コレを読んだ後、この後できる歌詞を見ると……
アー写撮影が終わってすぐ、私はリョウさんと一緒に近くの喫茶店へ訪れていたが……
「…………」
「…………」
……き、気まずい。そういえばリョウさんと2人きりで会うのは初だし、何話したらいいか分かんない。いつもは虹夏ちゃんが間に入ってくれてたから、こんな風に気になる沈黙もなかったけど……
「…………」
「…………」
ぐぅ……どうして何も話してくれないんだ……!?
い、いや。他力本願じゃダメだ。私から……!
「こ、コーヒー、美味しいですね」
「うん。美味しい」
「…………」
「…………」
……続かない! やっぱり事前にデッキを組んでない会話は開始から終了までが早すぎる!!
クッ、後は……あと他に何か話題は……!
「せっ、背中……」
「……ん?」
──あっ、しまったつい。
「背中がどうしたの?」
うぅ、私のバカぁ……聞きにくいけど、問い返されて無視したり誤魔化したりなんてできない……
「その……なんとも、ないですか?」
「…………
「……、…………」
それって……たぶん、
痛みの麻痺……? 感覚の喪失……? でもそんな取り返しが付かないようなこと、する……?
…………まさか単に、治療しただけ? 筋骨隆々なあの見た目で? ロードローラーを殴って浮かせらせそうなオーラを出しておいて??
──いや、というかだ。
そういえば例の『特技』ってもしかして、アレが『治療が必要な部位』を診てたってことだったりするんじゃ? だとすると、辻褄が……
────結論。
十中八九、私の杞憂。
「アッ。なら良かったです。ホントに」
恥ずかしい。顔が熱い。絶対真っ赤だ今……
そうだよ、あの天使みたいな虹夏ちゃんが好きになるような人だよ? それを実は悪い人かもなんて疑って……失笑……私ってホントバカ……
「……ねぇ、ぼっち」
「あっハイなんでしょう?」
「──見えてるでしょ」
「あっハ──はい?」
「
「ぅえッ!?」
どどどどどどうしよう!?
肯定するべき!? 誤魔化すべき!?
「ぼっちは私の背中が
「あっ」
「しかもその後私が『不自然なくらい』痛くないと言ったのを聞いて──
「あっ、あっ」
──コレ、わたし、死んだ?
知ってはいけないことを知って、消されるヤツでは?
「……そんなに怖がらなくていい。ぼっちは大切なバンドメンバー。取って喰ったりしない。というかむしろ、逆」
「逆……?」
「ぼっちが見た人型のナニカ──〝スタンド〟っていうんだけどさ。スタンドは、スタンドを持ってる人にしか見えないんだ。……だから、
「それって、リョウさんも……?」
「……うん」
その時リョウさんは、すごく寂しそうな顔をしていた。
……いや違う。本当に『寂しい』のは……
「すると、さ。当然最初は、頭の病気を疑われる。実際恭助は病院で精密検査を受けて、最終的にはイマジナリーコンパニオンって診断結果になった」
──イマジナリーコンパニオン。別名『イマジナリーフレンド』
ものすごく、身に覚えがあるシチュエーションだ。まぁ私の場合は病院じゃなくて、オカルティックな人達が呼ばれるんだけども。最近だと霊媒師さん。頭に直接塩を盛られるのも慣れたものだ。
「……前に虹夏がさ、『スタンドを知っているか』って聞いたの覚えてる?」
「……はい」
「聞き方を変えるね。ぼっち──」
イマジナリーフレンドが、いるんじゃない?
