「滑り込みセーフ、というやつですかね!」
「…あ、あい…む…?」
暴風吹き荒れる船の外。あと数コンマ遅ければその暴風によってあっという間に吹き飛ばされていたであろう私の手を強く握りしめて離さないのは数時間前に喧嘩別れと言ってもいい別れ方をした少女。アイムだった。
「いっつつ……そろそろ限界…ホムラ、手を貸してもらっていいですか!?」
「そんなに叫ばなくても聞こえる。」
ホムラと一緒に私を引き上げてくれたアイムの肩は赤く染まっており、側頭部からは私が鉄パイプで殴った影響か血が流れた後がある。それ以外にも何者かと交戦したのか彼女の着ていたワイシャツはボロボロで至る所に打撲や擦り傷が目立っていた。
「なん…で…?」
「なんでって、そりゃあ…───
『状況更新。”アイム“及び”ホムラ“を確認。過去データより中立勢力と判断。警告。即時に戦闘態勢を解除しこの場から退避せよ。繰り返す。即座に戦闘態勢を解除しこの場から退避せよ。拒否する場合敵とみなし──「排除する。」
掃除屋の言葉を遮るように、ホムラの鋭い拒絶の言葉が場に響く。
返事と同時に構えられた彼女の愛銃、MTS255の銃口には目に見えてわかるほどの神秘が収束し、高密度に集まった神秘は特有の輝きを放ち始め──
「悉く、全てを灰燼に帰せ!『
放たれた。
『高温を検知。攻撃と判断。
目をつぶすほどの光量を放つ金星は光線となり、掃除屋の展開したシールドを打ち破り、勢いそのままに掃除屋を吹き飛ばして行った。
「───友達、だからですよ。」
「……え、なんて?」
「友達……ああもう!間に挟む文が多すぎます!!ホムラのせいですよ!?」
「私のせいか!?せっかくかっこよく決めたのに!?」
「あ、メタいのは、やめた方がいい…」
テイク2
「───友達、だからですよ。」
「っ……なん、で………だって、私は、貴方を…」
「ナイフで刺したから、ですか?」
私は引き上げられてからそのまま抱きしめられるようにされ、余計見えやすくなった彼女の傷跡を見つめる。赤く染まったワイシャツ。応急手当てとしてか、彼女の元々ないも同然な胸を押しつぶすように巻かれた包帯もまた同様に真紅に染め上げられていた。
彼女の先ほどの反応からも、痛みが引いていないことは明らかだ。
…全て、私のせいだ。
「確かに、驚きましたよ。何せ神秘によって守られ、そんな軍用ナイフ如きで付けられないはずの傷を思いっきり付けられたんですからね。」
「ぅぐ…ごめん、なさい……」
「だから私が貴方のことを嫌いになって友達じゃなくなった、と?」
「………ぅん…」
「ヴゥァカじゃないですか貴方。」
「いひゃい!?」
ほおをぷにっとつねられた。
「私がその程度で絶交するような心の狭い人間だと思いました?」
「は、はにゃひて…」
「はぁ…それどころか貴方に崖から蹴落とされたり裏切られたり銃で撃たれたって絶交しませんよ。そもそも私なんてそれ以上に酷いことしてますし絶交になんて絶対なりません。というかしてあげません。これでも私貴方に結構クソデカ感情抱いてるんですからね?」
「じ、じぶんでいうの…?」
「ええ言いますよ。何度だって言ってあげます。私は貴方のことがだいだいだいだいだーいすきなんです。だってこんなぷにぷにで可愛い幼女があの掃除屋の中身だなんて、惚れるしかないじゃないですか!」
恍惚とした表情になぜか背筋がゾワっとなるような妙な感覚に襲われた。
「…で、でも、なにか、償わないと…私が、納得できない…」
「それもそうですね。確かに償いとは被害者へのものだけではなく加害者がその出来事に区切りをつけるためにも必要なこと………いいことを思いつきました!貴方のそのもちもちぷにぷにな柔肌ほっぺにきききき、んん!ちゅちゅ、ちゅ、ちゅーを────
「くだらないことしてないで俺を助けろ情報屋ァ!!!」
「……邪魔が入りましたね。」
何か邪なことをほざきそうになっていたアイムの言葉を遮るように男の叫びとも怒声とも聞こえるような声が聞こえてきた。
声のする方向に視線を向けるとそこにあったのは穴の端にかけられた機械的なごつい手で落とされないよう必死に飛行船にしがみつくPMC元理事の姿だった。
「やあやあ。数時間ぶりですかね?雇い主さん。」
「御託はいい!さっさと俺を助けろ!」
「助けたいのは山々なんですけどねぇ…ご覧の通り私肩を怪我しておりまして……貴方のような巨体を持ち上げるのは不可能かと…」
「ならテメェじゃなくてもいい!ホムラ!俺を助けろ!」
「…すまないが、手を洗ったばっかなんだ。貴様の重油でギットギトな手は握りたくない。」
「そんな汚くねえよ!?」
「くそっ!貴様らふざけているのか!?俺と貴様らで交わした
──契約。
