──今現在、
何せ直接会うのはこれで3回目であるものの、1度目は互いに顔を見た程度。しかも私は『観客の中に居たらしい』程度の認識。2回目でようやく顔と名前が一致したけれど、やはり会話は一切ナシ。
そして3回目の今日、ようやっと直接言の葉を交わしたけれど……
『そんな
『大丈夫
要約すると、これだけである。互いに自己紹介すらしていない。私が初手土下座なんていう奇行に走らなければ、そういう展開になったのかもしれないが……それはともかく。これだけで人柄なんて分かる筈もない。
……いや、情報自体はあるのだ。
リョウさんの弟であり、家族仲は良好そうだということ。虹夏ちゃんが想いを寄せている人だということ。喜多さんのギターを元値で買い取った上で、現在のギターを貸してくれているということ。
だからまぁ、『善人』ではあるのだろう。ついでに言うと、(少なくとも私やリョウさんよりは)根が陽キャ寄りなのかな? というイメージ。
──ただどうしても、一番印象に残っているのは……2回目の時に見た、あの『怒気』だ。アレのせいでどうしても、私の中で彼は『怖い人』という印象が根深くなっている。
だから正直、今日の集まりで彼が来ると知った時は恐怖しかなかった。あの『怒気』が私に向くなんて、想像したくもなかった。
だって、あの場面で彼が怒るのは自然なことだったけれど……つまりそれは
え? 『じゃあ逃げればよかったのに』って? そんなことしたら後が怖いからムリ……
しかし蓋を開けてみれば、あれだけの怒りを向けていた喜多さんとは距離を感じさせないし、私へ向けた声色は優しかった。『陽』だと思っていた雰囲気も、いざ対峙してみれば喜多さんほど眩しくはなくて……やはり姉弟だからなのか、どちらかというとリョウさんに近い『陰』のものだった。
故に、私から彼への評価が『怒ると怖い人』から『ただの良い人』になろうとしていたところで──
空色と桃色を基調にした、人型のナニカ。
目算2m前後の長身、丸太のように太い手足──圧倒的『暴力の化身』であると、すぐに解った。だけどその雰囲気は、どこまでも柔らかくて……相反する属性が、狂気的なバランスで両立していた。
──
私の中で彼がまた、『分からない人』と化した。
*
「ん〜、どれも悪くないんだけど……あと一歩、何か欲しいような……」
幾つかの候補地でそれぞれ何枚か撮ってみたけれど、どれも虹夏ちゃんを満足させるには足りないらしい。
「そうですね……あっ、楽器を持って撮るのはどうですか!?」
「申し訳ないけど、個人的な事情でそれは最終手段にしたいかな」
「と、言いますと?」
「いやだって、想像してみてよ? ギターとベースを持った3人に挟まれた、装備が木の棒2本な小柄ドラマーの図を……」
「あっ……」
「んー、でも言うてそこまで見劣りする?」
「いいじゃん。かわいいと思うよ?」
「じゃあ今日だけ楽器交換してくれる?」
「カッコ悪いからヤダ」
「その無駄に整った顔面を台無しにしてやろうか」
「助けて恭助」
「くたばれ」
真面目に返すなら、『メッセージ性』や『分かりやすさ』よりビジュアル優先してどうすんだって話なんだけどね。後藤さんのピンクジャージを通した意味よ。
まぁ本人もそれが解ってるから『個人的な事情』と言ってる訳ですがね。
──と、それはさておき。
「ちょい後藤さん、黙ってどっか行こうとしない。はぐれるよ?」
「ピィッ!? すすすすすすみませっっ」
新たな撮影地を探すべく探索を再開してすぐのこと。
後藤さんがフラッとどこかに消えたことに気付いたので、少し引き返して呼び止めると……それだけで何故か彼女はガクガクブルブルし始めた。
「別に怒ってないし、そんなに怖がらないで欲しいんだけど……つっても、まぁ、いきなりは難しいか……」
「あっ」
そもそも彼女からすれば、オレは『初対面の喜多さんにブチ切れていた人』という認識しかないのだ。そりゃあ怖いわ。
