引き篭もりアーカイブ   作:有機栽培茶

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ほんとはね、40話ぴったしで終わるつもりだったんです。おわんねーわこれ。

後ガチャで純正ウイ来ました。ミモリも来ました。勝ち申した。


機骸兵の独白

 

 当機は『リナ』という個体識別名をマスターによって与えられた、戦闘から普段生活まで、マスターの至らないところのあらゆる面をカバーするために作られた完璧なサポートAIです。

 

 

『おはよう御座います。コモリ。』

「ふぁ…おはよ、リナ。」

 

 

 リナの製造目的は非常にだらしないマスターの生活を支えるため。そして『マスターの孤独を癒すため』というなんとも曖昧な理由でした。

 

 マスターはいわゆるボッチと呼ばれる人種です。不登校で友達もおらず家の外にもでない。買い物でさえ、リナとは別に作り出したロボットを使って行っています。よくここまで生き延びて来れたなとリナが独自に行なった計算結果と現実を比較して驚愕したのは久しい記録です。

 

 

 そんな所謂『ダメ人間』に分類されるマスターもしっかりと学生ながらに仕事を行なっております。それは傭兵と呼ばれるもので、お金さえ払えば法律的に黒な行為でも行う、何でも屋と呼ばれるものでもありました。

 そして、小さな抗争から殺人まで。マスターは自らが生み出した“傀儡”を用いて、金さえ払えば必ず依頼を達成する『掃除屋』としての名を裏社会に轟かせるまでに至っていました。

 

 当然それは褒められたことではありません。マスターの行っていることは間違いなく“悪行”であり、何よりそれは多くの敵を作り出すに至ってしまうからです。

 

 事実、ゲヘナの風紀委員やトリニティの正義実現委員会、ヴァルキューレ警察学校や連邦生徒会のSRT特殊学園にさえも目をつけられていました。そして何より、リナが行った計算結果ではいずれマスターはこの裏社会の頂から転落することになるという結果が出ていたからです。

 

 

 ですがマスターはやめませんでした。これ以外に生きていく術がないから。自分はこの世界に足を踏み込みすぎたから。ここから抜け出すには遅すぎる、などと理由をつけて辞めようとしなかったのです。

 

 

 ですので、ああなってしまったのは当然の結果と言えるのでしょう。

 

 マスターは、新戸コモリは同じ傭兵集団『便利屋68』及びシャーレの『先生』に敗北。その隙を狙われ彼女本人も”右目の失明“という、これまでの行為に対する代償を支払うことになりました。

 

 

 

「…リナ。仕事の時間だ。」

『了』

 

 

 それからでしょうか。マスターはガラリとその様子を変えました。何かが吹っ切れたのか、辿々しい口調ははっきりとして自信のあるものに変わり、自らも外に出るようになりました。

 しかしマスターは、掃除屋というブランドが地に落ちたにも関わらず足を洗うような真似はしませんでした。

 銃を手に取り、自らの身体で仕事をこなすようになったのです。

 

 リナはマスターに忠告をすることはできても、その行動を阻害することは許可されていません。

 

 故にリナも以前のマスターを守れなかったという失敗を2度と犯さないよう、これまで使用していたドローンのボディからマスターがこれまで使用していた”傀儡“へと体を変え、『掃除屋』は小柄な少女と大柄なオートマタの二人組として生まれ変わることとなりました。

 

 

 

 新生掃除屋はこれまで以上にその猛威を振るうこととなりました。以前”掃除屋“としのぎを争っていた『情報屋』を下し、一度は負けた『便利屋68』に対して復讐を果たし、『先生』が率いるシャーレの部隊相手に対等に渡り合うことすらできるようになりました。

 

 一度は地に堕とされた掃除屋は再びその頂を手にすることができたのです。

 

 

 再び手にした頂。

 

 

「お、新作のプリンだ。食べたいな。でも数量限定か…」

『会社に問い合わせて用意するようにいいますか?』

「ダメダメ。それは最終手段。こういうのはちゃんと並ばなきゃ。んーと…その日の予定は……うわ、前日の夜から長期の依頼入ってるじゃん。」

 

