──私、伊地知虹夏には夢がある。
それは純粋に『為したい目標』であると同時に、私にとっては『為すべき責務』でもある。
何故なら私の夢は、『続き』なのだ。私が終わらせてしまった『姉の夢』その続き。
──
そして私自身が、その中で一等輝くバンドマンとなる。それが、私の夢。
だってまだ、
今までの活動は全て下積みだ。なにせ中学まで組んでいたバンドは、
楽器に限らず、本気で『趣味を仕事に』なんて考えて努力できる人間はそういない。少なくともギターの子はそうだったし、ベースの『彼』に至っては、そもそも
『彼』がベースを始めた理由は……話すと長くなる背景を省いて結論だけ言うと、私の母を救うためだ。そしてその目的は、たったの3ヶ月で果たされてしまった。
『彼』は根っからの『救い手』だ。目的が果たされた以上、あの子はより多くの人を救うための道へ移る。分かりきっていたことだ。
故に私は、私と同じ道を征く者を──『本気』の『奏者』を集める必要があった。
幸い、私は『人を観る目』には自信のある方だった。普段から表情が出にくい親友や、ツンデレフィルターを幾重にも通さないと本音が見えない姉の相手をしているから……そういう自負があったのだ。
──慢心だった。
STARRYは正式に
これからだった。ようやく始まると思っていた。
──そんな時に、ギターが逃げた。
初ライブの、当日だった。
見誤ったのだ、私は。彼女の熱意を。
下手でもよかったのに。私は彼女の熱意が『本気』だと思っていたから、互いに高め合えると思っていたから、招き入れたのに。彼女は逃げた。
……不思議と『裏切られた』という気持ちは湧かなかった。純粋に『何故』という疑問だけがあった。
私はこの期に及んで、彼女の『本気』を心のどこかで信じていた。
だが実際問題、ギターはいない。ライブは目前。四の五の言わず、私は早急に状況を打開する必要があった。
──でないと、
頭では解っていた。この状況における最善手は、『彼』に頼ることだと。
実際、親友は元からそうするつもりだったのだろう。ライブのことは隠していた筈なのに──
『じゃ、また。姉貴と虹夏ちゃんのライブ、楽しみにしてるから』
連休の時、一緒に映画を観た日の帰り際……『彼』がライブに来ると発覚した。
そして当日、やはり『彼』は来ていた。しかも
──
ギターの子から欠席の連絡が来てすぐ、私は駆け出した。親友の制止を振り切り、姉からの電話を無視して、私は走った。
だって『彼』は、私一人が縛っていいような存在じゃあない。私なんかのために、これ以上『彼』の足を止めさせてはならない。
……夢とは別に、願望がある。
私は、恋をしている。
私は『彼』が──恭助くんが、欲しい。
でも私は、彼にふさわしくない。
助けてもらってばかりの私は、彼と対等の立ち位置にいない。
私は、『今の私』に彼の歩みを止めるだけの価値があると思えない。これじゃあ『好きです』と言うことすら、『私を意識して』と伝えることすらできやしない。
だから、一歩目で躓いている場合じゃないのだ。
私は『キミがいなきゃダメなんだ』なんて泣き落とし、したくない。
私は『私のバンド、最高でしょ?』と胸を張りたいんだ。
だから────
『これでわたしは、がんばれます』
偶然出会ったギタリストの、そう絞り出した彼女の目を見て──震えた。
──『本気』だ。この娘は誰よりも、或いは私以上に、音楽への『熱意』を抱えている。そう確信させる目だった。
そして失敗する筈だった初ライブは、大成功を収めた。私は計らずも、最高のカードを引き当てた。
故に、故に──『結束バンド』の物語は、ここから再始動
一難去ってまた一難。いや、ライブのドタキャンほど差し迫ってはいないが……問題の大きさはむしろ膨れ上がっている。
それを解決するべく、私は──
*
「はい、全員着席したところでね! 『第1回結束バンドミーティング』始めていこうと思います、拍手!!」
『パチパチパチ』という控えめな拍手が3人分。
進行役は勿論私。気を引き締めていこう。
「じゃあ早速本日の議題は──と行きたいところなんだけど、その前に『アイスブレイク』をやろう!」
「あ、アイスブレイク……?」
「緊張を
「な、なるほど……」
「という訳でやっていきましょう! 本日のゲームはこちら!!」
「──『共通点探しゲーム』ですか……?」
「そ。ペアを作って、お互い質問しあって、この紙にドンドン共通点を書き込んでいくの」
「ペ、ペア……奇数……余り……うごごごご」
「あー大丈夫大丈夫、怖がらないで! ちゃんとそこは考えてあるから!」
「え、でも、どうやって……」
「今回はね、対戦形式。私とリョウ、どっちがより多くぼっちちゃんとの共通点を見つけられるか勝負──って感じにしようかなと」
「つまりぼっちがヒロインのギャルゲー攻略というワケか……腕がなる」
「まぁアホのアホな発言はさておき。今回はぼっちちゃんの歓迎会も含まれてるからさ、ぼっちちゃんには私達との共通点をいっぱい見つけてもらって、親しみをもってくれたら嬉しいな〜と思っているワケですよ」
「あっ、はい!」
「じゃあ早速始めよっか! 時間無制限だと決着つかないから、まず15分くらいでやってみよう!」
スマホのタイマーを起動し、全員に残り時間が見えるようテーブルに置いて勝負開始。
そしてすぐ、リョウが『ふっ』と笑った。
「悪いけど虹夏、この勝負貰ったよ」
「へぇ? そんなに自信があるなら先手どうぞ?」
「ねぇぼっち、
「仲間……!」
「あーね。リョウは
「うん。興味あるなら良い場所紹介するよ」
「裏切られた……!」
「「えっ、なんで??」」
「『ぼっち』と『孤高』には深い深い溝があるんです……ぼっちはコミュ症だから注文も会計も怖くて、一人じゃ飲食店に入れないんですよ……廃墟だって……うっ、うぅ……」
「なっ、泣かないでぼっちちゃん! そうだ、今度一緒にご飯行こ!? 注文も会計も私がやったげるから!」
「グスッ……でも私、一緒にいても面白い話の一つもできませんよ……?」
「それも大丈夫だから! というか私たぶん、ぼっちちゃんと共通の話題あるし!」
「え……?」
「──〝
「っ!?」
「露骨な反応。やっぱりね……使ってるギター同じだし、ピンクのジャージも同じだし。コレはもう確定かな」
「……はい、そうです。私──」
「ギターヒーローさん
ぼっちちゃんが固まり、顔がみるみる赤くなっていく……え、何故?
