『さて、こっからが本番だ。サクサク進めよう』
『オレと神のやり取りとか、ぶっちゃけいらねぇだろ? どっちもヒトデナシの舞台装置に過ぎねぇからな』
『物語の本編に、オレはいらない。世界は〝生きた人間〟が動かすべきだろう』
『ただしコレは、オレが傍観者になる前の一幕』
『ヒトデナシが贈る、ただ一つの最低な餞別だ』
『──天使だ』
『え?』『は?』
一目惚れだった。
小学校に上がった姉が、初めて家に招いたその友達──『伊地知虹夏』ちゃんは、初めて目に映った瞬間から『特別な存在』だと確信できた。
この世には、『スタンド』と呼ばれる『超能力』を持つ人がちらほらいる……らしい。
『らしい』というのは、ぼくのスタンドであるクレイジーダイヤモンドがそう言っていたからで、ぼく自身は他のスタンドを見たことが無かったから──だったのだけど。
『初めて見た。本当にいたんだ、ぼく以外の〝スタンド使い〟』
背中の羽に、頭上の光輪。
一瞬だけだったけれど、当時のぼくは、彼女が本物の天使に見えたのだ。
『ねぇ、もう一回見せてよ。キミのスタンド』
『えっ、えぇ?
ねぇリョウちゃん、弟くん何言ってるの?』
『…………信じられないと思うけど、ウチの弟は超能力者』
『えっ』
『でもって弟は、虹夏も超能力者じゃないのかって』
『違うよ!?』
試しにクレイジーダイヤモンドを呼んで色々やってみたけれど、彼女は本当に見えていない様子だった。つまりただの勘違い。
そして同時に、ぼくは初めて家族以外にスタンドのことを明かしてしまったことになる。
その結果、
『お〜〜! 本物の超能力者がこんな身近にいたとは……』
『え、怖くないのって……どうして? ものを治す能力を持ってる人なんて、絶対優しい子に決まってるのに』
『ん、秘密? 分かった!』
彼女は本当に秘密を守ってくれた。彼女はぼくが隠し事をせずに話せる、唯一の友人だった。
あぁ、そうだ。だから
「お願い
ウチに知り合いの身内が救急搬送されて、その救命を請われる。こういう状況。
勿論、断る理由なんて無い。ぼくはいつも通り、クレイジーダイヤモンドに治療を頼んで──
『──だが断る』
「…………は?」
*
言われた意味が、理解できなかった。
両親に頼んで人払いして貰った手術室に、虚しく声が消えていく。
「なっ、なんで!?」
『
「人が死にかけてるんだよ!? 理由が必要!?」
『人に限らず生き物はいずれ死ぬ。この人は、ここで死ぬ定めだった。それだけだろう』
「はぁ……!?」
今まで頼めばなんでもやってくれたのに……どうしてよりにもよって今、こんな時に。
『もう一度言うが、
「……ぁ」
その言葉に、頭をぶん殴られたみたいな衝撃が走った。
『
…………じゃあ、ぼくには何が残るのだろう?
『──恭助。与えられてばかりのお前が、オレの意思を曲げて、動かすに足るものを、持っているのか? お前だけの〝何か〟を、差し出してくれるのか?』
「ぼくだけの、何か……」
そんなもの、一つしかない。
「──
『……ふむ?』
「
『よく覚えていたな。だが、それがどうした?』
「てことは、だ──
『──正解。それで?』
「
心を燃やせ。
虚勢でも、何でもいい。たった一つ、この『心』だけは、間違いなくぼくのものだから。
『へぇ?』
挑発するようなその顔と声が憎たらしい。今から吠え面かかせてやるから覚悟しろ。
コイツがオレの精神力で動いているなら、できる筈だ。
「〝クレイジーダイヤモンド〟
さっさと黙って、オレの『
──後はそう、気になる女の子の前で格好付けたい。そんな感情も薪にして。
*
……結論から言うと、ぼくと彼の戦いは『引き分け』になった。
「あー……ダッサいなぁ……」
ぼくの意思で直接彼を操作して、能力を使用する。その試み自体は、一応成功した。
では何故『引き分け』なのかと言うと……一命は取り留めたが、
「ごめんね、虹夏ちゃん……」
「ううん、いいの。
「……ごめんね」
「もう、謝らないでよ」
……いいや、ぼくのせいだ。
彼が、クレイジーダイヤモンドが何故突然反抗したのかは分からないけど……ぼくの心が、もっと強ければ。
「……ねぇ、虹夏ちゃん……」
「なに?」
「…………」
聞けなかった。
──どうすれば、『自分だけのもの』が手に入るのか。
──どうすれば、もっと強くなれるのか。
その答えまで与えられてしまっては、いよいよダメになってしまいそうだから。
代わりに、『宣言』だけしておくことにした。
「──キミのお母さんは
「……! うん、信じてる」
『彼女を救えば、STARRYが誕生しないかもしれない。STARRYが誕生しなければ、後藤ひとりの人生は滅茶苦茶になるかもしれない』
『だからと言って、救う人間を選別していいのか……そんな葛藤は、
『さて、役目は終えた。お代はキミの人生を鑑賞する特等席で構わんよ』
『安心してくれ、映画を観る際のマナーは熟知している。これ以降、オレは一言も喋らんよ』
次回、虹夏ちゃん視点。