雪降る月夜に少女は蜘蛛と踊る   作:トビエイ

6 / 6
少女と蜘蛛のお話、その第六話。
期間がかなり空いてしまい、申し訳ございません。
今回も、触れ合います。


~嬉しさ、寂しさ~

 修練場にて

 

「レイラの様子はどうだ」

 

「里長」

 

 鉄蟲糸技の訓練を行っているレイラを見ていたウツシの横に、フゲンが並ぶ。

 

「元より愛弟子は覚えが早かったですが、ここ最近は特に上達が早いですね……風車の習得も遠くはないかと」

 

「そうか……ネルスキュラの影響だろうな」

 

 あのネルスキュラの糸使いには目を見張るものがある。すぐそばで見てきたレイラにとっては、この上ない手本だろう。

 

「はい、良い影響ではありますが……少し、妬けますね」

 

 ウツシの言葉に、フゲンは驚いたような表情を見せる。

 

「……お前がそんな顔をするとはな」

 

「どんな顔ですか」

 

「珍しいものが見れたな」

 

 ニヤリと笑うフゲンに不満そうなウツシを他所に、フゲンは風車を練習しているレイラに目を向ける。

 

「ネルスキュラ、か」

 

「現状、レイラと友好的な関係を築けてはいますが……」

 

「この前もロアルドロスで共闘したらしいな」

 

「はい、ギルドも扱いに困っているそうです」

 

「困っている、か」

 

 無理も無い話だ、ギルドからすれば前例が無さすぎる。

 

「俺からすれば、レイラが幸せなら構わんのだがな」

 

「幸せって……」

 

「お前もそうだろう?ウツシ」

 

「……まぁ、そりゃあ愛弟子には幸せになって欲しいですよ」

 

 バツが悪そうに頭を掻くウツシ。

 

「ただ、警戒はしなくちゃいけない……それだけです」

 

「ハッハッハッ、あのウツシがこんな立派になるとはな」

 

「自由奔放な長がいますからね」

 

「ムッ、いったいどこの誰のことだ」

 

「あなたですよ」

 

「これは一本取られたな」

 

「……何を楽しそうに話してるんだろ?あの二人」

 

 風車を習得したレイラは、不思議そうに二人を見ていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ハモンお爺ちゃん!来たよー!」

 

 加工屋に元気よく駆け込むレイラを、ハモンは苦笑いしながら迎える。

 

「走るな、危ないだろ」

 

「はーい」

 

「訓練は終わったのか?」

 

「うん、風車使えるようになったよ!」

 

「そうか、凄いな」

 

「それほどでも!」

 

「自信満々に謙遜するな」

 

「えへへ」

 

 そんなレイラを微笑ましく思いながら、ハモンは既に準備してあったものを手に取る。

 

「ほれ、頼まれていた片手剣だ」

 

 カムラノ鉄片刃がレイラに手渡される。

 

「マカライト鉱石で強化した、かなりの斬れ味だぞ」

 

「ありがとうハモンお爺ちゃん!」

 

「それと、これはオマケだ」

 

 そう言いながら奥から引っ張り出してきたのは黄色いモコモコふわふわなコート。フード付き。

 

「ルドロスシリーズだ、素材を大量に貰ったからな」

 

「えっ、オマケって……」

 

「クルルシリーズ、限界だっただろ」

 

「……気づいてたんだ」

 

「誰が作った防具だと思っている」

 

「えへへ、ハモンお爺ちゃんが作った防具!」

 

「……まったく、調子のいいやつめ」

 

 ふっ、と笑いルドロスシリーズをレイラに押し付けるように手渡す。

 

「ありがとう!」

 

 嬉しそうにルドロスシリーズを見つめるレイラ。モコモコふわふわな手触りに夢中のようだ。

 

「……代わりと言ってはなんだが、ある依頼を受けて欲しくてな」

 

「依頼?いいよ!」

 

「内容を聞いてからにしろ……マガイマガドを覚えているか?」

 

「……うん、忘れられないよ」

 

「だろうな……そいつを百竜夜行から大社跡へ隔離するのにビシュテンゴの素材がいる」

 

「つまりビシュテンゴの討伐依頼ってこと?」

 

「そうだ、ヒノエには既に伝えてある」

 

「分かった、任せてよ!」

 

