山田弟は、初恋を砕けない   作:しやぶ

25 / 27
 
 前回投稿した話は挿入投稿で最新話の一つ前(つまりここの二つ前)にあります。ご注意ください。(pv及びUA数的に気付いていない方がチラホラいそうなので注意喚起)
 


第七話(2):不死(しなず)の褒賞

 

 ──急速だった。

 

 一瞬、というほどではなかったけれど。凄まじい速度で、その()()は起こった。

 

「──ッ」

「ぼっちちゃんが、()()()()()……!」

「顔を晒されたことの急激なストレスに、身体が耐えられなかったんだわ!!」

 

 息を呑み、その現象を正しく認識し、言語化し終わった頃には……もう手遅れだった。ぼっちは、『後藤ひとり』は拳大まで縮み、人型ですらない名状し難きナニカへと変貌していた。

 

 私達は、ただ普通にライブTシャツのデザイン案を出し合っていただけだ。『ちょっとは遊ぼう』という話にはなっていたが、それは恭助が到着してからでも遅くない。

 途中で後藤夫妻の手料理をご馳走になり、食後はあまり間を置かず作業再開。そして暫くして、ぼっちの第一案が完成した。

 デザイン自体は、(私達に合っているかはさておき)アリだと思った。

 ただ問題は、ソレを見た虹夏の一言だ。

 

『ぼっちちゃん、私服もそんな感じなの?』

 

 私はてっきり肯定が返ってくるものと思っていたが、ここで意外にも、彼女がジャージとバンドTシャツ以外の私服を持っていることが判明。虹夏と郁代が目を輝かせ、それを着て見せるよう拝み倒した。()()()()()()()()()

 

『『──か、カワイイ〜〜!!!』』

 

 どちらかというと私服(カジュアル)よりかは制服(フォーマル)に近いような気がするものだったが、新鮮な印象だったのは確かだ。

 素材が良いのは知っていたし、絶望的な顔色の悪さだけ化粧なり何なりで誤魔化せば、顔だけで食っていけるんじゃなかろうか──なんてことを、私も呑気に考えていた。だから私は、虹夏の行動を後押しさえしてしまった。

 

『そうだ前髪上げましょうよ! 絶対その方が良いわ!』

『えっ、あっ、それは』

『お、喜多ちゃんもそう思う〜? 私も賛成!! 多数決は2対1だよぼっちちゃん?』

『あっ、あ、リョウさん……!』

『ごめんぼっち。この件に関しては、郁代と虹夏に同意』

『そっ、そんな……!』

 

『ヨシ! 観念するんだねぼっちちゃん、さぁ──』

 

『──ウ゛ッ !!!』

 

『『『え?』』』

 

 

 ────そして、今に至る。

 

 

「ぼっちちゃん、死んじゃった……」

「新しいギタリスト、探さないとです」

 

「そこ二人、縁起でもないこと言わない。まだ生きてるよ。こんな姿になっても、呼吸と脈は、ちゃんとある。今恭助に、ちょっち急いで来るように──」

 

「──う゛っ」

 

「……虹夏?」

 

 突然、虹夏が胸を押さえて膝を突いた。

 

「こ、この部屋……急に、息苦しくなって……ッ。コフッ、ゴフッッ! 気管に、何かが入り込んだ……!?」

「う゛っ!? ヤダ、私もだわ……! 肺に、詰まったみたい……!」

 

 ──ヤバい。コレは、本当にヤバい。

 

「恭助に、電話を……ッ。ぐぅ……!!」

 

 ダメだ。私にも症状が現れた。声が出ない──そして、()()()()()()()()

 

 ────コレは、胞子か?

 

 今この室内には、()()()()()()()()()()()()。私達の肺に詰まっているのはコレか。

 しかしこの胞子、何よりマズイのは……!!

 

「──二人共、ハンカチでも袖でもいいから、鼻と口を塞いでッ……!!」

 

「リョウ……?」

「先輩……?」

 

「──ぼっちだ。この胞子、()()()()()()()()()()()()()……!」

 

 彼女の身体が小さくなったのは、分裂したからだ。今までは爆発しても複数体になることがなかったから、油断していた。

 

 ──この胞子は全て、()()()()()()()()()だ……!

