォトスはリセットされてみんな問答無用であの世行き!やったねコモリちゃん!死後の世界!みんなで行けば怖くない!怖いわ!

 

 

『ダダダ、弾道、修正!狙い、侵入者2名!』

「うわああああ!!先生ぇぇぇ!!なんとかしてぇぇぇぇ!!??」

「っ!こ、こうなったら…!くらえ!アロナビーーーーーム!!!!(いないけど!)」

 

 

 

  先生がそう叫びながら指を銃の形にして頭部の大砲を構えたゴリアテに向けた────────その瞬間だった。

 

 

 

「…え?」

 

 

 

 爆炎に包まれるゴリアテの頭部と、その衝撃で吹き飛ばされる大砲。

 

 

 

『ジ、ジジ…活動、継続…不可……システム、停止、します…』

 

 

 私たちの目の前に立ち塞がっていた巨体は赤い光を失い、崩れ落ちた。

 

 

「へ、え?先生…?」

「え、あ、わ、私が…?」

 

 

 

 

「先生!コモリ!」

 

 

 その時、ゴリアテがぶち破った壁の穴の向こうから聞こえてきた聞こえるはずのない人の声。

 

 

「…あ、アル様…?」

「大丈夫!?間に合ったわよね!?怪我はない!?」

 

 

 スナイパーライフル片手に心配という感情を顔に浮かべながら走ってくる赤い女神様。

 

 

 

「あ、アル様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「うぇ!?」

 

 

 

 我らが救世主、アル様の登場に私はたまらず抱きついたのだった。




「本当にビームが出たのかと思ったのに…」しゅん…


この章で最終章にするつもりなので何とか走り切りたい。
なのであとちょっとだけ付き合ってくださいな。

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