「……無理はするなよ」

 

「うん!じゃあねハモンお爺ちゃん!」

 

 元気よく加工屋から駆けて出ていくレイラの後ろ姿を、ハモンはジッと見ていた。

 

「まったく、嵐のような子だ」

 

 まんざらでもない表情を浮かべて。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ギャイイイイイ!」

 

「わっ、ちょっ、まって!」

 

 柿を食べていたビシュテンゴに先手とばかりに大タル爆弾を投げたのが不味かったのか。怒ったビシュテンゴは木の枝に尻尾を絡ませ、そこから柿をレイラに向かって投げつけていた。

 

 ゴンッ、ガッ、と柿とは思えぬ音を出しながら地面に転がる柿を横目にレイラは掻い潜るようにビシュテンゴへと近づく。

 

「ひとまず、こっちまで……落ちて!」

 

 ビシュテンゴめがけてナイフを投げるが、柿で撃ち落とされる。

 

「もう!何個持ってるの!」

 

 もうかれこれ十個以上は投げられている。弾切れには期待しないほうがよさそうだ。

 

「なら、これでどお!」

 

 レイラが取り出し、投げてきた物体にビシュテンゴはすかさず柿を投げつけ……光が炸裂した。閃光玉だ。

 

「ギィア!?」

 

 あまりの光に目が眩んだビシュテンゴは木から落ち、のたうち回る。その隙に近づいたレイラが鉄蟲糸を絡ませ、飛び乗る。操竜だ。

 

「ギャイ、ギャアアイイイ!」

 

「っ、暴れないで!」

 

 ガンッ、ゴンッ、とビシュテンゴの頭を壁にぶつけさせながら開けた場所に誘導する。ビシュテンゴに高所に張り付かれれば、一方的に柿を投げつけられる羽目になるからだ。

 

「うぐっ」

 

 誘導は終えたものの、鉄蟲糸が振りほどかれ落とされる。

 

「でも、ここなら私と同じフィールドだよ」

 

「ギィィィ……」

 

「えっ」

 

 尻尾で立ち上がったと思えば、独楽のように回りながらレイラへと突進してくる。

 

「お願い!」

 

 翔虫で大きく距離を取り、難を逃れるレイラ。が、ビシュテンゴの独楽は止まることを知らず。レイラを執拗に追いかけてくる。

 

「もう!ほんっと戦いずらい……!」

 

 翔虫でビシュテンゴが疲れるまで飛び回るのも手だが……。翔虫も生き物だ、無理はさせれない。なら。

 

「いいよ、どっちの回転が上か……勝負しようよ」

 

 片手剣を構える。ビシュテンゴが迫る。

 鉄蟲糸を持ち手に絡める。ビシュテンゴが迫りくる。

 片手剣から手を離す。ビシュテンゴはもう目の前だ。

 

「鉄蟲糸技、風車!」

 

 鉄蟲糸を掴み、フレイルのように片手剣を振り回す。

 ギィィィン、とビシュテンゴの回転とかち合う。止まらない。でも、それはこちらも同じ。

 風車のように何度も何度も回る。斬る。回る。斬る。回る、斬る、回る、斬る、回る、回る、回る……。

 気づけば、かち合う音が消え風車の風切り音だけが残った。

 

「ギッ、ギッイイイ……」

 

 回転力で負け、全身切傷だらけになったビシュテンゴが敗走していく。

 

「待って、うっ」

 

 風車を止め、追いかけようとするも力が入らず地面に倒れ込むレイラ。

 

「うー……やっぱ体力の消耗が激しすぎるよぉ……」

 

 大技なだけあって片手剣とは思えない威力を発揮はしてくれるが……。

 

「訓練と実戦はやっぱ違うよね……」

 

 よろよろと立ち上がる。

 

「ビシュテンゴは……」

 

「ピィィィ!」

 

「あ、ノエル」

 

 レイラのフクズク、ノエルが空から降りてくる。

 

「もしかして逃げた場所分かる?」

 

「ピィ!」

 

「さっすが!じゃあ行こっか」

 

 ノエルの頭を優しく撫でながらビシュテンゴの後を追いかけ、走る。

 

「ピィィ」

 

「こっち?」

 

「ピィ!」

 

「次はそっちだね」

 

「ピッ」

 

