もしもこんな日本だったら   作:fire-cat

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教育基本法をめぐるやり取り(概略)

「教育勅語を基に教育基本法を策定しようとしたがGHQにより却下された」

「しかし、この風紀の悪化と国民に蔓延する虚無感は目にあまります。何としても教育勅語に代わる教育の骨格を確立せねば百年先に悔いを残しますぞ」

「だがどうすればいいのか」

「幸い今回の選挙で赤旗も現実の見える協力的な議員に入れ替わりました。教育勅語の精神を組み込んでしまいましょう。GHQの意向に添いながらも教育勅語の理念を混ぜた前文を作れば後は如何様にも……」

「そうだな。責任は私が取る。やってくれたまえ」

 


 

 

前文

 われらは、さきに、日本國憲法を確定し、民主的で文化的な国家を建設して、世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする決意を示した。

 われらは新たに国家再建に向って出発せんとするにあたって、建設へのたゆまざる意欲を奮い起すとともに、大戦の被害による精神の虚脱と道義の廃頽とを克服し、心を合わせて道義の確立に努めねばならない。道義を確立する根本は、自己の自主独立である人格の尊厳にめざめ、利己心を越えて公明正大なる大道を歩み、自律する心をもつ人間となることにある。

 われらは、身を慎んで無礼の挙動なく、常に自分を引きしめて自儘にせず、両親に孝し、兄弟友愛し、夫婦相睦み、子を慈しみ、朋友を信じ、長上を敬い、幼少を扶け、宗族相和し、郷党相結び、人の難を救い、急を援け、常に国憲を重んじ国法に遵い、真理と平和を希求する人間の育成を期するとともに、他の人格の尊厳を貴び重んじ、私心を脱して互いに敬愛し、深い和の精神に貫かれた家庭、社会、国家を形成しなければならない。

 自主独立の精神と和の精神とは、道義の精神の両面である。

 われらは普遍的にして個性ゆたかな文化の創造をめざす教育を普及徹底し、自国だけの利害にとらわれることなく、世界の平和と文化に心を向け、公明正大なる精神に生きなければならない。それによって国家は、他の何ものにも依存しない独立の精神と気魄をもって、新しい建設の道を進み、世界の文化に寄与しうる価値をもった独自の文化の形成に向かうことができ、他の諸国家との和協への道を開き、世界の平和に貢献することができるのである。

 われらは独善に陥ることなく、俯仰天地に愧じない生活にいそしみ、世界の平和と人類の福祉の向上に貢献することを希求するものである。

 われらは、この理想を実現するため、個人の尊厳を重んじ、真理と正義を希求し、公共の精神を尊び、豊かな人間性と創造性を備えた人間の育成を期するとともに、伝統を継承し、新しい文化の創造を目指す教育を推進するものである。

 ここに、日本國憲法の精神に則り、教育の目的を明示して、新しい日本の教育の基本を確立するため、この法律を制定する。

 

 

第一章 教育の目的及び理念

 

第1条

 教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値を尊び、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。

 

第2条

 教育の目的は、あらゆる機会に、あらゆる場所において実現されなければならない。この目的を達成するためには、学問の自由を尊重し、実際生活に即し、自発的精神を養い、自他の敬愛と協力によって、文化の創造と発展に貢献するように努めなければならない。

 

第二章 教育の実施に関する基本

 

第1条

 国民は、その保護する子女に、十年の普通教育を受けさせる義務を負う。

 

第2条

 義務として行われる普通教育は、各個人の有する能力を伸ばしつつ社会において自立的に生きる基礎を培い、また、国家及び社会の形成者として必要とされる基本的な資質を養うことを目的として行われるものとする。

 

第3条

 国または地方自治体は、義務教育の機会を保障し、その水準を確保するため、適切な役割分担及び相互の協力の下、その実施に責任を負う。

 

第4条

 国又は地方自治体の設置する学校における義務教育については、授業料は、これを徴収しない。

 

第5条

 法律に定める学校は、公の性質をもつものであって、国又は地方自治体の外、法律に定める法人のみが、これを設置することができる。

 

第6条

 前条の学校においては、教育の目標が達成されるよう、教育を受ける者の心身の発達に応じて、体系的な教育が組織的に行われなければならない。この場合において、教育を受ける者が、学校生活を営む上で必要な規律を重んずるとともに、自ら進んで学習に取り組む意欲を高めることを重視して行われなければならない。

