もしも、彼女がもう少しだけ『がんばりたい』と思えていたなら。
それにより、ゴミ箱の中へ籠城していなければ。
その時間で、対策を練っていたなら。
──こんな初ライブが、あったかもしれない。
(※注:作者は音楽ド素人です。今回の話はBLUE GIANTの映画で喜多ちゃん枠(一般人スタート)のドラマー『玉田』が最初の仮加入セッションで指示され行った演奏から着想を得ていますが、本職の方からすると『あり得ない』と怒られるかもしれません)
「「────」」
虹夏ちゃんの手にひかれ、『フヘヘ』と我ながら気持ち悪い笑い声を発しながら、私は意気揚々とバンドに飛び入りした。
そして今、合わせの演奏が終わったところだ。虹夏ちゃんとリョウさんが顔を見合わせて、神妙な顔で一つ頷く。
「──めっっっちゃ
「うん、凄い。正直驚いた。トンでもない拾いものをしてきたね、虹夏。
「うへ、うへへ。でゅふへへへ」
二人から送られる惜しみない賞賛に、
──しかし、本当によかった。
何も特別なことはしていない。
『──あのッ、虹夏ちゃん!
私ができること。普段やっていることを、
それは、メトロノーム。
「いける……! いけるよこのライブ!」
「ドラムの動きが明らかにオカシイとこだけ気になるけど……
「大丈夫大丈夫! 今日ウチのバンド見に来るの、たぶん私の友達だけだから! 普通の女子高生はどうせそんなの気付かないって!」
なんて典型的な炎上発言……!?
「いや少なくとも恭助は気付くでしょ」
「ぅぐッ!? ……い、いいもん。恭助くんなら、事情を話せば理解してくれるもん……」
もん!? というかコレは、〝恋する乙女の顔〟というヤツなのでは!? いや恋愛なんて青春コンプレックスど真ん中イベント関連のことは全然知らないけど! けど!!
私だって一応『女子高生』に分類される生物だ。そりゃあ恋バナに興味ぐらいある。無関心なものにコンプレックスは抱けない。
「その、キョウスケさんって……」
「ん。入ってくる時ひとりもたぶん見てるよ。テーブルを一心不乱に消毒してた奴」
「アッハイ」
しまった、見てなかった……紹介された照明さんとPAさん、リョウさんのことだけで一杯一杯で……
「従業員じゃないから紹介は
従業員さんじゃないのに掃除してたの!?
「アレが恭助。私の弟で、
「わーーっっ!!? 何バラしてるのリョウ!? この口軽! バカ! アホ!!」
「いや、私が言うまでもなくさっきので察されてたと思うけど」
「え、ウソ!?」
「あっはい……弟さんというのは驚きましたが……」
「〜〜っ。私ってばそんなに分かりやすいかな……??」
真っ赤になってる虹夏ちゃん、可愛いなぁ……本気で好きなんだなぁ……
「それはさておき……」
まさかの放置!?
「ひとりは
「えっ、無いです……」
「そう。別に本名でライブ出てもいいけど、気になるなら考えといた方いいかなって」
あ、真面目な話だった……
「本名は、ちょっと……」
でも中学時代は必要最低限の事務的な会話しかなかったから、『おい』とか『あの』としか呼ばれてなかったんだよな……
「じゃあ『ひとりぼっち』の『ぼっちちゃん』とかどう?」
「オイコラ山田ァ!?」
「ぼぼぼぼぼっちです!!」
「いいんだ!!?!?」
「渾名なんて本当に初めてで、嬉しくって……あっ名前といえば、『バンド名』まだ聞いてなかったです」
「うっ」「ふっ」
「?」
「──『結束バンド』だよ」
「〜〜〜〜っ、ダジャレ寒いし絶対変えるから……!」
「いいじゃん。かわいいよね?」
「あっ、はい。私は好きです。『仲良し』って感じがして……」
『結束バンドさんそろそろ出番ですけど〜』
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっっ」
「ほらリーダー、出番だって。悶絶してる場合じゃないよ」
「いっ、行きましょう虹夏ちゃん!」
「〜〜っ、リョウは後でシバくから……!」
こうして私の、『結束バンド』の初ライブが始まった。
──重大なことを忘れたまま、始まってしまった。
「ぁ……」
ステージへ向けられる、『目』の数々。
私は今から、これに晒された状態でライブをやらなきゃいけない。
──数秒だって辛いのに、何分もある曲を、複数?
