──私には、12歳年の離れた妹がいる。
金魚のクソみたいにくっついて離れない、私の足枷。
すぐ泣き喚くし、割とエグい悪戯はしかけてくるしで、本当に鬱陶しい存在。
私にとっては、家族よりバンド仲間の方が大切だったのだ。夢に向かって走るのが楽しくて、他のことに目が向かなかったのだ。
『友達もいいけど、家族の時間も大切にね?』
そう言う母の声が、煩わしかった。
家族を大切にしなければならないことなんて、言われずとも分かっている。なのに何度もしつこく口にするものだから、余計に煩わしく思えたのだ。
だから、だから──
『やだッ! ねぇお願いっ、死なないでよぉお母さん……!!』
担架で運ばれる母。縋り付く妹。ここまで届く、血の臭い。
「……は、ハハ」
──笑えよ伊地知星歌。
鬱陶しかったんだろう? わずらわしかったんだろう? 一人減ったぞ。良かったな、望みが叶って。
────笑えよ。
「ふざけんな……! 誰が望むか、こんな結末……!」
なぁ、神様よ。いるなら、聞いてくれ。
「天罰だってんなら、甘んじて受け入れるから──母さんを、返してくれ……!!」
だって、おかしいだろう。
悪いのは私だ。家族をほったらかした私だ。なのにどうして、母さんがこんな目に遭うのか。
「あの人はなぁ、ずっと一番に、虹夏のことを気にかけてたんだよ……私に『もう虹夏を泣かせるな』って、何度も念押ししてたんだ……その母さんに、虹夏を泣かせるような真似をさせるって……あんまりにも、残酷じゃあねぇのか……?」
最後に会った時の、母の声が蘇る。
『──お母さん達はいつか先にいなくなる。そしたら支え合って生きてかなきゃでしょ?』
「だからってこんなっ、こんなすぐだなんて……! 『覚悟』なんざできる訳ねぇだろ……!?」
だからきっと、私は母が死んでしまっても……現実を直視できない。また家族から逃げてしまうだろう。
──ただ、結果としては奇跡的に……母は一命を取り留めた。虹夏が連れてきた『謎の少年』の手によって。
一緒にいた山田夫妻が内線で執刀医達に退室するよう指示し、小さな小さな男の子による、たった一人の手術というバカげた所業を強行させ──しかし少年は本当に、母を救ってみせたのだ。
……彼が誰だったのか、何者だったのかなんてのは、正直気になるがどうでもいい。恩人の秘密を無理矢理暴き立てるほど、私は悪趣味じゃあないから。
あれから一月。
まだ、母の意識は戻らない。……だけど、生きている。
「……『覚悟』は決めた。約束は守るよ、母さん」
この先、母が目覚めるかは分からない。だが生きている。だからこうして、私は家族から逃げずに向き合えている。その小さな救いに──名も知らぬ少年に、感謝を。おかげで私は今、本人を前に決意表明ができている。
「明日、虹夏をライブに連れて行くんだ」
そして、それが終われば──
「私、
レイニーバーでライブできるようになって、レーベルのお偉いさんの目に留まって……『まさにこれから』ってタイミングの脱退だ。仲間からは猛反発されるだろう。殴られるくらいは覚悟しているが……死なない程度に加減してほしいものだ。まぁ、そこはリナ辺りがストッパーになってくれると信じよう。
「バンド辞めた後のことは、まだ考え中だけど……ライブで虹夏の反応を見て決めようと思ってる」
もし虹夏が、ロックを気に入ってくれたなら──ライブハウスでも作ってみようか。
反応が悪ければ……そん時はそん時だ。
「……また明日、ライブが終わったら来るよ。母さんがビックリして起きちゃうくらい、派手な演奏してくるから」
「……ん」
「──っ!?」
僅かに、声がした気がする。
表情も心なしか、微笑んでいるような……
「…………いや、気のせいか」
でも、もし気のせいではなかったのなら。
「行ってきます!」
俄然やる気が湧いてきた。
最高のライブにして、有終の美を飾るとしよう──