いいもんね。私はおじさん出たから。(マウント)
「ね、ねえムツキ?私たち道間違えたのかしら?」
昨日までは残っていた雪に包まれた美しき廃都市は、突風か何かによって吹き飛ばされたのかみるも無惨な姿に生まれ変わり、一際目立っていた時計塔らしき建物は何かにぶつかったのか、半ばから折れていた。
そんな光景を不審に思いながらアルたち一行がたどり着いたのは目的地であるはずの、『飛行戦艦』が停泊していたはずの場所。
しかしそこにあるのは───
「何もないじゃない!?!?!?」
───いやそもそも何もなかった。
あえて上げるのなら、太陽光に照らされ鬱陶しいくらいに輝く雪原と、不自然に“何かが埋まってましたよ”とでも言いたげな地面の凹みと巻き上げられたような土の山。
たったそれだけ。されどそれだけの情報が彼女に認めたくない現実を叩きつけようとしていた。
「置いていかれたみたいだね〜」
「な、なんですってぇ〜!?!?」
あまりに容赦なく叩きつけられた。
彼女は白目を剥き、叫ぶ。もはやどこぞの観測者諸君や仲間たちにとってはお家芸のようなものではあるが、本人は至って真面目なのである。真面目に困っているのである。かわいそうに。
「…飛行船の残骸にいると言っていた休眠中のPMC兵が全員不在の時点で、なんとなくこうなる予感はしていましたけどね。」
「なら早く言いなさいよ!?」
「いつ言ったって結果は同じでしょう。」
「ごご、ごめんなさいアル様ぁ!私の足が遅いせいで…今償います!!」
「ちょ、ハルカは弾を無駄にしない!」
ストッパー不在の場は混乱を極めていく。たとえアルが、ムツキに常識があったとしてもそれは止まらない。後者はこの状況を好み進んで加速させるだろうし、前者はそもそも混乱している側だ。
さて、そんな彼女たちを普段止めている極めて常識的なストッパーであるカヨコといえば、先ほど何かが動いていると言って走り去ったばかりで────
「…社長、ごめん。なんか落ちてた。」
「んー!んー!!」
「なんで公安局長が捨てられてるのよ!?!?」
さらに混乱を加速させる材料を持ってきたところだった。
彼女が引きずってきたのは縄で何重にも簀巻きにされ、口枷までつけられた犬耳の金髪長身美少女──という肩書きが台無しな状態のカンナさんであった。どうやら動けないらしくビッタンビッタンと陸に打ち上げられた魚のように跳ねている。
「と、とりあえず縄を解いてあげましょ?」
「ぐ、ぷはっ!すまない。助かった。」
「そ、それで?一体ここで何があったの?」
「っ…すまない。全ては私の責任だ。」
本来犯罪者であるはずの便利屋68が社長、陸八魔アルに頭を下げた公安局長カンナはここで起こったことを説明する。
まず、コモリたちが船の制御権の確保に成功したこと。そして欲に目が眩んだのか元理事率いるPMCたちが自分たちに銃を突きつけ拘束したこと。その後自分は船から放り出されたが、先生と新戸コモリはおそらく拘束されたまま連れていかれたのだろうということ。
「奴らの企みに気づくことができなかった。私が戦うことのできないお二人をお守りするべきだったというのに…!私の責任だ。」
「あ、頭を上げて?急な不意打ちじゃ仕方な───
「それは許せないよねー」
「ムツキ?」
状況が飲み込めないのか慌てた様子のアルの言葉を遮ってムツキが口を開く。口調こそは普段通り。しかしその声色には隠しきれない怒りが滲み出ていた。
「私たちに嘘の情報を掴ませて自分たちだけ脱出した上に?私たちの大切な仲間のコモリちゃんに?たーいせつな先生まで奪って、無事に逃げられるとでも思っているのかな?」
表情も変わらず笑顔のまま。しかしそれがかえって恐ろしい。
「これはもう、ぶっ殺すしかないよね!!」
「…そうだね。流石に、度が超えている。」
「は、はい!アル様に喧嘩を売ったやつはみんな撃ち殺します…!」
初めに声をあげたムツキに続いて、次々と怒りを露わにするメンバーたち。それをアルは少し戸惑うように見回し、そして───
「そうね!私たち便利屋68に喧嘩を売った意味を理解させてあげましょう!」
結局そっち側についた。
とはいえ、突然のことに戸惑っていただけで彼女自身も大切な社員と経営顧問を奪われて黙っておくほどのお人好しでもない。故にこうなるのは遅かれ早かれの問題ではあるのだが。
元理事たちへ宣戦布告をかますアルたち。さあ報復だ。そう意気揚々と一歩踏み出したところで重要な問題に気づく。
「ってどうやって追いつくのよ!?」
移動手段がないのである。
