山田弟は、初恋を砕けない   作:しやぶ

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 熱い展開を期待していた読者の皆様、すみません。
 彼の戦いが実を結ぶのは、まだ暫く先の話になります。
 


第六話(3):『究極の怒り』

 

「金沢八景の皆さん、初めまして! 今から路上ライブやります! 無料(タダ)なんで、よければ聴いてってください!」

 

 人が通り過ぎていく。チラリと見て、横切っていく。

 

「それでは早速1曲目、いきます!」

 

 足踏みを開始。

 自己紹介はいらない。曲の説明もいらない。

 だって、誰も知らないのだから。誰だって、どうでもいいに決まっている。

 

 故に、()ずは()()()()

 

 4拍の後に始まるは、初手から疾走感溢れる前奏で贈る『2作目』の曲。掴みのインパクトを考慮して、現状ある3曲の中から選ばれたのがコレだった。

 

「……!」

(凄い、二人共本当についてきてくれた! しかもお姉さんは即興なのに……!)

 

(へェ? 二人共やるじゃん。これはおねーさんも、あんまり余裕ぶっこいてらんないかにゃー?)

 

 ──バケモノ共め。

 

 人間には、『利き腕』というものがある。

 ある人は右腕より左腕の方が思ったように動くし、またある人は左腕より右腕の方がよく動く。

 オレの場合、()()()()()()()がそれだ。そもそものスピードと精密動作性が『人間』とは違う。故に、オレが遅れを取ることはない。

 

 ──が、当然後藤さんと廣井さんは完全な自力である。

 にも関わらず、人の身でありながら……! 何故そんなにも余裕綽々(しゃくしゃく)なのか、この二人は。特に廣井さん。

 オレだって、趣味程度ではあるが普段はスタンド抜きでベースを弾いている。だからこの曲が、本来どれだけ難しい曲なのかを知っている。

 まぁその上でこの人なら大丈夫だと思ったから出て貰ったワケだし、実際そうだったのは良いんだけれど……なんでぶっつけ本番でそんな迷い無くツインベースアレンジできてるんですかねぇこの人……ぶっちゃけ怖い。

 

 ん、何後藤さん? え、『もっとアゲてイイですか』って?

 ヤダこの娘、まだ上があるの……? 怖ぁ。いやいいけど。

 てかすっごいお目々キラッキラね。めちゃ自己主張してくるじゃん。コレで合わせ苦手ってどういうことよ? いや、ハイになってるだけだろうけどさ。

 

 

(……え? 待って。ウソ、これって……ぼっちちゃん、まさか)

 

(…………あり得ない……恭助、最後に聴いた時より、格段に上手くなってる……。

 なのに、なんで? この違和感……私、()()()()()()()()()()

 

 

 ──ま、後藤さんの実力は充分に引き出せた。(くさび)打ちはこれで完了だ。

 虹夏ちゃんは、もうオレの目的に気付いたかな?

 姉貴の方は……うんごめん。この音は、耐え難いだろうね。

 だけど、必要なことだからさ。嫌でも向き合ってもらうよ。とりまそのために、ネタバラシから。

 

 ──ターゲットは、そこで普通に聴き入ってるアンタだ喜多さん。本番はこっからだぜ?

 

 

  ──〝あのバンド〟

 

 

『────ッッッ!?』

 

 後藤さんが、ギョッとしてこちらを見る。遠くで見てる三人も、目に見えて驚いているのが分かる。

 

(この声、()()()……?

 ──ッ、あぁそういうこと。その弾き方は()()()()か……!)

 

 その通り。

 スタンドの身体は結構融通が効く。『幽波紋』という別名から分かる通り、幽霊のような特性を多く持つのだ。例えばそう、物をすり抜けたり、大きさを変えてみたり。

 なので──身体の内側に展開して、筋肉を弄ったりもできる。応用すれば声真似もイケる。*1

 オレの場合元々地声が女性寄りなのもあって*2、知り合いの声は男女問わず大体コピーできる。

 

 と・い・う・ワ・ケ・で──

 

  ──〝背中を押すなよ〟

 

 ライブ本番(列車)は、もうすぐそこだ。それまでに、オレの猿真似を超えてみせろ。列車なんて、殴り砕けるくらいに強くなれ。

 

 

(個性を捨てて、他人に成り切った音。通りで気に食わないワケだ。

 でも、それ以上に許せないのは……! ()()()()()()()()()()()()()()()だ……!!)

