「ホムラちゃん!今!!」
「悉く以下略!『明けの明星』六発目!!」
先生の合図と共に文字通り必ず殺す技でなければならないはずの必殺技が、再度…いや、再々々々々度炎の軌跡を残して銃口の先にその身をさらす掃除屋に向けて殺到する。しかし掃除屋は何度も同じ攻撃を喰らうことによって学習をはたしており、射出から被弾までの瞬間的な時間内で行える最低限の回避行動を行い、弾丸は斜めにずらされた掃除屋の装甲とそれを覆う神秘の結界を抉りながらも逸れてしまい、またもや致命傷を与えるには至らなかった。
前回の記録より約10分後。場所は飛行戦艦の中央部分に位置する通路。いや、正確に言えば格納庫とも呼べる場所。甲板へと直接通ずるものでもあり、今は見当たらないが艦載機などが存在する場合ここに保管、そして甲板へと移動され発艦するであろう場所。
つまり目的の到達地点まで目と鼻の先というわけだ。事実、多くの機械兵たちの向こう側には鉄ではない、本物の空がその姿をあらわにしている。
戦力として元理事との契約を切った情報屋2名を追加し、欠員なくここまで来ることができた。
体力も残りの弾丸も心許ないがゴールは目の前。あと少し。つまりはラストスパートでありここを走り抜ければ希望は見える。最後の力を振り絞る場面だ。
だがそれは相手にも同様に言えること。
自己修復機能で修復できないほどの損害を負いながらも掃除屋は止まらない。彼の呼び声によって目覚めた機械兵たちもまた与えられた命令を実行することのみを考え、撃っても撃っても致命的な損害を与えない限り動き続け、ゾンビのように湧き出て来る。
無機質なはずの眼光が、幽鬼のように揺らめき、確かな執念を感じさせた。
「なんであんなの食らってまだピンピンしてるのよ!?」
「くっ!コモリ!弾切れだ!バレルも今ので焼きついた!作れるか!?」
「む、り…!弾は、材料あればできる。でも、銃は、場所がないと…!」
「おいアイム!お前の銃を渡せ!」
「ハァハァ…コモリたんの柔肌が背中に……はっ!?ななな、なんですか!?」
黒服に背負われながら指揮をする先生同様に私もアイムにおんぶされながら拳銃で援護射撃を行う。腕が痺れてきたがそこは気合いでカバーだ。…こんなに銃を撃ったのはこれが初めてかもしれないな。
こちらのひとまずの勝利条件は甲板に辿り着き、カンナさんが呼んだという救助ヘリとの合流。そして彼方の勝利条件は私たちの殺害及び神秘の採取。
私たちが逃げることができれば戦艦はこのまま墜落。掃除屋がそれに巻き込まれることなく脱出し、そのままサンクトゥムタワーに接触できたとしてもベネディクトゥスシステムに保管されていた並行世界の私の神秘が恐怖に転じたことによる神秘不足で『テセウスの方舟』システムの起動は不可能。最悪の事態は避けられる。
避けられ………避けられるか?
…個人が保有する神秘の量は基本的に不変なはずだ。そしてその性質もまた変わることはない。ならばこの世界と彼方の世界では多少の誤差はあれど“私”と“あっちの私”が保有する神秘の量及び質は同様のものであると考えるべき。
ならば彼方の世界の私も私同様に保有する神秘量は平均的な生徒に比べ少ないはずだ。それ故に私は銃弾一発でも気絶する可能性がある貧弱ボディーであるし、彼方の私も片眼を喪失するという大怪我を負っていた。
ならば──というかそもそも、人1人分の神秘量で世界を書き換えることなどできないだろう。それこそ私のような平均以下の神秘量では。
いくら向こうの私が天才でもそれは不可能なはずだ。
ならば──
「…他人の神秘でも起動は可能?」
…と、考えるのが普通だ。
そうなると、今現在掃除屋が私の神秘に固執しているのは亡き主人への執着であり、もし私に逃げられ飛行船も墜落するという後がない状況になった場合。手段を選ぶ余裕がなくなったやつは神秘を得るためそこらへんの一般生徒を襲って回る可能性があるわけで……
や、やめよう!そんなことを考えるのは後にしよう!今は私たちが生きて帰るのが最優先だ。
