クズが送る可能性を追求するVRMMO 作:よくメガネを無くす海月のーれん
case1 山道
ザッザッザッと、山道を歩いていく。これはゲームだが、ゲームとは思えないほどリアルであり、肌を撫でるジメッとした風や足に溜まっていく疲れ等再現しなくていいところまで再現している神ゲーだ。しっかりと荷物を背負いこんでからまた一歩踏み出す。足裏の泥のネチャッとした感じが、先程まで雨が降っていたことを示唆していた。空を見上げれば曇天で、山の天気は変わりやすいとは言うが、これじゃあ目的地に着くころには一雨くると考えると憂鬱になってくる。何で俺がこんなことしなくちゃいけないんだと、そこらの小石を蹴ってみるが、どうにもならないので、先に転がっていく小石をボーっと眺めながら、どうして俺がこんなことをしているのか振り返ってみることにした。
case1-2 過去
「金が欲しい」
待ち合わせの噴水広場で合流した廃人のゴミに開口一番放った言葉がそれだった。
「金ェ?んだよ、前のレイドで稼いでたんじゃねぇのかよ」
そう言いながら全身甲冑のヘルメット部分を外し、小脇に抱えながらドカッと腰掛ける。俺もその横に腰掛けると話を続けた。
「全部スッた。次は勝てると思ったんだがダメだ。あの台、ぜってー細工がされてる」
「その言い分何度目だよ。おまえの次のセリフは「反省&慰め会を開くための金を貸してくれ」という」
「反省&慰め会を開くための金を貸してくれ…はッ!」
「これも計算の内か!ジ〇ジョーーーーー!」
「当たり前だぜッ!このジ〇ジョはなにからなにまで計算づくだぜーッ!」
ふぅ…とお互いなんも言わずに一呼吸入れる、唐突に始まったジ〇ジョごっこをひとしきり楽しんだ後、改めて金を貸すよう要求した。
「金貸してくれよォ…マジで反省してっから」
「それも何度目だよ。てか借りるならお前の周りにいる奴等に借りればいいだろ。博士とか、自爆屋とか」
「博士ェ?博士は無理だろ」
博士は学者タイプのプレイヤーでネチネチといってくるタイプのヒューマンだ。貸した金は必ず忘れないし、その貸しを別の何かで支払わせたり、あるいは莫大な利子付けて返すよう要求してくる。俺はよく博士に金を借りては、検証や考察、雑用を手伝わされているので、親しい奴らから「助手」と呼ばれている。俺はネチネチとした言い回しをする博士は苦手だが、クール系で切れ長目のデキる女上司といった風貌をしているので、仕方なく、本当に仕方なく手伝ってやっている。それに物理干渉系の異能持ちだしな。
「なんでだよ、博士と仲いいだろ?」
「仲いいっつーか、体よく使われてるだけだろ。最近だと三つ目の精神干渉系のヤツ相手に異能で対抗して来いって言われたんだぜ」
俺は精神干渉系の異能を持っている。こいつのメリットは人間相手によく効くということ。デメリットは人間以外にはクソの役にも立たないということ。まぁいろいろと工夫したら人間以外にも使えるレベルになるんだが、工夫なしで対抗できる他の異能と比べるとそこまで…って言うのが俺の評価だ。
んで、三つ目って言うのが俺と同じ精神干渉系の力を持った敵。三つの目が浮遊しているバケモンで能力は、見た相手に「神経麻痺」「感覚鋭敏化」「脱力」の状態異常を付与してくる。対抗手段は三つ。見られる前に視界を塞ぐこと、鏡や反射するものをもつこと、精神干渉系を能力持ちで状態異常を上書きすること。この三個目の対抗手段で倒せという命令だ。こいつは状態異常を付与してくるだけで、肉体は貧弱なので、レベル上げをサボってる俺でも倒せる。
「あー…アイツかよ、そりゃだりぃわ。絶対プレイヤーを不快にさせるってことだけを意識しているよな」
「それな、本当にだるかった。まぁ倒せたけどさぁ…。あぁ話戻すぜ、また難題要求されるかもしんねぇから博士はパス。自爆屋は論外だろ。借りた金と命のトレードじゃねぇか」