撃つことのできる、または殴ることのできる範囲内にまで近づかなければどっちにしろ報復することはできない。そもそも飛行戦艦が奪われた以上キヴォトスに戻ることすらできないかもしれない。
さあどうしよう。万事休す。凍死を待つだけ───そう思われたその時である。
「くっくっく…念には念を。こうなった時の可能性を考えて手は打ってあります。」
「なんですって黒服!?」
悪役気に笑う黒服が指を刺したのは船があった場所より少し離れたところに突き出ている小さな岩石。
「実は出発する前にこのようなものを発見していたのです…」
黒服に連れられその裏に回った彼女たちが見たものは…
「…飛行機、で合ってるのかしら…?」
疑問系。
アルがそれを見て初めに呟いた言葉がそうだったわけは、ソレの外見にあった。
弾痕のある装甲に爆発かなんかで吹き飛んだ壁。おもいっきし割れたガラスにひん曲がった機関銃の銃身。
まさにそれは小型輸送機の、“残骸”であった。
「しかも中になんか変なタコみたいなロボットの残骸もあるし…動くの、これ?」
「大丈夫です。エンジンが動くことは保証します。何せ無名の司祭の遺物……ただ…」
「ただ?」
「飛ぶかどうかは保証しかねます。」
「ダメじゃないそれ…」
見上げればそこには翼に開いた大きな弾痕が。
「とはいえこれ以外に追いつく方法がないのもまた事実。どなたか飛行機が操縦できる方はいますか?」
「貴方できないの!?」
「私は無理かな〜やってみたいけどね〜。」
「…車なら行けるけど…」
「やったことはありませんがアル様のためなら…!」
「あー…あの、私ならできるかもしれません。」
散々な有様な皆の姿を見て小さく手を上げたものが一人。瞬間、その場にいる全員の視線がその人物に殺到した。
「操縦者確保。よろしくお願いしますね?カンナさん。」
「え、本気でこの船を飛ばす気か?」
「よし!みんなパパッと修理してあいつらに追いつくわよ!」
「本気で!?」
こうして彼女たちはガラクタ同然の飛行機を飛ばすことになったのだった。
────なったのだった、が。
「ちょ、ちょっと!?右右右右!!」
「ダメダメ右もダメです!」
「は、羽がミシミシ言ってます!」
「だぁ〜!!もううるさい!少し黙っててくれませんかねぇみなさん!」
一方的に飛び交うは銃の玉なんかとは比べ物にならないサイズの艦砲。各自が所持しているアサルトライフルなどでは頑強な戦艦の装甲を貫けるはずもなく、かと言ってこちらに搭載されていた機関砲は銃身がひん曲がって使い物にならない。
彼女たちが駆る飛行機は6人分の命を乗せ、ついに元理事たちが乗る飛行戦艦にたどり着くことができた。
しかし当然そのような不審物を目撃した彼らが迎撃という選択肢を取るのは必然であり、彼女たちは弾幕の雨霰にさらされていた。
「…まずいですね。羽もですが、エンジンが予想外の負荷に耐えられません。爆発します。」
「動くって言ったじゃない!?」
「動くとは言いましたが耐えられるとは言ってません。」
「無能!!!!」
カンナの巧みな操縦技術のおかげでなんとか未だ空を駆ることができているもののすでに搭乗部に一発、尾翼に一発。計二発の被弾をもらっている。アルたちに修理されるまでは雨風にさらされボロボロになった廃船同然の姿であったこの船にはあまりにも重すぎる負担。
それはついに形となって現れる。
「っ!?なんかバキって言った!?」
「…まずいね、尾翼が吹き飛んだ。」
そして不幸は立て続けに起こる。
「まずい!みなさん伏せてください!被弾します!」
船の損傷を考慮した回避運動しかできない故の、どう足掻いたって避けられない被弾。それがついに、当たってはならない場所で起こってしまった。
「…左エンジン停止!これ以上の飛行は無理だ!」
「なんですってぇ!?」
左のエンジンが機能を停止した──と、いうよりもその存在が羽ごと艦砲によって消し飛ばされた。バランスを失ったこの船での飛行はこれ以上は不可能であり、たまに当たるのも時間の問題だ。
「どうする陸八魔アル!」
「え、な、なんで私!?」
「貴様が現状のリーダーだからだ!そうだろう黒服!」
「ええ!今この状況を乗り越えられるのは貴方しかいません!あの掃除屋も言っていましたよ!貴方ならどんな状況でもなんとかしてくれると!」
「頑張ってアルちゃん!私たちの命も先生たちの運命もアルちゃんにかかってるよ!」
「く…!お願い社長!頑張って…!」
「大丈夫ですアル様!きっとうまく行きます!!」
──期待が重い!!!
