クズが送る可能性を追求するVRMMO 作:よくメガネを無くす海月のーれん
case2-2 待ち合わせ
俺はボコボコにされていた。腕や足はあらぬ方向に曲がり、顔は殴られ血と痣でボロボロになっている。胴体は小さい刃物で斬られたように無数の切傷が存在した。
息も絶え絶えで今にも死にそうな様相だ。しかし、生きている。HPが0になっていないからだ。
即死等の特殊な状態異常でもない限り、腕が捥げても足が捥げても、最悪頭だけになろうとも、HPが0ではなければ生きている判定になる。
回復系の異能が効力を発揮しなくなる段階、それまではずっと生き続けるのだ。
こんな惨いことを行った犯人はゴミ廃人であった。
犯行現場は噴水広場、人通りが多くよくパーティーの待ち合わせに使われる場所だ。プレイヤーが露店を開き、売買を行っている場所でもある。
白昼堂々の犯行であった。現実ならば、現行犯逮捕だ。しかし、このゲームではプレイヤー同士の争いは見逃される。それほどまでに争いが常態化していた。
ヤツは怒り冷めやらぬ様子だが、これ以上肉体が損壊すると、死亡判定を食らうので抑えているらしい。
口や喉を潰さないようにボコったヤツは辛うじて喋れる俺に謝罪を要求した。
「ナメた真似毎回するよなお前。ちったぁ学習しろよな」
ゴミ廃人は胡乱な目でこちらを見ている。どうやら謝るまで治療してくれないらしい。
テキトーに頭下げておだてりゃいいだろうと、俺は口を開いた。
「サーセン、反省してまぁーっす」
俺は舌をピロピロと出しながら謝罪した。コイツに頭を下げることを心が拒否したからだ。
やってすぐにやっちまったなと後悔の念が湧く。しかし、己の心に背くような真似を俺はしたくなかった。自分自身に正直でありたい。俺の信念からくるものであった。
「あ?」
ゴミ廃人はキレた。
コイツはなんだかんだ言いつつ、頼みを聞いてくれる気のいいヤツだが唯一ナメられることだけは許すことはできない。ナメた態度をとると、廃人の名にふさわしい技量と、拷問の末無理やり『継承』した異能の数々で殺しに来るのだ。
コイツは廃人だ。四六時中このゲームをプレイしている。そのため、会うたびに所持する異能が増え、戦闘能力が向上していく。そしてその異能の数々を使いこなすセンスがある。
正真正銘の化物だ。
ゴミ廃人が身体、ちょうど腹のあたりから何かを引き抜くような動作をした。その右手には赤黒いモヤがかかっている。異能だ。それも『継承』した借り物の力ではない。アイツ自身の異能…。
詳細な効果は不明。異能というのは己のパーソナリティから生じているようなものなので、それを開示するということは、言ってしまえば己の性癖を開示するのと一緒だ。だから皆黙秘する。
しかし、ゴミ廃人はこのゲームではそこそこ有名なので、異能の傾向や考察とやらが存在している。異能の断片的な特徴から性格やパーソナリティを割り出せるのだ。ヒ〇カ式性格診断かよ…。異能の内容ではなく、性格や考えを割り出そうとするあたり、ネットの闇が垣間見える…
それに則るなら、コイツの異能は、身体能力向上系の亜種。身体能力向上系の異能を持つヤツは自尊心が強いヤツが多い。己の中に信念があると言えば聞こえはいいが、要は自分本位、利己的なヤツだ。
そして、なんだかんだと他者の言うことに耳を傾ける。頼みを断れない。そして割を食う。
そういった利他的の面も持ち合わせている。これは精神干渉系にありがちなタイプだ。よって、コイツは精神干渉系+身体能力向上系の、”他者に自己を誇示するナルシスト”であり、”自分の力を誇示するために人助け等で他者に依存する”歪な精神構造を持っていると考察結果が出ている。
だから俺はコイツを適度におだててやれば言うことを聞く便利な道具扱いをしている。実際便利だ。
俺はコイツと仲がいいので、かなりプライベートな話もする。よって独自に割り出せた性格や今までの戦闘情報から、コイツの異能は『触れた者の力を吸い取って自身を強化する』モノなんじゃないかと、俺は睨んでいる。簡単に言うなら、ジャ〇アンシステム。お前の力は俺のもの、ということだ。
そしてこの時、精神干渉系の特性を併せ持っているため、精神干渉を抵抗しない限り、力を持ってかれる…相手はゴミ廃人より強くなければ、強引に雑誌やおもちゃを奪われるの〇太君みたいに力を奪われる。