──あぁいや、
「…………ハイ、ファンでしゅ」
「もー、そんなに恥ずかしがらなくたっていいじゃん! 確かに
「〜〜〜〜っっ」
バンド名のことをつっつかれた時の私より悶絶している……そんなに恥ずかしいなら一目で『ファンです』って分かるような格好しなきゃいいのに。
まぁその後は『好きな曲』や『好きな食べ物』など無難な話題をいくつか重ね、アイスブレイクは終了。
──本題に入る時が来た。
「今日の議題は『今後の方針』なんだけど──その前に1つだけ聞かせて。ぼっちちゃんは、仮に今のバンドが解散したとしても……ギターを続けられる?」
「────はい、それは勿論。元々私には、ギター以外取り柄がないので……
あっでも、できれば解散はしないでほしいです……! わ、私は虹夏ちゃんとリョウさんと一緒に、その……プロになりたい、です」
「「…………」」
「あっ、すすすすみませんプロだなんてそんな、まだ早いっていうか、
「ん〜〜…………、
「……え?」
「私と虹夏も、本気でプロを目指してるんだ。9歳の時からね。だからそのくらいの熱意がないと
「でもって、私達は次からボーカル入れたいなって思ってるんだけど……ぼっちちゃん、喉に自信は?」
「むっ、無理です……」
「そっか、残念。私もリョウも歌は下手だからさー、やっぱ新メンバー探さないとかぁ……」
「まぁでも、ぼっちが確定面子入りしたのは大きい。『所詮臨時の助っ人』と割り切るには、ぼっちは腕が良過ぎた」
「えっ、あ、あの……もしかして、これって……」
「うん、
「いやリョウ、どう考えてもウチらの中で一番上手いのぼっちちゃんだからね? どちらかっていうと、本来あたしらが頭下げて『ウチで雇われてください』って頼み込む立場だからね?」
「うへ、うへへ……」
「ソロ、もしくは
「あっ、面目次第もございません……」
「あぁいや。言い方キツくなったけど、ぼっちの腕に関しては心配してない」
「そーそー。そこはお互い練習あるのみだし、ぼっちちゃんの熱意は今確認したから、問題ないって。
──というか、問題無さすぎて逆に新しく生えちゃった問題があって……」
「?」
「
「プロを目指すなら出来るだけ場数踏みたいしさ、せっかくぼっちちゃんレベルの子が入ってくれたんだし、ボーカルも即戦力が欲しくなっちゃうよねって話」
「フヒ、わたし即戦力……んんっ、なるほど」
「できればぼっちちゃんの方でもボーカル候補を探してもらいたいんだけど……大前提は『目的を共有できる人』 それでいて、できれば『歌が上手い人』でお願い。
はい、ボーカルの話以上! 次はノルマの話!」
「の、ノルマ……?」
首を傾げたぼっちちゃんに、私は『ブッキングライブ』の仕組みを説明し、バイトの必要性を伝える。
──すると、不思議なことが起こった。
ぼっちちゃんの手元に突然、
「「!?」」
リョウと目を見合わせ、それが見間違いでないことを確認。
「ね、ねぇ。ぼっちちゃん、ソレ、もしかして──」
「あ、はい。コレを代わりに差し出すので……どうか、どうかバイトだけは……ッ」
「「…………んん??」」
「お、お母さんが私の結婚費用にと貯めてくれてるお金なので、しばらくはもつかと……!」
「いやそんな大事なお金受け取れないんですけど!?」
私達を鬼にする気か!?
いや待て、そうじゃない。そうじゃあなくって……
「……えっと、ぼっちちゃん」
「は、はい」
「──〝スタンド〟って、知ってる?」
「……? えっと、ギターを立て掛けておくアレですよね……?」
「あっ、あー……そうだね、ごめん。変なこと聞いた」
「??」
「じゃあぼっち、その貯金箱……どこから出したの?」
「え? あ、そういえばどこから……というか──」
……そう、膨れ上がった問題とはボーカルの募集条件が厳しくなったことだが……それは、『熱意』に加えて『技量』が加わったことだけではない。
『結束バンドのボーカル』は、この『無自覚人外少女』ぼっちちゃんを受け入れてくれる存在である必要性が出てきたのだ──