「綾小路流神楽のけいこがあるから、これで帰るね」
「あ、おれも四条流庖丁のけいこだった。帰るわ」
「んじゃな」
「いっちゃったね」
「あれ? おまえらもなにかしてなかったけ? おれは日置流の弓道しかやってないけど」
「ん? ああ、俺は書道だな。そういえば先生は嘘か真か持明院流の師範とかいってたな」
「私は西園寺流琵琶。筆道ならうちのクラスはほかに法性寺流を習っている子がいるよ?」
「へぇ。習い事の教室も多くなったし、俺もお願いしてなんか習った方が良いのかな」
「弓道も極めたらすごいじゃない。まぁ習い事の教室がこの頃急に多くなったからそう思うのも分かるけどね」
「1980年に華族が家職を広められるようになったからその成果が出てきたんだろ?」
「舞踊の名取じゃないけど、指導料の収入って結構すごいらしいわね」
「はじめは反対していた華族が積極的に広め始めたのも理由はそれだしね」
「流石に秘伝は他所に出していないらしいけどな」
「それは当然でしょ。家風とか歴史とかの重みってバカにならないし、それを理解できる家に育った人じゃなきゃ精神的なものまでは伝えられないから上辺だけ真似した紛い物の様なものになっちゃう」
「ああ、そうか。……そういえば重みって言えばお前の家も」
(あ、少し離れとこ?)
(ああ。なんか雰囲気がな)
「そ。室町から続く名主で江戸の頃は割元名主の家だったって言っても昔のことなのにね。土地とか大分なくなっちゃったし。それなのにまだ曾婆ちゃんが家格ってやつに拘って……。私の家程度でアレだもの。華族ともなれば、ね」
「おまえのとこも大変だなぁ」
「ホント。どこかの小説みたいに誰か攫ってくれないかしら(チラ)」
「そう言う白馬の王子様みたいなのが居れば良いな」
「……なぁ、あいつ」
「多分彼女の想いに気がついていないわよね?」
「多分な。気がつけば一気に話が進みそうだけどな」
「嗾けてみたら? 綾小路流朗詠も習ってるんでしょ? お得意の和歌でさ」
「拗れたら面倒だろ? それにそう言う想いって奴はお前に先に伝えるわ」
「え? それって。……ま、まぁ期待しているわ」
「おう。期待してくれ」
「あいつら後ろで勝手な事ばかり言いやがって。こっちが風下だから全部聞こえているんだが……あいつらこそさっさとくっつきやがれ」
「そんなこと言わないの。どうせそのうちくっつくし。あんなこと言われているくらいならうまく私達の事ごまかせているって事でしょ? それで、どうするのかな、私の王子様は」
「ん? ああ、もう少し待ってくれないか? 士官学校卒業するまでには婚約を認めてもらいたいが」
「え? それって……」
「ん? 士官学校合格内定」
「わぁ。おめでとう!」
「ありがとうな。これで俺も家族に顔向けできるよ」
「貴方も士族から続く代々の海軍将校の家だもんね」
「ああ、というわけで入学して最初の外出許可が出たらそっちの家族に紹介してくれ。せっかくなら制服で挨拶がしたい」
「うわぁ。びっくりしそう。でもそれなら曾婆ちゃんにも納得してもらえるかな。どうせなら家族みんなから祝福してもらいたいし」
中学生が年齢の割には大人びている? 教育制度と教育環境の違いですね。
大人たちの生涯学習も触れてみたいけど、あまり変わらなくなりそうだ……