クズが送る可能性を追求するVRMMO 作:よくメガネを無くす海月のーれん
case2-1 居酒屋
それは昼の出来事であった。いつもの店でゴミ廃人と酒を飲んでいるとき、俺はふと気になったことがあったので酒の肴に聞いてみた。
「なぁ…結局、アレ…自爆屋遺棄事件はなんだったんだよ」
ひとまず頼んだビールをジョッキでガッとイッキした。うめぇ…酒は命の水とよく言ったもんだぜ。いい気分になりつつ俺は問うた。死体遺棄はこのゲームじゃあよくあることだった。このゲームはHPが0になってもいくつかの条件を満たさない限り、死体が残り続けるしなんなら若干息をしているときもある。HP0=死亡ではないのだ。HPっつーのはまぁバリアみたいなもんで、それがなくなると生身の人間と大して変わらなくなるから大体”死”なんだが。だから邪魔な死体、瀕死体を処理するための火葬場はあるし、やましいことをしたヤツは埋めるのが当たり前なので、差たる疑問を抱かなかったのだ。だが埋められたヤツが問題だ。アイツ…自爆屋を埋めるということは自爆会のヤツ等を敵に回すということであり、レイドでの主火力である彼らを敵に回すという愚を犯すヤツはそうそういない。総スカンを食らうし、ログイン即自爆の粘着自爆を実行されるからだ。このゲームは死ぬと経験値を失うので、特定の異能でも持たない限り死に続けることは損でしかない。
「あぁ…アイツ?なんでも…廃人パーティーで狩りしてた時、レア泥のアイテムを自爆で消し飛ばしたとか言って、懐に入れてたんだ。それが肉体向上系の異能からしたら垂涎の的だったらしくてな?まぁそのレア泥がドロップしたらこっちに融通するって契約で、それをブッチしたから報復として埋められたって話。これに関しては自爆屋の個人的問題らしいから、自爆会のヤツ等も自業自得で納得してたよ」
同じくジョッキを空にしたゴミ廃人がカランと氷を鳴らして事の顛末を話してくれた。
「おっおぅ…」
俺はドン引きした。自爆しか取り柄がない自爆屋が廃人の狩りに混ざっていることや、そこで交わした契約をブッチしたというのも驚きだが、ブッチした相手が肉体向上系のヤツ等というゴリラの群れだったのが原因だった。アイツ等は単純なフィジカルでこのゲームを生き残っている猛者共で、腕が丸太くらいあるヤツとか、強靭すぎる足腰で八回空中ジャンプが出来るヤツもいる。エピソードの一つとして、物理が一切効かないトロールを謎の
「個人的に欲しかったんだって。尋問したら吐いたよ。そんで誰かにプレゼントするんだとさ」
プレゼント…?プレゼントつった?アイツにプレゼントするような奴いたか?尋問はこのゲームじゃコミュニケーションの一環なのでスルーしといて、俺は見た目こ〇すばのめ〇みんであるアイツを思い浮かべた。アイツは生粋の自爆スキーで、隙を見せたら自爆をするので、いつだって目を離しちゃいけない手のかかる子供と時間が表示されない時限爆弾を組み合わせたようなヤツだ。前述の爆破会のリンチと合わせて、歩く起爆剤と呼ばれている。そんなアイツがプレゼントを贈るような相手を想像できなかったのだ。アイツは大半のやつに嫌われている。自爆でドロップアイテムを消失させ、自爆で味方もろとも爆発し、街の大通りで、なんとなくで自爆して周辺に被害をもたらす。好きなヤツの方が少ない。その少ない好きなヤツが、寄り集まって異能を洗練させていったことで、自爆会という会を発足し、やっとある程度の地位を得られたのだ。
「んでもよ―、俺はちょっと安心したぜ。遺棄で済んで」
俺はお代わりのビールを頼みながら言った。本心からの言葉だった。なにせ、このゲームで自爆屋が自爆屋でいられたのは、俺が面倒見たのと俺の異能によるものだからだ。俺もアイツもベータ版やってて、そん時に知り合った。アイツがリアルのなんかで面倒な悩みを抱えてる時に、俺が多少なりとも相談に乗って諭したのだ。あと俺の異能は汎用性が高すぎて、正式版で初期異能として設定されたので、正式版でも自爆屋を続けられた。このゲームは自身が持つ異能をプレイヤー全員が使えるようになる『解放』や、特定個人のみが使えるようになる『継承』というシステムが存在する。ベータ版で『解放』された異能の一部は正式版で初期異能として実装されるという話があり、俺の異能がその一つに選ばれたという寸法だ。
自爆屋は俺の可愛い弟子だ。アイツが困っていることがあればできる限り助けてやりたいと思っている。それがアイツを自爆屋にしてしまった責任感からなのか、弟子可愛さなのか俺はもうわからなくなっているが、このゲームを続ける限り、アイツの味方でありたいと思っているのだ。ただ、ここでは倫理観や道徳がドンドン下がっていくので、生き埋めくらいでは困っている判定にならなくなってしまったのが前回の事件だ。俺は穢れてしまった…?
