ゾンビ世界で元研究者の女と共依存しながら退廃的な生活を送る話 作:POTROT
洗濯物を持ったまま扉を開き、風呂場の中へ入……れない。
なんということだ、風呂場のただでさえ狭い床が、水の張った容器の群れで埋まっている。
こんな状態で一歩でも踏み出そうものなら、少なくとも大惨事は確定だろう。
仕方が無いので洗濯物を一旦置き、容器を退かしてスペースを作る。
最低限、座って作業できる分有れば問題は無い。
……よし、このくらいのスペースがあれば十分か。
洗濯物を持って風呂椅子に座り、蛇口を捻って水を出す。
とりあえず、まずは一枚一枚水で濯ぐとして……あ。
これ……うわ、なんだこれ。母親のと明らかにサイズが違う。確かに服の上からでも随分大きかったが……って違う、今はそんなくだらないこと考えている場合じゃない。
かなり血に濡れているから洗いたいんだが、俺は女物の下着の洗濯の仕方を知らん。
いや、洗濯機使う時はネットに入れると知っている。だが、手洗いの場合がさっぱりわからん。
どうなんだこれ。普通に手洗いでいいのか?
……ってああ、そうだ、こういう時のためのタグだ。家庭科で散々習わされたのがここでようやく活き……血で濡れてさっぱり読めなくなっている。
いやどうすればいいんだこれ。本当にどうすればいいんだこれ。
クソ、まさかこんなところで家庭力の無さが浮き彫りになるとは。もっと家事の手伝いとかしておけば良かった……いやまぁ、両親は手洗いなんて一切してなかったが。
っていうか、どうなったら下着までこんなことになるんだ。服の状態から考えるに、彼女の傷では無さそうだが……真正面から誰かをチェンソーで切り刻みでもしたのか?
仕方がない、ここはアレだ。出来るだけ優しく洗うことを心がけよう。
とりあえず適当な容器の中に入れて……うわ一瞬で真っ赤になった。
……いや良い機会だな、これ。ついでにこの辺の水を全部交換しておこう。このまま放置していたら、多分腐るだろうからな。
洗濯に加えてなかなかの重労働になるだろうが、いつ水道が止まっても問題無いように行動しておいた方が良い。
もう一度水道がまだ通っているか確認して、血に染まった服を別個の容器の中にそれぞれ入れる。
……うぅん、真っ赤。まるでサスペンスドラマの殺人現場だ。
いや、だとしたら予算が無さすぎるにも程があるし、本当の殺人現場はここじゃなくて両親の寝室なんだが。
ああだがしかし、俺の今の状況を映画にでもしたら割と売れそうではある。
少なくともリアリティーは歴代のゾンビ映画の中でも一番だろう。
何しろ実際に起こったことだからな。…………クソが。
溜息を吐き、洗濯の作業に入る。
とりあえず一度赤く染まった水を捨て、再び水を入れてから出来るだけ優しく揉んで洗う。
それを繰り返し、洗い流せるところまで血を洗い流してゆく。
……するとまぁ、やはりと言うか見事にシミが出来ていた。
ええと……シミってどうやって抜くんだっけ。確か家庭科の被服でやった時は……
いや、まずは他の服の血を洗い流してからか。
とりあえず、下着を干してからまた風呂場に戻る。
天日干しがダメかよくわからなかったから部屋の中に干したが、これで大丈夫なのだろうか。
まぁ、ダメだったらダメだったで謝るとしよう。
さて、次は白衣だ。
正直なところ、ここまで汚れてしまったら、洗ったところで実用品としてもファッションとしても、到底使えるとは思えないが、念のために洗っておく。
白衣をつけていたバケツの水を流し、蛇口から出る水で直接洗う。
やはり、元が白かった分、シミがとんでもないくらいに目立っている。
しかも血でわからなかったが、擦り切れたり穴空いてたりと、かなりボロボロだ。
どう考えても、洗ったところでゴミ箱ちょっこ────痛って!?
突然、左手に鋭い痛みが走った。
慌てて手を引き抜いてみると、中指と薬指の間がザックリと切れていて、ドクドクと血が溢れて来ている。
傷はかなり深い。早急な手当てが必要だ。
水を止め、急いで救急箱の所へと駆け寄る。
しかし、どうにも片手だと開けにくい。
一応右手は利き手であるのだが、やはり支えがないと難しいものは難しい。
仕方が無いので、左腕で救急箱を押さえながら開く。
そしてズキズキと痛む傷を歯を食いしばって耐え、なんとか包帯を取り出した。
しかし、今度は包帯が巻けないという問題に直面する。
普段ですら一人で手に何かを巻くことは難しいと言うのに、こんな状態でどうしてそんなことが出来ようか。
しかも、今回は止血のために強く巻く必要がある。
流石にこれは難しいと、扉をノックし彼女に助けを求めるが、どうやら彼女は相当深く眠っているらしい。
まぁ、相当疲れていた様子だったからな。
何はともあれ、俺はこの状況をどうにか一人で突破せねばならないわけだ。
ふぅむ……どうするか。
とりあえず、まずは普通に巻こうとしてみる。まぁ無理だ。
次に、包帯の端を口で咥えながら巻いてみる。
どうにもこの方法は人間には合っていないということが分かった。
その後にも試行錯誤を繰り返し、最終的に包帯の端をテープで手に固定することで、なんとか包帯を巻くことに成功した。
まぁ……うん、時間をかけすぎたな。机が血で大惨事だ。
となれば、さっさと机を拭かなければならないところだが、この手を水に濡らすわけにもいかないので、ビニールで縛って水が入らないようにしてから台布巾で拭く。
これで洗濯物が一つ増えた。
しかし、一体どうしてこんな傷が出来たのだろうかと疑問に思いつつ、血塗れになった台布巾を持って風呂場に戻り、白衣を調べる。
すると、白衣のポケット付近に、薄めのガラス片が刺さっているのを見つけた。
十中八九、原因はこれだろう。
慎重にガラス片を抜き、ゴミ箱に捨てる。
さて、予期せぬ事故はあったが、洗濯の再開といこう。
勿論、今度はガラス片に注意しつつ、だ。
はい、もう察したでしょう。つまりそう言うことです。
あ、一応人間のままではいますよ。一応ね?
……うん、まぁ、ね。可哀想ですよね。(圧倒的元凶による同情)
早く滅茶苦茶になった心理描写を書きたくてうずうずしてますよ、私は。
そんなわけで、次回も主人公視点です。
高校に入学して書ける時間が滅茶苦茶減ったので、次回がいつになるかはわかりませんが、楽しみって人は是非評価と感想をお願いします。
あと、もしかしたら高校の課題研究で外部にアンケートを取らないといけなくなるかもなので、その時は協力していただけると嬉しいです。