山田弟は、初恋を砕けない   作:しやぶ

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 この度はお騒がせしました。
 返事は来ませんでしたが、みっともなく続きを投稿していくことにしました。
 今後はこのような問題行動を起こさないよう猛省し、慎重に行動する所存です。

 それでは、臨時投稿の完全版です。
 


第六話(2):あのバンドへ贈る、

 

「おぉぉ〜……おかえり『スーパーウルトラ酒呑童子EX』ぅ……無事だったかぁぁ…………ていうかむしろ、ライブ前より綺麗になってない?」

「酔い過ぎですね」

「そうかなぁ……」

 

 ──内心、舌を巻いた。

 愛機を置き忘れた時点で、オレの彼女に対する心証は最低近くまで落ち込んでいたが……まず回収したベースを診て、評価を改めた。

 驚くほど、傷が無かったのだ。彼女自身には、あちこち打撲や擦り傷があったのに。

 件の居酒屋は、走ればすぐの場所にあった。*1つまり彼女の拠点である新宿から横浜(ここ)までの距離を引き摺り回されているワケだが……それでもベースは無事だったのだ。加えて、ちょっとしたサービスにも目聡(めざと)く気付けている。

 廣井さんは、ちゃんと楽器(ベース)を大事にしている人だった。

 

「……というか後藤さん、結局しじみ汁買ってたのね」

「あっ、一応……」

「その優しさは尊敬するけど、あまりベーシストを甘やかさない方がいい……エサを貰った野良猫の如く、取り憑かれることになる……」

「ベ、ベーシストで一括りにしなくても……」

「オレ、リョウ(姉貴)廣井さん(この人)。マトモな奴いねぇだろ?」

「や、山田くんとリョウさんはマトモだと思いますけど……」

「ええ娘じゃ……チョコ(お菓子)をやろう」*2

「え、あっ、ありがとうございます……」

 

 しかし、姉貴がマトモ……? 後藤さんの前でどんだけ深い猫を被ってるんだか。

 

「うぇーい遠回しに私だけ『マトモじゃない』って言われた……ヤケ酒しよ──」

「いやどんだけ持ち歩いてんですか。没収です」

「うぼぁー」

 

「……で、もう自力で帰れそうですか?」

「あー、うん。それは大丈夫だけど……キミたち、これから路上ライブするんでしょ?」

「えぇ、まぁ、そうですけど……?」

 

「──私も手伝うよ?」

 

「えっ、あっ、だだだ大丈夫ですよ!? ベースなら山田くんがいるので……!」

「いや後藤さん、待って。

 廣井さん、今日演る曲……オリジナルなんですけど」

「──そこは問題じゃないかな。曲そのものの難易度は?」

「アナタなら問題ないかと」

 

「うぇぁっ、山田くん!?」

「大丈夫だよ後藤さん。奏者としての廣井さんは、信頼していい」

「え、えぇ……?」

「それに、いざとなったらオレが止めるから」

「まぁ、それなら……」

 

「へっへっへ、ひとりちゃんの疑心暗鬼に染まったその目──羨望に染め上げちゃうからね〜?」

 

 渦巻の瞳は既に、舞台上のカリスマ性を取り戻していた。

 

 

 

 *

 

 

 

 昔から、何度も同じ夢を見ている。

 

 目覚めると、忘れてしまうのだけど。確かに同じ夢を見せられている。そういう確信があった。

 

 

 ──〝あんまり『自分の正体』なんて気にしない方が良い〟

 

 

 言われるまでもない。

 アイデンティティの崩壊と再構築(そういうの)は、もうとっくに済ませてある。

 

 だが()()()()()()()()()()

 

 本来、オレと後藤さんの共演は保留だった。*3

 コレは『結束バンド』の宣伝ライブだ。メンバーではないオレが共演するのは、あまりよろしくない。楽器(ベース)を持ってきたのはあくまで彼女が『本当にダメ』なら隣に立って支えるという、保険だ。

 

 では何故、廣井さんの飛び入りを許したのか。

 それは『ソロなら最強』『合わせは最弱』な後藤さんに、()()()()()()()()を得て欲しかったからだ。廣井さんなら、後藤さんの憧れであるという『ギターヒーロー』の速弾きにだって喰らいついてくれる。そういう信頼感がある。

 

 あぁ、そうだとも。()()()()()()絶対にライブは成功する。何度も見た夢を、オレは、クレイジーダイヤモンド(山田恭助)は記憶ではなく心で覚えている。

 

 ──そんな成功(もの)の、(どこ)が『ロック』だ

 

 解っている。この行動は合理的じゃあない。

 姉を、想い人を、友人達を大切に思うなら、矛盾しているとさえ言える。

 

 今からオレは、彼女らの心を折ろうとしているのだから。

 

「──機材の設置、終わったよ〜」

「……あ、あの、えっと、山田くん……大丈夫、なんだよね?」

「任せて」

 

 廣井さんの伝手で追加してもらったマイクの高さを調整し、頷く。

 オレは今回()()()()()()()だ。

 

「普通に弾くだけでも、結構難易度高めに作られてると思うんだけど……」

「大丈夫。反則技(チート)を使うから」

「???」

 

「…………」

 

「──山田くんが、ボーカル……?」

「恭助、何を……?」

 

 ……案の定、虹夏ちゃんだけじゃなく姉貴と喜多さんも来てるな。好都合だ。

 

「後藤さん、今日は思いっきり先走っていいよ。()()()()()()()()()

 

「────。ついて来れるんですか?」

 

「違うね。今日はキミが追う側だ」

 

「ちょっと、二人共? 敵を見誤ってない?」

 

「どうせ見誤るなら、突っかかっても問題無い奴にした方がイイでしょう?」

 

「──ふぅん、敢えてね? ならもう、演っちゃおうか」

 

「MCはダレないよう簡潔に。その後足踏み4拍。5拍目から演奏開始で」

 

「準備はできてます。山田くん、MCお願いします」

 

「OK。じゃあ──」

 

 

 〝クレイジーダイヤモンド〟

 

 

 ────()()()()

*1
個人差があるとは思うが、泥酔状態のきくりんと体力おばあちゃん未満のぼっちが往復できる程度の距離だと考えれば……

*2
非常食兼携帯食代表格。え、夏なんだから溶けるだろって? 溶ける前の状態に戻せばいいじゃない。

*3
道路使用申請自体は代表者『後藤ひとり』 バンドでの演奏予定にしてある。

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