引き篭もりアーカイブ   作:有機栽培茶

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はい。続きは夜あげます。


決戦

 

【第三車両、侵入者を感知。防衛システムを起動します。】

 

「まずい……ね…」

 

 

 鳴り響く警告音と、排熱器の発するファンの音。そして私の指元でなるキーボードの音がこの室内を騒がしく変貌させていた。

 

 人質作戦で相手の余裕を削ぎ、こちら側に地形的有利を与えるために誘い込み、あえて伝えた偽の決戦地点とは違う、しかも逃げ場のない電車内での強襲。完璧な作戦だ。完璧な作戦なはずだった。

 

 

「射線が…見えてる…?」

 

 

 だが現状はどうだ?私の丹精込めて作り上げた子供達は彼女達に蹴散らされ、有効打を与えられると考えられていたレーザー砲での狙撃は、まるで見えているかのように避けられる。

 

 あんな見た目でも、あの機体一個一個に込められたAIと武装は私が量産出来うる最高級のもの。同条件であればゲヘナの風紀委員長相手でも善戦できるはずだった。物量でも、個々の戦力でも、地形さえも、圧倒的有利なはずだった。

 いくら彼女達が優秀だとしても、この戦力相手に打ち勝つことは不可能。そのはずだった。

 

 

「計算外が、過ぎる……チート、反対…」

 

 

 原因は、おそらくあの恐ろしいまでの連携力と、先生の異常な指揮能力。その二つが合わさることで、この不条理な現状を作り出している。

 

 

「……A3からF3まで…先生狙い、G3からは、撹乱……ああ、崩された…」

 

 

 その原因を潰そうとしても、それに対応するように陣形を変えあっという間にこちらの策を崩してくる。あと一手が足りない。そんな感覚に何度襲われたことか。

 車両に設置した防衛装置も破壊。配置したオートマタも破壊。車両間に設置した自爆機能も気づいたら反応しない。隙を狙った狙撃もかえって利用される始末。

 

 

「くそ…くそ、くそ……クソゲーだ…」

 

 

 思わず台パンしたくなったがすんでのところで堪える。今机の上には重要器材しかないんだ。それにそんなことしている暇があるのならさっさと手を動かせ。先生のうつ手を予想しろ。対応策を引き摺り出せ。奴らのペースに飲まれたら負けだと思え。

 

 私は彼女達に勝って、生き残るんだ────

 

 

 

 

【第三車両突破。最終防衛ラインに達しました。】

 

 

 

 

 機械音声は、しかし無情にも私に現実を突きつけた。

 

 

 

 

 

 

「やっと会えたわね。掃除屋!」

 

 

 襲いかかってくる乗客もどきや、飛んでくるレーザーを掻い潜りながらようやく彼女らが到着した最後の車両。その扉を蹴破った先にいたのは、項垂れた機械頭で黒コートを羽織った大男…掃除屋だった、と。

 

 

「さあ!観念しなさい!貴方の負けよ!」

『負け……か。』

 

 

 確かにな。それは正しいかもしれない。私、掃除屋の体はあくまで機械。カイザーPMCの所有するオートマタのように銃弾を防ぐことのできる強力な装甲を持つわけでもないし、生徒たちのように身を保護する神秘、ヘイローがあるわけでもない。

 それに相手は何体もの掃除屋製オートマタを葬ってきた便利屋68の4人。そしてその指揮官である先生。数でも質でも劣るわけだ。

 

 

『なるほど、な。』

「さあ!大人しく降参してコモリを解放しなさい!」

 

 

 アル社長はカメラ越しでもわかるほどの怒りを向けながらそう言い放つ。

 ああ、だがな。社長。貴方は忘れている。

 勝利の寸前こそ、一番の油断であり、そして───

 

 

『私が、いつ“打つ手なし”と言った?』

 

 

 貴方は私の切り札をまだ知らない。

 

 

「え!?」

「ほらアルちゃん構えて!くるよ!」

「ほら、やっぱりまだ隠してた…」

「え、え、え!?あのレーザー砲が切り札じゃないの!?」

 

