山田弟は、初恋を砕けない   作:しやぶ

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第三話(2):北風と太陽

 

 ──言われた意味が、理解できなかった。

 

「な、にを……そんな出鱈目ッ、何を根拠に……! 私が理由もなく逃げたって言いたいの!?」

「理由なんざ知らないけどよぉ、お前がギターを弾けるってのは分かる」

「だから、何を根拠に……!」

 

 私が一体どんな気持ちで、出演を諦めたと──!!

 

()

 

「……は?」

 

「だから指だよ。お前の。

 オレさ、ちょっとした特技があって──()()()()()()()()()()()()()()()()()んだよなぁ」

 

「…………ぇ」

 

 それって、つまり……まさか、彼が言いたいことって……

 

「アンタ指先、かなり酷使してんだろ。()()()()()()()()筈だぜ?」

 

「──喜多ちゃん。手、ちょっといい?」

 

「…………」

 

 言われるまま、伊地知先輩に手を差し出す。

 

「……ホントだ、硬い」

「毎日欠かさず練習してないと、そうはならない」

「そっ、それも長時間……大分前からやってないと……」

 

「そんなになるまで練習してて『ギター弾けない』なんてさぁ……嘘だろ」

 

 ──あぁ。この人は、私の努力を見抜いてくれたんだ。

 私が去る時にリョウ先輩が、伊地知先輩が、後藤さんが、それを知らないまま終わることがないように……

 

「……それでも、本当に弾けないの。ギターも弦も正常なのに、私が弾くと見当違いの音しか出ないのよ……」

 

「つまりテメェが逃げた正確な理由は『ギターが弾けないから』じゃあなく『ギターがド下手だったから』だろ?

 ……どうして、自分の努力を信じてやれなかった」

 

「ううん、下手なんてレベルじゃないのよ……呪われてるんじゃってくらい、低い音しか出なくって……」

「そりゃギターの方に問題があるんじゃねぇか? 今日持って来てるソレだろ? ちと見せてみ」

「……それは私も思ったし、楽器屋さんにも見せたけど……弦も本体もチューナーも、正常だって……そう言われたわ」

「その店員がクソだったって場合もあり得る。いいから見せろ。ギターの方に原因があるなら、オレが直してやる」

 

「……山田くんはどうして、私にそこまでしてくれるの?」

 

 リョウ先輩と伊地知先輩は、私を許してくれたけど……彼は違う筈だ。

 だって彼は、怒っている。罪を犯した私に、(いきどお)っている。

 

「勘違いするな、お前のためじゃない。()()()()()()()()()

 

 ──ほら。

 

「だけどそれ以上に、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……優しいのね、山田くんは」

「うるせぇ。さっさと見せな」

「ふふっ、ごめんね。じゃあ、お願い」

 

 ──あぁ、いいなぁ。

 流石はリョウ先輩の弟。彼もまた輝いている。

 口が悪いのに、その実優しくて……それに、顔も良い。うっかり好きになってしまいそうだ。

 

 ────まぁ、そんな夢見心地はすぐに終わってしまうのだけど。

 

「さぁて、どれど、れ……?

 ス──……いやコレ、()()()()()()

 

 言われた瞬間『えっ?』という声が重なる。

 

「ま、待って!? ベースは()()()()の筈じゃ……」

 

「いやそれ、()()()()()

 

 リョウ先輩の口から、聞いたことのない単語が出てきた。

 

『…………』

 

 タゲン、たげん──多弦?

 つまり、弦が、多い……()()()??