「あっ、ここ?登った先かな」

 

 崖を登り切った先に、ビシュテンゴはいた。巣穴で寝ている。

 

「寝てるなら、今のうちに……」

 

 大タル爆弾を取り出し、設置する。

 

「あ、ノエルは危ないから離れてて」

 

「ピィ!」

 

 飛んでいくノエルを眺めながら、小タル爆弾を取り出し着火する。

 

「寝てるところ悪いけど……起きてもらうよ!」

 

 小タル爆弾が放物線を描いて地面に落ち、転がる。ジジッ、と火の音がしたその瞬間。

 

「ギィイエエエエエ!?」

 

「わっぷ……やっぱ二個同時はやりすぎたかも」

 

 煙が晴れ、ビシュテンゴの姿があらわになる。全身が爆風でボロボロになっており、虫の息だ。

 

「お願い!」

 

 疾翔けをし、一気に距離を詰める。

 

「ギッ……」

 

 ビシュテンゴが迎え撃とうと柿を取り出すが、遅い。懐に潜り込み、飛影で斬りながら飛び上がる。

 

「ギィッ」

 

「これで……終わり!」

 

 高所から盾を思いっきりビシュテンゴの頭へと叩きつける。ガコンッ、と嫌な音が響き……ビシュテンゴが地面に倒れ込んだ。

 

「……疲れたぁ」

 

 ビシュテンゴが死んだことを確認し、息を吐く。本当に戦いずらい相手だった。

 

「あ、そうだ素材を取らないと」

 

 ハモンに頼まれたのは、ビシュテンゴの腹袋。この中にいれたものは急速に熟成するそうだ。

 

「ここを切って……うわっ」

 

 腹袋の中には体力の柿が詰まっており、刺激の強い匂いを放っていた。

 

「うぅ、これ取り出さなきゃだよね……うわっ、毒々しい色の柿もある」

 

 というか、毒そのものな色をしている。間違いなく食べたら毒になる。

 

「洗ったほうがいいのかな……そこらへんもハモンお爺ちゃんに聞いておけばよかったな……」

 

 鞄に入れたくないなぁ、とボヤキながら作業を続ける。

 

「……そういえばノエルは?」

 

 いつもなら、討伐を終えたタイミングで降りてくる。が、今日はいつまで経っても来ない。

 

「何かに襲われたりしてなきゃいいんだけど……」

 

 不安を胸に、辺りをきょろきょろと見回す。

 

「ピィ!」

 

「ノエル!?」

 

 ノエルの鳴き声に振り向き、駆け寄る。

 

「どこ行ってたの!……心配したんだよ?」

 

「ピーィ?」

 

 ノエルはレイラの腕に乗ると、不思議そうに首を傾げた。

 

「ピィ!」

 

「もう、そんな顔したってだ、め……」

 

「……」

 

「……」

 

 六つの青い目と、レイラの二つの赤い目が。合った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ピィ!」

 

 ネルスキュラは困惑していた。毒が尽きたので、補充しようと大社跡を歩いていると、見覚えのある鳥に絡まれたからだ。

 

「ピィー?」

 

 何故この鳥は自分に気軽に乗るのだろうか。危機感は無いのか。

 

「ピィィ!」

 

 かと思えば、飛んでくるくると回りだす。……ついてこい、ということだろうか。

 

「ピィー!」

 

 ……獲物を見つけたわけでもないで、ついていくことにした。もしかしたら、あの人間にまた会えるかもしれない。

 

……

………

 

 いた。ビシュテンゴの解体をしている。

 

「……そういえばノエルは?」

 

 最後に会ったのは、水没林だったか。

 

「何かに襲われたりしてなきゃいいんだけど……」

 

 ふと、人間が何かを探すように辺りを見回す。

 

「ピィ!」

 

 鳥が元気よくノエルへと飛んでいく。

 

「ノエル!?」

 

「どこ行ってたの!……心配したんだよ?」

 

「ピーィ?」

 

 鳥が頭を傾げている。もしかしなくても独断で自分を呼んだらしい。

 

「ピィ!」

 

「もう、そんな顔したってだ、め……」

 

「……」

 

「……」

 

 人間と、目が合う。赤い、綺麗な目と。

 

「……あっ、お揃いだね」

 

「……?」

 

