「旧華族は出身地に帰るんだって?」
「ああ。なんでも国に貢献して来たのに後足で砂をかけられたようなもんだってさ。今の政府に協力する気にはなれん! だとさ。手前らも散々儲けてきてたんだからそんなに怒る事ぁねえって思うんだがね。暫くは残された財産で晴耕雨読の生活を送るつもりらしい。いつまで続くんだか」
「元々江戸っ子だったのはどうするんだろうな?」
「そりゃここの復興に力を尽くすんだろうさ」
「だよな」
「知り合いのお公家さんは京都に帰るらしい。聞いた話じゃ、東京の土地を手放せば何とかあっちの嵯峨野、嵐山、山科あたりで屋敷を買えるんだとさ。東京の焼け野原は気が滅入って嫌なんだと。雅じゃないとかなんとか言ってたな」
「京都に帰ったら議会はどうするつもりなんだろうな? 議会は東京のままなんだろ?」
「国土基本法が決まったからな。これを機に国は大規模に国土改造するらしいな。財閥や地主から大分むしり取ったしな。手始めに東海道線の軌道を標準軌とやらにして輸送する量やら汽車の速さやらを高めるらしい。んでそのうち都会から田舎に向かう路線の軌道も標準軌とやらにするらしい」
「そんな金あるんなら俺たちに家をたてる材料でも恵んで欲しいもんだ」
「これが復興計画かね?」
「横から失礼。拝見します」
「どう思う?」
「区画整理の実施や防災計画の一環として環状放射線道路計画?」
「その辺は良いと思うがね」
「100m道路の設置に電線の地中化、破壊された線路の復旧工事に伴う都市と地方を結ぶ長距離路線の三線軌条を用いた標準軌への改軌。また欲張りましたな」
「資金はどうするつもりなのかね? 言っておくが我々は出す気はないぞ」
「それは税金を用いて長期的に行うつもりです」
「都市の職住分離を目的とした帯状緑地の設置や都市の無秩序な拡大と都市中心部の空洞化を防止する為の都市郊外の農地森林等の保全、ね」
「如何でしょうか」
「こんな計画は認められん。全て却下だ」
「なぜですか?」
「良いかね、君たち。これは戦勝国の復興計画にふさわしいものだ。無条件降伏した敗戦国の復興計画には相応しくない」
「閣下、失礼ながら思い違いをしておられる。実態はどうであれ形式的には日本は無条件降伏したのではありません」
「それは建前に過ぎんよ。虚勢を張らずに実態をよく見たまえ」
「9月2日に調印したのは条件付きの講和条約です」
「黄色い猿が生意気な! 貴様ら猿は大人しく白人のご主人様に尻尾を振っていればよいのだ」
「その通り! もう一度やるか、猿。次はリョコウバトの様に狩りつくしてやる」
「なぁ、あの大佐、確かアッチ側だったよな」
「そうだな。……問題発言だよなぁ、あれは。本国に知らせないといかんよな? 反対するか?」
「反対する理由があると思うか? 狩りつくすってのはホロコーストを連想させるな。選挙に向けて良いネガティブキャンペーンができそうだ」
「なんだ、これは!」
「いくら相手が日本人でもこれはひどい」
「リョコウバトとジャップを一緒にするな」
「貴方日本ノ新聞記者デスネ」
「そうだ……ですが、貴方は?」
「良イ記事有リマス。コノ記事、新聞ニ発表シナサイ」
「これは! しかし、残念ですがGHQの検閲が……」
「問題アリマセン。ココニ極東委員会ノ正式許可状アリマス。検閲ヲ免レマスノデ我々極東委員会ノ許可ヲ受ケタト言ッテ大々的ニ報道シテ構イマセン」
【『次は日本人を狩りつくしリョコウバトの様に絶滅させる』我が国の復興計画を提出し『この計画は敗戦国の復興計画には相応しくない』と却下された際に再考を求める我が代表に向けて某大佐が言い放った言葉である。この発言は母国でも問題となっており、今回我々も極東委員会の正式な許可を得て報道するものである】
「誰だ! この記事を書いたのは! 直ちに回収しこの新聞社は取り潰せ!」
「それは出来かねますな」
「誰だ! 貴官は……! 極東委員会の」
「あの記事は極東委員会が正式に許可を出したものです。勝手なことをされては困りますな、元大佐殿?」
「元、だと? 貴様何を」
「まだ分かりませんか、貴方は軍法会議にかけられるのですよ。近々本国より召還通知が出されます。その前に直ちに戻られるが宜しかろう」
「何を!」
「それとも、あのGHQ本部ビルを包囲する民衆に対して弾圧でもするのかね? あの部隊の様に」
「ん? い、いかん。誰かいるか!?」
「はっ!」
「命令を出す」
「はっ! あの部隊への増援でありますか?」
「馬鹿な事を言うな! あの部隊の行動を直ちにやめさせろ!」
【我がソビエトは米国に巣くう帝国主義と差別主義を強く非難する】
【我がソビエトはあのようなナチズムと変わらない侮蔑に対する正当な抗議からGHQ本部ビルを囲んだ10万人の無辜の民衆に対し銃弾を浴びせて数百人の死傷者を出した責任者を糾弾する】
【日本とロシアはプチャーチン以来の友好関係がある。満洲を巡り多少不幸な行き違いがあったが我々は高い文化を持ち平和を愛する東洋の同志が米国による戦禍からの復興に喘ぐことを座視しない。我がソビエトは特使に満洲人民共和国に帰化し次期満洲国国会常任幹事会議長になるブンリュー・ヨーメー(陽明文隆)と旧満洲国総務庁次長であり次期満洲国国会常任幹事会副議長となるノブー・キーシ、トッキューを派遣し日本国と平和条約と友好条約を早期に締結する用意もある。我がソビエトは条約締結後直ちに日本に対し復興の資金援助を行う準備が整っている】
「嫌な手を打ってくるな、あいつら」
「日本で赤色革命を起こさせるわけにはいかん。何とか鎮静化させねば」
「原因となった大佐を本国に召還し軍法会議にかけ、日本へは陸軍長官の謝罪と都市計画への全面協力を行うしかないでしょうな」
「そこまで阿る必要があるか?」
「今のままでは日本がソビエトにつきかねませんぞ。派遣される特使の素性が問題です。元はプリンスコ……」
「皆まで言うな。仕方ない、ここは我々が一旦折れよう」
「謝罪も大統領が行うよりはマシでしょうからな」
「それにしてもあの男、不用意な場所で余計なことを口にしやがって。ただではすまさん」