そう叫びたい思いを心のうちに隠し、彼女は操縦席を掴んで立ち上がる。私は社長、みんなを率いるリーダーなのだ。真のアウトローを目指すのならばこのくらいの苦行跳ね除けて見せねばならない。
期待に応えるため、彼女は決断した。
「船に突っ込みなさい!!」
「本気か!?この弾幕のなかだぞ!?」
「ええ!本気よ!私が信じなさい!この状況を打破するには、この手しかない!」
「…っ!これで死んだら恨みますよ!」
カンナが思いっきり舵を左に切り、残った右エンジンも全力で稼働させ火を吹かす。船は迫り来る砲弾の雨を潜り抜け、数発被弾しながらも耐え抜き、そして────
「突艦!!!」
飛行戦艦の後方、エンジンや艦橋の付近に突き刺さった。
◆
「とまあ、こんなことがあったのよ!」
「お、おおー!!!」
胸を張るアル様。それを私はキラキラと見つめる。
ああ、さすがはアル様だ。普段はポンコツでもやる時はしっかりやられる天才的なお方。生粋の生まれ持ってのアウトロー!やることなすこと全てが派手で、その全てが見事物事の解決に直結している!
「さすが…アル様…!」
「ふふふ…まあ?それほどでもないけどね!」
「…まあ、あの後廊下で躓いた衝撃で起こしちゃったロボットがゴリアテだったなんてのはびっくりしたけど…」
「…やっぱ今の言葉、撤回します。」
「なんでよ!?」
やっぱアレ起こしたの貴方か!!!
飛行戦艦内 某所
「っ…はぁ、はぁ…無事か?アイム。それは抜くなよ。血が出てしまう。」
「……ええ。なんとか。」
薄暗位廊下の中、全身に打撲痕を負った少女の問いに肩にナイフが突き刺さった少女がどこか遠くを呆然と見つめながら応える。
「…大丈夫か?」
「大丈夫、ですよ。…私以上に手痛くやられたあなたに言われては世話ないですね。」
「…無理するな。お前とあいつの関係は知っていた。知った上で、元理事に従おうと言ったのは俺だ。」
「…」
「すまなか──
「ホムラ」
一歩の少女の言葉を遮った彼女の表情は、悲しみでも怒りでもなく、なぜか明るかった。
「私は、なぜあの人に追いつけないのか…その理由が少し、わかった気がします。」
「…理由?」
「ええ…彼女は、生粋の“掃除屋”だ。環境がそうさせたのではなく、生まれた時からそうだったんだ。その証拠に、貴方は見ましたか?あの顔を。」
「顔?」
「ええ!無表情だった!私のように、嫉妬心からくる喜びを感じたり、築いた関係を破壊することへの罪悪感も感じさせない、完全な無!ああ、本当に、素晴らしい…!まさに、ただのなんの変哲もない日常のように、朝起きてご飯を食べる、それだけの動作のように!アレこそが、私たちの目指した真のアウトロー!!!なんて運のいいことか…それを直近で見ることができるなんて…!」
「……」
「………でも、“友達”としては、あんな顔させたくありませんでしたね。」
「…!アイム、お前…」
「ふふ、心がふたつある〜、ですかね?……わかっていますよ。こんな甘い考えを持ってしまう以上、私がアレになれないというのは。」
自嘲的に笑う少女。それをもう一人の少女は意外そうに眺め、そして───
「っ!ホムラ!」
「え?」
アイムはホムラを突き飛ばした。
押された勢いのまま少女が見たのはアイムの後ろに立つ、古びたロボットとその手に握られた黒光りする銃火器。
そして次の瞬間には撃ち抜かれた相棒の姿だった。
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