 

 マズイ。喉は当然食道にも繋がっている。誤って消化してしまったら、互いに無事で済むか分からない。

 幸い地面に横たわっている大きな欠片があるから、恭助さえ来てくれれば、クレイジーダイヤモンドの引き寄せ効果で胞子を集めて治療できるだろうが……流石の『彼』も、食べてしまったものを元通りにはできるかどうか……!

 

「ゴホッ、ゴホッッ!! ッッ……!」

「リョウ……ごめんね……私のせいで……」

 

 無理に喋り過ぎた。いよいよ本当に声が出ない。

 だがまだ身体は動く。メッセージを……

 

「──ごめんなさい……あの日、逃げちゃってごめんなさい……」

「いつも明るさだけで乗り切ろうとしてごめん……それで肝心な時に限って暴走して……あたし、リョウに迷惑かけてばっかだ……」

 

「…………ふたり、とも? なにを、いって」

 

「もう逃げないから……まだギターは下手っぴなままだけど、今度こそ、絶対に……」

「それに、恭助くんにも……また、助けられてばっかり……」

 

 ──コレは、なんだ?

 虹夏と郁代は、こんな昏い目をしていたか? まるで、今にも自殺しそうな……。

 

「でもボーカルはもう仕上げたから……天才過ぎてごめんなさい……あとかわいくてごめんなさい……」

 

 ──あ、いや。郁代は大丈夫だわ。

 しかし、うん。分かった。細胞摂取による嗜好の伝播だな。

 心臓を移植された患者がドナーの影響を強く受けた事例なんかは複数あるし、有名だ。ただこっちはもう少しファンタジーな……ファフニールの血を浴びたジークフリートに近いだろうか。

 

 まァ、そこは今重要なことじゃあない。

 郁代は大丈夫。私も気分が落ち込んでこそいるが、私はお姉ちゃんだ。長女だから耐えられる。事態を解決するまでは耐えられる。問題は、虹夏だ。

 

 実のところ、ぼっちと趣味趣向が合うのは私だけど、価値観の根底が近いのは虹夏の方だ。

 どこまでも優しくて、頼られたら助けずにはいられなくて、自分の長所よりも短所を見がち。

 だから──

 

「…………私がいなくなれば、お姉ちゃんはもう一回、ギターを……」

 

「──ッ」

 

 虚な目で三角旗を見た虹夏を、体当たりする勢いで抱きつき止める。長紐はダメだ。首を吊りかねない。

 

「…………暑い」

「あー……伊地知先輩いいなぁ……リョウ先輩とそんなにくっつけて……」

「ええいっ、郁代も、来い……!」

「へへ……やったぁ……」

 

 郁代の笑い方が微妙にぼっち化しているが……まぁいい。二人共大人しくなったし、これで連絡ができる。

 

「うぅ……ダメ、だ……ライブ……できる気が、しない……」

「ふふふふふ、もうムリまぢ病む……」

 

 ──恭助、早く来てくれ。お姉ちゃんちょっと、この地獄は長く持たないかもしんない。

 

 

 

 *

 

 

 

「ドラァッ!!」

 

 乾坤一擲。指定された座標に到着してすぐ、玄関を破壊し侵入。すかさず再生能力で元通りにする。

 

「きゃあ!?」「わふんっ!?」「何事!?」

「あ゛ー……」

 

 轟音に驚いた声がいくつかと、姉の声。同じ場所からだ。まずはそこに向かお──ん?

 

「あー大丈夫です大丈夫です。そこで待っててください。虹夏、悪いんだけどちょっと行って大人しくさせてきて」

「うん……」

 

 あれ? いま虹夏ちゃんの声も聞こえたぞ?

 

 ──でもって、近くの部屋からふっつーに出てきたぞ??

 

「あー……なんというか、その……この通り、無事です。お騒がせしました……」

「お、おぅ……何事もなかったなら、うん。良かったです、ハイ?」

 

 んー? んんーー???

 どういうことかナー? 姉貴ぃー??

 

「えっとね、リョウを責めないであげて。一時は本当に危なかったから」

「……じゃあ一応、診察させて」

「うん」

 

 同化を解除し、診察に意識を割く。

 

「……たしかに、大丈夫そうだね。……それで、何があったの?」

 

「…………」

 

「虹夏ちゃん?」

 

「……見えた」

 

「え、何が?」

 

()()()()()()()()()()()。いま私、スタンドが、見えてた」

 

「へぁっ!?」

 




 
 次回、オリジナル(デート)回。安価は絶対。アンケート結果も絶対。インディアンうそつかない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。