 

「ンガッッ!?!?」

 

 あまりの衝撃に、乙女的に『NO』な悲鳴を上げながら卒倒する。

 

「お父さんにお年玉とお小遣い、2年分も前借りしたのに……」

「喜多ちゃあぁぁぁん!?」

 

 尚この直後、私は『そろそろ仕事なんで、バイト組以外は出てってくんない?』という店長さんの言葉で追い出された。

 倒れた私を心配して、介抱しようと動いてくれたのは、伊地知先輩だけでした。天使……

 

 

 

 *

 

 

 

 ──場所は変わって、近くの喫茶店(カフェ)

 席を取って待っていた私の方に、2つのカップを持った山田くんが向かってくる。

 

「ほれ、ミルクティー」

「あ、ありがと……」

「ん」

 

 このミルクティーは、彼が奢ってくれたものだ。私も『自分のお金で入る』とは言ったのだが、つい先程口走った内容のこともあり、押し切られてしまった。

 

 お互い飲み物を一口飲んで、一呼吸。

 

「──で? ギター、どうすんの?」

「どう、って……」

「ざっと3択だろ。1、ベースに転向する。2、それを売ってギターを買い直す。3、これを機にキッパリ楽器を辞める」

 

「私は……ギターをちゃんと弾けるようになって、先輩達にちゃんと謝りたい」

 

()()()()()()()()のにか?」

 

()()()()()()()()のよ。私のしたことは、ただ謝って許されていいことじゃない」

 

「だとしても、今からお前がギターを弾けるようになったところで──()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「それは……」

 

「何の意味もねぇだろ。

 ──あの二人が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、な」

 

「──っ!!」

 

 思い出すのは、あの謎スペースで後藤さんが言っていたこと。

 

 

『今、自分のバンドのボーカルを探してて──』

 

 

 あの時たしか彼女は、『(喜多さん)がギターを弾ける』『歌()上手い』と聞いて勧誘を決めたと言っていた筈だ。

 

 つまり、まだ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ──ならば。

 

 

()()()

 

「……話、ちゃんと聞いてたか?」

 

「えぇ。私はこの多弦ベースを売って、ギターを買い直して、結束バンドのギターボーカルに応募する」

 

「結束バンドは()()()プロを目指してるバンドだ。メンバーになることが終点(目的)なら邪魔だ。諦めろ」

 

「プロ? ──()()。ちょうど私、一つの分野を極めたいと思ってたところなの」

 

「まるで『大体のことは並以上にこなせる』とでも言いたげだな? いかにもな台詞だ。さぞかし逃げ道には事欠かなかったんだろうよ」

 

「返す言葉もないわね。──だから、行動(結果)で示すわ」

 

 それから『ミルクティー、ごちそうさま』とだけ言って、私は席を立ち──『待て』という声が聞こえて立ち止まる。

 

「……何かしら?」

「──いくらだ?」

「……何のこと?」

「値段だよ、その多弦ベースの金額」

「……それを聞いて、どうするの?」

 

「決まってんだろ。()()()()()()()()()()()

 

「え?」

 

「それと、新しいギターを買う必要はねぇ。ウチのを貸してやる」

 

「えっ」

 

「少ない手持ちで安物買われても、他と釣り合い取れねえとメンバーが困るだろうが」

 

「いや、そうじゃなくって」

 

「あぁ、無論アンプやらシールドやら、最低限のものは端折(はしょ)っただけだぞ」

 

「いや、だから! どうしてそこまで──」

 

『すみませーん、店内ではお静かにお願いしまーす』

 

「……店の外で話すか」

「……そうしましょう」

 

 

 そうして二人でそそくさと退店し、改めて問う。

 

 

「……どうして山田くんは、そこまでしてくれるの? 私のこと、嫌いなんでしょ?」

 

「あぁ嫌いだね。大っ嫌いだ。

 まず姉貴に『憧れの目』を向けてる時点でワンアウト。ライブのドタキャンでツーアウト。そして何より、一人で抱え込む性分が気に食わねえ。27アウト」

 

「試合終了しちゃったんだけど」

 

「得点によっては延長戦があるだろボケナス。そういう思い込みの激しさがあるから、多弦ベース(そんなもん)を買っちまうんだよ。アウト追加」

 

「ぐぅ……」

 

