帝京平成大学を知っているか!?
のやつをイケメン女子さんが作ってたらかわいいよねって話。

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イケメン女子さん、「帝京平成大学」の音MADを作った結果、詰む。

 みなさんは「帝京平成大学」をご存知ですか? 4つのキャンパスに色んな学部が存在している大学で、わたしが今通っているところです。いい大学です。いい人もたくさんいます。

 でもみなさんは知っているでしょうか。この大学がなぜか、ワ〇ピースに縁があるということに……。

 

「今日は、ウミカの言ってたところに夕飯行ってみようか」

 大学カフェの窓側の席の対面するようにわたしと彼女……?のサキちゃんが座っています。今は十五時。授業終わりが同じ時間なので、放課後は決まって二人でゆっくり紅茶を飲むなどして過ごしています。

「いいのー? ふふ」

「私も行ってみたかったから」

 ティーカップを小指立てながら持ち上げるサキちゃんの動作一つ一つに見惚れてしまいます。

自慢ですけど、サキちゃんはイケ女です。顎の先まですらりとした綺麗な顔立ち。宝石のように透き通った眼。両耳から提げられている、小さい玉のついたイヤリング。そして綺麗なミルクティーベージュのウルフヘア。今日の衣装は灰色のロングコート。

正直、男でも女でも一回くらいはサキちゃんと付き合いたいと思ってるはずだと思います。それくらい容姿端麗なんです。

こんな人がどうしてわたしと付き合っているかと言うと、わたしと彼女が釣り合ってるから……というわけではないのです。

「……サキちゃん」

「なに?」

「この間のレポートっ、見せてくれないっ♪」

「ダメだよ。ちゃんと自分でやんないと」

「あーあ、そんなこと言っちゃうんだー」

 自然に口元がつり上がっていっちゃいます。

「ねえサキちゃん」

「見せないからね」

「……ここがすごい」

 ぼそりとそう呟くと、サキちゃんは大きな音を出して立ち上がり、慌ててわたしの口を手で塞ぎました。

「はっ……はっ……」

 少しだけ青ざめた顔をしたサキちゃん。はっとして周囲を見渡します。あらら偶然。今このカフェにいるのはわたしたちカップルと、ケーキを食べながら授業を受けている不真面目ヘッドフォン大学生だけなのでした。

「あっ……口に、クリーム、ついてたから。はは……」

 ケーキもアイスも頼んでません。

 少しだけ強張ったサキちゃんの手をどかし、悪戯っぽく笑顔を見せてみたのでした。

「見せて?」

「わかった……わかったよ……」

 観念したようで、サキちゃんは椅子にもたれかかりました。

 

 わたしは性格が悪いです。だから自分の欲しいもののためなら基本どんな卑怯な手でも使います。だから今サキちゃんと付き合えているのも、決してかわいらしい告白をしたわけではないのです。

 わたしだけがサキちゃんの、成績優秀、月下美人の彼女の持つ唯一の弱味を握っている。

 

 数か月前。

 大学で変な噂話が流れていました。

「おい聞いたか?」

「何が?」

「うちの大学のⅭMのさあ、ワン〇―スのやつあるじゃん」

「ああ、ニチョ動で流行ってたね」

「あれうちの大学のやつが作ったらしいぞ」

「ふーん、でも自分の大学くらいみんななんかのネタにしてるだろうし別に違和感ないけどな」

「それがな、教授みんながそれ見てガチギレしてるっぽくてさ。犯人を見つけ次第退学処分にする気らしいぜ。それどころか名誉棄損で訴えるとか」

「うわ……」

 講義室のすぐ後ろの席で男子学生二人がそんな会話をしていました。もちろんわたしもその動画のことは知っていました。名誉ある母校の知名度が底上がりしたので大層爆笑させてもらいました。しかしそれを作ったのがうちの学生であるということは知りませんでした。

 ———調べてみるか。

 ゴシップは好きなんです。わたし。

 

 表向きはみんなに好かれる女学生として通しているので人から人へと聞き込みを行い、情報を得ました。当然、こんなインターネット特有のおふざけ動画に興味のない女の子たちは何も知りません。ですが男は違います。特にマッシュか天パ(汚い方の)か前髪後退系のオタクたち。(ちなみに全員メガネかけてて鼻の下の線がくっきりしてました)彼らは話しかけただけでポンポンと色んな事を話してくれます。別に聞いてもいないことも教えてくれてありがた迷惑で嬉しく思いました。彼ら百円与えたら一万円くらいのプレゼントでお返ししてそうですね。

