山田弟は、初恋を砕けない   作:しやぶ

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想定外の終わりと始まり

 

「──あっ、恭助くん! こっちこっち!」

 

 ライブ当日。

 待ち合わせ場所に到着してすぐ、ぴょんぴょん跳ねて手を振る虹夏ちゃんと目が合った。

 ……トレーナーのワンポイントが箱入り猫ちゃんって可愛いなもう。

 

「ごめん。待った?」

「ううん、私達も今来たところ」

「そっか。ならよかった」

 

 まぁまだ予定の10分前だしね。社交辞令(しゃこーじれー)ってヤツだ。

 ……で、それはさておき。

 さっきからすごーく見てくるお姉さんに挨拶をしなければ。

 

()()()()()()()()()()()()ですよねお姉さん。山田恭助ですよろしくお願いします」

「…………あぁ、()()()()()だな恭助くん。虹夏の姉の、伊地知星歌だ。よろしく」

 

 この感じ、お姉さんオレの正体に気付いた上で合わせてくれてるよなぁ……前に会った時はオレ、全身白衣に帽子とマスク完備だったから、目元しか見えてなかった筈なんだけど……なんでだろ?

 

(虹夏の交友範囲を全部把握してるワケじゃねぇけど、山田夫妻とも繋がりがあるってなると、他に候補なんざいねぇだろうに……)

 

 小さく溜め息を吐き、お姉さんは『行くぞ。ついてこい』とだけ言って歩き始めた。

 

「……あの、今日は誘って頂きありがとうございます」

「礼はいいよ。山田家には身内が世話になってるからな……感謝しなきゃいけないのはこっちの方だ。本当ならご家族全員招待したいくらいだったんだが……あいにく身内枠の空きが一つしかなくてな。スマン」

「あっ、いえ。お気になさらず」

 

 虹夏ちゃんも言ってたけど、姉さんに関してはたぶん誘っても来ないし……両親については誘えば来るだろうけど、急患来たらアレだし。

 …………いつでも家族最優先はめちゃ嬉しいけど、ちょくちょく『大丈夫かこの親?』って思うような行動取るからなあの人達……

 

「ところで、『ロック』ってどういう音楽なんですか?」

「あん? 知らずに来たのかお前」

「恥ずかしながら、事前情報ゼロで……」

 

「いや、()()()()()。それもロックだ。将来の夢が公務員とかいう虹夏より、よほど素質がある。

 ──ロックの意味を調べるような奴にロックは()れねぇからな」

 

「??」

 

「ロックってね、元は『政治的問題』を取り上げてたりする『反骨』の音楽なの。爆音で攻撃的な歌詞を叩き付けてくるイメージ。要するに不良(ふりょー)の音楽だよ」

 

「偏見に塗れた優等生の回答どうも。まぁ爆音なのは間違いないけど、別にウチは子供に聞かせらんねぇ歌詞とかなかった筈だから安心してくれ」

 

「つまり不良うんぬんは一回置いといて、音が大きくて勢いのある音楽ってことですか?」

 

「そうさな。まぁ後は実際に聞いてみてのお楽しみってことで」

 

 それからしばらく歩き、レイニーバーのあるビル前に到着。引率を引き継いでくれるという方と合流した。

 

「二人はライブ来るの今日が初めて?」

「あっはい」

「そうですね」

「じゃあライブやってる星歌を見るのも初めてか。

 ──期待していいよ。めっちゃ格好いいから」

 

 そうして始まった、お姉さんのライブ。

 

 

ワアアアアアアアアア!!!!!

 

 

 ──圧巻だった。

 

 『音が大きい』『勢いがある』

 

 確かに言葉にすればそれまでだ。

 しかしこの周囲まで巻き込んだ『熱狂』は、それだけで済ませられない。筆舌に尽くすほど、陳腐になってしまう。

 

 隣を見る。

 虹夏ちゃんは涙を流しそうなほど潤んだ目で、上気した頬で、ライブに没頭していた。

 

「──決めた」

 

「恭助くん……?」

 

「オレもロックをやる……!」

 

 あぁ、まさかこの世にこれほど『魂』を揺さぶる手段があったとは。

 確信した。あのステージに立つことができれば、この『熱狂』を支配する主人になることができれば、その時オレの精神力(スタンド能力)は誰にも負けないものになる。

 

「……私も」

 

「え」

 

「ロックバンドは一人じゃできないでしょ? しょうがないから、私が一緒にやったげる」

 

「──ホント!? ありがとう!!」

 

 そして演奏終了後、そのことをお姉さんに報告したら……何か覚悟を決めたような顔で『そうか』とだけ返された。

 

楽器(パート)は何をやるの? 星歌の演奏聞いて始めるってことは、やっぱり二人共ギター?」

 

 それ以外だとベースかドラム、今回はいなかったけどキーボードってのもあるらしい。

 

