山田弟は、初恋を砕けない   作:しやぶ

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第四話(2):ぼっちと山田(前編)

 

 ──今現在、後藤ひとり()にとって『山田恭助』という人物はよく分からない……『掴みどころのない存在』だ。

 

 何せ直接会うのはこれで3回目であるものの、1度目は互いに顔を見た程度。しかも私は『観客の中に居たらしい』程度の認識。2回目でようやく顔と名前が一致したけれど、やはり会話は一切ナシ。

 そして3回目の今日、ようやっと直接言の葉を交わしたけれど……

 

『そんな装備(服装)で大丈夫か?』

『大丈夫(です)、問題ない(ありません)

 

 要約すると、これだけである。互いに自己紹介すらしていない。私が初手土下座なんていう奇行に走らなければ、そういう展開になったのかもしれないが……それはともかく。これだけで人柄なんて分かる筈もない。

 

 ……いや、情報自体はあるのだ。

 リョウさんの弟であり、家族仲は良好そうだということ。虹夏ちゃんが想いを寄せている人だということ。喜多さんのギターを元値で買い取った上で、現在のギターを貸してくれているということ。

 だからまぁ、『善人』ではあるのだろう。ついでに言うと、(少なくとも私やリョウさんよりは)根が陽キャ寄りなのかな? というイメージ。

 

 ──ただどうしても、一番印象に残っているのは……2回目の時に見た、あの『怒気』だ。アレのせいでどうしても、私の中で彼は『怖い人』という印象が根深くなっている。

 だから正直、今日の集まりで彼が来ると知った時は恐怖しかなかった。あの『怒気』が私に向くなんて、想像したくもなかった。

 だって、あの場面で彼が怒るのは自然なことだったけれど……つまりそれは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだ。そして『いつまで経っても歌詞を書いてこない』というのは、彼が怒る理由に充分なり得るのではないか──と、当時の私は震えていたのだ。

 え? 『じゃあ逃げればよかったのに』って? そんなことしたら後が怖いからムリ……

 

 しかし蓋を開けてみれば、あれだけの怒りを向けていた喜多さんとは距離を感じさせないし、私へ向けた声色は優しかった。『陽』だと思っていた雰囲気も、いざ対峙してみれば喜多さんほど眩しくはなくて……やはり姉弟だからなのか、どちらかというとリョウさんに近い『陰』のものだった。

 故に、私から彼への評価が『怒ると怖い人』から『ただの良い人』になろうとしていたところで──()()は現れた。

 

 空色と桃色を基調にした、人型のナニカ。

 目算2m前後の長身、丸太のように太い手足──圧倒的『暴力の化身』であると、すぐに解った。だけどその雰囲気は、どこまでも柔らかくて……相反する属性が、狂気的なバランスで両立していた。

 

 ──()()と同じ空気を、彼は纏っていた。

 私の中で彼がまた、『分からない人』と化した。

 

 

 

 *

 

 

 

「ん〜、どれも悪くないんだけど……あと一歩、何か欲しいような……」

 

 幾つかの候補地でそれぞれ何枚か撮ってみたけれど、どれも虹夏ちゃんを満足させるには足りないらしい。

 

「そうですね……あっ、楽器を持って撮るのはどうですか!?」

「申し訳ないけど、個人的な事情でそれは最終手段にしたいかな」

「と、言いますと?」

「いやだって、想像してみてよ? ギターとベースを持った3人に挟まれた、装備が木の棒2本な小柄ドラマーの図を……」

「あっ……」

 

「んー、でも言うてそこまで見劣りする?」

「いいじゃん。かわいいと思うよ?」

 

「じゃあ今日だけ楽器交換してくれる?」

「カッコ悪いからヤダ」

「その無駄に整った顔面を台無しにしてやろうか」

「助けて恭助」

「くたばれ」

 

 真面目に返すなら、『メッセージ性』や『分かりやすさ』よりビジュアル優先してどうすんだって話なんだけどね。後藤さんのピンクジャージを通した意味よ。

 まぁ本人もそれが解ってるから『個人的な事情』と言ってる訳ですがね。

 

 ──と、それはさておき。

 

「ちょい後藤さん、黙ってどっか行こうとしない。はぐれるよ?」

「ピィッ!? すすすすすすみませっっ」

 

 新たな撮影地を探すべく探索を再開してすぐのこと。

 後藤さんがフラッとどこかに消えたことに気付いたので、少し引き返して呼び止めると……それだけで何故か彼女はガクガクブルブルし始めた。

 

「別に怒ってないし、そんなに怖がらないで欲しいんだけど……つっても、まぁ、いきなりは難しいか……」

「あっ」

 

 そもそも彼女からすれば、オレは『初対面の喜多さんにブチ切れていた人』という認識しかないのだ。そりゃあ怖いわ。

 

