「──12、13、14、15……」
寝る前の習慣として始めた筋トレをしながら、思考に耽る。強くなるための方法を、考え続ける。
「28、29、30……ふぅぅ……腕立て、終了……次、スクワット……」
これで合っているのかは、分からない。肉体的な強さが精神力に直結するかなんて、分からない。
でも、何かしていないと落ち着かなくて。極限まで疲れないと、目が冴えてしょうがないのだ。
──あの日以来、クレイジーダイヤモンドは言葉を発さなくなった。
確かに『オレの
まぁ彼を含め、誰にも頼る気はないのだけど……そんなのは正直、現状だと無理がある。野草で腹を壊して、家族に泣かれて、流石に懲りた。
「看病なんて手間をかけさせちゃう方が、迷惑だもんね……」
『…………』
※流石に追い込み過ぎたと反省し、天を仰いでいる。
だから最低限、本当にどうしようもない部分は妥協する。
その点『スタンド』に関する知識は、彼から聞き出すしかないから……いずれ行き詰まったら、恥を忍んで効率の良い訓練法を聞こうと思っていたのだけど。
「……〝クレイジーダイヤモンド〟」
スタンドは常に存在するが、普段は幽霊のように姿を消している。この状態だと大抵のスタンドはほぼ何もできないらしい。だから本腰を入れる時は
これじゃあ向こうから話しかけてくれないと、会話なんてできやしない。与えられてばかりの今までと、何も変わらない。それじゃ駄目だ。
なので当面の目標は、『全身を呼び出せるようになること』である。
まぁ全身を呼び出せたところで、彼が質問に応じるかはまた別問題なのだけど──そこはおそらく大丈夫だ。
「ねぇ、あの時さ……なんだかんだ言って、虹夏ちゃんのお母さんを助けるの、手伝ってくれたでしょ」
『…………』
今のオレ一人じゃ、折れた箸一本治すので精一杯。
「
像を消して、溜め息を吐く。
「……シャワー浴びよ」
明日も早起きしなければならない。手早く済ませて、寝よう──と思ったところで、携帯から着信音。
「虹夏ちゃん……?」
表示名を見て応答ボタンを押すと、すぐに『もしもし』という彼女の声が届いた。
『ごめんね、こんな時間に』
「ううん、大丈夫。それで、どうしたの?」
『次の休みの日なんだけど、恭助くんは予定空いてる?』
「えっとね……」
部屋にかけてあるカレンダーを見て、予定が無いことを確認。
「うん、空いてるよ」
『良かった! 詳しいことは明日また話すから! お昼休み、給食食べ終わったら図書室直行ね!』
「お昼休みに図書室ね。分かった」
それから互いに『おやすみ』と言って、通話が終わった。
*
──翌日。
「お姉さんのライブ?」
場所は下北のレイニーバー。日時は昨日確認した通り。
昨日夜中にかけてきたのは、短気なお姉さんが『やっぱナシ』と言う前に予定を確立させたかったからだそうで。
「でも、なんでオレを?」
「……
「…………もしかして、お姉さんにスタンドのこと話しちゃった?」
「え? あぁいや話してない話してない! 『山田家』のお世話になってるってこと!」
「あー、そういうこと。ごめん、早とちりした」
まぁ虹夏ちゃんのお姉さんなら、別に知られてもいいけれど。
あっ、先生に『しーっ』てされた。慌てて虹夏ちゃんが口に手を当てる。……可愛いな、やっぱり。
「……ホントに、話してないよ?」
「? うん、信じてるけど」
「じゃあどうしてそんなに『じー』っと見てたの……?」
「えっ、あ……ごめん。慌ててる虹夏ちゃんが、その……かわいいなって」
「──っ!? もう、からかわないでよ。さっきまで何の話してたか、分かんなくなっちゃったじゃん」
「あ、えっと、ライブに行こうって話だったハズ」
「あぁ、そうそう。ライブライブ。
リョウちゃんの話だと、ロックは二人のお父さんお母さんの趣味に合わなさそうだし。リョウちゃん自身はロックと相性良いと思うんだけど、たぶん『朝は寝てたいからパス』って断るだろうし」
「うん言うね、間違いなく」
「だから四人の中だと、恭助くんを誘うのが一番いいかなって」
「なるほど」
「──それに、誰よりも私が一番……キミに、恭助くんに、お礼をしたいの」
「……そんなの、気にしないでいいのに」
「恭助くんがよくても私が気にするの。だから、何かない? ライブとは別に、個人的にお礼をしたいんだ。私にできることなら、なんでもするから」
「……どうしても、気にする?」
「うん、どうしても」
「…………じゃあ、さ。一つ、意地悪なこと聞いてもいい?」
「なぁに?」
「
その答えが『何もない』ということを、自分が一番よく知っている。
だけど優しい虹夏ちゃんは、そんなことは言えないだろうから。
きっと気まずい沈黙が場を支配して『あぁ、何やってるんだろ』って後悔する──そう、思っていたのに。
「……?
心底『何を言ってるんだろうこの子』と言いたげな顔で、虹夏ちゃんはそう口にした。
「そんなのがなくても、恭助くんは私の友達だよ?」
「とも、だち」
「うん。友達」
「あぁ、そっかぁ……バカだなぁ、オレ」
誰にも頼らないなんて無理だと理解して尚、
あの日クレイジーダイヤモンドは、オレの命令とは無関係に虹夏ちゃんのお母さんを治していたと察して尚、
彼女に言われるまで、気付けなかった。
「一人で頑張る必要なんて、ないんだな」
最初から、彼の言葉はテキトウだったのだ。それらしいようで、本気じゃない言葉の群れ。
無論、全てが嘘っぱちというワケでもないだろうが。具体的に言うと、『オレにはオレの意志がある』という部分。コレは最後に問いただすとしよう。
「ありがとう虹夏ちゃん。おかげで吹っ切れた」
「……? よく分からないけど、役に立てたならよかった」
目標は変わらない。
精神力を鍛えて、虹夏ちゃんのお母さんを治す。
変わったのは、過程の辿り方。
自分だけの『何か』なんて曖昧過ぎるものを探して、暗闇の荒野を彷徨う必要はない。
それよりも重要なのは、歩いた距離だ。歩いて歩いて、経験を積んで、体力を付けた方が建設的だろう。
キミと一緒なら、オレはどこまでだって歩いていける。