もしもこんな日本だったら   作:fire-cat

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文化芸術基本法(昭和二十六年法律第四十八号)

上諭

 

 朕、議会の議決を経て文化芸術基本法を裁可し茲に之を公布せしむ。

 

 御名 御璽     

 

昭和二十六年五月三十日

 

内閣総理大臣

文部大臣

大蔵大臣

内務大臣

 

前文

 

 古より文化芸術を創造し、享受し、文化的な環境の中で生きる喜びを見出すことは、人々の変わらない願いである。また、文化芸術は、人々の創造性をはぐくみ、その表現力を高めるとともに、人々の心のつながりや相互に理解し尊重し合う土壌を提供し、多様性を受け入れることができる心豊かな社会を形成するものであり、世界の平和に寄与するものである。更に、文化芸術は、それ自体が固有の意義と価値を有するとともに、それぞれの国やそれぞれの時代における国民共通のよりどころとして重要な意味を持ち、国際化が進展する中にあって、自己認識の基点となり、文化的な伝統を尊重する心を育てるものである。

 我々は、このような文化芸術の役割が今後においても変わることなく、心豊かな活力ある社会の形成にとって極めて重要な意義を持ち続けると確信する。

 日本国の再建にあたり、これまで培われてきた伝統的な文化芸術を継承し、発展させるとともに、独創性のある新たな文化芸術の創造を促進し生み出される様々な文化芸術を活用することは、我々に課された緊要な課題である。

 長きにわたる戦争が終わった結果、詭激の風潮が次第に強まり、道義の意識が頗る衰え、ともすれば、長きにわたって受け継がれてきた我が国の風習や文化芸術を因循固陋なものとして忌避する風潮すら見られる。

 我々が現在直面しているこの危局の事態に対処して、我が国の文化芸術の振興を図るためには、文化芸術の礎たる表現の自由の重要性を深く認識し、文化芸術活動を行う者の自主性を尊重することを旨としつつ、文化芸術を国民の身近なものとし、それを尊重し大切にするよう包括的に施策を推進していくことが不可欠である。

 ここに、文化芸術に関する施策についての基本理念を明らかにしてその方向を示し、文化芸術に関する施策を総合的かつ計画的に推進するため、この法律を制定する。

 

第1章 総則

 

第1条(目的)

 この法律は、文化芸術が人間に多くの恵沢をもたらすものであることに鑑み、文化芸術に関する施策に関し、基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに、文化芸術に関する施策の基本となる事項を定めることにより、文化芸術に関する活動(以下「文化芸術活動」という。)を行う者(文化芸術活動を行う団体を含む。以下同じ。)の自主的な活動の促進を旨として、文化芸術に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図り、もって心豊かな国民生活及び活力ある社会の実現に寄与することを目的とする。

 

第2条(基本理念)

 文化芸術に関する施策の推進に当たっては、文化芸術活動を行う者の自主性が十分に尊重されなければならない。

2 文化芸術に関する施策の推進に当たっては、文化芸術活動を行う者の創造性が十分に尊重されるとともに、その地位の向上が図られ、その能力が十分に発揮されるよう考慮されなければならない。

3 文化芸術に関する施策の推進に当たっては、文化芸術を創造し、享受することが人々の生まれながらの権利であることに鑑み、国民がその年齢、障害の有無、経済的な状況又は居住する地域にかかわらず等しく、文化芸術を鑑賞し、これに参加し、又はこれを創造することができるような環境の整備が図られなければならない。

4 文化芸術に関する施策の推進に当たっては、我が国及び世界において文化芸術活動が活発に行われるような環境を醸成することを旨として文化芸術の発展が図られるよう考慮されなければならない。

5 文化芸術に関する施策の推進に当たっては、多様な文化芸術の保護及び発展が図られなければならない。

6 文化芸術に関する施策の推進に当たっては、地域の人々により主体的に文化芸術活動が行われるよう配慮するとともに、各地域の歴史、風土等を反映した特色ある文化芸術の発展が図られなければならない。

7 文化芸術に関する施策の推進に当たっては、我が国の文化芸術が広く世界へ発信されるよう、文化芸術に係る国際的な交流及び貢献の推進が図られなければならない。

8 文化芸術に関する施策の推進に当たっては、乳幼児、児童、生徒等に対する文化芸術に関する教育の重要性に鑑み、学校等、文化芸術活動を行う団体(以下「文化芸術団体」という。)、家庭及び地域における活動の相互の連携が図られるよう配慮されなければならない。

