山田弟は、初恋を砕けない   作:しやぶ

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 リョウの『郁代』呼びは打ち上げまでさせないつもりだったんですが、今回は流石に無理だったので諦めました……。


第七話(1):彼女の家にて

 

「いやー、もうすっかり夏だねぇ」

「暑い、死ぬ……虹夏、飲み物ちょうだい……」

「──っ、先輩! 私が出しますよ!」

 

 現在8月9日、火曜日。

 真夏も真夏。太陽光の最盛期である。そりゃあ暑い。

 虹夏、リョウ、郁代の三人は、近くの自販機に吸い寄せられるように移動していた。

 

「いや、喜多ちゃんストップ。今あたし、()()の返済期間中だから……」

「あー……」

 

 キタキタと輝かせていた目を細め、郁代はおとなしく引き下がった。

 

「何飲む? スポドリ?」

「うむ、苦しゅうないぞ()()

「止めい止めい、気が早いわ」

 

 それからすぐに『ガコンッ』という音がして、ボトルが吐き出される。

 

「はい」

「ん」

 

 容器を手渡した時、彼女の頬が普段より赤味を帯びていたのは……暑さのせいだけではないだろう。

 

「喜多ちゃんは?」

「え? あぁ、私は大丈夫ですよ!?」

「遠慮しないで選んだ選んだ! ほら、今日道案内して貰ってるしさ。そのお礼ってことで」

「そういうことであれば……リョウ先輩と同じものを」

「んっ」

 

 その後虹夏自身も同じスポーツドリンクを購入し、三人でボトルを(あお)って一息吐く。

 

「──で、ぼっちの家まであとどのくらい?」

「えっと……もうすぐみたいですよ! あと5分もかからないかと」

「おぉやったぁ」

 

 実際、彼女らはすぐ目的地には到着した。

 …………したの、だが。

 

「「え」」

 

「どうしたの、二人共。呼び鈴押すよ?」

「いや待て待て待て。……えっと、ホントにここで合ってる?」

「合ってるでしょ、どう考えても。『結束バンド』って書いてあるんだから」

「認識してたの!? ()()を認識した上でその反応なの!?」

 

 『アレ』とは、『歓迎! 結束バンド御一行様 癒しのひと時を皆様に・・・』と書かれた横断幕である。旅館なら何の違和感もないが、残念ながら後藤家は普通の一軒家である。

 

「こんなとこで尻込みしててもしょうがないでしょ」

「リョウ先輩……流石、クール!」

「…………」

 

 『いや、コレは早く冷房の効いた屋内に入りたいだけだと思う』という言葉は、飲み込まれたようだ。

 そしてインターホンが押され、すぐにドアの向こうから、『いいい今開けまーす!』と、ひとりの上擦った声が届く。偶然ドアの近くに居たのか、ずっとそこで待っていたのか……おそらく後者だろう。何故なら、

 

「──いッ、イェェェイ! うウうェうぇウェウェルカァァム!!!」

 

 扉が開いた瞬間、何故か光る星形メガネと付け髭、帽子本来の役割を一切果たさない祭事専用の三角帽、『一日巡査部長』と書かれたタスキ(withいつものピンクジャージ)を装着したひとりが、空前絶後なかけ声と共にクラッカーを鳴らしたからだ。情報が多い。というか『一日巡査部長』って何だ。

 

「──後藤さん、これお土産! ご家族と召し上がってね!」

「あっハイ」

(すっ、滑ったぁぁぁ……!!!)

 

「後藤さんも今日楽しみにしてくれてたって分かって嬉しいわ! 実は私も、オススメの映画とかお菓子とか持ってきちゃってたし」

「喜多さん……!」

(優しさが心に染みる……!!)