『速報です!』

 

 

 しかしそれも、束の間の平穏というものでした。

 

 

『シャーレの先生が意識不明になりました!』

 

 

 

 シャーレの先生が重傷を負い、ベットに横たわって息をするだけの物言わぬ肉塊となった。そのニュースから世界は混沌に陥っていきました。

 

 かろうじて形を保っていた”学園生活“は崩壊し、平穏は跡形もなく消え去りました。

 

 本当にあっという間でした。

 

 砂上の楼閣が崩れ去るように、キヴォトスは『先生の昏睡』という終末ラッパを皮切りに、文字通り崩れ去ろうとしていたのです。

 

 マスターも裏社会のトップとして様々な手段を用いてそれを防ごうとしました。ですがその全ては無駄に終わり─────結果、マスターは切り札を切ることを決意しました。

 

 

 

『テセウスの方舟計画』

 

 

 

 マスターが作り出した”白紙化装置“『マステマ』と、それを起動するための”鍵“である『サンクトゥムタワー』。その二つを用いて行うことのできる『世界の白紙化』、そして『再構築』。

 完璧なハッピーエンドを迎えることができないのならばトゥルーエンドを掴み取ろうと、マスターが考え出した苦肉の策。

 

 成功する可能性がごくわずかでも、マスターは救えるものを救うため、そして己の平穏のため、それを実行に移すことを決意しました。

 

 

 

「…あいつは死んだ。」

「お前の妄想を叶えるために、その身を犠牲にした。」

「お前のせいで!お前のせいであいつは…!!」

 

「……」

 

「…俺は降りる。…俺は、あいつと一緒にいられたら、それでよかったんだ。」

 

 

 

 たとえ友と呼んでくれた者が死んでも

 

 

「コモリさん!やめてください!」

「こんなのって、こんなのって絶対ダメです!」

「まだなにか、他の方法があるかもしれないじゃないですか!」

 

「どうか…どうか考え直して…」

 

 

 

 たまたま趣味が合い、立場を忘れて好きなものを語り合った同志の声を無視しても

 

 

 

「なんで!なんでこんなことするのよ!」

「みんな、みんな少しおかしいわよ!」

「こんなことは間違ってる!まだ止まれるわ。だから…」

 

「……そう。どうしても、やめないのね。」

「…私が憧れたのは、貴方みたいな人間じゃないわ。」

「だから、私が憧れたアウトローとして!倒れて動けない先生の代わりとして!貴方を止めて見せる!」

 

 

 かつての強敵であり、良き仕事仲間にまでなったライバルを打ち倒しても。マスターは止まらなかった。

 

 自らの前に立ち開かる全てを薙ぎ倒し、目的のため自身の全てを賭けてマスターは進み続けて、そして、その悲願は遂に達成されようとしていた。

 

 飛び立った飛行戦艦マステマ。

 

 赤く染まった空をかけ、同じように赤く染まったサンクトゥムタワーを目前に控えたその時。

 

 それは起こってしまった。

 

 

「っ!襲撃!?」

 

 

 船内に突如湧いて出てきた無数のオートマタ、『無名の守護者』。無名の司祭が遺した遺産たち。彼らの野望を妨害するも同然なマスターの行為を邪魔しようと訪れた尖兵達。

 

 それらを排除するため、苦戦している防衛用オートマタを支援するためにマスターから離れたのが良くなかった。

 

 

『マスター、敵兵力の、殲滅成功を、報、告……マスターっ!!』

 

 

 艦内に侵入した全ての敵対勢力を殲滅しおえ、ボロボロになった体を引き摺りながらマスターの元へ戻ったリナが見たのは白髪の、黒に堕ちた「アヌビス』に銃口を向けられたマスターの姿と、直後、胸から噴き出す真っ赤な鮮血でした。

 

 

『マスター!』

 

 

 目標は達成したとばかりにこちらを静観するアヌビスを無視して、リナはマスターに駆け寄ります。赤く染まった胸元。さらに青白くなっていく普段から悪い血色。明らかな致命傷。また守れなかった。リナを生み出してくれたマスターは、今まさに冷たくなろうとしていた。