9 文化芸術に関する施策の推進に当たっては、文化芸術活動を行う者その他広く国民の意見が反映されるよう十分配慮されなければならない。

10 文化芸術に関する施策の推進に当たっては、文化芸術により生み出される様々な価値を文化芸術の継承、発展及び創造に活用することが重要であることに鑑み、文化芸術の固有の意義と価値を尊重しつつ、観光、まちづくり、国際交流、福祉、教育、産業その他の各関連分野における施策との有機的な連携が図られるよう配慮されなければならない。

 

第3条(国の責務)

 国は、基本理念にのっとり、文化芸術に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。

 

第4条(地方公共団体の責務)

 地方公共団体は、基本理念にのっとり、文化芸術に関し、国との連携を図りつつ、自主的かつ主体的に、その地域の特性に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。

 

第5条(国民の関心と理解)

 国は、現在及び将来の世代にわたって人々が文化芸術を創造し、享受することができるとともに、文化芸術が将来にわたって発展するよう、国民の文化芸術に対する関心及び理解を深めるように努めなければならない。

 

第6条(連携及び協働)

 国、地方公共団体、文化芸術団体、民間事業者その他の関係者は、基本理念の実現を図るため、相互に連携を図りながら協働するよう努めなければならない。

 

第7条(法制上の措置等)

 政府は、文化芸術に関する施策を実施するため必要な法制上、財政上又は税制上の措置その他の措置を講じなければならない。

 

第二章 基本的施策

 

第一節 分野別振興等

 

第8条(現代芸術等の振興)

 国は、文学、音楽、美術、写真、演劇、舞踊、映画、漫画等を利用した芸術の振興を図るため、これらの芸術の制作、公演、上映、展示等への支援、これらの芸術の制作等に係る物品の保存への支援、これらの芸術に係る知識及び技能の継承への支援、芸術祭等の開催その他の必要な施策を講ずるものとする。

 

第9条(伝統芸能の継承及び発展)

 国は、雅楽、能楽、文楽、歌舞伎、組踊その他の、我が国古来の伝統的な芸能(以下「伝統芸能」という。)の継承及び発展を図るため、伝統芸能の公演、これに用いられた物品の保存等への支援その他の必要な施策を講ずるものとする。

 

第10条(大衆芸能の振興)

 国は、講談、落語、浪曲、漫談、漫才、歌唱その他の、伝統芸能を除く芸能の振興を図るため、これらの芸能の公演、これに用いられた物品の保存等への支援、これらの芸能に係る知識及び技能の継承への支援その他の必要な施策を講ずるものとする。

 

第11条(生活文化及び国民娯楽等の普及)

 国は、茶道、華道、書道、食文化その他の生活に係る文化(以下「生活文化」という。)の振興を図るとともに、囲碁、将棋その他の国民的娯楽(以下「国民娯楽」という。)並びに出版物及びレコード等の普及を図るため、これらに関する活動への支援その他の必要な施策を講ずるものとする。

 

第12条(文化財等の保存及び活用)

 国は、有形及び無形の文化財並びにその保存技術(以下「文化財等」という。)の保存及び活用を図るため、文化財等に関し、修復、防災対策、公開等への支援その他の必要な施策を講ずるものとする。

 

第二節 地域及び国際交流の推進

 

第13条(地域文化芸術の振興)

 国は、各地域における文化芸術の振興及びこれを通じた地域の振興を図るため、各地域における文化芸術の公演、展示、芸術祭等への支援、地域固有の伝統芸能及び民俗芸能(地域の人々によって行われる民俗的な芸能をいう。)に関する活動への支援その他の必要な施策を講ずるものとする。

 

第14条(国際交流及び貢献の推進)

 国は、文化芸術に係る国際的な交流及び貢献の推進を図ることにより、我が国及び世界の文化芸術活動の発展を図るため、文化芸術活動を行う者の国際的な交流及び芸術祭その他の文化芸術に係る国際的な催しの開催又はこれへの参加、海外における我が国の文化芸術の現地の言語による展示、公開その他の普及への支援、海外の文化遺産の修復に関する協力、海外における著作権に関する制度の整備に関する協力、文化芸術に関する国際機関等の業務に従事する人材の養成及び派遣その他の必要な施策を講ずるものとする。

