山田弟は、初恋を砕けない   作:しやぶ

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転:二人の恋は砕けない

 

 ──ギターヒーローさんだった。

 

 あの日出会ったギタリストは、後藤ひとりは、ぼっちちゃんは……ギターヒーローその人だった。

 そして彼女は、(しか)るべき相手と組めば……ソロの時と変わらない力量を出せると、証明されてしまった。

 

「──虹夏ちゃん!!」

 

「……恭助くん?」

 

 どうして?

 背後からの声に、振り向くと。確かにそこには、彼が居た。

 

「まだ、演奏中じゃ」

「抜けてきた。情けないことに、姉貴と喜多さんに尻を蹴飛ばされて決心がついた形だけどね……」

 

 あの二人も来ていた? リョウはまだ分かるけど、喜多ちゃんも?

 …………まぁ、リョウならそうするか。アレは気分屋で、自己中で、だからこそ自己の一部(身内)にはとことん甘い。一人だけ蚊帳の外に置いて事後報告、なんて気分が悪くなることはできない。ぼっちちゃんを巻き込んでしまった時点で察するべきだった。

 

「……それで、一応聞くけど……どこに行くつもり?」

「……スタジオ」

「今から? せっかく片道2時間かけて来たんだし、今日くらいお祭りを楽しんでも──」

 

「それ、キミが言うの?」

 

 私達の実力不足を明るみに出したキミが、それを言うのか。

 

「だって、アレより上の演奏しないとなんでしょ? なら私、帰って練習しないと」

 

 すると彼は大きな溜め息を吐いて、いつもより少しだけ低い声で言った。

 

「……その必要はないよ」

「あるよ。リョウと喜多ちゃん(あの二人)は、本番までに絶対『仕上げて』くる。でも、私は……!」

 

「『必要ない』と、そう言った」

 

「……どうして」

 

 どうして、キミはそんなに怒っているの?

 

「あのねぇ……虹夏さんや、アンタは逆。()()()()()

 

「……へっ?」

 

「昔から、ずっと。虹夏ちゃんの練習量は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんだよ。

 ──で? 治療を受けずに何日経った? ドラムが本来どんだけ体力を食うか、もう身に染みて解ってると思ってたんだけど」

 

「…………もしかして、最近気分が落ち込むと中々戻らなかったり、ずっと身体が(だる)かったりしたのって」

 

 食事量、練習量、睡眠時間は変えてなかったから、不調は心因性だと思ってたけど……

 

「シンプルに疲労。疲れが取れてない。以上」

「おぉう……」

 

 私はもうとっくに、彼無しでは生きていけない身体にされていたのか……いや、彼にそんな意図は一切無いだろうけど。

 

 というか、そもそもだ。今回の問題はそこじゃない。

 

「──あとね、先に言っとくけど()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だよ」

「えっ」

「『え』じゃないよもう。虹夏ちゃんね、自覚無いだけで後藤さんと全く同じタイプだから。

 オーバーワークの下積み8年積んでて『()()()()()()()()()』とか、あり得ると思ってるの?」

 

「え、でも実際、私達はぼっちちゃんの実力を引き出せてなくって……」

 

「それは後藤さん側の問題。初ライブの時、虹夏ちゃんの片手を犠牲にしたのがトラウマになってるんだろうね。『私は合わせが下手だ』っていう固定観念に囚われてるだけ。

 ──で、それはさっき解決した。だから次は、虹夏ちゃんの番だ。

 もっと、自信を持って。『自分のせいでメンバーの腕を引き出せていない』なんて、卑屈な固定観念を捨て去るんだ。それだけでいい」

 

「で、でも」

 

「はい『でも(それ)』禁止。心の持ちようで実際に音が変わるのは、さっき見せた筈だよ。

 その点姉貴と喜多さんは逆で、最初から自己肯定感MAXだったから、技術面の問題点を──って、虹夏ちゃん?」

 

「…………いや、やっぱり姉弟(きょうだい)だなって」

「?」

「言葉選びが、よく似てる。そういえば昔リョウにも、『〝でも〟は禁止』って言われたの……思い出してた」

「どうしよう、この舌切り落とした方がいいかな」

「やめてやめて。キミ自分の身体治せないでしょ」

「まぁ、自分の肉を食っても普通に部位欠損するだけだし……」

「あ、そういう感覚なんだ」

「実際はもっと言いようのない嫌悪感があるんだけど……一番近い表現がコレかなって感じ」

 

 長年一緒に居たけれど、初めて知った。

 当たり前のことだけど、私達は互いの全てを知っているワケじゃない。だから、私は……キミのことを、もっと知りたい。

 

「……じゃあ、実は他の人を治す時も……痛かったりするの?」

「いや、それは全然。だから遠慮しないで治させてほしいんだけど、さ……やっぱり、その……怖い?」

「……? 何が?」

「一応今は、4歩分の距離を取ってる。『射程圏外』だ。オレは決して、これ以上キミに近付かない。……だから、正直に答えてほしい。

 虹夏ちゃんは…………オレが、怖い?」

 

「………………は??」

 

 質問の意味が分からなかった。

 怖がる? 私が、恭助くんを? どうして??