*
指定された店に到着し、姉の隣に腰掛ける。
まず
そして──
「……〝クレイジーダイヤモンド〟」
「〝ギタ男くん〟」
『呼んだかい? ひとり。……ところで何故『彼』は1人ジャンケンを?』
「勝ったのはどっち?」
「あっ、全部は見れてないですけど……今はあいこですね」
『その直前なら左手がグー、右手がパー。勝っていたのは右だったね』
「……ギタ男くんは、喋るんだね」
「あ、クレ……ダイヤさんは、喋らないんですか?」
「昔はよく喋ってたんだけどね……今はめっきり」
「とっ、というか……」
「うん……」
「「まさか本当に見えるとは」」
それも、手先までハッキリと。
なんだろうな、この感覚……突然外国に放り出された先で、日本人に会ったみたいな……今まで抱えてきた『疎外感』みたいなのが、軽くなったような……そういう類の感慨がある。
「わっ、私……ずっとギタ男くんのこと、イマジナリーフレンドだと思ってたんですけど……コレって……
「たぶん、そうなるんじゃないかな」
『──あーいや、申し訳ないんだけど、たぶんボク……スタンドじゃあないと思うよ?』
「「え??」」
お互いやっと同族を見つけた──と思っていたところだったから、素っ頓狂な声が重なる。
弦の無いギターに似顔絵と手足をくっつけた姿の、珍妙なナニカ──『ギタ男くん』は、そのままの調子で続けた。
『ボクと『彼』は、似てるけれど違う存在かな。犬と猫くらい』
「え、それ……結構違うよね……」
「……でも、スタンドはスタンド使いにしか見えないハズじゃ」
『ボクも『彼』も肉体を持たない存在……精神体、という点では同じだからね。2人とも、
「……じゃあ、どの部分が違うんだ?」
『繋がりの強さが決定的に違う』
「つ、繋がり……?」
「……あぁ、なるほど」
理解していない様子の後藤さんに、オレは『ジャンケンをしよう』と誘いをかける。
「──ただし、
「えっ、でもそれじゃ……」
「いいから」
そして3回ほど対戦して──その結果を全て暗唱してみせる。
「す、凄い。どうして……」
「単純な話。
「えっ」
「……スタンド使いは基本的に、スタンドと五感を共有してるんだ。スタンドが見たものは見えるし、聞いた音は聞こえる。そして、スタンドが負った傷は本体にそのまま返ってくる。その逆も然り」
『でもボクとひとりは、感覚を共有していない。仮にボクが爆発四散したところで、ひとりには何の影響もない』
「無論例外はあるって話だけど……それにしたって限度がある」
所謂『独り歩きタイプ』のスタンドだとしても、後藤さんにはまだ他にも『変形』『召喚』の異能がある。『スタンド能力は1人1つ』だ。ならば彼の自己申告通り、似て非なるものなんだろう。
「だ、だとすると、ギタ男くんって一体……?」
『さぁ?』
「さぁってオイ……ただのイマジナリーフレンドってワケじゃ、ないんだろ?」
『
ただボクは、ひとりの承認欲求が産んだものだからね。承認は他者から与えられないと意味がないから、ボクには独立した思考回路が用意されている──
「──アールグレイと
「……はい、ありがとうございます」
3つのカップが、テーブルへ静かに置かれる。
ギタ男くんはその側で踊るように飛び跳ねたり、手を振ったりしているが……ホール担当の店員さんは、意に介していない。
『この通り君達を除けば、ボクの姿も、声も、気付く人は誰もいない。そんな奴にわざわざ個別のラベリングをする必要はあるのかい?』
「「…………」」
『……そんな顔をしないでほしいな。ボクは、自分の在り方を悲観してるワケじゃないんだ。
君達人間は共感性や協調性を追い求めた果てにアイデンティティを失って、自分探しの旅とやらに出ることもあるんだろう? でもそんなのボクには無縁さ。だって産まれた瞬間から、明確な使命を与えて貰っているからね』
「お前は……そんな、自分の心が本物なのかも分からないままで……いいのかよ?」
『構わないね。というか──
人ではない、スタンドでもない、イマジナリーフレンドなのかも分からない、〝何者か〟がボクだ。ボクはそれでいい。
……だから君達も、あんまり『自分の正体』なんて気にしない方が良いよ?』
「お、おう……」
「うん……?」
「……ねぇ、そろそろ私にも分かるように話してくれてもいいんじゃない?」
「あっ、リョウさんすみません……!」
「……とりま簡潔に纏めると、『後藤さんはスタンドが見えるけどスタンド使いではない』そして『自分達の正体なんて探っても良いことは無いぞ』だってさ」
「ふーん……じゃあこれ以上深掘りしない。ぼっちと関係悪くしたくないし。後はもう歌詞見てさっさと解散ってことで」
「アッハイ」
「おぉう……あっさりしてんな……」
『ふふ、良いお姉さんじゃないか』
「……ノーコメント」
*
ボクがスタンドに似たナニカであるように、ひとりも
そして、山田恭助くん──ボクの見立てでは、
より正確に言うと、
まぁでも……そんなことをわざわざ教える必要はない。誰も幸せにならない行動なんてするものか。何せボクは、優しい優しいひとりちゃんから産まれたんだからね。
──仮に彼らが何者であるか判明して、彼ら自身が己の存在を否定するようになっても……ボクは2人を肯定しよう。
それがボクの、存在意義である故に。
※:先に言っておきますが、不穏なだけで鬱展開にはなりません。本作はシリアス増し増しですが救済と恋愛の物語ですので(鋼の意志)