リョウの『郁代』呼びは打ち上げまでさせないつもりだったんですが、今回は流石に無理だったので諦めました……。
「いやー、もうすっかり夏だねぇ」
「暑い、死ぬ……虹夏、飲み物ちょうだい……」
「──っ、先輩! 私が出しますよ!」
現在8月9日、火曜日。
真夏も真夏。太陽光の最盛期である。そりゃあ暑い。
虹夏、リョウ、郁代の三人は、近くの自販機に吸い寄せられるように移動していた。
「いや、喜多ちゃんストップ。今あたし、
「あー……」
キタキタと輝かせていた目を細め、郁代はおとなしく引き下がった。
「何飲む? スポドリ?」
「うむ、苦しゅうないぞ
「止めい止めい、気が早いわ」
それからすぐに『ガコンッ』という音がして、ボトルが吐き出される。
「はい」
「ん」
容器を手渡した時、彼女の頬が普段より赤味を帯びていたのは……暑さのせいだけではないだろう。
「喜多ちゃんは?」
「え? あぁ、私は大丈夫ですよ!?」
「遠慮しないで選んだ選んだ! ほら、今日道案内して貰ってるしさ。そのお礼ってことで」
「そういうことであれば……リョウ先輩と同じものを」
「んっ」
その後虹夏自身も同じスポーツドリンクを購入し、三人でボトルを
「──で、ぼっちの家まであとどのくらい?」
「えっと……もうすぐみたいですよ! あと5分もかからないかと」
「おぉやったぁ」
実際、彼女らはすぐ目的地には到着した。
…………したの、だが。
「「え」」
「どうしたの、二人共。呼び鈴押すよ?」
「いや待て待て待て。……えっと、ホントにここで合ってる?」
「合ってるでしょ、どう考えても。『結束バンド』って書いてあるんだから」
「認識してたの!?
『アレ』とは、『歓迎! 結束バンド御一行様 癒しのひと時を皆様に・・・』と書かれた横断幕である。旅館なら何の違和感もないが、残念ながら後藤家は普通の一軒家である。
「こんなとこで尻込みしててもしょうがないでしょ」
「リョウ先輩……流石、クール!」
「…………」
『いや、コレは早く冷房の効いた屋内に入りたいだけだと思う』という言葉は、飲み込まれたようだ。
そしてインターホンが押され、すぐにドアの向こうから、『いいい今開けまーす!』と、ひとりの上擦った声が届く。偶然ドアの近くに居たのか、ずっとそこで待っていたのか……おそらく後者だろう。何故なら、
「──いッ、イェェェイ! うウうェうぇウェウェルカァァム!!!」
扉が開いた瞬間、何故か光る星形メガネと付け髭、帽子本来の役割を一切果たさない祭事専用の三角帽、『一日巡査部長』と書かれたタスキ(withいつものピンクジャージ)を装着したひとりが、空前絶後なかけ声と共にクラッカーを鳴らしたからだ。情報が多い。というか『一日巡査部長』って何だ。
「──後藤さん、これお土産! ご家族と召し上がってね!」
「あっハイ」
(すっ、滑ったぁぁぁ……!!!)
「後藤さんも今日楽しみにしてくれてたって分かって嬉しいわ! 実は私も、オススメの映画とかお菓子とか持ってきちゃってたし」
「喜多さん……!」
(優しさが心に染みる……!!)
「……二人して浮かれちゃって、もう」
「いいじゃん、今日ぐらい。ここんとこ、皆練習漬けだったんだから」
「そうだけどさー、今日だって遊びに来たワケじゃないんだよ?」
そう。彼女らが後藤家に訪れた目的は、『ライブTシャツ』の作成である。14日のライブで着る予定なので、ここ最近の『結束バンド』は過密スケジュールだった。*1
(本音を言えば私だって遊びたいし、『ギターヒーローさんの撮影現場見てみたいな』とか思ってるけど……私までそんなこと言い出したら、収拾がつかなくなるだろうし)
──などと思いながら、案内された先で彼女が見た光景は。
暗い室内に設置されたミラーボールに、大量の風船、ナイトプールのポスター、光るステッカー等々……旅館の次はパーティー会場だった。バブル時代のディスコを連想できそうな、パリピ感溢れるレイアウトだ。
「す、すみません。いま片付けますね……」
「や、やっぱり少しは遊ぼっかなーー!?」
どこからともなく針を
「あっ、じゃあ飲み物取ってくるので、少々お待ちください……」
「…………」
「……? どしたの、リョウ」
幽鬼のような足取りで部屋の外へ出ていくひとりを見て、何故かリョウは難しい顔をしていた。
そして虹夏の質問に答えることなく、彼女は郁代を手招きした。
「?」
「持ってきた映画のタイトル、確認させて」
「あ、はい。どうぞ」
「……分かった。ありがと」
「でー? 今度は何を企んでるのさ」
「別に何も。この状況は私にとっても想定外だったし……でも、
「だぁから何のことか、分かるように言ってよ」
「ぼっちの『体質』と、『スタンド』の件。郁代と恭助には、まだ情報共有し切れてないでしょ? ちょうどいい機会だし、今日やっちゃおうかなって」
「え、今日? 別に構わないけど、そんな良いタイミング?」
「だって、この映画観たらぼっち死ぬでしょ」
「あー……」
今までは意図的に『発作』を引き出すような行為はしていなかったが故に、恭助はひとりの『異能』を確認できていない。しかし今日は、あくまで郁代が善意で持ってきた
「えっと……山田くんも、後藤さんの体質については知ってる筈じゃ……?」
「口頭では話してあるけど、まだスタンドで診てもらってないから」
「スタンド、って……」
「あー、ギタースタンドのことじゃなくてね? 恭助くんが持ってる、超能力のこと」
「伊地知先輩……」
「ちょっと喜多ちゃん? そんなドン引いた顔しないで? ぼっちちゃんの体質だって一種の超能力でしょ??」
「いや、まぁ、そうですけど……」
「郁代も知らないだけで、恭助の能力は既に体験してるよ。初対面の時に」
「えっ、そうなんですか?」
「恭助のスタンドは、『壊れたものを治す能力』
人がどこにどんな怪我をしてるか分かるっていうアイツの特技は、その副産物」
「あぁ、アレってそういう……」
郁代が納得したところでリョウはスマホを取り出し、恭助にメッセージを送信した。
*
スマホのバイブレーションに反応し、ロインのトーク画面を開く。
2時間ほど前に姉からの招集を受け、金沢八景駅までやってきたワケだが……今度は何だろうか。
「お土産なら言われなくても今見てるって──ぇ」
『ごめん』
『やっぱり私、ダメだ』
『たすけて』
『ぼっちと虹夏が死ぬ』
「──ッッッ!!!!」
未だ前回の『代償』が癒えていないことも忘れ、反射的に……全身全霊全力の『本気』を出して、オレは走った。
尚、杞憂な模様。
次回:『アレと同じ原理……なのか?』