 

「いや、ほら。『例の日』以降、疎遠気味というか、端的に言って避けられてたし……」

「あー……そっか、あたしの自業自得か……ごめん」

 

 謝ると同時に、大きく1歩。距離を縮める。

 

「射程圏内に、入ったよ。これが私の答え。

 今度は恭助くんが、質問に答えて。正直に」

「……うん、何?」

 

「本当に、私……ギターヒーローさんに並び立てるかな? 皆を引っ張れるかな?」

 

 彼が1歩、距離を縮める。

 

「それは勿論。信じて。『できる』と思えば、もう既にできる筈だよ」

「──うん、なんかできる気がしてきた」

 

 正直、いきなり全部は変えられない。自分が、ギターヒーロー(ぼっちちゃん)と同格だとは思えない。

 だけど、うん。彼の杞憂な質問を聞いたら、『彼には私がこう見えているのかな』って思ったら、なんだか可笑しくって。

 

「じゃあ、さ。今日……一緒に屋台、回ってくれませんか?」

「んっ」

 

 彼がまた1歩、距離を縮める。そして差し出された手を、私が取る。

 

「──ね、これってさ……『ABC』の『A』には到達できたのかな?」

「……え?」

「ほら、恭助くんさ『段階を踏んでから』って話してたでしょ? ……なんだかんだで私達、高校生なってから手繋いだの初めてだし」

 

 少し強張った手を、指を絡めるように繋ぎ直す。

 

「……これも、まだダメ?」

「…………アー写の時も思ったけど……随分と、古風な表現を使うんだね。でもさ、()()んだよなぁ」

 

「──っ、!?」

 

 手を引かれて、残り1歩の距離が、零になって。

 

 ────唇が、重なった。

 

「ぇ、ぁ、あ……」

 

「一般的に、今のが『ABC』の『A』だよ。でもって姉貴が許可したのが『B』まで。──お望みなら、すぐにでもしようか?」

 

「え、やっ、待って。こ、こんな人目のあるところでするの……?」

 

「流石に嘘だよ。……無理やりしちゃって、ごめんね」

 

「あ、それは、別にいいっていうか……嬉しい、けど。シチュ的にはアリでもナシ寄りっていうか……はじめてだったのに

 

 『A』がコレってどういうことなの?

 普通『デート』か『手を繋ぐ』辺りじゃないの? その後『告白』して『キス』とかじゃ……いや最初からクライマックスしようとした私が言えた義理じゃないのは解ってるけどっっ。

 

「ちなみに『例の日』だったらシチュ的にアリ寄りのアリだったの?」

 

 案の定、ツッコまれるし……

 

「…………アリ寄りの、ナシでした。ハイ」

「じゃあこれに懲りたら、無闇に誘惑するようなこと言わない。イイね?」

「……はい。

 …………それはそうと、恭助くんって、その……今の、初めて?」

「そりゃあねぇ。こちとらキスどころか恋そのものだってキミが初だよ」

「〜〜っ、えっと……いつから?」

「ほぼ一目惚れですが何か?」

「うっそ、じゃあ私、最初から……」

 

 ……通りで、リョウが急かすワケだ。アイツめ、最初から私達が両想いだと知ってたな?

 

「……えっと、そういう虹夏ちゃんは、いつから?」

「…………6年くらい前かな、自覚したのは。でもたぶん、それより前から()()だった」

 

 ずっと『愛』はあって、それが溢れるようになって、『恋』に変わったのが、大体そのくらい。

 ……お互い、随分と長く拗らせていたものだ。

 

 あぁ、『好き』といえばそういえば。

 

「──それはそうと恭助くん。私、一度もキミから『好き』って言われてないんだけど」

 

「え?」

 

「そもそも恭助くんがあの時ちゃんと『好き』って伝えてくれたら、変な誤解しなくて済んだのに……」

 

「え、いやいやいや……え?

 まさか虹夏さんや、『手順を踏んでからとは言われたけれど、私が手順を踏めるかは別』……とか思ってたの?」

 

「…………」

 

 図星過ぎて、何も言えない。

 代わりに『コクリ』と首肯を返すが……視線が痛い。

 

「はぁぁ、もう……わかったよ。ごめん。ちゃんと言うから、よく聞いてね」

「……はい」

 

 

「──好きです。付き合ってください」

 

「──うんっ」

 

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