 

「……二人して浮かれちゃって、もう」

「いいじゃん、今日ぐらい。ここんとこ、皆練習漬けだったんだから」

「そうだけどさー、今日だって遊びに来たワケじゃないんだよ?」

 

 そう。彼女らが後藤家に訪れた目的は、『ライブTシャツ』の作成である。14日のライブで着る予定なので、ここ最近の『結束バンド』は過密スケジュールだった。*1

 

(本音を言えば私だって遊びたいし、『ギターヒーローさんの撮影現場見てみたいな』とか思ってるけど……私までそんなこと言い出したら、収拾がつかなくなるだろうし)

 

 ──などと思いながら、案内された先で彼女が見た光景は。

 暗い室内に設置されたミラーボールに、大量の風船、ナイトプールのポスター、光るステッカー等々……旅館の次はパーティー会場だった。バブル時代のディスコを連想できそうな、パリピ感溢れるレイアウトだ。

 

「す、すみません。いま片付けますね……」

「や、やっぱり少しは遊ぼっかなーー!?」

 

 どこからともなく針を召喚し(取り出し)、いやに手際よく風船を割っていくひとりを見て、流石の虹夏も意見を撤回した。

 

「あっ、じゃあ飲み物取ってくるので、少々お待ちください……」

「…………」

「……? どしたの、リョウ」

 

 幽鬼のような足取りで部屋の外へ出ていくひとりを見て、何故かリョウは難しい顔をしていた。

 そして虹夏の質問に答えることなく、彼女は郁代を手招きした。

 

「?」

「持ってきた映画のタイトル、確認させて」

「あ、はい。どうぞ」

 

「……分かった。ありがと」

「でー? 今度は何を企んでるのさ」

「別に何も。この状況は私にとっても想定外だったし……でも、()()()()だと思って」

「だぁから何のことか、分かるように言ってよ」

「ぼっちの『体質』と、『スタンド』の件。郁代と恭助には、まだ情報共有し切れてないでしょ? ちょうどいい機会だし、今日やっちゃおうかなって」

「え、今日? 別に構わないけど、そんな良いタイミング?」

「だって、この映画観たらぼっち死ぬでしょ」

「あー……」

 

 今までは意図的に『発作』を引き出すような行為はしていなかったが故に、恭助はひとりの『異能』を確認できていない。しかし今日は、あくまで郁代が善意で持ってきた()()()()()()()()がある。特定の個人(呉ナントカさん)に対しては一撃必殺級の火力を放つ特攻礼装と言っても過言ではない。

 

「えっと……山田くんも、後藤さんの体質については知ってる筈じゃ……?」

「口頭では話してあるけど、まだスタンドで診てもらってないから」

「スタンド、って……」

「あー、ギタースタンドのことじゃなくてね? 恭助くんが持ってる、超能力のこと」

「伊地知先輩……」

「ちょっと喜多ちゃん? そんなドン引いた顔しないで? ぼっちちゃんの体質だって一種の超能力でしょ??」

「いや、まぁ、そうですけど……」

「郁代も知らないだけで、恭助の能力は既に体験してるよ。初対面の時に」

「えっ、そうなんですか?」

「恭助のスタンドは、『壊れたものを治す能力』

 人がどこにどんな怪我をしてるか分かるっていうアイツの特技は、その副産物」

「あぁ、アレってそういう……」

 

 郁代が納得したところでリョウはスマホを取り出し、恭助にメッセージを送信した。

 

 

 

 *

 

 

 

 スマホのバイブレーションに反応し、ロインのトーク画面を開く。

 2時間ほど前に姉からの招集を受け、金沢八景駅までやってきたワケだが……今度は何だろうか。

 

「お土産なら言われなくても今見てるって──ぇ」

 

 

『ごめん』

 

『やっぱり私、ダメだ』

 

 

『たすけて』

 

『ぼっちと虹夏が死ぬ』

 

 

「──ッッッ!!!!」

 

 

 未だ前回の『代償』が癒えていないことも忘れ、反射的に……全身全霊全力の『本気』を出して、オレは走った。

*1
一曲目が完成したのが6月末(給料日)のこと。リョウ曰くこの時点で次の曲も構想はあったらしいが、それにしたってそこから約一月半で二曲作詞作曲して演奏できるように練習して本番(そしてノルマを捌き、Tシャツ作成)……と考えるとエグい。




 
 尚、杞憂な模様。

 次回:『アレと同じ原理……なのか?』
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