もしもこんな日本だったら   作:fire-cat

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 この社会は、強力な国家の枠組みと、この「教育理念心得」に代表されるような道徳教育によって、国民一人ひとりの内面に「公と私の区別」「義理人情」「節度」「恥の意識」といった価値観が、心の奥深くまで確実に刻み込まれている……。




教育理念心得(昭和二十三年勅第一号)

上諭

 朕、議会の協賛と枢密顧問の諮詢を経て教育勅語を廃し教育理念心得を茲に公布せしむ。

 

 御名 御璽  

 

昭和二十三年十一月三日

内閣総理大臣

国務大臣

宮内大臣

司法大臣

外務大臣

内務大臣

文部大臣

農林大臣

国務大臣

郵政大臣

商工大臣

厚生大臣

国務大臣

運輸大臣

大蔵大臣

労働大臣

国務大臣

建設大臣

国務大臣

国務大臣

 

 

前文

 

 従来の教育勅語は、天地の公道を示すものとして決して謬るにあらざるも、時勢の推移に伴い、国民今後の精神生活の指針としては必ずしも適当ならず。

 ここに新しき憲法の精神に則り、平和主義に基づく新日本建設の根幹たるべき国民教育の新方針ならびに国民精神生活の新指針として、本「教育理念心得」を明示する。

 本心得は、教育基本法の理念を体して、道義に満ちた社会と豊かな精神生活を築き、新しき日本人として世界の平和と人類の福祉に貢献せんとする我ら国民が、日常の生活において常に心に留め、実践すべき教育の理念を示すものである。

 

第一章 人間性の涵養

 

第一条(自律と責任)

 教育は、自由と責任とを両輪とし、自律的判断と義務の遂行を重んじ、社会人として、また教養ある世界人としての高貴なる義務を果たす心を涵養しなければならない。

 

第二条(謙虚と寛容)

 教育は、己れの至らぬところを顧み、他人の短を責めずして寛容に、他人の長を敬い、傲慢に陥ることなく謙虚に人と接する心を涵養しなければならない。

 

第三条(品格と道義)

 教育は、心情を純粋に、身体を清潔に保ち、清廉な行為と清らかなるものに感応する美質を重んじ、偽善や厚顔を忌み、慎みと恥を知る心を涵養しなければならない。

 

第四条(自己と他者の尊重)

 教育は、自己の人格の尊厳を自覚し、他者の人格もまた等しくこれを尊重する心を涵養しなければならない。

 

第五条(知性と探究心)

 教育は、知性と探究心を尊び、感情や風潮に流されることなく、常に冷静なる観察と多面的思考をもって物事を認識する習慣を涵養しなければならない。

 

第六条(勇気と慎重)

 教育は、思慮をもって行動し、自己を省みて断行する勇を持し、血気の勇や暴勇を戒め、真の勇気を教え育てなければならない。

 

第七条(忍耐と不屈)

 教育は、順境に驕らず、逆境に屈せず、安んじて己の立つところを知る強さを育み、困苦のなかにおいても節義を守る忍耐力を涵養し、かつ不正に対しては義憤をもって抗する気概を養わなければならない。

 

第二章 家庭と社会の調和

 

第八条(家庭の責任)

 父母その他の保護者は、子の教育に関し第一義の責任を有し、生活上の習慣を授け、自立心を養い、心身の調和ある成長を導かなければならない。

 

第九条(家庭の和楽と安寧)

 家庭は、人倫関係の本として生命と人格とが結ばれる場である。父母に孝行をつくし、子供を慈しみ、兄弟姉妹は仲良く、夫婦は仲むつまじくすることで一家の安寧を築き、これを通じて人格は自然に陶冶される。家庭の和楽は、社会生活の基礎である。

 

第十条(母性の愛と育成責任)

 家庭は、最も身近なる教育の場である。親は慈愛をもって、子が成人後において自己を律し、平和を希い、協調し、世界に貢献する人間として育成する責務を負う。子は敬愛をもって親に孝を尽くさねばならない。

 

第三章 国家と世界への貢献

 

第十一条(公共への貢献)