 

第7条

 男女は、憲法の理念に従い、互に敬重し、協力し合わなければならないものであって、教育上男女の共学は、認められなければならない。但し、男女の共学は強制されるものではなく、地域社会の要望によらなければならない。

 

第8条

 私立学校の有する公の性質及び学校教育において果たす重要な役割に鑑み、国及び地方自治体は、その自主性を尊重し、教育への干渉とならない様に配慮しつつ、助成その他の適当な方法によって私立学校教育の振興に努めなければならない。

 

第9条

 法律に定める学校の教員は、全体の奉仕者であって、自己の崇高な使命を深く自覚し、絶えず研究と修養に励み、その職責の遂行に努めなければならない。このためには、教員の身分は、尊重され、その待遇の適正が、期せられるとともに、養成と研修の充実が図られなければならない。

 

第10条

 良識ある公民たるに必要な政治的教養は、教育上これを尊重しなければならない。

 

第11条

 国又は地方自治体の設置する教育施設、教員、また、そこで就業する者は、特定の思想、政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない。

 

第12条

 自己の信条にはあくまで忠実であるべきであるが、異なる信条と意見を交わす時は、自己の立場も自己に対立する立場も等しく、ともに国家の全体に立脚せることを自覚し、相互の自由と平等を認め理解と寛容の上に立って同胞愛を失わず、且つ私利私欲に流れることなく、公明正大に行わなければならない。

 

第13条

 宗教に関する寛容の態度及び宗教の社会生活における地位は、憲法の安寧秩序、公衆の健康若しくは道徳又は他の者の基本的な権利及び自由を保護するために必要な制限、国民一般の義務に反しない限り、教育上これを尊重しなければならない。

 

第14条

 国又は地方自治体の設置する教育施設、教員、また、そこで就業する者は、特定の宗教のための宗教教育その他宗教的活動をしてはならない。

 

第15条

 国及び地方自治体は、国民一人一人が、自己の人格を磨き、豊かな人生を送ることができるよう、その生涯にわたって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができ、その成果を適切に活かすことのできる社会の実現が図られなければならない。

 

第16条

 教育は、人種、性別、身分、地域、職種、宗派、党派、経済的地位によって差別されてはならない。

 

第17条

 国及び地方自治体は、能力があるにもかかわらず、経済的理由によつて修学困難な者に対して、奨学の方法を講じなければならない。

 

第18条

 国及び地方自治体は、障碍のある者がその状態に応じ、十分な教育を受けられるよう、教育上必要な支援を講じなければならない。

 

第19条

 国及び地方自治体は、日本国に居住する北海道、千島、台湾における原住民の集団が自らの言語、文化を維持し、発展させる権利に配慮しなければならない。その言語及び陋習とされた民族の文化は、日本国憲法及びそれに基づいた法律に反しない限り尊重されなければならず、国及び地方自治体は、教育上必要な配慮を講じなければならない。

 

第20条

 国及び地方自治体は、原住民である児童について、その集団の他の構成員とともに、日本国憲法及びそれに基づいた法律に反しない限り、自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する権利に、配慮しなければならず、国及び地方自治体は、教育上必要な支援を講じなければならない。

 

第21条

 国及び地方自治体は、方言を含む国内の言語について文化的及び社会的な必要性に等しく配慮し、教育上必要な支援を講じなければならない。

 

第三章 家庭教育

 

第1条

 国及び地方自治体は、家庭教育の自主性を尊重しつつ、保護者に対する学習の機会及び情報の提供その他の家庭教育を支援するために必要な施策を講ずるよう努めなければならない。

 

第2条

 幼児期の教育は、生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要なものであることに鑑み、国及び地方自治体は、地域社会と連携しつつ、幼児の健やかな成長に資する良好な環境の整備その他適当な方法によって、その振興に努めなければならない。

 

第3条

 個人の要望や社会の要請にこたえ、家庭及び勤労の場所その他社会において行われる教育は、国及び地方自治体によつて奨励されなければならない。

 

第4条

 国及び地方自治体は、図書館、公民館、博物館等の社会的教育施設の設置、学校の施設の利用その他適当な方法によつて教育の目的の実現に努めなければならない。

 

