もしもこんな日本だったら   作:fire-cat

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開発計画を巡る遣り取り①

A紙見出し

【現代の旧里帰農令か! 全総計の実態を問う!】

 

B紙見出し

【全国総合開発計画に物申す! 地域間の均衡ある発展を!】

 

C紙見出し

【空襲にも強い国土を! 艦砲にも強い国土を! 災害にも強い国土を!】

 

◇◆◇◆◇

 

「さて、一刻も早い国土の復興は急務ではあるが、無秩序な開発は厳に戒めねばなるまい」

 

 とある料亭で向き合う二人の男。

 

「そのための全国総合開発計画でしたが、計画そのものを内密にしていた筈がどこでどう歪曲されて漏れたのか。ブン屋どもがブンブンブンブンと騒がしいですな、まだ何も決まっておらぬというのに」

 

 50から60代初めと思われる容姿の男が上座に座る男の盃に銚子を傾ける。

 

「いい機会だ。週末の閣議で政府の方針をある程度は示しておきたいと思う」

 

 男はくいっとその盃を煽ると、お返しとばかりに相手の盃に銚子を傾ける。

 

「おっとっと。良いですな。どのようなものになる予定ですか」

 

 返杯を受けた男も盃を煽る。中身を飲み干し、目の前の男の顔色を窺う。

 

「まず、国土総合開発の究極の目標は、限られた国土資源を前提として、憲法の理念に則り、地域特性を活かしつつ、歴史的、伝統的文化に根ざし、人間と自然との調和のとれた安定感のある健康で文化的な人間居住の総合的環境を計画的に整備することにある。経済の均衡ある安定的発展と民生の向上、福利の増進をはかり、全地域、全国民がひとしく豊かな生活に安住し、近代的便益を享受しうるような福祉国家を建設することにあることは言うまでもない」

 

 男の語りに、男が少し考えるそぶりを見せる。

 

「ふむ。宜しいのではないでしょうか。この目標を達成するための施策はこの後で詰めましょう」

 

 そう言うと、目の前の膳に箸を伸ばす。

 

「ほぅ、この焼き物はなかなかいけますな」

 

 相貌を崩す男の言葉に

 

「そうか。どれどれ」

 

 向かい合う男も箸を伸ばした。

 

ーー数日後ーー

 

 閣議に出席している者達の声が室内に響き渡っていた。

 

「食糧や燃料もそうだが、あらゆる基礎物資が未だ不足している。何よりも国内の自然、資源の緊急総合開発が急務だ」

「国防施設、基幹的交通、通信体系の整備はまず必須事項だろう」

「国の先導的な指針に基づき全国にわたって推進整備し、自然資源の有効利用と地域特性を活かした開発整備による国土利用の再編効率化を図らねば」

「全国土への開発の均等化と、都市の過大化の防止、国土の安全と暮らしの安心の確保をはかることも必要でしょう」

「あとは住宅、上下水道、交通、文教、保健衛生施設等の国民生活に直接関連する公共施設についてですが、これは経済効果等にとらわれることなく、地域間の格差是正に重点をおいて、その整備拡充を図りましょう」

「道路、港湾、鉄道、用水等産業発展のための公共的基礎施設についても地域間格差是正の見地から整備をはかる必要があると思われますが」

「とはいうものの投入できる資源は限りがある。彼の国の舌禍事件でせしめた資源も無限ではない。国民の視野もそうだが、経済的視野からも適切な産業立地体制を整えることを考慮せねばならん」

「どこぞの様に都市計画税を都市計画事業以外に流用するようなこと論外だな」

「大戦で甚大な被害を出した大都市への人口と産業の集中を抑制しなければなりませんな」

「国防の面からも工業の分散を図ることが必要でしょう。いまある資源を利用しつつ開発拠点を配置しましょう」

「拠点を交通、通信施設により有機的に連絡させ相互に影響させ、周辺地域の特性を活かしながら開発をすすめて、地域間の均衡ある発展を実現することを目指すというのは如何でしょうか」

「経済の基礎が整備されれば、生産力が拡充されるだろう。満洲や大陸の戦況が我が国にどう影響をもたらすかは不明だが、財閥の解体もある程度のめどがつき、賠償撤去も中止された。代わりとなる新たな生産設備の輸入許可も下りたことだし、産業基盤の整備に力を入れよう」

