もしもこんな日本だったら   作:fire-cat

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正月の一コマ

「~♪」

 たこの歌を歌いながら、親子連れが冬枯れの田んぼで凧上げに興じている。

「おぉ。高くあがったなぁ。ここ等は電線も地中化されとるからのう、気兼ねなく糸を伸ばせ」

 そこへ老人がかくしゃくとした足取りで声を掛けてくる。

「あ、じいちゃん」

「お義父さん,大丈夫ですか? 治りかけなんですから」

「なーにを言っとるか。まだまだ婿殿に心配かけるような歳じゃ……アッッ」

 腰を摩る老人に

「爺ちゃん、大丈夫?」

 糸を父親に押し付け駆け寄る孫。

「大丈夫じゃ」

 手を振る老人。

「でも……大丈夫なの?」

 

「寒くなったし、そろそろ帰ろうか」

 そんな二人の様子を見ていた父親が声をかける。

「うーん。もう少し遊んでいたいけど……」

 祖父の様子を見て

「うん.そろそろお餅も食べたいし、帰ろう」

 

 父と祖父の手を握り家についた三人。

「おかえり。外は寒かったろう。飴餅拵えたから,たんとお食べ」

「わーい。ばあちゃんの飴餅大好き」

 その声に

「独り占めはダメー」

 外は寒いからと福笑いや双六で遊んでいた子どもたちも集まってくる。

 

 そんな子供達を見つめながら、

「正ちゃん、まずは一献」

「おっとっと。悪いねー、銀ちゃん」

 そんな大人たちに、

「まーた、うちの宿六は昼間っから酒呑んで。まったく、しょうがない男だよ」

「まぁまぁ。洋子さんも座って座って。正月ぐらい多めに見てやんな。いつもはあんなんじゃないんだろ?」

「えぇ。そりゃそうですけどね」

「正月だ。店も休みだし私らものんびり骨休めさね」

 寛いでいる大人たちの耳に囃子が聞こえてくる。

「あらやだ。もうこんな時間? みんな、玄関に獅子舞が来るよ」

 子供達に声を掛けると

「わーい」

 と歓声をあげて外に飛び出す子ども達。

「それじゃ私達も出迎えの支度しようかね」

 よっこいしょ。と席を立つ大人達。

「あぁ。裕子さん、萌葱は起きたかね?」

「まだ寝てますね」

「そうかい。じゃあ泣かれても困るからそのまま獅子舞に噛んでもらおうかね」

 

 その夜。子供たちも寝静まった家の一画で大人達が昼間の分もと言わんばかりの勢いで騒いでいた。

「やっぱり泣いたな、萌葱」

「まぁ、わかってた事よ」

「しっかし噛まれる寸前で目を覚まさなくてもなぁ」

「そりゃ違いねぇ」

 両親の声も混ざった笑い声。

「ところでよ。研二のとこは仕事は順調なのか?」

「おお、そうだそうだ。帰ったら聞こうと思ってたんだ」

「順調だよ。仕事は忙しいがな。今度B-TRONとか言う新しいコンピュータが入ったから覚えることも多くてな」

「健三はどうなんだよ。勤めている電気自動車メーカー、ウルグアイ・ラウンド合意のせいでガソリン車に押されかけているって話じゃんか」

「それなんだがよ。ほら最近環境がどうとか石油がどうとか言っているじゃんか。うちの会社ひょっとするとひょっとするかも。国もうちのか」

「ストップ!! それ、口にして大丈夫なんだろな? おれは国家秘密法違反なんぞで捕まりたくはないぞ」

「おっとっと」

 そう呟き口を閉ざす男に蒼ざめる一同。

「じ、冗談だよな?」

「ところでよ、今朝の雑煮なんだが」

 あからさまに話題を変える男に,コイツは……。とジト目で睨む周囲。

「まぁ、聞こえてこなかったしギリギリ良しとしておこう。皆黙っていろよ?」

 頷く一同。

「んで、雑煮が何だって? そういや、いつものしょうゆのすまし汁じゃなかったな。具も里芋、牛蒡、鶏肉、青菜、しいたけじゃなかった」

「婆様。何で今年は変えたんだ?」

「ん? そりゃオメェ、幸子さんとこの雑煮を拵えてみたんだ。せっかく遠いとこから嫁いできたんだ。雑煮も違うだろうなとな。お前らも正月ぐらいめずらしいもの食べたかろ?」

 済まして茶を啜る老婆。

「ん? じゃ、この胡桃ダレは」

「ええ。私が正月に食べていた宮古の胡桃雑煮です」

 どっきり大成功といった様子でちろっと舌を出す幸子と呼ばれた女性。

「お前なぁ」

 トホホと脱力した夫の様子に笑い声がその場を包み込む。

 

 数日後。

「帰りたくなーい」

 仕事があるため一足早く帰宅した両親。学校が翌日からということで迎えに来た両親に口を尖らせる子ども。

「七草も食べただろ? また5月には遊びに来れるから」

「次は粽拵えて待っとるからな。しっかりと勉強するんだぞ。守も今年で10歳だ。春には中学一年生。勉強も大変になってくるからな」

「はーい」

 気をつけてな。という声を背に受けバスに乗り込む一家。

 

「行ってしまいましたね」

「寂しくなるな」

 寂しげな二人。

「何を言ってるんですか二人とも。皆同じ県内にいるじゃありませんか。博さんのように海外とか大阪とかにいるわけじゃないんですよ?」

 呆れたような同居する娘の声に、

「そうじゃが,寂しいものは寂しいんじゃ」

 二人の声が重なった。

 

 




恭賀新年


新年初投稿です。




私事ながら、

年末から風邪ひきました。
一度下がったので初詣には行きましたが,帰ってきたら38℃ありました。
この頃,流行性感冒とか流行っているのでお気をつけて。
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