さて原作開始ですが……ただなぞるだけなら他にもっと上手くやっている方が大勢いらっしゃるのでね。大枠を壊さない範囲で大胆に味変しております。お覚悟を。
……で、ライブ当日。
「恭助、突然で悪いんだけど……家から私のギター、持ってきてくれる?」
「──あ゛ぁ?」
演奏が控えているハズの姉に『ちょっと来て』と手を引かれ、リハーサルスタジオへ行ってみたら……開口一番コレである。面倒事の臭いしかしない。
「……それって、さっき虹夏ちゃんが慌てて外に出てったのと関係ある感じか?」
「うん。実はギター担当が来れなくなって、虹夏は代理のギターを探しに行った」
「はぁ!?」
ドタキャンというのも驚きだが、
「……なんで止めなかった。見つかるとは思えない」
「止めたよ。私だけじゃなくて、店長も。……焦りで何も耳に入らなくなってたんだろうね」
「…………」
そういえばそうだった。虹夏ちゃんは普段
「……それで、ギターを持ってこいって話だったな。一応聞くけど誰が弾くんだ?」
「無論、私が」
「ベースは?」
「恭助がやって。
「まぁ、そうなるわな……」
オレなら虹夏ちゃんのドラムに合わせた経験がある。丸一年分のブランクこそあるものの、即席よりかはマシなハズだ。問題は……
「姉貴の方は大丈夫なのかよ? ギターなんざ、息抜き程度にしか触ってないだろ」
「全力で
姉貴はものぐさだが、本気になった時の瞬発力は凄まじい。
ベースの腕はあっという間にオレを越えたし、高校受験だって一夜漬けの延長みたいな時間で学年最下位クラスから進学校合格レベルにまで到達してみせた。
まして今回は、下積みのある状態だ。変則的な形ではあるが、オレ達三人は元々共演したことがある。
……だが、それでも。
「
「うん。だから、急いで持ってきてくれると助かる」
「しゃーない。いっちょ久方ぶりに、オレも〝本気〟を──」
『ピロンっ』
「ん、ちょっと待って。虹夏からロイン来……」
「お? 何だって?」
「…………」
メッセージを確認した姉貴は、無言でトーク画面をこちらへ見せた。
『ギター見つかったよ!』
「……マジか」
「なんか、ゴメン」
「いや、いいってことよ。解決したなら……」
もうやだオレの人生、
*
『かくれんぼするひとこのゆびとーまれっ!』
──わたしなんかが、あのゆびにとまっていいのかな
そう思っているうちに乗り遅れて、ひとりぼっち。
『今日の放送は、後藤さんのリクエストで──』
──だれか、話しかけて
そう思って起こした行動で人を遠ざけ、ひとりぼっち。
何をしても、何もしなくても、失敗ばかりのバカな女。それが私。
今日も今日とて、黒い歴史に名を刻んだところだ。私の人生は、
勉強もできない。運動もできない。ひとりでは生きていけない無能のくせに、人の目を見ることすらできないせいで、誰にも頼れない……人生どん詰まりの社会不適合者。*1
「…………もう、いやだ」
今度こそ、今度こそはと思ったのに。
県外から片道2時間かけてまで、自分の過去を知る人が居ない土地へ来たというのに……また、失敗した。
「もう学校なんて、行きたくない……」
──転がり落ちていく。
お先は真っ暗。どこまでもどこまでも、昏い方へと転がっていく。
ただ落ちるだけじゃない。心地の良い、束の間の浮遊感なんて与えられない。ゴロゴロ、ゴロゴロ、私の
「だれか、誰か──」
たすけて
悲鳴は出ない。嗚咽は漏れない。
だから当然、誰も私を──
「────
「……ぇ?」
声が聞こえた。
その単語は、私が持つ唯一の誇り。心の拠り所。
だから、それが私に向けられたものじゃないのだとしても──いつだって私は、その単語が聞こえた方へ目を向ける。
──そこに、こちらを映す2つの瞳があった。
「……!? っ、っ!?」
そんな、バカな。向かって来る? 私しかいないこの公園に、『ギター』という単語を発した人が? 何かの幻覚? あっ、いつものですね分かります。
「ねぇソレ、ケース! ギターだよね!?」
ズズイ、と近寄られ、肩を掴まれて──ほんのり良い匂いがしたところで『あっ、違うコレ現実だ』と気付く。幻覚は私の知らない匂いを発しない。
「あ゛っ、ハいぃえ゛?!」
「え、どっち!? もしかしてベースだった!?」
しばらく人と話していなかったから、うまく声が出ない……自分で自分の声に驚いてしまった。おのれ私、しっかりしろ……!
「ギッ、ぎぎぎぎぎ」
「オーケーオーケーありがとう、ギターなのね? 分かったよ〜? だから一旦落ち着こっか、ね? 深呼吸、深呼吸……」
「あっ、はひぃ……」
言われた通り深呼吸をすると、うるさい心臓が多少マシになった。
「怖がらせちゃってごめんね? 私、下北沢高校2年の伊地知虹夏。キミは?」
「あっ、秀華高校1年後藤ひとり、です……」
よし、比較的上手く喋れた!
「そっか、ひとりちゃんね?」
初手から名前呼び!?
「実は私、今ちょっと、いやかなり困ってて……」
「アッ、ハイ」
それは見れば分かります。相当焦ってるんだなって……この距離感バグが平常運転だとは思いたくない……
「これから私のバンドがライブやるんだけど、土壇場でギターの子と連絡が取れなくなっちゃって……」
「えっ」
「──お願いです! 今日のライブ、代理のギターとして出てくれませんか!?」
「…………」
ライブ? 私が? 臨時の代理とはいえ、念願のバンドを組んで?
でも、
一応いつ誰と組んでも大丈夫なように、ここ最近のヒット曲は一通り練習してあるけれど……流石にここまでの『ほぼぶっつけ本番』は想定していない。
いや、でも……いや、だけど──
「──ありがとう! じゃあ早速行こう!!」
「えっ」
まだ何も言ってないんですが!?
そう困惑する私の手をひいて、彼女は進み始めた。
──
「ぁ……」
瞬間、気付く。
暖かい。人肌の温度。そして、感触。
──この人、ドラマーだ。
私と違って女子高生らしい匂いがするのに、その手は私と同じく酷使された『奏者』のものだった。
「──あのッ!」
「んー?」
「に、
「おっ? いいよいいよ、何でも言って!」
「その、指を……」
「指? あぁゴメン! 手、掴んだままだったや」
「あっ、そうじゃなくて……むしろ逆で……」
「……?」
「あっ、空いてる方の手を出して……『
「え、うん。いいけど……」
──このゆび、とまれ
「……これでいい?」
「──はい! ありがとう、ございます……!!」
心の底から、感謝している。嬉しくて泣きそうになるなんて、いつぶりだろうか。
これでわたしは、がんばれます
──あの指にとまれなかった私の手が、とまるべき場所に納まった気がした。