「まぁ自爆屋はな。アイツ、お前の異能のおかげで続けられてるところあるし。ってかお前にはアイツ等頼ればいいじゃん。精神干渉系の開祖様よォ」
「やめろやめろやめろ!アイツ等積極的に洗脳したり俺を異能の実験体にしてこようとしてくんのに、頼れっかよ。この前なんか、『洗脳してパパになってもらう派』と『体を分割してカートリッジみたいに加工して自身と一体化派』で戦争してたんだからな。おぞましすぎんだろ」
うぇぇ…考えると気持ち悪くなってきた。なんで俺がアイツ等のパパにならなくちゃいけねぇんだ。ってかなんでパパなんだよ、 認知して♡ じゃねぇよ。怖ぇわ。知らないうちに大量に子ども面したヤツ等が甘えてくるのはトラウマもんなんだよ。一体化派のやつも気持ちわりぃヤツ等ばっかだしよぉ…。うごご…と考えがドブに沈んでいく俺を尻目に、ゴミ廃人は何か考え込んだ後、ボソッと一つの言葉を放った。
「なぁ……稼げる依頼があるっつったら……やるか?」
天啓だった。神がこの依頼をやれと言った気がした。あくまで気がしただけだが、それでもその言葉を聞いた瞬間麻雀並に俺に電流が走ったことは確かだった。
「やる。いややらせてくださいお願いします」
俺は懇願した。このドブに沈んだ思考を一時でも忘れられるならなんでもやるつもりだった。金をさっさと手に入れて、酒とツマミでこのクソを流し込みたかった。だから俺はろくに内容を聞かなった。目的と依頼の場所を聞いた俺は韋駄天の如く駆け出した。
人はそれを阿呆、もしくは無鉄砲という。
case1-3 目的地
過去を振り返り、改めて自業自得であることを認識した俺はその認識からいったん目をそらし足を止めた。目的地だ。山の中腹あたりで、周りは切り開かれて、小さなキャンプ場くらいの広さがあった。目的地に着いた頃には雨がポツポツと降り始め、土は湿っていた。俺は背負っていたブツをそばに置き、持ってきていた携帯型シャベルを取り出すと、ザッザッと足元を掘っていく。雷が落ち始めた。さっさとやって帰らなければ……。俺はやましいことがないハズなのに、焦りの感情が芽生えてきた。誰かに見られたらマズイ……それだけは確かだった。こんな山中で穴掘ってるヤツなんか犯人以外の何者でもない。ゴロゴロと後ろで鳴る雷をBGMにせっせと掘っていく。いい感じの深さまで掘れたら、俺はそばに置いたブツを拾う。大きさは両手で抱えるくらいのデケェ壺で、中にぎっしり詰まっているのか抱えるだけで一苦労だ。雨で濡れて滑るので、一旦穴のそばに置いて、ついでに蓋を開けて中身を確認する。
「コロ……シテ……。コロシテ…………。コロシ……」
人間が折りたたまれギチギチに詰まっていた。そいつは黒髪で紅く光る眼を持ち、この壺に入るくらいだ。身長が低い。身体が薄っぺらくなっている。ロリ体型の女だった。赤と黒の服を着て、左目に眼帯をしている。俺はこいつを知っていた。
「自爆屋……」
俺はそっと蓋を閉じ、なにも見なかったことにして、壺を穴に落とした。ザッザッとそばの土を上からかけていき、完全に平らになるように上から踏み固めていく。ふぅ…と俺は一息をつき、広場の手前に偽装用の看板を設置していく。
『コノ先、落石アリ。立入禁止』
仕事は終わった。俺は体の土を払い、濡れた服が体に張り付く不快感から報酬をもらったらひとっ風呂入ってからメシを食いに行こうと決めた。そうして特になにもなかった広場から出ていこうとする俺の後ろで特大の雷が落ちた。
まるで…事件の始まりを指し示しているようだったが、俺は気にせず、帰路につく。
たとえ、俺が受けた依頼が死体?の遺棄だったとしても、これはゲームの中の出来事であって犯罪にはならない。『ゲームだから』それが人の倫理観や道徳をゴミ以下のものにたらしめているんだろうと俺はこのゲームの真理を知った。
全身を濡らす雨が酷く不快だった。
case1End
このあと気持ちよく風呂入って、合流したゴミ廃人から報酬をもらい、朝まで飲み明かした。