「問題は大工業地帯の用地、用水、輸送力だな。国防も考えてGHQを刺激しない程度の防衛施設の適切な配置も行う必要がある」

「今後は産業構造の高度化、人口動態の変化など、内外経済情勢の変化が予測される。これに対応しながら、地域的課題の解決に重点をおかなければならない」

「今大戦で露呈した地域的課題ですが、とくに東京、中京、大阪への資本、労働、技術等の集積がはなはだしく、集積の利益以上に密集の弊害をもたらしておりますな」

「法の整備も急がせませんと無秩序に住居が広がり復興計画に支障をきたしますぞ」

「おまけに大工業地帯以外の地域生産性は低いままですからな。今後、地域の経済活動が復興するにつれ生産性の開きが大きくなり、地域格差が拡大する一方でしょう。無駄になった半島に注ぎ込んだ分と同程度は東北、北陸に注ぎ込む必要があると思いますぞ。さもなくば第二第三の二・二六を引き起こしかねません」

「それならまだましでしょう。恐れるべきは赤色革命です。社会主義政党もいまは挙国一致で国難に当たらねばならないという事で協力する議員が多いですが、彼らが落選し失脚するととんでもないことになりますぞ」

「もはや一つ一つの局地的な問題としてではなく、国民経済的な問題として緊急に処理されなければはらないな」

「区画整理や都市復興は個別法で対応しているが、相互の関連と国民経済への考慮は必ずしも十分であるとはいえまい。策定する全国総合開発計画は、地域的課題の解決につとめ、地域間の均衡ある発展をはかるために、長期的かつ国民経済的視点にたって国土総合開発の方向を明らかにすることに意義をもたせなければならない」

「その全国総合開発計画の目標はどこに持っていきますか?」

「経本長官には悪いが,彼の好敵手、大蔵畑の彼が提案している国民所得倍増計画はなかなか魅力的と思わんかね? これとあの元気のいい若者が提案している国土均衡発展計画を軸にしよう。元々の計画であった都市の過大化の防止とこの計画で地域格差の縮小を配慮しながら、わが国の自然資源の有効な利用および資本、労働、技術等諸資源の適切な地域配分を通じて、地域間の均衡ある発展をはかることを目標とする」

「時間と金がかかりすぎませんか?」

「しかたあるまい。国土総合開発は長期にわたる。この計画の骨子は政府が策定するものであるから、地方の総合開発計画、都道府県における総合開発計画は、この計画を基本として策定されなければならない」

「極端な地方統制は憲法に定められた地方自治の理念に反しますぞ」

「これは地方の開発計画に口を出すものではない。もっとも、慢性的な水不足に悩まされている知多半島や四国、洪水が多発している暴れ天龍や木曾三川のような地域は国が主導する必要があると思うが」

「国土の均等開発のためには必要最低限の法整備は政府が行う必要があろう」

「農林漁業の開発はどうしますか?」

「農林漁業自体の開発については、農林漁業に関する施策の具体化を待つ必要があるのでは?」

「そうだな。それ次第で調整を行なうことが必要とされるかも知れないからな」

「そもそもこの計画は、均衡のとれた地域分担関係を想定したものではありませんか? であれば、各地方開発促進法にもとづく地方開発促進整備計画を尊重しなければならないと考えます。無論、新たな計画を作成したり改訂する場合も含めて」

「そうだな。そうなると問題になりそうな地域開発の基本構想だが」

「総理、宜しいか?」

 

 軽く挙手をし、許可を求める男に視線が集まる。

 

「何かあるのかね? 案があるなら述べたまえ」

「では失礼して」

 

 軽く咳払いをした男が語り出す。

 

「わが国の経済は、明治以降、東京および大阪を中心とする資本、労働、技術等諸資源の集中集積を通じて発展してきた。すなわち、これらの都市においては道路、鉄道や上下水道等の公共施設、工業等の生産機能、商業金融等の流通中枢機能、行政、文化、教育、技術等の諸機能の集積と、これを利用する個別諸企業とが相互に関連しあい、諸資源の累積的拡大を促進してきたのである。そのことはここにおられる諸氏もご存じのことであろう」

 

 頷く閣議出席者。

 

「企業が適度に集中することは、企業の採算を有利にし社会資本の効率を高め国民経済全体の成長を促進する」

 

 閣僚の一人が声を上げる。

 

「何がおっしゃりたいので? もっと集中させるべきとお考えか?」

 

 首を傾げながら続きを促す声に男が説明を再開した。

 

「さにあらず。企業が密集しすぎると享受すべき集積の利益が薄くなり、ついには密集の弊害を生ずる。企業が特定の地域にのみ集中することは、資本、労働、技術等の諸資源の地域的な偏在をひきおこし、それ以外の地域において経済活動を鈍くし、都市化、工業化の停滞をもたらすことになる。農工間格差等と相まって地域格差問題をひきおこしかねない」

 

 男が一呼吸置く。

 

「この原因の一端はわが国経済発展の起動力であった工業地帯の配置にある。したがって、都市の過大化を防止し、地域格差を縮小するためには、まず工業の分散をはかることが必要であるとわしは考える」

