山田弟は、初恋を砕けない   作:しやぶ

26 / 27
お家デート(1):お風呂

 

「──力加減大丈夫?」

「ア、ハイ」

「痒いところはございませんかー?」

「ア、ハイ」

「……1000-7は?」

「ア、ハイ」

「だめだこりゃ」

 

 ──どうしてこうなった。

 何故、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「おーい、恭助くーん? ぼっちタイムに入んないでー。湯船に入ってー。風邪ひくよー?」

「ア、ハイ」

「ん、よろしい。私も身体洗ってくるから、ちょっと待ってて」

「ア、ハイ」

「んー着たまま洗うの違和感あるし、一回脱ごっかな……見たい?」

「ア、ハ──いや見ないよ!?」

「にしし」

 

「……全く」

 

 滴る水と、布擦れの音がする。

 視線はやらないけれど、風呂場という密閉空間特有の反響があるせいか……別にやましいことは何もないのに、音だけでなんかこう、イケナイことをしているような気分になる。

 

 …………しかし本当に、どうしてこうなったのか。理由は、分かるっちゃあ分かるのだが。

 短期間で二度も使ってしまった、『同化』の代償。特に昨日の昼は後先考えずに使ったから……今オレは、自力ではマトモに動けない状態なのだ。昨日の帰路だって、虹夏ちゃんに肩を貸してもらわなければ歩けなかった。

 それで心配をさせてしまったらしく、朝起きたらなんか居た。姉が招き入れたらしいが、『来ちゃった』じゃないんだよ。フットワークが軽い。

 いや看病してくれるのは嬉しいしありがたいよ? 実際昨日は食事もせず、風呂にも入らず寝ちゃったし。朝風呂しようにも、まだ全身痛くてキツそうだったけど。だからって『じゃあ一緒に入ろう』とはならんやろ。まぁなってるんですがね? 何故……。

 

「お待たせ〜」

「ア、ハイ」

「む、また戻ってる。てか、もう服着てるんだから見ていいのに。並の水着より露出少ないし、何よりわたしたち、もう付き合ってるワケですし? このくらい……問題ない、でしょ?」

 

 いやあるでしょ、問題。なんか、あるでしょ。

 

「……これ、後で星歌さんに殺されないかな」

「だーいじょぶだって。むしろ…………あーいや、なんでもないっ」

「……? まぁ、大丈夫ならいいけど」

 

(『伊地知家の血を繋ぐ役目は任せたぞ』『あとリョウからも頼まれると思うから、その分沢山……ってあぁもう止め止めっ!! こっちまで無駄に恥ずかしくなるわ……!)

 

「てかあの両親(色ボケ共)め、普通息子と異性の友人が一緒に風呂入る想定して湯浴み着用意するか?」

「ま、まぁ役に立ってるし……」

 

 彼女が今着ているのは、黒一色のキャミソールワンピースタイプの湯浴み着だ。

 虹夏ちゃんは普段あまりキャミソールは着ないし、黒一色というのも珍しい。普段は少なくとも『リボン』がワンポイントになっているし、長いサイドテールがお湯につかないようお団子になっているのも貴重な光景だ。物珍しさが、非日常過ぎるこの状況に拍車をかける。

 

「それにキャラの濃さで言えば、ぼっちちゃんとこの親御さんも凄かったし……」

「あーね……」

 

 あの『霊媒師』に対する謎の信頼は、何だったのだろう。

 鍵の閉まった玄関を通り抜けたオレのことを、ひとり(後藤)さんはご両親に『霊媒師』と言って紹介したのだが……その無理がある設定は、何故かすんなり受け入れられてしまった。いやオレ幽波紋(スタンド)使いだし、同化もするから、(あなが)ち間違いじゃあないのかもしれないけど……いや。アレは単に、あの一家が──

 

「……心の広い、おおらかな人達だった」

「……うん」

 

 多少、ちょっぴり、度が過ぎてるような気が、しないでもないけれど……。ウチの両親も似たようなものだし、案外『親』というのはそういうものなのかもしれない。

 

「正直、羨ましいよ。ウチは父親がアレだし」

「いやー、隣の芝生は青いからねぇ。オレらからすれば、虹夏ちゃんとこのが理想的に感じるよ」

「えー?」

 

 彼はしっかり、家族を愛している人だ。8年前にそれは確かめた。そして今も、その心は変わっていないと分かる。

 だって、もし虹夏ちゃんが愛されていなかったのなら。彼女はここまで不満を(あらわ)にはしない。愛し、愛されているのに、その心のやり場が無いから不満で、()()()()()のだ。具体的に言うと頭上に『光輪』という形で。

 

 …………しかし……目の前にあると気になるな。

 興味本位で、手を伸ばしてみる。なんだかんだ、コレに触れたことは一度もなかったし。

 

「……? どしたの?」

 

 ふむ。素手だとすり抜けるか。

 ──では、スタンドの手ならどうか。

 

「──んっ!?

 

「えっ」

 

 光輪に触れた途端、虹夏ちゃんは()()()()()()()()()のけ反り身体を捻った。

 

「『え』はこっちの台詞だよ! いっ、いまの何!? 胸を内側から撫でられたみたいな、凄くヘンな感触があったんだけど……!?」

「ごっ、ごめん。そんな反応になるとは思ってなかった」

 

 どうやら可視化された精神エネルギーは、スタンドであれば触れることができるらしい。そしてスタンドと同様に、フィードバックがあるようだ。

 ここまでは想定内だったけど……まさかリンクしている場所が(そこ)とは。いや、心臓部なんだし順当、なのか?

 

「……触りたいなら、普通にそう言ってくれればいいのに」

「エッ」

「そしたらちゃんと、声我慢するから……リョウに聞かれたら、また面倒なことになるし」

「ぇ、あ、その、いまのは本当に想定外だったといいますか」

「…………じゃあ()()は?」

「──っ、コレは反射! 状況に対応した正常な生理現象だから!」

 

 彼女が指摘した点については、お察し頂きたい。好きな娘に誘惑されて『こう』ならなかったら逆に問題だろう。

 

「わたしだって、こんな状況で突然触られて──もう()()()()()()になっちゃってるんだよ?」

 

 虹夏ちゃんはそう言うと、オレの背に手を回して密着し……囁いた。

 

 

「──なーんて。ウソ」

 

 

「…………え゛」

 

「肩貸すから立って。もう上がるよ。あんまり長風呂すると体力使うし」

「ア、ハイ」

「今日はあくまで、恭助くんの看病に来たんだから。お互いヘトヘトになるようなことはしないよっ」

 

「…………虹夏さんや」

「なんだい恭助さんや」

 

「初夜は覚悟しておくことだね」

「〜〜っ。うん」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。