「お前ホント、自爆屋に甘いよな。てか他のヤツ等にも甘い。特に精神干渉系のヤツ等とか」
「はぁっ…?アイツ等に?俺が?冗談だろ」
俺は心底信じられない顔でそういった。なぜそんな呆れた目で俺を見るのか、一体俺が何をしたんだと怒りが湧いてくる。しかし、目の前のゴミ廃人には俺は逆立ちしても勝てないので、ひとまず後で親しいヤツにこのゴミ廃人の暗殺を頼んでおこうと心に決め、俺は怒りを収めた。
「いやいや…だってお前。嫌ってるくせに、アイツ等がなんかトラブったら積極的に絡んでいくじゃねぇか」
呆れた調子でゴミ廃人は続ける。
「そりゃあお前、アイツ等がなんかやらかしたら、なんか俺に文句がくんだよ。おたくの人達でしょなんとかしてくれって…。じゃあ俺の名誉守るために早々に対処しなくちゃいけないよなってなるだろ」
ゴッゴッとお代わりのビールを飲み干しながら愚痴った。他のヤツ等は俺をアイツ等の保護者か何かだと思ってる節がある。生産職は特に多い。大概俺が呼ばれるときは、精神干渉系のヤツが露店で詐欺だとか難癖つけてるときだとかだった。
「まぁなんだ…。アイツ等がああやってできるのは俺の異能があるからだ。ちったぁ責任感じてんだよ。つーか若干後悔してるしな。『解放』したこと」
「お前の異能便利すぎるからな。汎用性というか、このゲームをプレイするうえで必須級のモンだろ。精神干渉系のヤツ等からしたら特に」
「痛覚軽減や五感操作とかにも使えるからなぁ…いろいろ出来過ぎるせいで単体じゃあ自分にしか効果ねぇけど」
俺の異能『精神転換』は精神に干渉する異能の中で、トップクラスの汎用性を持つと自負している。コイツは自身が感じている感情や精神状態を別の精神状態に変えることが出来るという能力だ。このゲームはリアルだ。痛覚や五感で知覚するものは現実と何ら変わらない。だから人間は痛みを感じすぎるとショック死するし、臭いがキツ過ぎると気絶する。俺の異能はそういったものを別の精神状態に変更できるのだ。痛みを感じてもそれを熱さに変えたり、あるいは楽しいといった感情に変えることが出来る。恐怖を怒りに変えることだって可能だ。だからこそリアル過ぎて、ダメージを受けすぎるとショック死するこのゲームで初期異能として選ばれたのだ。
「まぁ『解放』は取引のせいだから今更…って感じだけどよぉ…」
俺はうなだれた。いまさら悔いたってどうしようもないことだったからだ。それでも俺は陰鬱とした気分から立ち直れなかった。いつだって後悔する。やらないで後悔するよりやって後悔した方がいいというが、それは違う。後悔なんてしないほうが一番なのだ。でも人間は不便な生き物で、選ばれなかったルート分岐に思いを馳せて後悔する。そちらの方がグッドエンドにたどり着いたのではないかと。
「まぁまぁ…んで、俺を呼んだ用ってなんだよ。自爆屋死体遺棄事件だけか?それなら俺はレベル上げにいくぞ」
若干頭がフワついてきたと『解放』の話でダルい感じになってるが、まだ正常な思考が出来そうな感じなので、ツマミの焼き鳥を食みつつそのまま本題に入った。
「レベル上げを手伝ってほしいんだ」
「えぇっ…?」
感触が悪いので、ネギマのネギをかじりながら改めて言った。なんかネギマってネギだけとか鶏肉の部分だけ食べたくなるときってあるくね?
「わからなくもない。食い方キモいと思うけど。で?レベル上げェ?んなの一人でやれよ」
どうやら声に出てたらしい。この食い方はキモいのか…と若干ショック受けつつ、レベル上げに難色を示すゴミ廃人に説得を始めた。
「自爆屋や博士だって来るんだぞ。あとなんかついてきたパパ派(精神干渉系の派閥)の知らん娘が一人。自爆屋は前衛っつーか自爆だし、博士や俺は後衛だ。知らん娘は前衛らしい。あとはお前が前衛に入ってパーティーの完成なんだよ。手伝ってくれよォ…レベル上がる前に殺しに来る奴が多くてうんざりしてんだよォ…俺は初期異能の一人だぞォ…俺をないがしろにしていいと思ってんのかァ………あぁん………?」
初期異能として採用されたことを最大限に利用しつつダルがらみする。酔いもあってか足元がおぼつかないので、去ろうとしているゴミ廃人の足に縋りつく感じになった。涙と鼻水でコイツの全身甲冑を汚してやる。そうして眠気がエグくなってきたので、そのままスコーンとゴミ廃人に縋りついたまま眠ろうとした。すると、ゴミ廃人は俺を引きはがすために心底面倒だという声色でこう言った。
「わーった!わーったから離せ!きたねェな!」
俺はゴミ廃人から了承を得られたので、即座に立ち上がり涙と鼻水を取り去る。酔いと眠気を『精神転換』の力で、平常心へと変換し酔いと眠気を醒ますと、颯爽と居酒屋の受付に行く。財布から借りた金を取り出し会計を終えると、変わり身の早さに茫然としているゴミ廃人に向けてこう言った。
「いつまで呆けているんだ。酒の飲み過ぎは体に毒だぞ」
背中でキレるゴミ廃人から全力ダッシュで逃亡しつつ、俺は待ち合わせの場所へ向かった。
ゴミ廃人って…面白!!…
説明文が多いけどもうちょっとだけ続くんじゃ。