 

 

「…り、な…」

『マスター!喋らないでください!今治療します!』

「…わかってる、でしょ。致命傷…助からない…」

『否定します!大丈夫です!助かります!リナは怪我の治療だってこなせるマスターが作ってくれた完璧なロボットなんです!』

「は、はは…」

 

 

 マスターは震える手でリナの顔に触れます。しかしリナの冷たい身体ではマスターの今まさに消え去ろうとしている温もりを感じ取ることはできません。

 

 

『マスター!』

「ごほっ…聞いて…ちゃんと、私の言葉、を…」

『はい!聞いてます!聞いてますから!もう喋らないで…!』

 

「リナ…君は、自由だ。」

 

『…マスター?』

「私は、もう君を縛ることはしない。君は、これから、自由に生きて、君のしたいことをするんだ」

『何を、いっているのですか?』

「私は、友達が欲しくて、君を、人間のように、感情や、欲望を持つように設計した。」

『…』

「だが…私の都合で、それを縛り付けてしまっていた。悪く思っている。」

『…マスター』

「だけど…もうすぐ、君を縛るものはいなくなる。」

『マスター!!!!』

 

 

「っ!?これは…別世界のへ転移…?……こんなものを隠していたなんて」

 

 

 アヌビスが黒い穴に入って消えていく。船の揺れがさらに増していった。

 

 

「だから、これは最後の命令だ。」

 

 

「自由に、生きなさい。」

 

 

 マスターがリナの顔を掴み、強く覗き込んでそういった。

 

 …リナは、マスターの行動を阻害することはできない。マスターの命令は絶対厳守だから。

 

 今まではそれになんの疑問も抱かなかった。けれど、なぜか、この時だけは、胸にどこかが痛んだ気がした。

 

 

 

「どうか貴方に、あふれんばかりの祝福を」

 

 

 

 彼女の手の上で光輝く宝石(神秘)。それがリナに吸い込まれるように消えていくと同時に、マスターの四肢はガクンと糸が切れたように地面へと垂れ下がった。

 

 

 マスターはもう、息をしていなかった。

 

 

 

 

 

 

 その後、リナはマスターだったものを箱に入れて、船が墜落した雪原の小高い丘に埋めました。そこにリナの使っていた、マスターにもらった銃、ウィンチェスターを刺せば簡易的なお墓の完成です。

 

 …リナは考えます。

 

 自由に生きるとはなんなのか。

 しかし答えは出ませんでした。リナにはわかりません。これまでマスターに従うことが自分の全てだったリナにはしたいことがありません。マスターがしたいことが、リナのしたいことだったのです。

 

 

 だからリナはマスターがしたかったけれどできなかったことをする事にしました。

 

 かつてマスターが手に入れようとして失敗したペロロジラ人形を手に入れました。マスターのお墓に入れました。

 

 マスターが見たがっていた映画を観てきました。映像は撮れなかったのでその感想をマスターに話しました。

 

 マスターの食べたがっていたプリンを買いました。腐るといけないので少し供えた後、中身は野良猫にあげ、残りは墓に入れました。

 

 

 ───いつしかマスターのお墓はいっぱいになっていて、マスターが小さくなって空いたスペースも埋まってしまっていた頃。マスターのやりたかったこともほとんどなくなってしまっていました。

 

 

 それらが全てなくなってしまったらどうしよう。

 

 

 そんなことを考えながら、今日もリナは墓を後にします。

 

 

 

『マスターが、したかったことを、リナがするために』

 

 

 

 マスターができなかったことを、リナがする為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『テセウスの方舟計画、障害、排除、開始』

 

「祝福じゃなくて呪い残してんじゃねーか!!」

 

 

 黒い穴からこちらに伸ばされ、寸前まで迫った機械的な腕という危機的状況の中、頭痛と共に流れ込んでくる記憶を覗き込んだ私はそう叫ばずにはいられないのだった。




コモリと出会う前の掃除屋が何してたのかって話

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