それは取引を行う際などに相手と交わす約束事。前世でも書類などを使って行われていたこれは当然、この世界にも存在し、そしてこの世界において『契約』はより重要な意味を持っている。
前世でも決して軽々しくはなかったその意味はより重く、絶対的なものになっている。そして、私はそれらにより絶対的な強制力を持たせることのできる人物を知っている。
目の前の先生を背負っている男、黒服だ。
彼は『契約書』を用いて相手と自分に、そこに書かれた事項を強制する力を持っていることを知っている。
「”依頼“だ!俺を助けろ!!!」
それがどう足掻こうと無視できない絶対的なものであることを。そして。
「……な、なぜ発動しない!?」
その弱点も。
当然、当事者である彼女たちもまた知っているのだろう。
「黒服。確認です。」
「はいなんでしょう?」
「私達とこの男がかつて結んだ契約は“私たちは男の出す依頼を必ず受けなければならない。”“私たちは男に危害を加えることができない。”“男は対価として私たちの要求する報酬に応えなければならない”。でしたよね?」
「ええ、そうですね。」
「ならなぜ発動しない!?」
「いえいえ、ちゃんと発動してますよ?私たちは、貴方の依頼を受けました。」
「だったら──
「ですが、貴方は私たちに対し報酬を払っていない。」
「…は?」
「契約の第三項。貴方は対価として私たちの要求する報酬に応えなければならない。」
「そして私たちの要求する報酬は、前払いでこの主従契約を解除することです。」
「……は?」
随分と間抜けな声が男から漏れた。
「そ、そんなこと許されるわけがないだろう!?要求する報酬を変更しろ!!」
「拒否します。この点において貴方に変更権はない。」
「…お、恩を忘れたのか!?あの時貴様達を拾ってやったのは…!」
「ええ覚えてますよもちろん。でもねえ…もう十分だと思ったんですよ。これまで貴方のどんな無茶振りにも答えてきましたし、今回に至っては貴方のあまりにもな愚行によってコモリさんは傷つき、私は彼女を裏切らなければならなくなってしまった。それに見てくださいよこの怪我。貴方が完全に支配したなどとほざきやがりましたこの船のオートマタ達に不意打ちでやられた傷です。つまり貴方のせいなんですよ?私のような美少女に傷がついたのは。」
「…俺も、お前には感謝してる…この足をくれたのも忘れていない。だが、お前のせいでアイムが傷つくのなら、俺は降りさせてもらう。」
「と、いうわけで私たち二人は貴方を助ける報酬として前払いでこの契約の解除を要求します。」「しまーす。」
黒服から受け取った、おそらく彼女達の契約書であろうものを必死にしがみつく元理事の前にペラリと見せびらかすように広げ、それを見た元理事は今までに見たことがないくらい熱で顔を赤く染め上げた。
「き、貴様らこんなことをして許されると…!」
「そういうのいいですから。ほら早く早く。イエスかノーか。契約を解除するか、今ここで死ぬか。どっちにします?ほら、早くしないと掃除屋が目覚めちゃいますよ?」
『熱異常発生…自動修復システム起動…再起動まで、あと、32秒…』
「…そろそろ掃除屋が起きる。もう専用弾がないから『明けの明星』は打てないぞ。」
嘲笑うように契約書をぴらぴらと空中で見せつけるアイムと、そろそろ限界なのか、それとも怒りからか。手をプルプルと震えさせ顔から煙を吹き出させる元理事。
そしてタイムリミットである掃除屋がホムラから受けたダメージを修復し、起きあがろうとしている。
銃弾飛び交う戦場だというのに、嫌に響く腕に嵌めた腕時計の針の音。かちりかちりという音が、彼を急かすようにうるさく響き渡ってゆき、そして────
「わかっ…た!俺と、情報屋2名の間に交わした契約を、破棄する…!!だから俺を助けろ!
「まいど♫」
噛み締めるように呟いた元理事の言葉がその勝敗を物語っていた。
────────────────────────
「そういえばここに来る途中、私達を襲ってきたゴリアテがいたのですが、知りませんか?こちら側に行ったように思えたのですが…」
私は一瞬でも見直そうとしたアイムに対して思いっきり侮蔑の視線を向けた。お前らはいちいち登場時にゴリアテを連れてこないと気が済まないのか。
コモリ「そういえばホムラのあの厨二っぽいのなんだったの?」
ホムラ「特注の弾丸を使用した必殺技だ。使用したら基本赤字だから使えないが使えばその圧倒的な破壊力を持って相手を消し飛ばすことができる。」
コモリ「でも掃除屋は消し飛ばせなかったね。」
ホムラ「……」
コモリ「そもそも撃つ前のあの台詞と技名いるの?」
ホムラ「……」
投稿時間について
-
7:00
-
12:00
-
6:00
-
9:00
-
0:00
-
その他(コメント欄にお願いします)