ゾンビ世界で元研究者の女と共依存しながら退廃的な生活を送る話   作:POTROT

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ふくろ

 先程包帯を取り出したばかりの救急箱を再び引っ張り出し、湿布を探す。

 だがしかし、見当たらない。まさか、使い切ってから買い足していなかったのか?

 いや、そんなことは有り得ない。つい先月、父だけでなく母も腰がヤバくなってきたと────

 

 ……ああ、そうだ。よく使うからと別の入れ物の中に入れていたんだ。

 確か、こっちの缶の方に……良かった。大量に入っていた。

 些か買い過ぎではないかという気もしなくもないが、この状況では有難い。

 それに、殆どが未開封のままだ。恐らく、本当につい最近買い足したんだろう。

 これならば、しばらく湿布の在庫については考えなくても大丈夫そうだな。

 

 湿布を一枚取り出して、救急箱と缶を戸棚に戻す。

 まぁ、彼女の着替えはもう少し時間がかかると思うので、先に他をやっておこう。

 まずは食器だ。皿を流しに持って行き、洗剤で油を落としてから水で流す。

 そして、良い感じに綺麗になった皿を乾燥棚に置いたら完了だ。

 

 ……しかし、やはり日用品の確保もしなければならないな。

 洗剤の残りが少なくなっている。いや、別に洗剤は無くなってもまだ大丈夫なんだが、トイレットペーパーとかが無くなりでもしたらストレスで死にかねん。

 一応、隣の部屋に突撃すれば回収は出来るんだろうが、人道的にあんまり……いや、手段なんて選んでいられる状況じゃないな。それに、もう既に10人くらい殺してるんだ。今更になって人道なんて気にしたところで無駄だろう。

 

 ……よし、じゃあ、今日のところは彼女がここで暮らすにあたっての準備に専念して、明日か明後日くらいに行ってくるとしよう。ベランダの蹴破れる壁から中に入れるはずだ。

 ついでに、あの声の主も始末してこなければ。これでやっと静かに……は、もう片方の隣人を殺さなきゃならないんだが……あっちとはベランダが繋がっていないんだよな……うーん……廊下にある格子付きの窓を破壊すれば入れるか?

 

 格子はヤスリで削るとして、あの分厚い窓は木刀だと無理そうだが、金槌なら……あー……クソ、なんでこうもスラスラと……って違う。駄目だ駄目だ。

 拙いぞこれ。早いうちにこの感性をどうにかしないと、いつか自己嫌悪で自殺するぞ俺。

 わかってはいる。わかってはいるんだから、さっさと割り切らなければ。

 

 ……ってか、そういえば木刀を回収していなかったな。

 彼女は多分まだ時間がかかると思うし、今のうちに取ってくるか。

 しかし、手ぶらで行くのは怖いな。何か…………ダンベルがあった。これの持ち手でいいや。

 リーチの短さが難点だが、重量は結構ある。武器にはなってくれるだろう。

 

 ダンベルの重りを外し、持ち手の部分だけを持って外に出る。

 足早に階段を降りて出入り口のあたりを探してみると、あっさり目当ての物は見つかった。

 拾い上げて確認してみると、多少ではあるが傷がついている。まぁ、ここの地面はゴツゴツしているタイプのアスファルトだし、そんなところに投げたのだから当然だ。

 しかし、ガムテープあたりでしっかりと巻けばゾンビ相手にもまだ使えるはず。

 あとついでだし、滑り止めも付けるか。この前も手汗で滑りそうになって大変だった。

 

 何を滑り止めにすれば良いか考えつつ階段を登り、廊下を歩く。

 部屋に近づくと、彼女の声が聞こえてきた。どうやら、丁度着替えが終わったらしい。

 木刀とダンベルを置き、湿布を持って両親の寝床の扉を開ける。

 

「……大丈夫だったか?」

「あ、ああ、大丈夫だったよ。サイズも大体は同じだったらしいし、ちゃんと着れた」

 

 そういう彼女が今着ているものは、落ち着いた暗い色のシャツに、ジーンズ。

 どちらも、母親が好んで着ていたものだ。俺も普段からよく見ていた。

 しかし、どうも服という物は、着る者が変わると印象もガラリと変わるものらしい。母と同じ服なはずなのに、全く違う服のように見えてしまう。

 念のためよく見てみるが、やはり母の服だ。

 

「それは良かった。では、湿布を貼ろう。足を出してくれ」

「あー……いや、それは後で私が貼る」

「そうか、では、脱いだものを渡してほしい」

「うん……ほら、これでいいかな?」

「大丈夫だ」

 

 彼女に湿布を渡して、かわりに洗濯物を受け取る。

 うーん……血塗れ。洗濯機じゃなく、手洗いでやった方が良いな、これは。

 

「では、これで俺は失礼する。今日からここが貴女の部屋だ。要望があったら呼んでくれ」

「……あー……じゃあ、ちょっと……」

 

 ドアノブに手をかけ外に出ようとすると、彼女から呼び止められた。

 早速何かあるのだろうか。

 

「……どうした?」

「……その……お、お手洗いに……」

 

 あー……まぁ。

 

「…………成程」

「………………本当に、迷惑を……」

「いや、構わん」

 

 そりゃあな。人間だからな。うん

 洗濯物を一旦置き、彼女をトイレに運んで、便座に座らせてから、退散。

 流石に女性の入っているトイレの前に陣取るとか、常識的に考えて無い。

 

 食卓で木刀の改造を行いながら、彼女が終えるのを待つ。

 ……輪ゴムって、結構優秀な滑り止めになるんだな。初めて知った。

 これは他にも色々と活かせそうだ。…………ダンベルとかに。

 

「────────もう、大丈夫だ」

 

 と、どうやら終わったらしい。

 一旦手を止めて、彼女をトイレから回収。部屋に戻る。

 なんかもう、この数時間で彼女を運ぶことに慣れてきた気がする。

 

「……なぁ」

「……どうした?」

「アレは、なんだ?」

 

 ドアを通り抜け、彼女を布団の上に下ろそうとした時。

 彼女が何かに対して疑問を呈する。……まぁ、十中八九アレだろう。

 この部屋の中で、目につく位置に置いてある不思議なものなど、たったひとつしか該当しない。

 念のため彼女の視線を追ってみるが、そこにあったのはやはり大きなゴミ袋。

 

 何かと問われれば、両親の焼け焦げた死体(バラバラ)と答えるのが正解だろう。

 しかし、ここで本当のことを伝えてしまうと、彼女に余計な罪の意識を植え付けてしまうかも知れない。流石に自殺こそしないだろうが、それでも伏せておいた方が彼女の為だ。

 

「あぁ……まぁ、ゴミだ。気になるようなら……あー……他へ移すが」

「……いや、いい。そこまでしてもらうわけにはいかないさ」

「そうか。それなら、そのままにしておこう」

 

 洗濯物を持ってから寝床を出て、風呂場に向かう。

 ……あ、開けないように言っておくのを忘れていた。……いや、普通ゴミの中身なんて覗こうとも思わないし、まぁ大丈夫か。

 さて、では早急に洗濯をするとしよう。

 うーん……どれくらいまで落ちてくれるんだろうか。

 




もちろん覗かせます(ニッコリ)
いやー……まぁ、うん。今、彼女は代価も払えないどころか、自分一人では用も足せないのかとね、情緒がぐちゃぐちゃになってるんでね。うん。
つまりそういうことですよ。可哀想ですね。

そんなわけで、次回は研究者視点でお送りします。楽しみって人は評価と感想お願いします。
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