山田弟は、初恋を砕けない   作:しやぶ

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ただ、一緒に

 

「あー、おかげさまで見ての通り……付き合うことになりました」

 

 駅前からライブをした場所まで戻り、皆に報告をする。

 姉貴は『やっとか』と言って満足げに溜め息を吐き、喜多さんは口元を両手で押さえて黄色い悲鳴を上げ、後藤さんは驚くほど綺麗な笑顔で『おめでとうございます』と言ってくれた。廣井さんは……『末永く爆発しやがれチクショーー!!』と叫び、鬼ころのパックを咥えて走り去った。今度はちゃんとベースは持っていたものの、結局また飲んでいた……度し難い。*1

 

「──で、虹夏はいつまで引っ付いてるの? そんな全身でくっつかなくたって、誰も取らないよ」

 

 ……うん。手を繋いで、キスをして、告白して、正式に付き合うことになったら……何かのタガが外れたのか、虹夏ちゃんがひっつきムシになった。

 今は右腕に『コアラかな?』って感じで抱き付かれてますハイ。暖かくて、柔らかい感覚がずっとそこにある。脚とか指先とか今クソ痛い筈なんだけど、おかげさまでドーパミンやらセロトニンやらが大量に出てるのか、あんまり気にならない。幸せ。

 

「まぁまぁイイじゃないですか、先輩! 付き合いたてなんですから!」

「そ、そうですよリョウさん。後はもう二人きりにしてあげましょう!」

 

(……たぶんこの二人の場合『付き合いたてだから』と放置してたらバカップルになるタイプだと思うけど……ま、今日くらい好きにさせてやるか)

「しょうがない。恭助、ベースとアンプは私が持って帰るから、二人でゆっくり楽しんで」

「ん、あんがと。

 ──じゃ、行こっか」

「……うん」

 

 

 

 *

 

 

 

 三人とは別々に、屋台を見て歩く。いつもよりゆっくりと、小さい歩幅で。

 

 知らない道。甘い匂いと、祭囃子(まつりばやし)

 

「ロックフェスも好きだけどさ、こういう夏祭りの雰囲気も……いいよね」

「……うん」

「それに何より、虹夏ちゃんの浴衣が見れる」

「……似合ってる?」

 

 そう上目遣いで問う彼女が纏っていたのは、純白の中に少量の向日葵(ひまわり)だけが咲いているデザインのもの。

 元々素材が良いから彼女は何でも着こなせるが、こういった清楚な衣装は、とりわけ相性が良い。

 

「似合ってる。将来は縁側で、浴衣姿の虹夏ちゃんを見て死ねたらいいなって思えるくらいには」

「──っ!? もう、やめてよ。その、先立つ前提の話は……」

「将来も一緒に居るって前提はいいんだ?」

「〜〜っ。きょ、今日積極的だね……」

「この距離感で言われましても」

「……向日葵の花言葉は、『あなただけを見つめる』だから」

「──っ。太陽ってガラじゃ、ないんだけどね」

「ふぅん? じゃあ、わたしだけの金剛石(ダイヤモンド)でいてくれるの?」

「あー、なんだっけ。金剛石の石言葉は、砕けないから『不変の愛』……で合ってた?」

「……うん」

「愚問だね。変わらないし、変わらなかったよ」

「……でも、蛙化現象とかもあるって聞くし」*2

「蛙化現象、ねぇ……」

 

 不安そうな顔をしている彼女に、軽く口づけをする。

 

「たしか蛙になった王子様は、キスで元に戻るんだよね」

「ぁ、はい」

「好きだよ。蛙になっても、グレゴールの毒蟲になっても。猫にはさせないけどね」*3

 

「……すき。わたしも好き。大好き」

 

 ──あぁ、いけない。

 蕩けたような彼女の声も、潤んだ瞳も、熟れた桃のような頬も、色気があり過ぎやしないだろうか。

 故に、今から行われる行為は仕方のないことだと思うのだ────

 

 

 そう、()()()()()()()()()()()()()のは。

 

 

「「──ッッ!!」」

 

 

 二人して正気に戻れば、聞こえてくるのは『おアツいねー』『見せつけてくれちゃってー!』『お幸せにーー!!』という周囲の声。

 

「〜〜〜〜っっっ」

 

「……ごめん、ちょっと、動かないでね」

 

 あまりの恥ずかしさに、つい返事も待たず『同化』を使用。人外の膂力で虹夏ちゃんを横抱きにして、人のいない場所まで走り去るのだった。

 

 ──当然周囲にはそれも派手なパフォーマンスとしてウケてしまい、しばらくの間歓声がオレ達の心を抉ることになったのだった。たぶんさっきのライブより大きい歓声だった。解せぬ。

 

 

 

 *

 

 

 

「……結局屋台で、何も買えなかったね」

 

「…………猫になりたい」

 

「やめて」

 

 ひっつき虫モードの次は、ダンゴムシになってしまった。植物から動物になったので、少し猫に近付いているかもしれない。猫も丸くなるし。

 

「全く……そろそろ顔上げてよ。もうすぐ()()、始まるよ?」

 

 ──そして文字通りの爆音と、色とりどりの光が散らばる。花火が打ち上がり始めたのだ。

 

「わっ、ビックリした」

「ドラムの衝撃波よりはマシだけど、花火も結構クるよね」

「うん。……綺麗」

「だねぇ」

 

「……来年も、一緒に」

「……うん。今度はちゃんと屋台も回ろう」

 

 『受験』なんて野暮な単語は出さない。疎遠になりかけた2年前とは違うけれど。もうこの手を放す気はないのだけど。

 

 今は、ただ一緒に。光だけを見つめて。

 

*1
飲んでたのは恭助くんが投げ捨てた分。チケットは彼女が買わずとも3枚以上売れたので、電車賃は無事。マイクもちゃんと回収してくれました。

*2
自分の好きな相手が、自分に好意を抱いていると判明した時──感情が反転するという謎現象。語源は『かえるの王様』という童話。

*3
グレゴールはフランツ・カフカ氏の代表作『変身』の主人公。また、ここでいう『猫』はDISH//の『猫』のこと。『猫になったんだよな君は』というフレーズが印象的な曲だが、当作は住野よる氏の代表作『君の膵臓を食べたい』という小説からインスピレーションを受けており……

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