 

 そんな感じで聞き込みを初めて二週間くらいでしょうか。廊下で全国のティッシュペーパーの箱を集めるのが好きだというオタクさんと話していたところ、その横を一人の女子学生が通り過ぎていきました。

「……あ、サキさんだ。やっぱキレイだなア」

「有名ですよねー」

「結構堅物とか言われてるけど、実はアングラなネタに反応してくれるって噂あるらしいよ。それで一部のオタクくんが接点を持とうと話しかけようとしてるっぽい」

 ———へえ?

「それでこの箱はね、実は九十年代の……」

 前々からサキちゃんのことは気になっていましたから、ちょっとだけお近づきになろうかなと思いました。話のきっかけは、いくらでもありますからね?

 

「へえ、ウミカさんって食べるの好きなんだ」

「もーそんなんじゃないってー」

 偶然同じ授業を取って偶然同じグループになりました。

「私もケーキとか好きだよ。カロリー気にしちゃうけど……」

 恥ずかしげに笑うサキちゃんがすごく可愛らしくてちょっとドキッとしてしまいました。

「こうしてる間に課題終わっちゃった。どうしようか、まだ時間あるけど。もうちょっと詰める?」

「めんどくさいなー。お話しよ?」

「ふふ、いいよ。そうだ、この間新しいパン屋を見つけて」

「ニチョニチョ動画とか見てるー?」

「———」

 そのとき、サキちゃんがびくっとして驚いたような顔を見せたのをわたしは見逃しませんでした。

「インターネットも好きだって聞いたからさー。わたしも好きなんだよねー」

「……そうなんだ。トックテックとか私もよく見るし」

「違う違うそういうキラキラしたやつじゃなくて、ニチョ動。わたし、実はこっちも好きなんだよね」

「……ホント?」

「うん♪」

 するとサキちゃんは耳打ちをしてきました。

「……ず〇だもんとかわかる?」

 事前に勉強してるのでわかりますともー。

「ホントに? じゃあ、アル中オラオラは……」

 とても大きい叫び声を上げながら汚い料理を作る人ですね。

「うわあ、ちょっと引くかも……あ、これ誉め言葉ね」

「意外でしょー?」

「うん。いや、同じ動画知ってるなんてやっぱり嬉しいな……」

「じゃあさ、うちの大学のワンピースのMAⅮ知ってる?」

「ッスウー……話題なってるよね」

 なんですか? なんで今音を立てて息を吸ったんですか?

「あ……チャイム鳴ったね。じゃあ、私次の授業あるから」

 そう言ってサキちゃんはそそくさと教室を出て行ってしまいました。

 ———どうして、動揺したのかな?

 

 サキちゃんが何だか怪しいということで、調査の範囲を他の大学まで伸ばしてみました。こんなくだらないことにここまで力を尽くす必要は無いのですが、暇だったのです。

 それに、サキちゃんが実はそうなんじゃないか? という根拠の薄い仮説が心に過ぎっていたのです。

 まず、サキちゃん本人やサキちゃんの友人から、学外にいる友人の情報をゲット。本人に聞くのはなんだかつまらないのでやめました。やはりイケメンなだけ有って交友関係も広いようです。その中でインカレサークルに入っているという人に連絡を取り、体験入部という名目の潜入捜査を行いました。

「ああ、サキね。あいつ意外とネットミーム好きだよな」

「そうですよねー!」

「それで、自分で動画作ったりしてんだよ。この間なんかさ……」

 

 ———へえ?

「じゃ話戻すか。今日の体験入部だけどね……」

 帰りの電車の中で、わたしは冷たい高揚感で口角を上げてしまっていました。流行りのウィルスのおかげでマスクをつけていたのが幸いでした。

 もうわたしは、答えを得てしまったのです。

 

 すっかり友人関係になったわたしたち。お互いの家に行くのも当たり前になっていきました。

 サキちゃんの家でくつろいでいるとき、わたしはおもむろにスマホをいじりだします。サキちゃんもベッドの上に寝転びながらスマホをいじいじしています。すっかり油断している彼女の姿を心の中で笑いつつ、ニチョニチョ動画のアプリを起動しました。そして一つの動画をマイリスから引っ張り出し、タップします。

 