そして、普段のコイツの生活を踏まえると、映画版特有の綺麗なジャ〇アンといえる。そして、キレたときやレイドの時は、利己的な部分が表面化し、アニメ版ジャ〇アンになるというのが俺の考察だ。面倒すぎる…
ヤツの右手が俺に触れた。おごご……。どんどん力が吸われていく。段々と衰弱していく俺の命をたっぷりと吸ってか、ゴミ廃人は生き生きとしていた。肌ツヤがよくなっていく。女性が羨むような肌ツヤになったゴミ廃人とは対照的に、力のすべてをゴミ廃人に吸われ、ミイラみたいに干からびた状態になった。
ふと…風が吹くと、俺の身体はその風に乗って天へと昇っていくようにサラサラと粉状になった。
粉状の俺が風の悪戯かゴミ廃人の頬をふっと撫でた。ゴミ廃人は撫でられた頬に触れ、ぽつり…つぶやいた。
「謝るなら…言葉でいえよ」
都合よく解釈したゴミ廃人は、今までの怒りが嘘だったような感じでその場を去った。
そして、もはや回復系の異能が使えなくなるまでに分解された粉状の俺は死んだ。
case2-3 待ち合わせpart2
俺はリスポーンし、足早にリスポン地点である神殿から離れた。ここにはヤツがいる。出来るだけ周りのヤツ等と目を合せないようにし、耳を澄ました。
もし、ヤツがいるなら怪音波が出ている。その怪音波から離れるように動けばいい。幸いにも俺は自身の異能により五感を強化することが出来る。
というより、他の五感の感度を下げて、下げた分上げることが出来るだけなんだが。
俺は視覚・聴覚以外の五感の感度を最低にまで下げ、その分聴覚の感度を上げた。そうすることで、怪音波を拾えるくらいまで聴覚を強化する。
…見つけた。西南西の方向。こちらに歩いてくる。位置から推測するに、神殿内の治療室から入口に向かっているんだろう。俺は歩く速度を上げた。ついてこられては困る。
~~~~~~♪
早い…!どんどん近づいてくる。このゲームはどれだけレベルを上げようと人間の移動速度は人間の域を出ない。もし出るとするならそれは、移動速度を上げる異能を持っているということだ。アイツ…また異能を『継承』したのか…!
俺は身震いした。気分はD〇Dのハ〇トレスに追いかけられるサバイバーだった。斧投げてくる巨女な。エイムで殺しに来るキラー…アイツ苦手なんだよな。放物線で来るから視界外から飛んで来た時、マジビビりする。
俺が入口を遠回りで移動しても、それがわかっているように移動してくる。ヤツの怪音波が今上機嫌であることを指し、それがだんだんと近づいて来ていた…。周りが俺の位置情報を流しているのだ。神殿に常駐している人間ならそういうことを平気ですることを俺は実体験から知っていた。そしてヤツは、俺を異常な価値観で慕っている。
来る…!俺は身構えた。
「&%(’(%#”&”)”)%」
そこには、聖女のような恰好をした女がいた。しかし、異常な点がいくつかある。額に捻じれた角が一本生えており、両目は糸かなにかで縫われている。それなのに、足取りはふらついてるわけではなく、しっかりと歩けている。
「聖女様のありがたい御言葉です。心して聴きなさい」
そばには、お付きの者がいて、ふと周りを見やれば、一部の人間が膝をついて祈りの体勢をとっており、他は何かのイベントか?と物珍し気にこちらに視線を向けている。
このTRPGに出てくるSAN値が若干削れそうな女…名をユニコーンという。
「%&’(&’(%&$&)’」
なんなんだ…?一体何を言ってるんだ?この女は異能により言語を剥奪されている。なんなら、視覚や聴覚といった五感までもを剥奪されている。
では一体どうやってここまで移動したりしてきたのか。それは額に生えた角に全てを置換しているからだ。
この女にとって、角とは、肌であり、舌であり、鼻であり、耳であり、目でもある。そういう異能を持っている異常者だ。
女が俺に近づいてくる。俺は離れようと、一歩二歩下がる。ユニコーンははっきり言って宇宙人だと考えている。それも、人間社会に溶け込み、支配するタイプの宇宙人だ。それほどまでに、精神が歪で、それなのに周りに聖女と慕われているという事実が俺を狂わせる。
俺はこの女を人間として見れない。わからないからだ。俺の『解放』した異能でさえ、この女が使うと別物になる。それを真似するために一緒にいた時期があった。