 

 何を言っているのか、さっぱりだが…

 

 

「擬似、神秘、再現システム…… ベネディクトゥスの光輪、起動…」

 

 

 まだ負けていない。まだ終わっていない。

 さあ、私のお手製。第一の切り札を切らせてもらおうじゃないか。

 

 

「っ!気をつけて!」

「ま、眩しいです!」

「───あれは…ヘイロー?」

 

 

 便利屋68達を襲った光が止むと、そこには巨大な、しかし歪で所々かけた光輪を頭上に浮かべる掃除屋の姿があった───ナレーションするのならこんなものだろう。

 

 このキヴォトスにおいて生徒達は皆等しく『ヘイロー』と呼ばれる神秘によって保護されている。ヘイローの存在する限り、彼女達はどんな銃撃を食らっても、爆発に晒されようと生き残る。ある意味この銃社会を成り立たせている要因の一つとも言えるだろう。

 それ故、そんな神秘の加護を得た生徒達は強く、頑丈で、時には大人たちの保有する兵器にも勝る戦力を得る。黒服を着た彼が欲していたのもわかるほど破格な性能だ。

 そしてそれは生徒である便利屋68のメンバーももちろん保有している。

 

 対する私は機械の体。ようはただの物体だ。できる限り頑強な素材で補強してあるが、機動性を確保するために装甲は最低限。真正面から同じ性能の武器で撃ち合ったらカイザーPMCの下っ端にも打ち負けるほど。

 では、この戦力差をどう埋めるのか?

 

 

『その答えが、これだ。』

「神秘の、再現…」

『ああ、未だ不完全なものであるが、性能は保証されている。君たちにとって、十分な脅威となり得るだろう。』

「それは…どこで手に入れたんだ?」

『?自作に決まっているだろう?』

 

 

 変なことを聞く。そんなこと今は関係ないだろうに。

 

 

『さあ、始めようか…いや、これじゃあ少し窮屈だな。開放的に行こう。』

 

 

 そう言って、レーザー砲の威力を最大にし、思いっきり横薙ぎに振り払う。

 

 

「きゃ!?」

「っ!風が!」

 

 

 開放的になった車内。決戦の場にはふさわしい。

 

 

『さあ!これでいいだろう。思いっきりやり合おう!』

「アル!避けて!」

「わかってるわ!」

 

 

 手始めに一発。

 しかし当然か。先生の注意もあったが難なく避けられた。

 こちらの武器はシグザウエルMCXに酷似したアサルトライフル一丁────とクリス・ヴェクター型のサブマシンガンとグロック型の拳銃。銃一丁縛りなんてものはないからな。いつも通り使えるものは全て使う。手榴弾に音響閃光弾にナイフ。何でもありだ。

 

 

『隠れるか。ならば手榴弾をプレゼントしよう。』

「!ハルカお願い!」

「はい!」

「これでもくらえ〜!」

『爆弾──っ!いや、煙幕か!』

「アル!今のうちに!」

「だ、ダメよ効いてない!」

「大丈夫効いてる!今のうちに畳み掛けるよ!」

 

 

 …なるほど。面倒臭い。本当に面倒臭い。実際に戦ってみるとわかる。互いが互いの欠点をカバーしあっているのだろう。それに、一人を狙い撃ちにしようとすると別方向から思わぬ攻撃がとんでくる。

 この擬似ヘイローだって無限ではないんだ。いつかは限界が来る。

 ゲームで言うところのシールドだな。まあ私の場合シールドに対してライフなんて極端に低いわけだから、それまでに決着をつけなきゃまずいというわけだ。

 ──こんな風に、な。

 

 

『…邪魔くさい。』

「ハルカ!」

「あ───」

『まずは、一人!』

 

 

 銃の底で殴りつける。たとえヘイローに守られ効かないにしても、衝撃は脳震盪につながる。コンビネーションを崩すには一瞬の隙さえあればいいわけだからな。煙幕で油断したのか近づいてきたやつがいて助かった。このカメラは人の体温も感知できるんだ。つまり、そんな搦手は私には効かないというわけだ。