「すっ、すみません。あの、山田さんが特別怖いとかじゃ、なくって……わ、私、誰にでもこうなんです……!」

「んー、じゃあ今のところ、話しやすい相手とかはいない感じ?」

「そ、そうですね……」

バンドメンバー(あの3人)も?」

「あっ、いえ。皆、比較的話しやすいです。特に虹夏ちゃんは……嫌な沈黙を作らないでくれるし、かといって喜多さんみたいに光らないし……転がってたわたしを、拾ってくれたし……

 

 ふむ。半分くらい何言ってるか分からんが、とりま虹夏ちゃんへの好感度は高いっぽいな。

 

「んじゃ今度、オレと虹夏ちゃんと後藤さんの3人で、お茶でもどう?」

「えっ」

「そういやオレら、タイミング逃してマトモな自己紹介もしてないワケだしさ。かと言って、男女2人で会うのは怖いだろうし」

「お、お茶会は山田さんと虹夏ちゃんだけでお願いしますッッ」

「なんでさ??」

 

 いや、それはそれで個人的に嬉しいイベントだけども。

 

「まぁ、じゃあ今のナシ。とりまこんな感じで会う機会はこれからもあるだろうし、ゆっくり慣れていってもらえればいいかな」

「アッハイ」

 

「……んで、後藤さんはどこに行こうとしてたの?」

「あっ、あっちにたぶんですけど良さげな壁が……」

「なるほど。じゃあちょい待ってて。皆を呼んでくるから」

 

 向こうは向こうで、立ち止まって何やら話し込んでいるらしい。距離が離れていなくて良かった。

 

「──あのッ」

 

「ん、どった?」

 

「…………や、山田さん。聞きたいことが、あります」

 

「……? おう」

 

「りょっ、リョウさんに──!」

 

「──姉貴に聞きたいこと?」

 

「ぁっ、あ……ハイ」

 

「あっ、分かった。歌詞のことだね? 作曲担当と意思の擦り合わせをするのは大切だもんね」

 

「はいそうですッ」

 

「話、通しておくよ」

 

「お願いします!」

 

 

 

 *

 

 

 

 ──しまった、すっかり歌詞のことを忘れていた。

 完全に煮詰まっているし、相談できるならしたい。『作曲担当の意思』という形で別視点の意見が貰えるなら、願ったり叶ったりだ。

 

 でも、あのナニカについて……あの時()()()()()()()()()()()()()()()()って……聞けなかったな。

 

 

 

 *

 

 

 

「おぉ〜、『良さげな壁』だ! ぼっちちゃんでかした!」

「ぅえへへ……」

 

「はいじゃあ早速並んで──」

 

「あっ、その前に一ついいですか?」

「うん?」

 

「──ジャンプをしましょう!」

 

『ジャンプ?』

 

「ほら、『あと一歩の要素』ですよ! 楽器以外に何かあるかなって、ずっと考えてたんです!」

 

 ふむ。『絵になる上に、メンバーの素が出ていいと思う』ね……なるほど。

 

「喜多ちゃん天才!!」

「SNS担当大臣ですから。『映え』についてはお任せください!」

 

「有識者が言っていた……『OPでジャンプするアニメは神アニメ』と……! つまりアー写でジャンプすれば神バンドになるのでは?」

 

「アホの発言は放っておいて撮るぞ〜」

 

 カメラを構えて、カウントダウンを開始する。

 

「弟が冷たくて辛い……」

「日頃の行いでしょ? 全く──ほいっ」

「あわわっ」

 

 さて1枚目はど──削除。私は何も見ていない。

 

「今のナシッ! 次!!」

 

「えっ、どうしたどうした」

 

「とりあえず全員、()()()()()()()()()ということを意識して撮影に望むようにッッ」

 

「「──っ!?」」

「「…………」」

 

(うっそ、もしかして()()()()!? きょっ、今日のって見せても大丈夫なヤツだったっけ!? あっ、いや今日の制服じゃないから丈あるし私じゃないか)

(大丈夫よね? ちゃんと意識して跳んでたから見えてないわよね??)

(スカートの丈的に、私と虹夏は違うな。郁代かぼっち……ぼっちだな)

(無価値なものを映してすみません……)

 

「きっ、気を取り直して次いこ次!」

「よしカウント始めッ、5! 4──」

 

 それから何枚かジャンプ写真を撮って、写真のデータを皆に送って、今日は解散となった。

 オレはまたも、後藤さんの『発作』を診ることができなかった──と、思いきや……

 

 

『恭助、急いでこの店来て』

 

『(位置情報のリンク)』

 

 

『──ぼっち、()()()()()()()()()()()()

 

 

「……マジか」




 
 初の三分割。
 次回で今作におけるぼっちちゃんの扱いについて話せば、主要メンバーとの最低限の交流完了なので……次の次から虹夏ちゃんとの恋愛メインが書けるぞーー!!(作中時期的にもうすぐ夏休みという大義名分もあるのでね!)
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