山田弟は、初恋を砕けない   作:しやぶ

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第三話:どの面下げて馳せ参ず?

 

 ──昔から、なんでもできる方だった。

 

 勉強は授業を聞いてればテストで高得点が取れたし、満点の時もあった。

 運動は元からできた。体力テストはどの項目も上位だったし、クラスで一番のものもあった。

 

 ──加えて自分は、容姿も優れているらしい。初対面の異性から告白された回数だって、1回や2回じゃない。

 

 

 だから私の周囲には、常に人が集まってきた。

 

 だからオレは、周囲に(たか)る人間を振り払った。

 

 

 周囲の人にはそれぞれ趣味趣向があって、知るたびに世界が広がった。皆輝いていて、私はそれが欲しくって、片端から手を伸ばした。幸い私は『なんでもできた』から、皆が羨むほど全てが手に馴染んだ。

 私は、なんでも持っていた。……なのに何故か、いつしか心には空虚が巣食っていた。

 

 周囲に『特別な存在』が溢れていることなぞ知っている。その『価値』を求め、吸い寄せられるのも、理解できる。そして、人は一人じゃ生きられない。だから寄ってくるものを手当たり次第に集めて、手元に置いて、自分を沢山の『価値』で満たす──そういう生き方も、アリではあるのだろう。やろうと思えば、オレにはそれができた。

 だけどたとえ、今ある全てを失っても……オレには一人の『友』が残ると知っている。だからもう、心はとっくに満たされていた。

 

 

 ──ある日、一際大きな輝きを見つけた。

 長らく私を蝕んでいた空虚は、その光を見つめている時だけ鳴りを潜めた。

 光の名は『ざ・はむきたす』という3人1組の『ロックバンド』 とりわけその中でも、『青い髪のベーシスト』が私の最推し──というか、より正確に、取り繕わずに言うと……その……私は『彼女』に、一目惚れした。

 ただ、その光を見ていられた時期は短い。理由は分からないが、『ざ・はむきたす』は解散してしまった。

 しかし私にとって悪いことばかりでもなかった。その後すぐに、『彼女』はバンドを再結成するためメンバーの募集を始めたのだ。

 ──チャンスだと思った。応募することに躊躇は無かった。必要なパートである『ギター』と『ボーカル』の内、ギターに関しては現物も知識も経験も何も無かったが……ライバルが現れる前に席を埋めたくて、『できる』と嘘を吐いて加入した。

 ……いや、また取り繕った。正直に白状しよう。

 当時の私には()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 何故か? だって私は傲慢にも、『なんでもできる』と思い込んでいたから。『ギターは今まで弾いたことがなかっただけで、どうせ練習すればすぐ並以上にこなせる』と本気で信じていたのだ。

 

 ……あぁ、知っている。『天狗の鼻』というのはいつだって、肝心な時『どうしてよりにもよって今』って時に折られるものだ。オレもそうだった。

 

 

 ────弾けなかった。

 もう『下手』というレベルですらない。練習以前に、弦を一本チューニングすることすらできなかった。どれだけペグを回して弦を張っても、私のギターは見当違いの低い音しか出してくれなかったのだ。

 それで一本弦を切ってしまったから、楽器屋さんに行って新しいものを買うついでに、不良品かどうかのチェックもしてもらったのだけど……店員さん曰く『チューナーも弦も本体も正常』らしく、店員さんに弦を張り替えて貰っても状況は改善しなかった。

 天に二物も三物も与えられていた私だけど……ギターの才能だけは、切り絵みたいに綺麗さっぱり、欠落していたらしい。

 ……今思うと、当時の私はかつてない壁を前に気が動転していたのだろう。『自分にはギターが弾けない』と気付いた時点で諦めて、謝るべきだったのに。謝って、自分の無駄に広い人脈を駆使して代理を見つけるなり何なり、対処をするべきだったのに。

 何も対処しないまま、私はギターを弾けないまま、ライブの当日は訪れた。

 ……私は逃げた。無責任に、逃げた。逃げた後、どうなったのかは分からない。確認する勇気も、ない。事情を明かして謝ることも、できていない。

 あぁ、最早……空虚すら、感じない。

 