 

(……薄々、気付いてはいたけど。『私の声』でやられると、()()が浮き彫りになって……解る。理解(わか)らされる。

 私の声が楽器に隠れちゃうのは、どうしようもないことじゃない。()()()()()()()なんだわ)

 

 

  〝ほかに何も聴きたくない わたしが放つ音以外──〟

 

 

 曲が終了し、静寂。

 

 余韻の後に、観客から拍手が巻き起こる。

 

 

「1曲目、『あのバンド』でした。ウチのオリジナル曲です。

 ──あっ、申し遅れていましたね。では改めて」

 

 人々は立ち止まり、視線は固定され、興味関心を抱いている。もう誰も、『どうでもいい』とは思っていない。

 

 知りたいだろう? 聞きたいだろう?

 

 申し遅れた罪悪感なぞ塵ほども無い。

 形だけは丁寧に、けれど隠し切れない自信を滲ませて、慇懃無礼な名乗りをあげよう。

 

「──どうも、『()()()()()』です」

 

 さて、追い討ちだ。

 

「今日は諸事情でギター以外非正規メンバーによる演奏となっていますが──今月14日に下北で、正規面子でのライブがあります。この後チケット販売するので、興味のある方は是非。

 そちらは有料ですが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()よ」

 

『……ッ』

 

(やっってくれたな恭助……! 無茶振りにも程がある……!!)

 

(待って待って待って待って待って、え?? ライブって14よね? 今日4日よね? あと1週間ちょっとしかないんですけど??)

 

 姉貴と喜多さんは、ガンバレ。この二人はそれだけあれば、なんだかんだ仕上げられるだろ。

 

 問題は──

 

『……恭助くん、ひとりが〝今日以上の演奏なんてできる気がしない〟って震えてるけど……大丈夫そ?』

 

 ギタ男くんが出るほど不安か。

 ──でも違う。後藤さんは問題じゃあない。

 だって、()()()()()()

 

「──すみませーん! そのチケットって今でも買えますかーー!?」

 

「えっ」

 

 金髪と赤髪の、若い女性二人組。どちらも大学生くらいか。

 

「ちょっ、引っ張らないでよもう。てか気ぃ早いってやっぱり。ギターの子アワアワしてんじゃん」

「だって、私達後ろの方だったし。正攻法だと乗り遅れちゃうでしょ?」

「だからってアンタ……まぁいいや、もう来ちゃったし。

 すみません、チケットっていくらですか? というか、今買っちゃって大丈夫そうです?」

「チケット代は1500円です。

 ただお気持ちは嬉しいのですが、円滑なライブ進行のため、チケット購入は全ての演奏が終了した後にお願いします。──予約という形であれば、お受けしますが」

「──じゃあ予約2枚、お願いします!」

「2枚ですね? 承りました。それでは引き続き、ライブをお楽しみください。

 ──後藤さんも、()()()()()()()!」

 

「────」

(楽しんでくれてたんだ。少なくとも二人……笑顔に、できたんだ。

 ──それに、()()。山田くんが何を企んでるとか、どこかで見てる筈の虹夏ちゃんが、どう思うだろうとか──()()()()()()()()()()()()()、私……楽しかったんだ。

 

 あの時、飛び入りで演った初ライブの時……私は、楽しかった? お客さんは、どうだった?

 ────()()()。私は、お客さんを怖がって。顔を、見れてなかった。背を向けた。

 

 ──でも、今なら?)

 

「────はい!!」

 

「では2曲目いきます! 引き続きオリジナルで、『ギターと孤独と蒼い惑星』」

 

(……そうだよ。彼ら彼女らは敵じゃない。私達と一緒に音楽を楽しむ、同志だ。だからまずは何より、あたしらが楽しくやんなきゃあ。

 …………解ってる筈なのに、キミは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?)

 

 

 ────問題は、走り去ってしまった虹夏ちゃんだ。

 

 

 折れるなとは言わない。コレは『試練』だ。ちょうど乗り越えられる程度の試練なんて、試練とは言わない。そんなものは踏み台でしかない。

 

 ──いや、嘘を吐いた。コレは『怒り』だ。本来クソったれの『運命』に向けるべき、やり場の無い憤怒の八つ当たりだ。

 確かに、皆に突き付けた『課題』は事実で。乗り越えた先の『模範解答』を見せるのは、成長の助けになる筈で。……それでもコレは、単なるオレの『自己満足(怒り)』なんだ。

 

 だけど、今じゃなきゃ変えられないのもたぶん本当で。だって、初ライブには必ず台風が来る。動員数が、少しでも多く必要なんだ。そのために、星歌さんくらい『魂』を揺さぶる演奏を……! 今ここで……!!