2 国は、前項の施策を講ずるに当たっては、我が国の文化芸術を総合的に世界に発信するよう努めなければならない。

 

第三節 担い手の育成及び基盤整備

 

第15条(芸術家等の養成及び確保)

 国は、文化芸術に関する創造的活動を行う者、伝統芸能の伝承者、文化財等の保存及び活用に関する専門的知識及び技能を有する者、文化芸術活動に関する企画又は制作を行う者、文化芸術活動に関する技術者、文化施設の管理及び運営を行う者その他の文化芸術を担う者(以下「芸術家等」という。)の養成及び確保を図るため、国内外における研修、教育訓練等の人材育成への支援、研修成果の発表の機会の確保、文化芸術に関する作品の流通の促進、芸術家等の文化芸術に関する創造的活動等の環境の整備その他の必要な施策を講ずるものとする。

 

第16条(教育研究機関等の整備)

 国は、芸術家等の養成及び文化芸術に関する調査研究の充実を図るため、文化芸術に係る大学その他の教育研究機関等の整備その他の必要な施策を講ずるものとする。

 

第17条(言語教育の充実)

 国は、言語が文化芸術の基盤をなすことにかんがみ、言語について正しい理解を深めるため、言語教育の充実、方言を含む言語に関する調査研究及び知識の普及その他の必要な施策を講ずるものとする。

 

第18条(外国人に対する日本語教育の充実)

 国は、外国人の我が国の文化芸術に関する理解に資するよう、外国人に対する語学教育の充実を図るため、日本語教育に従事する者の養成及び研修体制の整備、日本語教育に関する教材の開発、日本語教育を行う機関における教育の水準の向上その他の必要な施策を講ずるものとする。

 

第19条(著作権等の保護及び公正な利用)

 国は、文化芸術の振興の基盤をなす著作者の権利及びこれに隣接する権利(以下この条において「著作権等」という。)について、著作権等に関する内外の動向を踏まえつつ、著作権等の保護及び公正な利用を図るため、著作権等に関する制度及び著作物の適正な流通を確保するための環境の整備、著作権等の侵害に係る対策の推進、著作権等に関する調査研究及び普及啓発その他の必要な施策を講ずるものとする。

 

第20条(文化芸術の機会の充実)

 国は、広く国民が自主的に文化芸術を鑑賞し、これに参加し、又はこれを創造する機会の充実を図るため、各地域における文化芸術の公演、展示等への支援、これらに関する情報の提供その他の必要な施策を講ずるものとする。

 

第21条(高齢者、障害者等への配慮)

 国は、高齢者、障害者等が行う文化芸術活動の充実を図るため、これらの者の行う創造的活動、公演等への支援、これらの者の文化芸術活動が活発に行われるような環境の整備その他の必要な施策を講ずるものとする。

 

第22条(青少年に対する配慮)

 国は、青少年が行う文化芸術活動の充実を図るため、青少年を対象とした文化芸術の公演、展示等への支援、青少年による文化芸術活動への支援その他の必要な施策を講ずるものとする。

 

第23条(学校教育との連携)

 国は、学校教育における文化芸術活動の充実を図るため、文化芸術に関する体験学習等文化芸術に関する教育の充実、芸術家等及び文化芸術団体による学校における文化芸術活動に対する協力への支援その他の必要な施策を講ずるものとする。

 

第24条(文化施設の充実)

 国は、劇場、音楽堂等の充実を図るため、これらの施設に関し、自らの設置等に係る施設の整備、公演等への支援、芸術家等の配置等への支援、情報の提供その他の必要な施策を講ずるものとする。

2 国は、美術館、博物館、図書館等の充実を図るため、これらの施設に関し、自らの設置等に係る施設の整備、展示等への支援、芸術家等の配置等への支援、文化芸術に関する作品等の記録及び保存への支援その他の必要な施策を講ずるものとする。

 

第25条(身近な活動の場の確保)

 国は、国民に身近な文化芸術活動の場の充実を図るため、各地域における文化施設、学校施設、社会教育施設等を容易に利用できるようにするための措置その他の必要な施策を講ずるものとする。

 

第26条(公共の建物等における配慮)