「カンナ、さん…!」
「なんですか!?」
「本当に、甲板にもう、その人は、ついてるんだよね…!?」
「はい!連絡では!そのはずです!!」
銃声響く爆音の中精一杯の声を出して交えた会話。それを聞いた私は周囲に素早く視線を巡らせ、ある一つのポイントを見つける。
「アル、様!!」
「な、なによ!?」
「あそこ…!見え、ますか…!?あの、配管!」
「見えるわ!アレをどうしろっていうの!?」
「撃ってください!思いっきり、やっちゃって!」
甲板に直結する関係上、被弾による被害を警戒してか今までの通路に比べて装甲が多く頑丈そうな──少なくともゴリアテタックルなどでは破壊されなさそうな格納庫。そこに唯一剥き出しになった巨大な配管。それを指差しアル様に指示を出す。
……カンナさんのいう通り、すでに救助ヘリが到着していて、よくあるゾンビゲーのように目標地点に到達してからのヘリが到着するまでの時間耐えろ!などというクソ展開がないのなら。
「いいわ。私に任せなさい!!!」
盤面をひっくり返してしまうのも手の一つだろう。
「──へ?」
爆発。
アル様のハードボイルドショット…爆発を引き起こす狙撃によって撃ち抜かれ、続いて爆発した配管は────予想以上の、目を潰すほどの光量と鼓膜をぶち破る程の爆音を発して2度目の爆発を、誘爆を引き起こした。
「え、ええ!?!?だだだ、大丈夫なのよねこれ!?」
「あー!アルちゃんがまたやらかした!」
「違うわよ!?コモリがやれって…!」
「…社長、自分の責任を社員に押し付けるのは良くないよ。」
「なんでよ!?」
アル様が撃ち抜いたのは、この船を通る動脈とも言えるエネルギーパイプ。並行世界の記憶を読み取った限り、おそらく石油だか可燃性の燃料がたっぷりと流れている大切な大切な生命線。
そんなものが爆発したとなれば、アル様たちが乗ってきた飛行装置が引き起こした爆発などとは比にならないほどの甚大な被害が、瀕死の飛行戦艦に追い打ちをかけるようにして引き起こされる。下手すれば船が空中で真っ二つになりかねないほどの致命的な被害が。
当然爆発が起こった地点では崩壊が始まり──
「先生…!」
「っ!みんな!甲板に向かって全力で走って!!」
床は崩れ天井は剥がれ、落ちてきた瓦礫がゾンビのように湧いて出てきた機械兵どもを巻き込んでゆく。
彼方の私によって賢いAIの組み込まれた機械兵どもは各自回避行動を取るためこちらへの攻撃が疎かになり───私たちの進むべき道は開かれる。
「走れ、走れ、走れー!!」
「全速前進だ!」
「ねえコモリ!?ほんとに大丈夫なのよね!?私のせいじゃないわよね!?」
「…進めー!」
「ねえってば!?」
走って走って走って、眩しいほどの日光を浴びながら足はようやく甲板をコツンと踏み抜いた。
「局長!こっちです!!」
吹き荒れる突風。あちこちから炎と煙を出しながら墜落する飛行船の上に確かにあった救助ヘリ。パイロットがよっぽどの凄腕なのか甲板にその機体を固定しながら私達を待ってくれていた。
大型輸送ヘリ、CH-53と呼ばれるものと酷似したそれはどこぞのゲーム会社製のヘリとは違って墜落しなさそうだ。
「急いで!早く早く!」
「すまない!助かった!」
皆が突風を顔に受けながらも急いでヘリに乗り込んで行く。私もアイムに背負われるがままに乗り込み、中の取っ手に捕まる。
流石は2個小隊規模の人員を乗せることができると言われたヘリである。
そのヘリに最後の1人としてカンナさんが入ろうとした瞬間。ヘリを掠めるようにして甲板への入り口から一発の弾丸が放たれた。
『対象の逃亡、を、阻止、実行』
火花の飛び散る体を引き摺りながらその姿を表したのはボロボロになった掃除屋の姿。もはやなぜ動いているのかもわからないほどの損害。だが彼は確かにその体を引き摺りながらも前に進み、任務を実行しようとその体に鞭を打っている。
『命令は、絶対、掃除屋、は、依頼達成率、100%…』
何が彼をそこまで動かすのか。
機械だから?
マスターからの命令だから?