「すっ、すみません。あの、山田さんが特別怖いとかじゃ、なくって……わ、私、誰にでもこうなんです……!」
「んー、じゃあ今のところ、話しやすい相手とかはいない感じ?」
「そ、そうですね……」
「
「あっ、いえ。皆、比較的話しやすいです。特に虹夏ちゃんは……嫌な沈黙を作らないでくれるし、かといって喜多さんみたいに光らないし……転がってたわたしを、拾ってくれたし……」
ふむ。半分くらい何言ってるか分からんが、とりま虹夏ちゃんへの好感度は高いっぽいな。
「んじゃ今度、オレと虹夏ちゃんと後藤さんの3人で、お茶でもどう?」
「えっ」
「そういやオレら、タイミング逃してマトモな自己紹介もしてないワケだしさ。かと言って、男女2人で会うのは怖いだろうし」
「お、お茶会は山田さんと虹夏ちゃんだけでお願いしますッッ」
「なんでさ??」
いや、それはそれで個人的に嬉しいイベントだけども。
「まぁ、じゃあ今のナシ。とりまこんな感じで会う機会はこれからもあるだろうし、ゆっくり慣れていってもらえればいいかな」
「アッハイ」
「……んで、後藤さんはどこに行こうとしてたの?」
「あっ、あっちにたぶんですけど良さげな壁が……」
「なるほど。じゃあちょい待ってて。皆を呼んでくるから」
向こうは向こうで、立ち止まって何やら話し込んでいるらしい。距離が離れていなくて良かった。
「──あのッ」
「ん、どった?」
「…………や、山田さん。聞きたいことが、あります」
「……? おう」
「りょっ、リョウさんに──!」
「──姉貴に聞きたいこと?」
「ぁっ、あ……ハイ」
「あっ、分かった。歌詞のことだね? 作曲担当と意思の擦り合わせをするのは大切だもんね」
「はいそうですッ」
「話、通しておくよ」
「お願いします!」
*
──しまった、すっかり歌詞のことを忘れていた。
完全に煮詰まっているし、相談できるならしたい。『作曲担当の意思』という形で別視点の意見が貰えるなら、願ったり叶ったりだ。
でも、あのナニカについて……あの時
*
「おぉ〜、『良さげな壁』だ! ぼっちちゃんでかした!」
「ぅえへへ……」
「はいじゃあ早速並んで──」
「あっ、その前に一ついいですか?」
「うん?」
「──ジャンプをしましょう!」
『ジャンプ?』
「ほら、『あと一歩の要素』ですよ! 楽器以外に何かあるかなって、ずっと考えてたんです!」
ふむ。『絵になる上に、メンバーの素が出ていいと思う』ね……なるほど。
「喜多ちゃん天才!!」
「SNS担当大臣ですから。『映え』についてはお任せください!」
「有識者が言っていた……『OPでジャンプするアニメは神アニメ』と……! つまりアー写でジャンプすれば神バンドになるのでは?」
「アホの発言は放っておいて撮るぞ〜」
カメラを構えて、カウントダウンを開始する。
「弟が冷たくて辛い……」
「日頃の行いでしょ? 全く──ほいっ」
「あわわっ」
さて1枚目はど──削除。私は何も見ていない。
「今のナシッ! 次!!」
「えっ、どうしたどうした」
「とりあえず全員、
「「──っ!?」」
「「…………」」
(うっそ、もしかして
(大丈夫よね? ちゃんと意識して跳んでたから見えてないわよね??)
(スカートの丈的に、私と虹夏は違うな。郁代かぼっち……ぼっちだな)
(無価値なものを映してすみません……)
「きっ、気を取り直して次いこ次!」
「よしカウント始めッ、5! 4──」
それから何枚かジャンプ写真を撮って、写真のデータを皆に送って、今日は解散となった。
オレはまたも、後藤さんの『発作』を診ることができなかった──と、思いきや……
『恭助、急いでこの店来て』
『(位置情報のリンク)』
『──ぼっち、
「……マジか」
初の三分割。
次回で今作におけるぼっちちゃんの扱いについて話せば、主要メンバーとの最低限の交流完了なので……次の次から虹夏ちゃんとの恋愛メインが書けるぞーー!!(作中時期的にもうすぐ夏休みという大義名分もあるのでね!)