「いえ、ギターよりも音が大きいドラムがやりたいです」

「お、おぅ。そうか……恭助くんは……?」

「ギターとドラムは分かるんですけど、ベース……でしたか? それらしき楽器(もの)持ってる人、いましたっけ?」

「あー……一人だけ男がいたろ? アイツがベース。見た目はほぼギターだけど、出る音も役割も全然違う楽器なんだよ」

「ギターよりも低い音が出る、リズム調整担当の楽器だね」

「バンドとしてはクソ重要なポジションなんだが……拘りが無いならぶっちゃけオススメはできねぇ」

「どうしてですか?」

「モチベの維持が難しいんだ。ギターは単独でも曲が成立するけど、ベースの方はそうもいかないから……」

「将来上手くなって『路上ライブしたいな』と思った時を想像すると、ね……」

 

「なるほど。()()()()()()()()()()

 

『えっ』

 

 一人では成立しないだって? なんだそれは。()()()()()()()()()()()()()()()

 

「まぁ、どうしてもって言うなら止めないが……」

「はい、『どうしても』です。凄く、オレの性に合ってるんで」

 

「……そうかい。じゃあ虹夏が『ドラム』で恭助くんが『ベース』と……まぁ人口が少ないリズム隊が先に出揃ってんなら、後のメンバー集めは比較的楽か」

 

 ──こうして、オレと虹夏ちゃんはロックバンドを始めた。

 オレは親に頼み込んでベースと教本を買ってもらい、虹夏ちゃんはお姉さんからリナさん(ドラムの師匠)を紹介してもらい、毎日練習に明け暮れた。

 

 それから三ヶ月。想定外が二つ発生した。

 

 まず一つ目。この期間でそこそこ基礎は固まってきたので、そろそろ師匠を探そうと思ったのだが……頼みの綱のお姉さんが、ちょっと間の悪い状態だった。というのも、例のライブを最後にバンドを辞めてしまったらしく……リナさん以外のメンバーとは交流が取りにくくなってしまったそうなので、断念したのだ。

 

 んで二つ目。虹夏ちゃんのお母さんが起きた。

 

 大事なことなのでもう一度。

 

 ──()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 いつもの習慣……休みの日には欠かさずお見舞いに行って、弱った内臓の治療をして帰る……ということをやっていたんだけれど、特に何かの節目でもない『ある日』としか言いようのないタイミングで、彼女は目覚めた。

 出力は普段と同じくらいだったから、またウチのスタンドが暴走しやがったのだろう。

 

 いやね? めでたいことですよ?

 だけどさ……だけどさ……

 

「クレイジーダイヤモンド……お前……人の心とか、ないんか……?」

 

 虹夏ちゃんと星歌さんを病院に呼び出して、家族水入らずを邪魔しないよう自室に引っ込んだ後。虚空に向かって呼びかける。

 ヴィジョンを現した下手人は、満面の笑みで首肯した。ムカついたので自分の頬を思いっきりぶん殴ってフィードバックを与えておいた。

 

 オレ、結構悩んだんですけど。どうすれば精神的に成長できるのかな……とか結構真面目に考えて、家族とプチ喧嘩して親泣かせたりしたんですけど。

 それに何より、次虹夏ちゃんにどんな顔して会えばいいんだよオイ……格好つけといて結局最後はコレって……

 

「なぁ……お前、何を企んでるんだよ?」

『…………』

 

 奴は今日も何一つ口にせず、姿を消した。

 

「『オレにはオレの意思がある』って、そう言ったくせに……」

 

 この日以来、クレイジーダイヤモンドは呼び声に応えることすらなくなった。彼は本当に、ただの『力』になってしまった。

 最近はもう、昔喋ってたのが幻聴だったんじゃとすら思い始めている。

 

 あるいは、彼自身の目的が知らぬ間に果たされていて……もう意思を見せる必要が無くなったのか。

 

 真相は、闇の中だ。

 

「──まぁ、虹夏ちゃんが笑ってくれるならそれでいっか」

 

 奇妙な出来事に遭遇しても、大抵はその背景を知ることなく人生は進み終わるもの。コレはその『奇妙な出来事』の中でも、殊更目立つ一件というだけのこと。

 

 故にここから先は、何の変哲もない──というには少々クセが強すぎる人達を交えているものの──ありふれた日常と恋の物語。

 




 
 ──ここまで読んで頂き誠にありがとうございます! ひとまず区切りです!!

 元が『伊地知姉妹のお母さんが生きている二次小説が一つも見当たらねぇぞオイ!? チクショウ自分で書いてやんよ!!!』というノリだけで書き始めたものなので、拙い作品だったとは思いますが……いかがでしたでしょうか? 酷評でもいいので感想など頂けますと、とても嬉しいです。


 最後に裏話をば。
 今回目覚めた伊地知家のお母様の件ですが、傍観者は何もしていません。恭助くんが不断の努力を積み重ねたのと、伊地知母さんが元々『娘が呼んでいる……? まだ死ねん……!』という意思を持ち続けた結果です。
 ただ、恭助くんの楽器選びは少しヒヤヒヤして見ていた模様。ギターなんぞ選択しようものならぼっちor喜多ちゃんに退場フラグが立ちますからね。その時は自分ルールを多少破ってでも止めていた模様。純粋なガバ。
 そして星歌さんのバンド脱退と伊地知母さん復活を見届け、傍観者は成仏したのであった……(してない)
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