『マスター、の、願いを、今度、こそ、叶え、る』
違う。
『マスターの、期待、に、応え、ないと』
私はヘリを飛び出した。
「コモリちゃん!?」
「ごめん…!」
「っ!これ以上は限界です!飛び立ちます!」
足は自然と走り出していた。
恐怖はない。後悔もない。崩れゆく船の上、私は彼に向かって走って向かい、そして、崩れ落ちそうになった彼の体を支えるようにして抱きついた。
『マス、ター』
冷たい体温。硬い感触。感情を感じさせない点滅する眼光。
明らかに人間のものではないと示している情報群の数々。理解はしている。彼がただの人形であり機械でありプログラムされた内容に従って動くだけの無機物なんだと。
だがそれでも関係はない。
彼は私が“掃除屋”を始めた頃からの相棒で、半身で、“私”自身が生み出した子供で、友達で、そして家族なんだから。
だから、全てを失って、別の世界に飛ばされてまで“マスター”を探す彼に応えてあげられるのは私だけだから。
たとえ命を狙われようと、存在を否定されようと、世界を脅かそうと、今こうして拳銃の銃口を突きつけられようと。
私が選ぶべき選択は拒絶ではなく。
「…おかえり、“リナ”」
受け入れることなんだと、私は思ったから。
私は彼の名前を呼んだ。
『……ア』
『…あぁ………マスター…ここに、いたのです、ね。』
『…リナは、ただいま、帰りました。』
リナは、私の胸の中で深い眠りに落ちていった。
「…なんていうか、私らしい、最後かもね。」
燃えゆく飛行戦艦。揺れは激しくなり崩壊はそのスピードを増してゆく。救助に来たヘリはもう飛び立ってしまい、私がここから助かる術はない。
自分のした行いの尻拭いとして死んでゆく。たとえそれが並行世界でのことで私自身がしたことでなくとも、これまで犯してきた罪と合わせれば妥当な最期だろう。
…先生は言った。生徒である君たちの間違いは私が背負うって。アル様は言った。間違えたのならその分正しいことをすればいいんじゃないか、って。みんな、許してくれていた。
でも、私はそれが少し心苦しかった。
私が罪を犯したのは紛れもない事実であり。私の罪は先生のものではなく私自身のものであり。一度犯した間違いは二度と訂正できないものである。
だからいつかちゃんとした罪の償いをしたいと思っていたし、そう思いながらもこのまま平和な日常を、みんなのいる生活を謳歌したいと思ってしまう自分が嫌だった。
だから、コレはいい機会なのかもしれない。
世界を救って、自分は自分の生み出した間違いと共にいなくなる。少し綺麗すぎるほどのハッピーエンド。実に素晴らしいじゃないか。
…でも、私は知っているんだ。
「そんな終わり方!私が許すわけないでしょ!!」
私が心の片隅でもあなたたちと一緒にいたいと思うのなら、あなた達はいつだって助けに来てくれるってことを。
「あ、は、はははは」
先生やみんなの支えるロープに捕まりながらアル様は手を差し伸べる。
「退職届も出さず2人揃っていなくなるなんて!社長である私が許さないわ!!」
私はその手を─────
──────────────────────
その後の日常は特に変わり映えのしないものだった。
レッドウィンターの近くで謎の大爆発が起こり、大きな温泉が沸いたことでゲヘナの某部活がざわついたこととか。かつてカイザーコーポレーションの理事の席に座っていた指名手配犯が逮捕されたとか。裏社会で“情報屋”が姿を消し、ほぼ同時期に二人組の新しくも腕のいい傭兵が現れたとか。
細々としたものはあったものの、特に変わることのない日常。
先生は書類仕事に追われ、カンナさんはコーヒー片手に事件を追い、便利屋68は資金不足に襲われながら今日も依頼をこなす。
なんでもない、いつもの日常。
「コモリ!そっちに行ったわ!」
「だい、じょーぶ。補足済み…リナ、地形情報をみんなに共有。」
『了解しました。“マスター”』
1人の機械兵と、4人の少女。そしてそれをモニター越しに眺める引き篭もりの日常は、変わらず今日も流れ続ける。
それはきっとコレからも変わることなく訪れるであろう日常だ。
『引き篭もりアーカイブ』fin
コレにて『引き篭もりアーカイブ』は最終回とさせていただきます。
ここまでご愛読してくださった皆様。こんな作品に評価してくださったりコメントを書いてくださった皆様。ここ好きや誤字修正をしてくださった皆さま。本当に今ままでありがとうございました。皆様のおかげでこの作品は完結することができました。
少々蛇足じみた一章以降の話まで読んで、ここまでついてきてくださった皆さまには足を向けて眠れません。場合によってはコレから私は逆立ちをして眠ることになるかもしれません。
もし今後、ブルアカ二次創作や他の作品で出会うことがありましたらその時はまたよろしくお願いします。
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