 パァッ、と人間の表情が明るくなる。人間の服と、自分を交互に指差す。……そういえば、今日はロアルドロスの皮を身に着けていた。

 改めて人間を見れば、ロアルドロスを加工したであろう服を着ていた。前に着ていた兎に負けず劣らずふわふわでモコモコだ。

 

「わっ、どうしたの?」

 

 思わず人間に前脚が伸びる。

 

「んふふ、くすぐったいよ」

 

 頬を撫でれば、人間も前脚に触れてくる。

 

「冷たくて気持ちいいね」

 

 ……何故かは知らないが、この人間と触れ合うと心地が良い。

 

「あ、そうだ」

 

 人間が離れる。掴もうとした前脚が空を切る。……掴もうと?自分が?何故?

 ……離さないために?

 

「これ、食べる?」

 

 自問自答していると人間がいつの間にか戻ってきていた。何かを持って。

 見てみれば、どうやら果物のようだ。それも、毒性を含んだ果物。

 

「ネルスキュラって毒を摂取して蓄えるって聞いたから……どうかな」

 

 おずおずとこちらに差し出してくる。

 

「……」

 

 牙を刺し込む。グニャリ、と果物が変形する。

 

「わっ、食べてる……」

 

 ……味はともかく、毒性としては申し分ない質と量だ。

 

「まだあるから、いっぱい食べていいよ」

 

 食べ終えると、次の果物が差し出される。……今更だが、この人間は何を考えて自分と一緒にいるのだろうか。

 鳥は相変わらず呑気に毛繕いをしている。

 

「全部食べ終えたね、美味しかった?」

 

「……」

 

 人間の声に、頬に触れることで答える。

 

「ふふ、気に入った?私のほっぺた」

 

 その表情に、思わず魅入る。

 

「わっと……」

 

 だから、なのだろうか。気づけば、人間を抱き寄せていた。

 

「た、食べられるかと思った……」

 

 ……どうしよう。

 

「どうしたの?急に」

 

 人間の小さな手が、こちらの顔に触れてくる。柔らかい。温かい。落ち着く。

 

「……」

 

「しばらく、こうする?いいよ」

 

 このまま連れていきたいという考えが脳裏をよぎる。

 

「あっ……もういいの?」

 

 牙を鳴らし、人間を優しく降ろす。獲物でもないのに、何故自分はこの人間に執着してるのだろう。

 

「……」

 

 人間の被り物に、前脚を伸ばす。人間は抵抗しなかった。ぱさり、と脱げる。

 

「私の髪、見たかったの?」

 

 さらりとした白い髪。今日は被り物で見えなかったからか、より一層輝いて見える。

 ……既に、手遅れなのかもしれない。あの日、この人間に出会った時から。自分と同じ、白い髪に赤い目を見た瞬間から。

 

「ピィ!」

 

「あっ」

 

 今の今まで毛繕いをしていた鳥が、突然鳴いた。

 

「ごめんね、私もう行かなきゃ」

 

 人間が離れる。それを、ただ黙って見届ける。

 

「また会おうね!」

 

 ぶんぶんと腕を振りながら、人間は鳥と共に走り去った。

 

「……」

 

 カチッ、カチッ、と牙を鳴らす。出会えた嬉しさからなのか、離れた寂しさからなのか。

 自分でも、よく分からなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 カムラの里、その近くにて。

 

「ピィー?」

 

「……私、顔変?」

 

「ピィ」

 

「うー……だって!しょうがないじゃん!」

 

 顔を手で押さえ、しゃがみ込む。

 

「ほっぺた触ってくれたし……柿を渡したら食べてくれたし……そ、その、だ、抱っこしてくれたし……!」

 

 顔から耳まで真っ赤に染めながらノエルに惚けるレイラ。

 

「フードを脱がされた時はちょっとびっくりしたけど……」

 

「ピッ」

 

「あっ!呆れてるでしょノエル!」

 

「ピーィ」

 

「もう……」

 

 ノエルが先に里へ飛んで行ったので、レイラは立ち上がり走り出す。

 

「……また、会いたいな」

 

 誰にも届かない、独り言を残して。




感情に理性が追い付いていないネルスキュラと、顔を真っ赤に染めるレイラ。
可愛いですね。
次回も、大社跡です。リベンジマッチの、お時間です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。