第5条

 学校、家庭及び地域住民その他の関係者は、教育におけるそれぞれの役割と責任を自覚するとともに、相互の連携及び協力に努めるものとする。

 

第四章 教育行政

 

第1条

 教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負つて行われるべきものである。教育行政は、この自覚のもとに、教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行われなければならない。

 

第2条

 教育は国民全体のための教育であることを忘れてはならず、一部特定の人種、身分、地域、職種、宗派、学派、党派の利益のための手段とみなされてはならない。

 

第3条

 政府は、教育の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、教育の振興に関する施策についての基本的な方針及び講ずべき施策その他必要な事項について、地域の実情に応じ、教育の振興のための施策に関する基本的な学習基準を定め、これを議会に報告するとともに、公表しなければならない。

 

第五章 補則

 

第1条

 この法律に掲げる諸条項を実施するために必要がある場合には、適当な法令が制定されなければならない。

 

附則

この法律は、公布の日から、これを施行する。

 


 

 

「以上、教育基本法として、本案を提出するものであります」

 

「それではこれより第1回の討議に入ります」

 

「では。委員長」

 

「小山内君」

 

「政府提出の第一章第1条と前文において、教育の目的として「人格の完成」「真理と正義の愛」「個人の価値の尊重」「平和と文化の貢献」が重複して述べられています。これらの内容を統合することで、より簡潔に表現できるのではないでしょうか」

 

「ふむ。であれば、委員長。儂からもよろしいか」

 

「角河君」

 

「第二章第1条から第4条までにわたって、義務教育の実施と保障について繰り返し述べられているが、これらを一つの条項にまとめることで、冗長さを避けることができると思われるが如何に?」

 

「委員長、私からもよろしいですか?」

 

「和光君」

 

「第二章第13条と第14条で宗教に関する教育について述べられていますが、第13条では宗教に関する寛容の態度を尊重することが求められている一方、第14条では特定の宗教のための宗教教育を禁止しています。これらの条項は矛盾しているのではないでしょうか」

 

「前文では「道義の確立」と「心を合わせて道義の確立に努める」ことが強調されていますが、本文ではこれに直接対応する条文が欠けています。教育の実施において、道義の重要性を具体的に述べる条文を追加することが望ましいと思います」

 

「第7条で「男女の共学は強制されるものではなく、地域社会の要望によらなければならない」とある一方で、前文では「互いに敬愛し、深い和の精神に貫かれた社会を形成する」と述べられている点で若干の矛盾があります。共学が推奨されることを明確にするため、地域社会の要望に関わらず、基本的には共学が原則とするように表現を見直すことが検討してはいかがでしょうか」

 

「宗教に関する教育について、第13条と第14条の矛盾を避けるため、具体的な条件や範囲を明確にすることが必要でしょう」

 

「義務教育の実施と保障に関する内容を第二章で統合し、一つの条項にまとめては如何でしょうか?」

 

「ふむ。修正は多岐に渡りそうだ。政府としては修正案の提出を求める」

 

「準備させていただきましょう」

 

 

「我が党は教育の目的に関する内容を前文と第一章第1条で統合し、簡潔に表現したものを修正案として提出致します」

 


 

前文

 われらは、さきに、日本國憲法を確定し、民主的で文化的な国家を建設して、世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする決意を示した。われらは新たに国家再建に向って出発せんとするにあたって、建設へのたゆまざる意欲を奮い起すとともに、大戦の被害による精神の虚脱と道義の廃頽とを克服し、心を合わせて道義の確立に努めねばならない。

 道義を確立する根本は、自己の自主独立である人格の尊厳にめざめ、利己心を越えて公明正大なる大道を歩み、自律する心をもつ人間となることにある。

 われらは、この理想を実現するため、個人の尊厳を重んじ、真理と正義を希求し、公共の精神を尊び、豊かな人間性と創造性を備えた人間の育成を期するとともに、伝統を継承し、新しい文化の創造を目指す教育を推進するものである。

 ここに、日本國憲法の精神に則り、教育の目的を明示して、新しい日本の教育の基本を確立するため、この法律を制定する。

 

第一章 教育の目的及び理念

 

第1条

 教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値を尊び、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。また、教育は、自発的精神を養い、自他の敬愛と協力によって、文化の創造と発展に貢献するように努めなければならない。

 


 

「如何でしょうか?」

 

「随分と簡略化されすぎていないだろうか?」

 