 

 

『次はそこの爆弾少女───ではなく君と行こう。』

「!なんで!?」

「来る!」

『罠はもっとわかりにくいように設置するといい。』

 

 

 そう言いながら隠れてコソコソ此方を撃ってきていたカヨコを狙い撃つ。とっさの頃に判断が追いつかなかったのだろう。隙だらけだ───が。

 

 

『ぐっ!』

「や、やらせません!」

 

 

 そんな上手くいくはずがないか。

 

 

『…丈夫だな。』

「ハルカ!大丈夫!?」

「多分、まだ、大丈夫です…!」

『ふん…そうは見えないな。少し、休んだらどうだ!』

「そうはさせないわよ!」

『っ!』

 

 

 背後に衝撃。

 

 

「あんたを倒して!あの子を助けて!みんなでラーメン食べにいくのよ!」

 

『く、くくく。やってみるといい便利屋!できるものならなぁ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………はー…ぁ…」

 

 

 私はため息をつきながら天井を見上げた。

 もうヘッドセットから銃撃が聞こえない。ただ風の音だけが聞こえてくる。

 

 

『……』

 

 

 戦闘は終わった。

 

 

「はぁ、はぁ…」

「先生……」

 

「………私たちの…勝ちだ。」

 

 

 私の負けという結末で。

 

 

『……なるほどな。』

 

 

 左腕欠損、右側面カメラ故障、脚部モーター破損。バッテリーもほぼ空。そして、擬似ヘイロー、全損。

 私の切り札は破られたわけだ。

 

 掃除屋はもう立つことすらできない。これ以上ないまでに敗北という2文字を味わわされた瞬間だ。かえってスッキリするほどにな。

 まったく。どうしてくれるのやら。これで掃除屋は終わりだ。廃業だ。駒も全て出し切った。逆転の一手などというものは残していない。そんなものは言い換えれば油断。私は初めから全て出し切るタイプだ。

 

 もうこれで私は裏社会で生きていくことはできない。掃除屋の完全敗北の噂は直に広まるはずだからな。それに、これだけ派手に動いたんだ。中身である私に気づく者が出てくるのも時間の問題だ。

 

 

 そして私も2度目の死というものを経験することになるのだろう。

 

 

 …死にたくないなぁ

 

 

「…掃除屋、私達が勝ったんだ。約束通り、私の生徒を解放してもらおうか。」

 

 

 もういっそこのまま彼のいう通りにして先生に保護されようか?…いや、ダメだな。もし助けられたとしても、掃除屋の中身だってことがすぐにバレて、それ相応の罰を与えられることになる。痛いのは嫌だ。それに、私がこの家から出ることはほぼ不可能だ。こんなか弱い女の子がブラックマーケットを一人で歩いて無事で済むわけがないだろう?前回の依頼の時だって、ブラックマーケットを出るまでは護衛にAI搭載型のロボを連れていたからいけたんだ。その時だって不良数名に絡まれたのに、一人でいたら確実にリンチにされてしまう。

 

 詰みだ詰み。

 

 

 もう私にはこのまま朽ち果てるしか他に手は──…な…い……

 

 

「…掃除屋?」

 

 

 …いや、ダメだ。ダメだろう?それは。倫理的にも、それはいけない。

 

 わかってる。わかってはいるんだ。それはいけないことだって。それが、『私の生き残る唯一の勝ち筋だって。』

 

 

「……え?」

 

 

 残ったバッテリーを使用して、腹部の格納スペースから一丁の拳銃を取り出した。それは何の変哲もないただの拳銃。

 しかし、込められた弾丸は違う。

 

 

「仮称…『神秘、破壊弾』…対象の神秘を捻じ曲げ、そして破壊する…」

 

 

 黒服の彼との取引によって得た材料より作り出した殺傷性の、この世界において真の意味で弾丸たりえる物体が、そこには込められている。

 撃たれた生徒は神秘が破壊され、その弾丸を防ぐことができず、文字通り死に至る。

 

