会談日:昭和21年(1946年)9月27日
場所:GHQ本部・第一会議室(東京・第一生命ビル内)
出席者:
ジェームズ・N・スコット海軍少佐(CIEセクション 教育再設計分科会 主任顧問)
ロベルト・ハノーヴァー(CIE文化担当官)
西園寺 公明(文部次官)
山村 洋一(文部省・初等教育局長)
田中 澄(外務省・通訳官)
第1項目:教育基本法案における「道義」の位置づけについて
スコット:
「まず我々として確認しておきたいのは、貴案が掲げる【道義】という言葉が、戦前の国家主義的道徳教育とは質的に異なるものであるかという点だ。貴殿はそれを【人類共通の倫理】と定義されたが、それは具体的にはどのような規範を意味するのか?」
西園寺:
「ご指摘を受け止めた上で申し上げれば、本法案における【道義】は、日本の儒教的・仏教的倫理を基礎としつつも、それを【個の自律と公共との調和】として再解釈したものです。もはや天皇への忠誠や国家の名において善悪を測るものではありません。【人類に対して責任を負う自由人】を育てる理念であります。」
スコット海軍少佐(以降階級略):
「それはリベラル・デモクラシーの倫理と合致すると考える。重要なのは、それが排他的な日本精神論に転化せぬよう記述と運用に気を配ることだ。」
第2項目:高等教育制度の分岐構造に関する是非
ハノーヴァー担当官(以降階級略):
「先ほど提出いただいた表によれば、【師範学校】、【専修学校】、【専門学校】を並立させる形で、多様な進路が設けられるようですが、我々が提案した単線型大学制度との整合性はどのように考えておられますか?」
山村:
「我が国では農山漁村部からの進学や、戦災により中退した青少年を再教育する必要がございます。農山漁村部からの進学についても、現状では高等教育を受けることも困難な有様です。単線型の教育制度では進路が一本道であり途中で社会に出た者が一段低く見られかねません。昼間は働き夜間に学ぶ夜間部や実践的な専門知識を学ぶ教育、教員を目指す者には寮生活を行う師範学校など複数の進路を用いた分岐型制度が、我が国の戦後復興の現実に即した柔軟性を確保できるのです。」
スコット:
「つまり、【学歴の階段】というより【教育の回廊】として設計しているわけだな。その柔軟性は評価に値する。しかし大学予科からの一本線導入も求める声がある。併存は可能と見るか?」
西園寺:
「予科は修業年限が短く、進学先ごとに内容を変えることで個別の知識武装が可能になります。大学の統一性より、現場の多様性を優先しました。」
第3項目:母性および家庭教育の強調に対する懸念と評価
ハノーヴァー:
「草案では【母の義務】【母性の教育責任】が繰り返し出てきます。これが女性の社会的自由を拘束するものではないかという懸念も根強いです。」
西園寺:
「むしろ逆です。『母性】とは社会への貢献の出発点であり、子を産まぬ女性にも【育て導く意志と情熱】が備わるものと考えております。私たちは【徳としての母性】を、戦前の【供犠としての母性】から解放したいのです。」
スコット:
「貴案の第四条【女子教育の促進】を見ている限り、その意図は明確だ。家庭から始まる教育理念は、アメリカの“Parent-Teacher Association”にも近い面がある。」
第4項目:GHQの対応方針と確認事項
スコット(結語):
「全体として、貴案は自律・責任・共生という民主教育理念を、和の伝統的価値と接合させた意欲的な内容と見受けられる。CIEとしては、いくつかの用語の翻訳と施行規則の明文化を前提として、法案骨格の支持を本国に推奨する予定である。」
西園寺:
「深く感謝申し上げます。戦後日本の教育は、【自由のための倫理】から再建されねばならぬと信じております。」
補記:
- 次回会議予定日:10月3日、CIE教育制度部において詳細条項の逐条確認会議を実施予定
- 通訳記録および逐語訳:別紙(未掲)に保存
- 施行準備部局:文部省法制課および占領教育課法令翻訳班による仮訳作成着手中
学校教育法は先週アップ
教育基本法と教育理念は6月に大幅改訂。