 

 ……自分でも、何を焦っているのか解らない。思考が混ざって、茹って、それでも演奏だけは完璧に。

 

 正直、これじゃまだ『運命』は変わっていないように思える。ここまでやっても、まだ。台風ライブの動員数は変わらない。

 

 ──気に食わない。

 結局オレ達は、『決められた成功と失敗』で一喜一憂する道化でしかないのか? むしろ、皆を追い詰めた分……

 

 

  〝馬鹿なわたしは歌うだけ──〟

 

 

 チクショウ、何をやってるんだオレは──

 

 二曲目が、終わる。盛り上がりは、悪くない。後藤さんも、調子は良いまま。何も問題はない。

 

 ──本当に、コレで良かったのだろうか。

 『コレで折れるなら、結束バンドはその程度だったということだ』『いや、虹夏ちゃんがこの程度で折れるワケがない』

 

 

「『ギターと孤独と蒼い惑星』でした。次でラストになります! 曲名は──」

 

 

「──『忘れてやらない』

 まだ合わせの練習もあまりできてない新曲なので、前の2曲に比べたら拙いところが目立つと思いますが……よろしくお願いします」

「最後は『結束バンド』本来のベースとボーカルがお送りします!」

 

 

 ──『だから早く虹夏(伊地知先輩)を探しに行ってこい(きなさい)この朴念仁』

 

 

 最後の最後に乱入してきた二人の目が、そう訴えていた。

 

「ぅえあっ!? おっ、お二人共どうしてここに……!?」

「……ぼっち、虹夏が消えた。気付かなかった?」

「えっ」

(あっ、最前列のお客さんしか見れてなかったから……お客さんの切れ目を視認して正確な人数を把握するのが怖くて、後ろの方見てなかったけど、もしかして……)

「まぁ山田くんも気付いてなかったみたいだし、気にすることないと思うわよ? 気付いてて追わないとか論外過ぎてあり得ないし

「ヒェッ」

 

「……ごめん二人共、後、任せてもいい?」

 

「「いいから早く行け」」

 

 ベースを姉に渡し、オレは走った。虹夏ちゃんが向かった場所は、おそらく──

 

 

 

 *

 

 

 

「……全く。アイツ今日何しに来たんだか」

「私達もですけどね」

 

「……青春するのはイイんだけど、そろそろ演奏始めない?」

「あっはい。……合図は誰が?」

「しょうがない。私がやる」

 

 足踏み4拍。

 

 ──真作が贋作に劣る道理なぞ存在しないのだと、証明してみせようか。

 

*1
体内展開については、三部最終戦で承太郎が自らの心臓を一時停止するため行っている。スタンドの大きさ変更については、(本人が意図した結果ではないが)セト神戦で子供化したポルナレフが出した小型シルバーチャリオッツの件から、出力次第でスタンドは大きさが変わると分かる。またスタープラチナの流星指刺から分かるように、『固有能力』とは関係なくスタンドはある程度形状を変更可能である。声真似に関しては、上記の例から『実行可能』と思われるが……オリジナル要素。エンヤ婆が『スタンドはできると思ったことはできる(意訳)』と言ってたので、たぶん大丈夫。一応ヴァニラアイス戦の『喋る砂人形問題』に対する作者なりのアンサーでもある。(イギーはハーミットパープルの念写でDIOを見ていてもおかしくないが、声はまず知らない。なのでファンの間で冗談半分に『ポルナレフの声真似』とはよく言われているが、コレなら納得できるのでは? と)

*2
ここ重要。『第三話(2):北風と太陽』で情報公開済み。




 
 オマケ:声真似の精度について。

 郁代 :比較的寄せやすい。歌声は特に。精度は『目を瞑って聞き比べした知り合いを九割九分騙せる』レベル。でもさっつーにはたぶんバレる。
 リョウ:声紋認証を誤魔化せるレベル。喜多ちゃんがキタキタする。
 ぼっち:声質自体は寄せられるが、内面を読み切れてないので話し方でバレやすい。
 虹夏 :ムリ。あんな可愛い声出せるか。(本人の気持ちの問題が大きいが、それ抜きでも寄せにくいそう)
 星歌 :姉の次に寄せやすい。(流石に声紋レベルとはいかないが、虹夏ちゃんでもほぼ騙される)
 PAさん:配信者故か独特の喉なので、気持ちの問題を抜きにすると虹夏ちゃんより寄せにくい。でもクオリティはそこそこ高く仕上げられる。


 オマケ2:『本気』の代償について。

 恭助くんはクレイジーダイヤモンドを体内展開、同化することで、本体をスタンド並のスペックに押し上げ、その他諸々の特技を発揮できるようになるが……やってることは『ママチャリを飛行機のエンジンでかっ飛ばしてる』ような暴挙なので、当然使った場所と連結してる部分がズタボロになる。今回の場合、特に指と喉。そして追うのに足も使ったので……

 コードは『あのバンド』『ギターと孤独と蒼い惑星』『忘れてやらない』の順です。タイトルだけならコード不要らしいのですが、一応『忘れてやらない』も載せておきました。
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