「……だがSTARRYの中でも言った通り、オレは努力が報われない状況ってのが気に食わねえ。

 お前は今まで努力をしてきた。喫茶店でオレにあんだけ好き放題言われても、諦めなかった。だから、お前は報われるべきだ」

 

「……やっぱり優しいんだ、山田くんって」

 

「優しい? ほぼ初対面の相手にこれだけボロクソ言う奴が? 被虐趣味の気があるらしいな」

 

「さてどうかしらね。ただ、あんまりそういうこと言って炎上されると身内が迷惑するんじゃない?」

 

「おや? 今のが暴言に聞こえたのか? どの辺りでそう誤解されたのか全く分からないなぁ」

 

「はいそこ火に油を注がない」

 

 ──それからしばらく、こうやって軽口を言い合いながら歩いた。

 目的地は設定していなかったけれど……私達は自然とSTARRYの前に戻ってきていて、一瞬会話が途切れる。

 

「……そういえば、ベースを買い取るっつー話だったな」

「……えぇ」

「改めて、値段は?」

 

 今度は素直に、買った時の金額を口にする。

 

「結構するけど……山田くんは大丈夫なの?」

「余裕。オレは姉貴と違って、バイト代はほぼ手付かずで貯金してるからな」

「……リョウ先輩のお金遣いが荒いみたいに聞こえるんだけど」

「クソ荒いぞ。何ならオレ、姉貴にそのベース数本買える金額の貸しあるし」

 

 だからこそ、持ち主の許可を得ることなく『(ウチ)のギターを貸す』と言えるのだとか。

 

「知りたくなかった……」

「オレが『姉貴に憧れの目を向けてる奴はアウト』と言った理由が一つ明かされてしまったなぁ」

「他にもあるの……!? わ、私のイメージが……!」

「じゃあ応募するの、辞めとくか?」

 

「いいえ、応募は辞めない……!」

 

「イイね、その意気だよ」

 

「──っ」

 

 あ、ダメだ。面食いの私にその顔で、唐突に素の激励をやられると効果抜群過ぎる。

 

「また明日、そのベースを持ってここに来て。代金とギターはその時渡すから」

「え、あ、うん」

「時間はどうする? オレは部活とか特にやってないから、そっちに合わせられると思うよ」

「あ、私も学校終わってすぐで大丈夫……」

「そ。じゃあロイン交換しよ。何かあったら連絡ちょうだい」

「あ、うん。それはいいんだけど……」

「けど?」

 

「……性格(キャラ)というか、口調、変わりすぎじゃない……?」

 

「あーね。オレって顔もだけど、声が結構女性寄りだからさぁ。舐められないように普段は気ぃ張ってるんだ。素はこっちね」

 

「〜〜っ。私のこと、嫌い、なのよね……?」

 

()()()()そっちの方が強いねぇ。というか──喜多さん的に()()()()()()()()()()()()()()()()思って」

 

「────」

 

「見当違いだったら、ただのイタい奴になっちゃうけどさ。喜多さん自身、()()()()()()()()()()って言ってたし。一人くらい、キミを許さないでいてやる奴が居た方がいいのかなって」

 

「……そうね」

 

「でも喜多さんは何を言われても『結束バンド』を諦めないんでしょ? だったら()()()()()()()()相手に気ぃ張り続けるの疲れるし、素にもなるよ」

 

「──うん。末永く、よろしくお願いしたいわ」

 

「じゃあ、ホイ」

 

「……? あっ、あぁそうね。ロインのQR……今読むからちょっと待ってて」

 

 少しして、私の『ともだちリスト』に刻まれた数字が一つ増えた。

 

 

「──早く上手くなってくれよ? 脱走兵。この程度じゃまだ、『ともだち』なんて呼んでやれねぇからよぉ」

 

「うん。私、頑張る……!」

 

 

 上手くなって、結束バンドに返り咲いて──そうして私も、キミと胸を張って、友達になりたいから。

 

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