 教育は、国の安全若しくは公共の安全、公の秩序、公衆の健康若しくは道徳の保護又は他の者の権利及び自由の保護のため必要な制限を受忍し、自主的に世のため人のために働く志を育まなければならない。

 

第十二条(法と大義)

 教育は、憲法および法令を遵守し、国難に際しては大義の下に勇奮する精神を涵養しなければならない。

 

第十三条(科学の平和利用)

 科学は、破壊の手段にあらず、平和と福祉に資する手段として尊ばれる。教育は、その理念のもとに科学を振興しなければならない。

 

第十四条(生命と自然の尊重)

 教育は、生命を尊び、自然を愛し、環境の保持と調和に寄与する心を涵養しなければならない。

 

第十五条(伝統と国際理解)

 教育は、わが国の伝統と文化を尊び、これを育んだ郷土を愛し、他国の文化と伝統を理解して、国際社会の平和と発展に寄与する心を涵養しなければならない。

 

第十六条(国際協調と美徳の普遍化)

 日本国民は、前条までの精神をもって、日本固有の美徳を普遍化し、他国と共に生きる知性と道徳を養うものとする。

 

【附記】

 本心得は、教育基本法の目的に則り、すべての教育においてその実現を期すとともに、教育行政および家庭・社会における道義形成の共通理念として尊重されるものである。

 

 




おまけ

不良たちの肖像:
 厳格な社会規範への反発が、皮肉にもその社会が教え込んだ道徳律によって濾過され、独自の「義」や「節」を持つ文化へと昇華された姿。それは、表面的には社会から逸脱しながらも、根底ではその社会の価値観から逃れられない、もう一つの日本の肖像。

 教育基本法前文の「俯仰天地に愧じない生活」と第三条後半の「慎みと恥を知る心を涵養しなければならない」という価値観が社会の隅々まで浸透した結果、「筋目の通らないこと」「女子供を泣かせること」「他者に理不尽な迷惑をかける」ことは不良たちでも「恥ずべき行為」となる。


①武士道を継いだ【浪速節のアウトロー】型
・礼儀正しさと筋目を重んじる。目上への態度は丁重、しかし理不尽な校則には黙って立つ。
・カツアゲよりも困ってる同級生に黙って弁当を差し入れる系統。
・拳を使っても、理由を語れる。しかもその語りが妙に理屈っぽく、筋が通っている。

【やっちまったのは悪い。でも、あの子が泣いてたのを見て、黙ってるのは俺の道義じゃねぇんだ】


②友情・努力・理念に生きる【理由ある反抗】型
 教育基本法で「公共の精神」や「真理と正義」を学ぶ社会で育ったが故に、自身の行動を正当化するための「大義名分」を常に求める。
・職が転々とし落ちつかないが、「おれは現場で公共への貢献してんだよ」と言い張ったり、規律を乱すとされた音楽・バイク文化のなかで【真面目ではないが誠実】な世界観を育てている。

【規則を守って腐るより、信じられるほうを守って生きてぇんだよ】


③暴走族:爆音と共に走りながらも、どこかで道義を手放していない峠の美学派。
・見た目や振る舞いはアウトロー。だが心の奥では第六条や第七条の理念を自分なりに守っている、
・走りの流儀:深夜の国道より峠道―社会に迷惑かけず、己と語れる場所―を選ぶ。「生活道路には入らない」「民家前では音を絞る」「事故を起こしたら即引退」は不文律。
・内なる道義:誰にも迷惑かけずに吠えたい夜もある。それは節度と勇気のせめぎ合い。


※警察:単なる法の執行者であるだけでなく、地域社会の秩序と道徳を守る「指導者」としての側面も持つ存在。

 不良側と警察側の双方に、超えてはならない「一線」に対する暗黙の了解が存在し、衝突しても、「言葉(説教)で帰す」か「否(補導)」かの見極めが互いに共有されていると思われる。

【この馬鹿たれども。何でこの線を踏み越えちまったんだ。他にやりようがあったろうよ】
【ここまでやっちまったんだ。捕まるのは仕方ねぇ。だがよ……】
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