「──力加減大丈夫?」
「ア、ハイ」
「痒いところはございませんかー?」
「ア、ハイ」
「……1000-7は?」
「ア、ハイ」
「だめだこりゃ」
──どうしてこうなった。
何故、
「おーい、恭助くーん? ぼっちタイムに入んないでー。湯船に入ってー。風邪ひくよー?」
「ア、ハイ」
「ん、よろしい。私も身体洗ってくるから、ちょっと待ってて」
「ア、ハイ」
「んー着たまま洗うの違和感あるし、一回脱ごっかな……見たい?」
「ア、ハ──いや見ないよ!?」
「にしし」
「……全く」
滴る水と、布擦れの音がする。
視線はやらないけれど、風呂場という密閉空間特有の反響があるせいか……別にやましいことは何もないのに、音だけでなんかこう、イケナイことをしているような気分になる。
…………しかし本当に、どうしてこうなったのか。理由は、分かるっちゃあ分かるのだが。
短期間で二度も使ってしまった、『同化』の代償。特に昨日の昼は後先考えずに使ったから……今オレは、自力ではマトモに動けない状態なのだ。昨日の帰路だって、虹夏ちゃんに肩を貸してもらわなければ歩けなかった。
それで心配をさせてしまったらしく、朝起きたらなんか居た。姉が招き入れたらしいが、『来ちゃった』じゃないんだよ。フットワークが軽い。
いや看病してくれるのは嬉しいしありがたいよ? 実際昨日は食事もせず、風呂にも入らず寝ちゃったし。朝風呂しようにも、まだ全身痛くてキツそうだったけど。だからって『じゃあ一緒に入ろう』とはならんやろ。まぁなってるんですがね? 何故……。
「お待たせ〜」
「ア、ハイ」
「む、また戻ってる。てか、もう服着てるんだから見ていいのに。並の水着より露出少ないし、何よりわたしたち、もう付き合ってるワケですし? このくらい……問題ない、でしょ?」
いやあるでしょ、問題。なんか、あるでしょ。
「……これ、後で星歌さんに殺されないかな」
「だーいじょぶだって。むしろ…………あーいや、なんでもないっ」
「……? まぁ、大丈夫ならいいけど」
(『伊地知家の血を繋ぐ役目は任せたぞ』『あとリョウからも頼まれると思うから、その分沢山……ってあぁもう止め止めっ!! こっちまで無駄に恥ずかしくなるわ……!)
「てかあの
「ま、まぁ役に立ってるし……」
彼女が今着ているのは、黒一色のキャミソールワンピースタイプの湯浴み着だ。
虹夏ちゃんは普段あまりキャミソールは着ないし、黒一色というのも珍しい。普段は少なくとも『リボン』がワンポイントになっているし、長いサイドテールがお湯につかないようお団子になっているのも貴重な光景だ。物珍しさが、非日常過ぎるこの状況に拍車をかける。
「それにキャラの濃さで言えば、ぼっちちゃんとこの親御さんも凄かったし……」
「あーね……」
あの『霊媒師』に対する謎の信頼は、何だったのだろう。
鍵の閉まった玄関を通り抜けたオレのことを、
「……心の広い、おおらかな人達だった」
「……うん」
多少、ちょっぴり、度が過ぎてるような気が、しないでもないけれど……。ウチの両親も似たようなものだし、案外『親』というのはそういうものなのかもしれない。
「正直、羨ましいよ。ウチは父親がアレだし」
「いやー、隣の芝生は青いからねぇ。オレらからすれば、虹夏ちゃんとこのが理想的に感じるよ」
「えー?」
彼はしっかり、家族を愛している人だ。8年前にそれは確かめた。そして今も、その心は変わっていないと分かる。
だって、もし虹夏ちゃんが愛されていなかったのなら。彼女はここまで不満を
…………しかし……目の前にあると気になるな。
興味本位で、手を伸ばしてみる。なんだかんだ、コレに触れたことは一度もなかったし。
「……? どしたの?」
ふむ。素手だとすり抜けるか。
──では、スタンドの手ならどうか。
「──ひんっ!?」
「えっ」
光輪に触れた途端、虹夏ちゃんは
「『え』はこっちの台詞だよ! いっ、いまの何!? 胸を内側から撫でられたみたいな、凄くヘンな感触があったんだけど……!?」
「ごっ、ごめん。そんな反応になるとは思ってなかった」
どうやら可視化された精神エネルギーは、スタンドであれば触れることができるらしい。そしてスタンドと同様に、フィードバックがあるようだ。
ここまでは想定内だったけど……まさかリンクしている場所が
「……触りたいなら、普通にそう言ってくれればいいのに」
「エッ」
「そしたらちゃんと、声我慢するから……リョウに聞かれたら、また面倒なことになるし」
「ぇ、あ、その、いまのは本当に想定外だったといいますか」
「…………じゃあ
「──っ、コレは反射! 状況に対応した正常な生理現象だから!」
彼女が指摘した点については、お察し頂きたい。好きな娘に誘惑されて『こう』ならなかったら逆に問題だろう。
「わたしだって、こんな状況で突然触られて──もう
虹夏ちゃんはそう言うと、オレの背に手を回して密着し……囁いた。
「──なーんて。ウソ」
「…………え゛」
「肩貸すから立って。もう上がるよ。あんまり長風呂すると体力使うし」
「ア、ハイ」
「今日はあくまで、恭助くんの看病に来たんだから。お互いヘトヘトになるようなことはしないよっ」
「…………虹夏さんや」
「なんだい恭助さんや」
「初夜は覚悟しておくことだね」
「〜〜っ。うん」