「前文では家族の絆や長上への敬意が含まれていました。これらの部分に対してはGHQが異議を唱える可能性もありますので削除しました」

 

「確かに教育勅語も本案も道徳と倫理の教育を重視し、個人の行動規範としての道徳心を強調している点、家庭内の調和や家族関係の重要性が強調されている点は重なる。だが、国民に対する忠誠心や国家のための奉仕が重視されていた教育勅語と異なり、本案では、民主主義国家としての再建と平和、国際協力を強調し、個人の自主独立と人格の尊重、国際協力、平和の追求と公平で正義な社会の実現を目指している。そもそも、貴党が削除した箇所は人として当然のことを書き記した箇所であり、異議を唱えられるようなものだろうか?」

 

「GHQは旧来の保守的な要素を排除しようとしています。それに、GHQは某大佐の発言から鑑みるに、我々が二度と逆らわないような教育を行いたいでしょうから、ここは難癖をつけられると思われます。残念ながら」

 

「民主主義と平和の理念、国際協力と平和の追求を重視している点を強調していくしかあるまい。かなりの調整や議論が必要かもしれんが、基本的な民主主義、平和、法の支配、国際協力の理念が盛り込まれている。GHQが一定の理解を示す可能性は高いと考えている」

 

「そこは後程の議決で判断いたしましょう。次に第二章についてですが――」

 


 

第二章 教育の実施に関する基本

 

第1条

 国民は、その保護する子女に、十年の普通教育を受けさせる義務を負う。義務教育は、各個人の有する能力を伸ばしつつ社会において自立的に生きる基礎を培い、また、国家及び社会の形成者として必要とされる基本的な資質を養うことを目的として行われる。国または地方自治体は、義務教育の機会を保障し、その水準を確保するため、適切な役割分担及び相互の協力の下、その実施に責任を負い、授業料を徴収しない。

 

第14条

 国又は地方自治体の設置する教育施設、教員、また、そこで就業する者は、特定の宗教のための宗教教育その他宗教的活動を行ってはならない。ただし、宗教に関する寛容の態度及び理解を促進する教育活動はこの限りでない。

 


 

「以上となりますが如何でしょうか?」

 

「第1条が長すぎるのではないか? 貴党が提出した修正案について再修正案を提出する」

 


 

第二章 教育の実施に関する基本

 

第1条 普通教育の義務

 国民は、その保護する子女に、別に法律で定めるところにより、10年の普通教育を受けさせる義務を負う。

 

第2条 義務教育の目的

 義務として行われる普通教育は、各個人の有する能力を伸ばしつつ社会において自立的に生きる基礎を培い、また、国家及び社会の形成者として必要とされる基本的な資質を養うことを目的として行われるものとする。国または地方自治体は、義務教育の機会を保障し、その水準を確保するため、適切な役割分担及び相互の協力の下、その実施に責任を負い、国又は地方自治体の設置する学校に於いては授業料を徴収しない。

 


 

「このように第1条を分割し、2条に増やす。また貴党が提出した修正案を基に再修正したことで条番にも変更を行った」

 


 

第12条 宗教教育の禁止

 国又は地方自治体の設置する教育施設、教員、また、そこで就業する者が、宗教に関する寛容の態度及び理解を促進する教育活動を行うことは禁じられないが、その活動が特定の宗教教育その他宗教的活動と結びついてはならない。

 


 

 

「――党の修正案とそれを基に政府が出した再修正案の討議を行います」

 

 

「採決の結果、政府の再修正案を採用することと決定いたしました」

 

「委員長、宜しいか」

 

「春日君」

 

「政府案を実現するに当たり、支援策の実施について補足事項を設けて頂きたい」

 

「どのような?」

 

「物資不足やインフラ整備の遅れに対応するための緊急支援、新しい民主主義国家を形成する者として市民教育、社会的もしくは経済的な不平等を解消するための教育機会の均等についての補足事項を設けて頂きたい」

 

「検討しましょう」

 


 

「では、政府再修正案の第五章 補則の追加について採決を行います」

 

「全会一致で政府の再修正案を採用することと決定いたしました」

 

「以上を持ちまして、本案については本会議へ提出されることに決定いたしました」

 

 


 

 

「賛成多数により、本法案は昭和二十三年法律第十三号として成立いたしました」

 

 




教育基本法に手を加えてあります。
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