しかし、真似することはできなかったし、頭のおかしさに怖くなって俺は逃げた。やはり姿形が若干似通ってるだけの宇宙人で、その思考を真似することはできないというのが俺の結論だった。
ガッと腕を掴まれる。腕をつかんだヤツは先ほどまで膝をつき、祈りの体勢を取っていたヤツ等だった。俺は振りほどこうと抵抗するが、レベル差なのか、異能なのか、がっちりと俺を掴んで離さない。
ゆっくりとユニコーンが俺に近づいてくる。近づくごとに頭を下げていき、ちょうど俺の身体に額の角が触れられる距離で、鳩尾あたりで動きを止めた。
「やめろやめろやめろやめ…!」
俺は予想される現実から必死に逃げようとしたが、それは叶わずゆっくりと、しかし確実に俺の鳩尾に角がめり込んでいく。いや刺さった。ずんずんと身体の肉や内臓をかき分け進んでいく角の嫌な感触に、とっさに『精神転換』を使って不快感や痛みを平常心へと変えていく。自分の身体を突き進む角の感触を冷静に分析しつつ、テレビの電源を切ったみたいに俺は意識を落とした。
case2-4 精神世界
俺は目覚めた。ここはどこだ…?いや、わかっている。俺の精神の中だ。こんなことをできるヤツは一人しかいない。
〈こんにちは~〉
そうユニコーンである。突然というか、いきなりの急展開というか…はっきり言って未だにユニコーンの行動についていけない。どうして角を相手に刺すと、相手の精神に入り込めるんだ?わからない…。だから関わりたくないのだ。やってることが、人間には理解できないオーバーテクロノジーを持つ宇宙人のソレである。
ここでは普通に対話が可能で、平然と話しかけてくる。俺の異能によるものらしい。どうやったらそういう使い方できんだよ…。怖いよ…。
俺の知らない俺の異能で、平然と精神に入り込み、話しかけてきた宇宙人に俺は恐怖した。
〈聞こえますか~〉
宇宙人は俺に近づいて話しかけてくる。距離が近い。いや精神の中で距離もクソもないと思うが、表現するなら耳元で言われてるのと同じ感じになった。
〈聞こえてる聞こえてる。聞こえてっから近づくんじゃねぇ宇宙人〉
〈酷いですね~。私は貴方に感謝し、慕っているというのに~〉
悲しいという感情を前面に出してくる宇宙人にうんざりとしながら対応する。
〈慕ってるなら毎回俺の身体に角刺してくるのやめてくれねぇかなぁ…〉
〈私のコミュニケーション方法だからしょうがないよ~〉
〈物騒なコミュニケーションすぎんだよ…俺毎回この後死ぬんだよ失血死で…〉
この宇宙人の対応に俺は諦めていた。何を言っても、俺の言い分が通ったことはなかったので、もはや話が通じない宇宙人に振り回されてると思わないと、やってられないからだ。
〈しょうがないしょうがない~。それで~?何処行こうとしてたの?〉
怖っ…。俺の精神の中なので、俺の感情やら考えてることがダイレクトにこの女に伝わる。
俺はこの感情ジェットコースター女に心底恐怖していた。呆れの感情はもはやなかった。やはり宇宙人…、どこに興味や地雷があるのかわからない…。しかし、俺がどこに行こうとしてるのかが、この女の興味を引いたらしい。
〈あはは~。そう怖がらなくても~〉
宇宙人は俺が恐怖一色になったことに喜色満面なようだ。人の恐怖しているところを喜ぶ様は、やはり自分とは違う生き物なのだと伝えてくる。
〈で?何処に行こうとしてるの?〉
怖い…。怖いよ…。俺は怖がりながらも自身がレベル上げに行く途中だということを伝えた。
〈なんだ~。そういうことなら手伝うよ~。私回復系の異能だしね~〉
やはりついて来ようとする。しかし、この女は自爆屋と仲が悪いのだ。この女は回復系の異能を持っており、回復系の異能を持つ者は、他者の生存に強い執着心…というより、救わなくてはいけないという強迫観念のようなものを持つ。
それが、自爆屋の刹那的な死と致命的に合わないのだ。自爆屋にとって、自分の命は自分を彩るための道具でしかない。しかし、この宇宙人にとっては自らの命を自分勝手に投げ出す輩という認識になる。水と油だ。
俺は自爆屋もいることを伝えた。宇宙人は自爆屋を忌避している。自爆屋には虫よけになってもらおう…。
しかし、俺の読み通りにはならなかった。
〈付いてきますよ~。自爆屋さんが自爆する前に、治せばいいだけですからねぇ~〉
コイツ…!どうやって自爆屋に対する苦手意識を…!