 国は、公共の建物等の建築に当たっては、その外観等について、周囲の自然的環境、地域の歴史及び文化等との調和を保つよう努めるものとする。

2 国は、公共の建物等において、文化芸術に関する作品の展示その他の文化芸術の振興に資する取組を行うよう努めるものとする。

 

第三章 推進体制及び財政措置

 

第27条(調査研究及び情報提供)

 国は、文化芸術に関する施策の推進を図るため、文化芸術の振興に必要な調査研究並びに国の内外の情報の収集、整理及び提供その他の必要な施策を講ずるものとする。

 

第28条(地方及び民間団体の取組の促進)

 国は、地方公共団体及び民間の団体等が行う文化芸術の振興のための取組を促進するため、情報の提供その他の必要な施策を講ずるものとする。

 

第29条(民間による支援の活性化)

 国は、個人又は民間の団体が文化芸術活動に対して行う支援活動の活性化を図るとともに、文化芸術活動を行う者の活動を支援するため、文化芸術団体が個人又は民間の団体からの寄附を受けることを容易にする等のための税制上の措置、文化芸術団体が行う文化芸術活動への支援その他の必要な施策を講ずるよう努めなければならない。

 

第30条(関係機関との連携強化)

 国は、文化芸術に関する施策を講ずるに当たっては、芸術家等、文化芸術団体、学校等、文化施設、社会教育施設、民間事業者その他の関係機関等の間の連携が図られるよう配慮しなければならない。

2 国は、芸術家等及び文化芸術団体が、学校等、文化施設、社会教育施設、福祉施設、医療機関、民間事業者等と協力して、地域の人々が文化芸術を鑑賞し、これに参加し、又はこれを創造する機会を提供できるようにするよう努めなければならない。

 

第31条(顕彰)

 国は、文化芸術活動で顕著な成果を収めた者及び文化芸術の振興に寄与した者の顕彰に努めるものとする。

 

第四章 政策形成機関

 

第32条(政策形成機関の設置等)

 国は、文化芸術に関する政策形成に民意を反映し、その過程の公正性及び透明性を確保しつつ、文化芸術に関する施策の総合的かつ計画的に推進し効果的な推進を図るため、芸術家等、学識経験者その他広く国民の意見を求め、これを十分考慮した上で政策形成を行う機関を設置するものとする。

2 前項の目的を達成するため、日本藝術院を改組し、政策形成機関とする。

 

第33条(日本藝術院の役割)

 日本藝術院は、独立して次に掲げる職務を行う。

 一 芸術上の功績顕著な芸術家の優遇に関すること。

 二 文化芸術活動の充実を図り芸術の発達に寄与する活動を行うこと。

 三 芸術に関する重要事項を審議し、必要あるときは文部省並びに文化芸術団体に対し意見を提言すること。

 四 文化芸術の継承、発展及び創造に積極的な役割を果たすよう努めること。

2 文部省並びに文化芸術団体は文化芸術活動について日本藝術院の提言がある時はその提言を尊重し配慮しなければならない。

 

 

第34条(文化芸術活動に関する指針の策定)

 日本藝術院は、文化芸術の品格を保持し、その健全な発展を図るため、文化芸術活動に関する指針(以下「指針」という。)を策定し、これを公表するものとする。

2 日本藝術院は、前項の指針を策定又は変更しようとするときは、あらかじめ、関係する文化芸術団体、事業者及び公衆の意見を反映させるため、公聴会の開催その他の必要な措置を講じなければならない。

 

第35条(指針の法的効力と尊重義務)

 行政機関は、文化芸術に関する施策を講ずるに当たり、前条の指針を基準として参酌しなければならない。

2 文化芸術団体、出版放送事業者その他の関係者は、自主的な規則の策定又は運営に当たり、指針の趣旨を尊重し、これに準拠するよう努めるものとする。

3 国は、第29条に基づく民間による支援の活性化又は助成金の交付の判定に際し、対象となる活動が指針に著しく反しないことを要件とすることができる。

 

第36条(政令への委任)

 この法律に定めるもののほか、日本藝術院の組織、会員その他の職員及び運営に関し必要な事項は、法律で定める。

 

附 則

 

(施行期日)

第1条 この法律は、公布の日から施行する。




文化財保護法とは別の法律です。
文化財保護法は【過去からの遺産を守り、後世に引き継ぐ】ための法律であり、文化芸術基本法は【現代の文化活動を支援・発展させる】ための法律です。
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