『ひゅっ』
気管が一気に狭まり、笛みたいな音を出す。
心臓が暴れ出し、『ここから逃げろ』と叫んでいる。
──あぁ、どうして忘れていたんだ。対策を立てるべきは、『先走る演奏』よりもこちらの方だった。
そうだわたしは、ヒトの視線が耐えられない
*
「すみませんすみません、本当にすみません……!」
──結論から言うと、ライブは
変則的な動きをしていた私はともかく……元々腕が良いリョウは安定的な働きをしてくれたし、ガタガタ震えながらも懸命にギターを掻き鳴らすぼっちちゃんは、観客の心を掴んでいた。
1曲目は、全員細かいミスこそ多かったものの問題なく終わった。2曲目は、ぼっちちゃんが私に視線を固定するべく行った背ギターが『派手なパフォーマンス』としてウケ、盛り上がりが加速した。
問題は3曲目と、
ぼっちちゃんは体力的にも精神的にも、限界を迎えていたのだろう。序盤からミスを乱発し、終盤へ向かうにつれ悪化していった。
そして演奏終了直後、挨拶も待たずに控え室へ走り去り──彼女は床へ盛大に嘔吐した。
「気にしない気にしない! ぼっちちゃんはそこで横になってて」
吐瀉物の処理には慣れている。普段ドリンクのバイトをしていると、当然お酒も提供することになるから……これより酷い状態に遭遇したことだってザラにある。
「コレが……介護……? へへ、死にますね」
「もー、ホント気にしないでいいのに」
こんなもの、嫌がらずに手早くやれば十分以内で片付く。学校の休み時間一回分だ。移動教室のたびにリョウを起こして運んで潰れたそれの数を思えば、なんてことはない。
……というかリョウ、バケツと水を用意してくれたのはいいけど、その後すぐ『眠いから帰る』とか言って本当に帰りおったからな……
「でも……」
「しょうがないなぁ……そんなに気にするなら、一つお願い」
「はっ、はい! なんでも仰ってください!!」
「私ね、今
「えっ」
「ライブの直前にメンバーが一人蒸発しちゃってさー、その日は偶々
「あっ、えっ」
「どっかに転がってないかなー? フリーの凄腕ギタリスト。でも一曲通して澱みなく背ギターができちゃうくらい卓越した腕を持ってるのに、何故かどのバンドにも所属してないギタリストなんて……存在するなら私にとって都合が良過ぎるよね〜?」
「……っ、ぁ」
「でもなー、諦められないなー。あんなに凄い子と一回共演しちゃったせいで、耳が肥えちゃったからなー。並大抵の腕じゃ、私はもう満足できないのですよー」
「──あのッ!」
「んー?」
「私……知ってます。フリーのギター、知ってます」
「おっ? ちなみにその子は、上手いのかな?」
「うっ、上手いかは分かりませんが……背ギターなら、できます。あっ、あと歯ギターも……」
「お、おぅ……歯ギター……?」
「た、足りませんか……!? あっ、ボトルネック奏法もできます!!」
「いや足りてる足りてる!! というか多い! え、ぼっちちゃんなんでそんなに芸が多彩なの……!?」
「あ、私中学3年間、部活もやらずにずっと家でギター弾いてたので……それで……1日最低6時間はギター触ってました……」
「集中力すっご……」
あっ、というかもう普通に名前出しちゃったじゃん!
ははっ、ですね……!
色々締まらなくて台無しだけど、ひとりちゃんが笑ってくれたから良しとしよう。
「でも、その……本当に私でいいんですか……?」
「勿論! というかこの流れで『やっぱり駄目』とか鬼畜にも程があるでしょ」
「あっ、でももしリョウさんが嫌がったら……」
「ないないない! むしろすっごく気に入られてるから」
「そうですかね……?」
いや、本当に。リョウは気に入らない相手とは口きかなかったり、躊躇なく嘘吐いたりして、関係断とうとするからね。自分から話を振ったり、ちょっとでも気を回して面倒見るとか、気に入った相手でも早々ない。
──偶然拾ったギタリストが超凄腕で、気難しい親友とも相性抜群。なんともまぁ、話ができすぎていて恐ろしい。
「……運命、なのかな」
「え?」
「ん、なんでもない!」
私は割とオカルトを信じている方だ。何せ、本物の超能力者を一人知っている。
だからまぁ……運命を決める神様というのも、実在したっておかしくはない。
「──これからよろしくね、ぼっちちゃん!」
「──はい、こちらこそ!!」
もしいるのなら、この出会いをもたらしてくれた神に感謝を。
おかしい……何故だ……これは『ぼ虹』じゃないハズだ……なのに何故、この二人の話が一番筆が乗るんだ……!?