『帝京平成大学を知ってるか!?』

 

「んぐっ!?」

 唐突に起き上がって咳き込むサキちゃん。

 

『幅広い学問を学べるんだぞ』

 

「……あー……」

 若干放心している様子です。

「変なの急に流さないでよウミカ……笑っちゃうから……」

 わざとらしくそんなことを言うサキちゃんが愛らしくて、もっと虐めたくなってしまったのです。

「サキちゃん、隠してることなーい?」

「……なにが?」

「んー、例えば―……」

 段々表情が曇っていくのが見えます。

「うちの大学の人には絶対言えないような秘密あるでしょ?」

 そしてボリュームスイッチを三回くらい押して、今流れているこのふざけた曲を強調しました。

 

『帝京平成大学!』

 

「……」

 サキちゃんはそのまま顔を手で覆い隠し、横に倒れました。

 

「どうやって知ったの」

「たまたま」

「嘘だ……隠してたのに。誰にも言ってなかったのに」

「嘘いっちゃって~! 他の大学の人には言ってたじゃない」

「……まさか、調べたの?」

 髪の毛をぐしゃぐしゃにした彼女はわなわなと震えていました。

「暇だったからねえ」

 サキちゃんは少しずつ後退して壁に引っ付いてしまいました。

「あの動画作ったの、サキちゃんなんだよねー?」

 何も言わない彼女は横の毛布で身体を包みました。

「すっごくカワイイ趣味だと思う! みんなにも教えてあげたいなー」

「や……やめて!」

 憔悴したようにわたしの両腕を掴んできました。

「そんなことしたら、私、退学に、なっちゃう……」

 やめてよ。そんなウルウルした目でわたしを見ないで。

 せっかくのカッコいい顔が、余計に綺麗に見えちゃうじゃない。

 

「アイツの動画すげえ流行ったじゃん? それからよく相談してきたんだよ。このままじゃ退学になるかもーって」

「どうしてですかー?」

「教授みんな怒ってるってさ! 最初はすっごいウキウキで見せてきたのに一気に暗くなったからさあ。ちょっと心配なんだよね。どう? あいつ元気にやってんの?」

 

「ホント、やめてほしい、お願いだから、さ……?」

 あーあ。すっかり弱くなっちゃって。

「じゃあさ、一つお願いしていーい?」

「うん、うん……なんでも、いいから」

「それじゃあ……」

 きっと漫画だったらここでわたしが舌なめずりをしている一コマが挿入されるんだろうなあ。

「わたしと付き合ってよ。サキちゃん」

 

 彼女はあっさりと了承してくれました。

 

 二人で歩いてると周りがざわざわします。やっぱり目立つんですね。

「……なんであの子なんかと」

 そんな嫌味を言ってくる女子もいます。するとすかさずサキちゃんが、

「私のウミカに、何か用?」

と言って黙らせてくれるので安心です。

「ありがとうサキちゃん♪」

「ううん。やっぱりウミカは可愛いから。みんな嫉妬してるんだよ」

 少女漫画だったら全国の女の子を虜にするんだろうなと思います。

 でもこの人音MAⅮ作ってるんだよね。

 

 今日の夕飯はわたしが前々から行きたいと言っていた少しお高めなレストランです。

「いいよいいよ。ウミカの頼みだから」

 黒いクレジットカードを出して一括で払ってくれる彼女。決して便利な人だなんて思っていませんが、でもナチュラルにそんなことをしてくれる人にはやっぱり惚れてしまいます。

 でもこの人音MAⅮ作ってるんだよね。

 

 今夜はわたしの家でお泊り会。

 お疲れのようで、ベッドの上ですやすやと彼女は寝ていました。ちょうどわたし一人分のスペースを開けて。

 そこに入って寝顔を観察します。

 人間、寝ている時が本来の状態なのだと言いますけど、サキちゃんはわたしだけに自分の全てを見せてくれます。まあ、わたしが暴いてあげたんですけど。

 まるでお人形みたい。

 わたしのために尽くしてくれる王子様。でもそれはわたしの糸で四肢を動かされているだけの、なりそこないのピノキオなのです。

 その頬をつつくと、サキちゃんは少しだけ顔を歪ませました。

「……言わないでよ……」

 夢の中でもわたしに何かされてるのかな。でも、おふざけで変な動画を作ったあなたが悪いんですよ。

「本当に、カワイイんだから」

 

 

 

 

 

 



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