 こんなもの使ったらいけないってわかっている。だからこそ、生み出しておきながら記憶の隅に追いやり忘れていたのではないか。

 

 なら私はなぜこれを生み出した?それは死にたくなかったからだ。負けたくなかったからだ。だがあくまでこれは保険。自分を落ち着かせるための保険だったはずだ。

 

 使う予定などなかったはずだ。

 

 

「………」

 

 

 だが人間、こういう時、自分が追い詰められた時に垂らされた甘い蜜というものにはとことん弱いものだ。精神力の強い人ならその誘惑を振り払うことができただろう。だが、私にはできなかった。「もしかしたら生き残れるかもしれない」という希望から逃れることはできなかった。

 

 かちゃり

 銃口はまっすぐ目の前の生徒、アルの脳天へと向けて口を開いている。

 

 

 まるで、何者かがここまで銃身に手を添え、『さあ、あとは引き金を引くだけだぞ。』とでも言っているような。

 

 

「アル!」

「せ、先生!?だめっ!」

 

 

 何かを感じ取ったのか先生がアルと私の間に飛び込んでくる。だが、無駄だ。この拳銃は破壊弾を使用するために威力を高められており、貫通力も高い。ただの成人男性程度、撃つ場所さえ間違えなければ容易く貫通できる。

 そもそもの話、一人でも殺せればいいのだ。一人でも殺せればこの陣形は崩れる。動揺は周りに伝わり、平常心を保てなくなる。その隙にマガジンに残った四発の弾丸で他を撃ち抜けばいい。それで勝ちだ。完璧な勝ち筋だ。

 

 完璧な、はずなのだ。

 

 

 あとはこの引き金を、このスイッチを押すだけだ。

 

 

 さあ、さあさあさあさあ!

 

 

 

「撃つなら私を撃て!」

 

『───────』

 

 

 

 ─────バッテリーの残量が切れたことを知らせる警告音が、鳴り響いた。

 

 

「はは…ははは……」

 

 

 モニターから視線を外し、コントローラーを静かに机に置いた。

 終わった。全てが終わった。終わってしまった。

 でも、それで良かったのかもしれないと思う自分がいる。馬鹿か。死んだらそれで終わりじゃねぇか。自分が生き残るのが最終戦じゃなかったのか。馬鹿がよ。

 

 

「どうしよう…どうしようもない、か……」

 

 

 これが本当の詰みというわけだ。

 

 

「…掃除屋」

『……』

「……」

『……認めよう。私の負けだ。約束通り手を引こう。』

「あ!あの子は!」

『…嗚呼、そうだったな。解放しよう。』

 

 

 機体につけていたスピーカーは幸い本機とのバッテリー共有をしていないため少しばかり話ができる。

 

 

「…なぜ撃たなかったんだい?」

『……さあ、なんでだろうな』

 

 

 本当に、なんでだろうな。

 

 

『さあ、いくといい。車体の停止ボタンは私の後ろだ。』

「そ、そうだわ!早く電車を降りてあの子を迎えに行きましょう!ハルカ!止めに行きなさい!」

「は、はい!」

 

 

 そう言ってショットガン少女ことハルカが私の横を通り抜けて停止ボタンを押しに行った。これで、電車は停止され、この物語は終わりだ。

 

 だが、何度も言うようだが現実はそう上手くいかないもので───

 

 

「…あ、アル様」

「なに?ボタンはもう押してきたの?」

「い、いえ…あの、ボタンが…」

「ボタンが?」

 

 

「壊れています…」

 

 

 

 

「……へ?」

 

 

 

 ……あーー…うん。さっきの戦闘で壊れたんだろうな。

 

 

『…では、私はもういくとしよう。』

「え!?ちょ!掃除屋!?」

 

 

 

 背中から脱出用のワイヤーを射出して退散させてもらう。あとは機体をドローンで回収すればいい。彼女たちは────自分たちでなんとかするだろう。

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