やはり宇宙人は宇宙人だった。いつの間にか、自爆屋に対する苦手意識を克服してる…。
たかが苦手意識と侮るなかれ。この宇宙人と自爆屋が一緒にいると、パーティーが崩壊する。宇宙人は自身の仕事である回復を放棄し、自爆屋は宇宙人の目の前で、自爆したがらない。お荷物が二人増えるのだ。
しかし、俺はこの宇宙人を連れてきたくなかった。この宇宙人にとって、俺は特別らしいからだ。特別扱いされてるんだからいいじゃんと思うのは軽率だ。会話のために、角を鳩尾に刺してくる女を好きになれる要素がどこにある?その後に死ぬんだぜ?
しかも、謎の好待遇から宇宙人まわりの信者に憎悪されているのだ。ただ、宇宙人の意向にそぐわないことだけはしないので、憎悪だけが溜まっていく。そして、宇宙人がいない時に発散される。
俺のレベルが上がらない原因の一つだ。だから俺は関わりたくない。しかし、宇宙人からしたら、可愛い信者がそんなことをするはずがないと言うので、もうどうにもならない。俺は諦めた。
〈もう~…いいじゃないですかぁ~。付いていくのがそんなにダメなんですかぁ~?〉
宇宙人がなおも近づきごねてくる。
〈やめろやめろやめろ!混ざる!精神混ざっちゃうから!〉
うごご…、俺は自分の中に自分とは違う何かが混ざってくる不快感に吐きそうになった。なんだこれは…?自分が自分ではなくなっていく感じがする…。わた俺ha…コイtに付iていkiたい。daって、このひtoが、やめろ…gaっが…救ttてkuれたかra…意識が…。
俺は精神が混ざるという世にも恐ろしい体験をしたため、精神が耐えられなくなり、意識が暗転した。どうやら死んでしまったらしい。
目が覚めると、ベットに寝かされてるらしく、宇宙人が俺の右手を握っていた。そうして、口元だけ、ニッコリと微笑みながら
「’%&’%#!)(’(めzaめまsitaか?)」
意味不明な言語と合わせて副音声が聞こえてきた。副音声はノイズが走っていたが、徐々に鮮明になっていく。
「!#$!#%&&’’&(%&$%#”&()%&$#”(貴方と精神が混ざった影響か意思疎通ができるようになりました~)」
そう…か…。俺は自分が宇宙人に魔改造されたことを知り、そっと目を瞑った。俺…宇宙人の実験体にされたよ…。
こうなってしまった原因であるゴミ廃人を呪いながら、俺は疲弊しきった精神を休めるために眠りについた。もう…どうにでもなってくれ…。
case2エンド
約束は普通にブッチしたため、パーティーメンバーからお叱りとリンチを食らったが、宇宙人に魔改造されたことを知ると、慰め会が始まり、また今度レベル上げに行こうという話になった。優しさに俺は泣いた。
他作品も細々と書いていくので、そちらの方もよろしくお願いします。