 ……酷い話だ。信じられない。何故そんな行動を取ったのか、理解できない。

 なのにその時々の感情だけは、痛いほど察してしまえるから……尚更に、酷い。

 

 ────(オレ)は、(お前)が嫌いだ。

 

 

 

 *

 

 

 

 ……マズイことになった。

 

「恭助、一応言っておくけど……ダメだからね」

「…………」

 

 すぐ前には、路上で土下座している『逃げたギター』……つまり郁代。そして隣には、目が据わっている弟。私の言葉に対する反応は、ない。

 恭助は本気で怒ると無口になるタイプだ。この状態は本当に、マズイ。

 

 事の始まりは、ぼっちが虹夏に送った『すみません、EDMガンガンかけてリョウさんとエナジードリンク片手に踊り狂いながらバイトしててください』という謎のロイン。

 私と虹夏は困惑しつつも、エナドリの買い出しに向かった。荷物持ちに恭助を連れて。

 ついでに言うと、恭助を連れて来たのはぼっちとの顔合わせも目的の一つだった。というか比重としてはこちらが大きい。

 単に『(メンバー)の身内兼よく顔を出すサポーター』として紹介するのと、ぼっちが時折見せる『召喚能力』や、面白いけどちょっと心配になる『変形能力』についてそれとなく探り、診て欲しかったのが理由だ。

 

 ……ん? 買い物デート? 長年両片想い拗らせてるこの二人が今更その程度で何か進展があるとでも?

 いや、今そのことはどうでもいい。どうでもはよくないけど、ひとまず置いておく。

 

 問題は、エナドリを抱えた虹夏がぼっちと合流した後。

 

『──喜多ちゃん?』

『……ぅ』

『え? 虹夏ちゃん、喜多さんとお知り合いで……?』

『知り合いっていうか……『結束バンド(ウチ)』の()()()()

『そ、それって……』

 

『──うん。『()()()()()()』だよ、その子』

 

 そして郁代がすぐさま土下座を敢行し、今に至る。

 虹夏は郁代に頭を上げさせようと頑張ってるけど、反応は(かんば)しくない。ぼっちはオロオロしててちょっとダメそう。恭助はもっとヤバい。

 ……私が動くしかないか。

 

()()

「……っ」

 

 うーん、名字の方で呼んだだけでそんな縮こまるのは勘弁して欲しい。『人前で下の名前を呼ぶのは駄目』だと言ったのはそっちだろうに。

 

「頭上げて」

「……はい」

「とりあえず、STARRYに入って話そう。ここじゃ人目につく」

 

 郁代は少し迷った後コクリと頷き、ゆっくりと立ち上がった──

 

 

 

 *

 

 

 

「……なるほど。だから合わせの練習頑なに避けてたんだ」

「はい……」

 

 どうやら郁代は、ギターが弾けなかったらしい。

 この後輩が何か抱えているのは察していたが、思っていたより何倍も刹那的(ロック)な生き方をしている。嫌いじゃない。

 

「てっきり死んだのかと。心配してた」

「心配するのはいいけど、勝手に殺さないであげて?」

「姉貴まさか、最近毎日線香上げてたのって……」

「うん。そういうこと」

「いや本気で死んだと思ってたんかい!」

 

「……あ、あの。怒らないんですか……?」

 

「え? あー、気付かなかった私達にも問題あるし。何より結果的にではあるけど──()()()()()()んだよね、あのライブ。だから大丈夫。怒ってないよ」

「私も同じ」

 

 まぁ、代わりに約一名ブチ切れてるのが居るんだけどね……

 

「──イイ流れのとこ悪いんだけどよぉ」

 

「恭助くん……?」

 

 ……ダメだな。虹夏の声に反応しないなら、もう誰にも止められない。

 

「喜多、つったよなぁお前」

「……えぇ、そうよ。そういうアナタは……山田くん、でいいのよね?」

「あぁ。──でだ、喜多さんよぉ……テメェ()()()()()()()()()()

 

「…………え?」

 

(とぼ)けるなよ。テメェ──」

 

 

  ()()()()()()()()()()()()()

 

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