「そうは仰るが、工業の分散にあたっては、長期的視野にたって、開発効果を最大にするよう考慮されなければならないでしょう」

「そうだ。工業を全面散布的に分散させるのは、民間資本にとっても社会資本にとってもその効率をそこなう。投下資本量にも限度があるからな。工業の適正な配分は開発効果の高いものから順次に集中的になされなければならない。わしは計画の目標を効果的に達成する方策として拠点開発方式が望ましいと考える」

「その拠点開発方式についてもう少し具体的に説明頂きたい」

 

 首に捻りながら説明を求める声に、

 

「そこの黒板を使って説明させて頂こう」

 

 そう応じると、黒板の前に歩みを進める男。

 男は黒板の前に立つと、子どもに授業を行う教師の様な風格を醸し出す。

 

「まず、五大都市と周辺部を含む地域以外の農林漁業以外の地域をそれぞれの特性に応じて分ける。これを互いに関連させながらそれぞれの地域において果たす役割に応じて、いくつかの大規模な開発拠点を設定する。先程,どなたかが口にされたが同じようなものだ。ここまではよろしいな?」

 

 頷く閣議出席者。

 

「これらの開発拠点との接続関係および周辺の農林漁業との相互関係を考慮して、工業等の生産機能、流通、文化、教育、観光等の機能に特化するか、あるいはこれらの機能を併有する中規模、小規模の拠点を配置する」

 

 男が板書した【拠点】の文字同士を線で繋げる。

 

「これらの各拠点を標準軌に改軌した鉄道あるいは通信施設によって連結させ、相互に影響させると同時に、周辺の農林漁業にも好影響を及ぼしながら連鎖反応的に発展させる開発方式である」

「ふむ。板書されるとわかるが、その利点は?」

「五大都市と周辺部を含む地域を利用して、中規模、小規模開発拠点の開発がすすみ、それぞれの影響の及ぶ範囲が拡大連結されて、やがてこれらが新たに経済圏を形成されることにある。それぞれの経済圏が有機的に関連し均衡のとれた地域的発展も期待できよう」

「う~む、そう聞けば良いことづくめのような気もするが……」

「さらにわしが考える大規模開発拠点は工業開発拠点と地方開発拠点と分けることを考えておる」

「役割を分ける?」

「工業開発拠点には主として大規模な工業等の集積をもたせることで周辺の開発を促進する役割を持たせる。地方開発拠点は五大都市のもつ集中された資源を利用しにくい地域の飛躍的な発展を可能にする中枢主導的な役割をもたせる。今後機械化を進めれば,やがて農林漁からも人が溢れよう。それが大都市に流れて一極集中を招かぬよう,そこを受け皿にする」

 

 なおも続く長々とした説明が一段落したところを狙い、一人の閣僚が声をかける。

 

「総理、如何でしょう?」

「ふむ……。一度各自で持ち帰り次の閣議で他に案がなければ、この拠点開発方式を基に地域開発の基本構想を進めようと思う」

 

 

ーー数日後ーー

 

「さて、次の議題だが……。先週の宿題だ」

 冗談まじりの声に、微かな笑いが場に流れる。

「誰か意見なり何なりあるかね?」

 沈黙が場を覆う。

「他に案も上がっておらぬようだ。地域開発の基本構想は拠点開発方式を基にすすめていこうと思うが宜しいな?」

「他に対案もありませんので仕方ありませんな」

 

(数日で案ができるものか。あ奴、以前より密かに進めていたな? 主導権を奴一人には握らせん)

 

 

 




京都の嵯峨野、嵐山、山科は、戦後、東京の邸宅を引き払った華族、故郷に帰らなかった旧華族が土地を購入し、邸宅が建ち並ぶ高級住宅街となっています。
流石に駅前や道路沿いは昔からの街並がありますが。


開発拠点は
紗那・稚内・釧路・旭川・函館・本別
青森・釜石・盛岡・仙台・郡山・秋田・酒田
横浜・小田原・銚子
水戸・日立・宇都宮・鹿沼・前橋・高崎・伊勢崎
甲府・松本
名古屋・岡崎・静岡・浜松・清水・沼津・岐阜・大垣・高山・津・四日市・桑名・宇治山田
京都・大阪・奈良・神戸・姫路・芦屋・明石・田辺・勝浦
長岡・富山・輪島・金沢・敦賀・小浜・舞鶴
広島・呉・岡山・下関・宇部
松江・鳥取・出雲・境
高松・徳島・松山・宇和島・今治・高知
福岡・小倉・大牟田・久留米市・長崎・佐世保・熊本・水俣・大分・宮崎・都城・鹿児島・鹿屋・西之表
那覇・名護・糸満・石垣

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